who is he ?
「ピクシーと初めて会ったのはここなんだよね。」
レイは一人暮らしによくある、単身者用の簡素な賃貸マンションの前で立ち止まり、階段横に位置するゴミ置き場を指さした。
「まだ子供で、すっごい細かったんだよー。
弱ってて、震えてて。」
“ハイツ”だか“ハイム”だかいう何語かよくわからない言葉を冠したプレートを横目に、灰色の四角い建物へ進むレイの数歩後を続きながらその話を聞いている俺。
「で、家に連れて帰ったの。」
「へー。」
頷きながら、rest landのボーカル、“ユウレイちゃん”の住処があまりに
“普通”であることに違和感を覚えている。
あのライブパフォーマンスで、おまけにそのルックスを見聞きしたもののだったら大半は、
レイがもっとホラーチックな朽ち果てた洋館だとか、メルヘンなお城にでも住んでいることを想像するだろう。
そこまでの規模ではないにしろ、何か一風変わった場所を俺も勝手にイメージしたが故に、
極々一般的な、凡そ一か月分の家賃60000相当のマンションだと知って正直少しガッカリしていた。
「でねー、って、イトちゃん、聞いてる?」
「聞いてなかったわ。」
「もー、……あれ、鍵…ってどうしたっけ。」
2階に上がり、表札も何もない銀色のドアの前で立ち止まってから、レイは少し焦った様子で服を弄り始めた。
「鍵、閉めたの?」
俺は疑いながら聞いてみる。
咲乃もよくやるんだよ、俺がいるからって気が抜けてんのか、
遅刻寸前に慌てて鍵をかけないまま外出って。
「んー」と言いながら、レイはドアノブを回す。
「あ、ほら、開いてんじゃん。」
大方、ピクシーが逃げたのをを追いかけ、走って部屋を飛び出したのだろう。
それを責めるほど俺は鬼じゃなく、寧ろレイが無我夢中で探しまくった際に鍵をどこかに落としてきたという厄介な事件に巻き込まれなかったことに感謝する。
「……あれ?」
でもレイは玄関に足を踏み入れることなく、その場で立ち止まった。
どうかしたのかと思い、低い位置にある頭の上からひょいと中を覗き込んでみると、そこには乱雑に脱ぎ散らかされた男の靴。
この暑いのにレザーの8ホールブーツなんて、明らかにミュージシャンが履きそうな代物で。
「誰か来てんの?」俺は前を向いたまま室内へ進もうとしないレイに声をかける。
「ちょっと、わかんない。」
レイは早口で呟き、後ずさろうとしたが、俺が背後にいたせいでぶつかってしまった。
どうやら靴の主に思い当たる人物がいないらしい。
だったら泥棒しかないよな?
俺は慌てて身を引こうとする。
しかし、物音に気付いて部屋の中からのそりと現れた男は、やけに暢気な声で煙草片手にレイを迎えたのだった。
「おかえりー、待ってたよ。」
身長はそこまで高くはないが、病的に痩せているせいで妙に細長く見える体躯は、
百均で売られている動く骸骨のボールペンを思い起こさせた。
「あれぇ、それって彼氏?」
骸骨男は煙草の先で俺を指してレイに尋ねる。
「ユーレーちゃん、フリーつってなかったっけ?」
レイは無言のまま、しかも顔が見えないので何を考えているのかも察することが出来ず、
俺が後頭部を掻きながら代わりに言った。
「いや、俺は、そういうんじゃなくて、ただのトモダチです。」
「そーなの。」
男は納得したのかどうか、詰まらなさそうに再び部屋の中へ戻って行った。
レイは一切微動だにせず、俺も二の足を踏む。
「……ネコ、見つかったぁ?」
間抜けな声が奥から聞こえてきた。
「どーしたっつーんだよ、遠慮しねーで入ってくれば?」
半笑いで男は言う。




