change one's name?
会計を待つ間、俺はまたしても自然な流れで、レイの代わりに書類を記入するはめになっていた。
「あーっと、苗字、ユウヅキだっけ。どう書くの?」
ボードから目を離して、俺は壁のポスターを真剣に眺めるレイに声をかける。
「え、あ、ああ…苗字…夕方に、お月様の月…。」
いかにも上の空な声に答えられ、俺はその通り記名する。
「夕月、ピクシー……ね。」
するとレイは憮然とした表情で振り返り、疑うように俺が手にするボードを覗き込んできた。
「なに、それ。」
「え?名前だろ、ピクシーって。あ、こっちも漢字あんの?」
ボールペンで指し示しながら答えれば。
「ピクシーはそれで良いんだけど。上の名前、何で夕月なの。」
「はあ?あんたの家で飼ってんじゃないの?
2人で暮らしてるって言ってなかった?」
俺は驚いて聞き返す。
まさかここに来て、実は他人の猫だったとかいうんじゃないだろうな?
「飼ってるっていうか、まあそうだけど。
ピクシーなのに夕月って変だよ。」
レイはまるで、俺が間違っているのを指摘するように言ってくる。
「変って、何が。じゃあ何だったら変じゃないわけ。」
「だからぁ。ピクシーだから、フランツ、とかになると思うんだけど。」
“思うんだけど”って、言われてもなー…
俺は黙って、夕月の横に(フランツ)と書いてやる。
“夕月 (フランツ) ピクシー”と並んだ字面に、
レイはギョッとした顔でまたしても俺に異を唱えた。
「なにこれ!すっごいダサくない?」
「ダサいねえ。
――っていうかさあ、だとしたらピクシーって名前も実は俺、どうかと思ってるんだよね。」
俺は少しイラッとしながら言った。
「ピクシーって言ったら、普通は赤毛でしょ。」
「えっ、そうなの?」
「赤毛の妖精じゃん。」
「あー、そういう意味なんだ。」
レイは感心したように呟く。
「いやいや、って、そうじゃなくてさ。
ピクシーは家族なんじゃないの。」
俺は会話の軌道修正をしようと話の流れを元に戻す。
全くレイと話していると、内容が思ってもみない方向へぶっ飛んでいく。
「かぞく、って?」
レイはこてんと頭を横に倒し、初めてその単語を耳にするかのようにオウム返しをした。
「夕月家に、フランツが居るとか、それってただの同居でしょ。
そういう関係で、良いのかってこと。」
俺が言えば、レイはうふふと笑って言った。
「イトちゃん、案外ロマンチストなんだね。
ネコとニンゲンって一緒の家族になれるの?」
そう返してこられると思ってなくて俺は少し、困惑する。
「同じ人間同士でも、血が繋がってても、心が通じ合わない場合があるけど、
俺は、あんたがピクシーを心配するのを見て、そういうの越えてる気がしたんだけど。」
「そう、かなー?」
レイは少しの沈黙の後、じわじわと赤面して顔を背けた。
「じゃ、じゃあ、わたしがレイン・フランツになろっかな…………。」
馬鹿かこいつは。




