you not know anything.
怒りが収まらないのか、肩を上げながら拳を握りしめ立っていたレイは、
俺のつまらない台詞に我を取り戻した様子で、いつものポヤンとした雰囲気を再び放出させながら聞き返してきた。
「それって、どういう意味?」
「意味って、まあ、ただの弁解っつーか。
普通は、ってか、俺が……追っ払うべきだったと思う。
ほんと、悪かった。」
心底、自分がかっこ悪くて情けない。
謝罪と、落ち込んで項垂れているのと半々、下げた頭の上にいきなり何かが乗っかったのが分かる。
ネズミでなければそれがレイの掌であることを理解するのにそう時間はかからず、気付いたときは顔面が火を噴くように熱くなっているのが自覚できた。
「もー、イトちゃんってば。」
レイが俺の頭をポンポンしながら、呟く。
その表情を見ることは出来ないが、決して馬鹿にしているわけではないらしい事が救いだった。
「えっと、……お世話さま?んと、何かそういうヒトだよねぇ。」
「――もしかして、お人好しって言おうとしてる?」
「それそれ!!」
俺が頭を上げながら言うと、滅茶苦茶笑顔でレイは両手を叩き合わせ、ビンゴ!!とでも言うかの勢いで
こちらを指さしてくるのだった。
「――なんか、調子狂う。」
未だ温もりが残っている頭を掻き掻き言えば、レイは笑顔のままで
「それ、よく言われるんだよね。」と照れながら返してくる。
少し嬉しそうな表情をしているあたりが、また奇妙だ。
「でもね、それで凄く心配なことがあってー。」
しかし続けられた言葉の後、しゅんと肩を落としたレイの姿に俺の動きが停まる。
「何が。」
俺は内心焦りながら問い返した。
また厄介な頼まれごとをするのではないか、という心配が掠める。
「イトちゃんが、友達やめたいって言わないか。」
「い、や。別に――寧ろ愛想つかされんのは俺の方じゃん。
すっげーカッコ悪かったでしょ。」
俺は真剣な顔で、面と向かって率直な気持ちをぶつけてくるレイに、戸惑いながら返す。
トモダチに向かって“トモダチやめないで”なんて、
そんな事を言える勇気と執着心は自分自身には存在しなかった。
大体俺なんて、どうでも良いニンゲンだろうに。
唯一の友達、を逃したく無い気持ちが強すぎるのか、それを思うとレイが可哀想になる。
「カッコ悪くない、イトちゃんは。
何も知らないんだもん、それで良いんだよ。」
諭すように真っ直ぐ言われ、それでも納得いかなくて反論しようとしたその時、レイの携帯がメロディを奏でだした。
案の定、それは初めて聞く洋楽の着メロで。
「あ、トラだ。」
「出なよ。」
二つ折りのそれを広げ、画面に映し出された名前を確認したレイは俺に促されて通話ボタンを押す。
「うん、うん。」
「大丈夫、イトちゃんがいるから。」
「違う。」
「ピクシーが逃げた。」
「大丈夫、うん。」
等と言う短い言葉が小さく開けたレイの唇からぽつぽつ零れ、俺が東京に来ていることを察したらしいトラが俺と代わるよう言ったのだろう、
「話したいんだって。」と受話器を向けられた。




