his secret.
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「あー、ねえねえ、それってレストラン?」
やんなー、えー、サクラくんってそっち系も聴くヒトなんや、意外ー。
俺の鞄にくっ付いた3つの缶バッヂを指さしながら、クラスメイトの八柳が食堂で話しかけてきた。
もう食べ終わったのか手ぶらで、連れはいないようだった。
テーブルの上に投げ出した俺の鞄がよく見える斜め前の椅子に腰かけて、勝手に触りだしている。
確か1年の時も同じクラスで、何回かグループ課題のチームになったことがある、けど取り立てて個人的な会話はしたことがない、所謂美術系の学校にいる派手なバンギャグループの中の一人。
――だから、レイたちのバンドの事を知っていても不思議はないわけで。
「レストランって何?」
隣で一緒に昼飯を食べている信也が、パンを頬張りながら俺の鞄を覗き込む。
「東京のインディーズバンドやんなー?」
「そう。」
俺は食べかけのキツネうどんに目線を戻して答えた。
レイたちと初めて会ったのが2月、あれから3カ月経ち、俺は高校三年生になり、やれ進路だ卒制だという学校からのジワジワ押し迫る圧力にウンザリしながら毎日を過ごしている。
そんな中、トラからご丁寧に郵送で送られてきたのがrest landのCDと、この缶バッヂだった。
「めっちゃ評判良いんやで、この前フリーペーパー載ってんのも見たし。
絶対デビューしたら売れるわ。」
へー、シッカリ活躍してんだな。
俺はそこまで情報通じゃないから、八柳の言うことに感心しながら耳を傾ける。
でもそこまで有名なんだったら、知り合いだということは隠しておいた方が得策かな。
「ボーカルがさ、滅茶苦茶可愛いねん。
何系?ビジュアル系?みたいな…女やけど。でもギターがイカつくてー。
ちょっと個性派?って感じの。」
「へー…、サクラってあんまカラオケ行っても歌わんのは、そういうの聴いてるからなん?」
信也が食べ終わったパンのビニル袋を乱雑に避けながら、パックコーヒーのストローを咥えて言った。
「カラオケは、ヘタだから歌わないだけだって。」
俺は苦笑しながら答える。
「インディーズ?とか、バンドに特別詳しいわけでもないよ。こいつ等しか知らないし。」
「そうなん?じゃあ何でコレ持ってんの?」
訝し気に問い詰めてくる八柳に、適当な誤魔化しが通用するかどうか探りながら俺は嘘をつく。
「さ、咲乃。姉が、聴いててさ。良いなって思って。」
「あーそっか、いーやん。東京に家あるんやったら泊まる場所あるし、ライブとか行きまくるれるやん。」
「いやいや、普通に交通費結構掛かるし、そんなイオンに出かけるように東京には行かんよ。」
「サクラって、ほんま実家帰らへんよなあ。親とか心配せーへんの?」
信也が思い出したように聞いてくる。
美術科がある特殊なこの高校へ入学するために、他府県からやって来て、下宿や一人暮らしをしている生徒は結構多い。
長期休み明けはそんな地方組が帰省先から持ち寄ってくれる様々なお土産を教室で分け合って、パーティめいたことをするのが新学期の恒例になっていたが、俺が東京バナナや人形焼きを振る舞ったことは一度もない。
その理由は、ケチだから……ではなく、故郷へ戻っていないからだ、というのは友人なら殆ど知っていることだった。
だったら何をしているのかって、居酒屋バイトに明け暮れて、汗水たらして頑張っている。
そんな事情もすっかり同級生の間で定着していた。
「もうこの歳だからかね、心配なんてしないしない。」
俺は笑って答えた。
――そもそも親、居ないし。
実家は欲深い親戚にまんまと乗っ取られたわ。
心の中でだけ、真実を呟く。
そんな可哀想な俺事情、カミングアウトするのはゴメンだ。
「いいなあ、ウチやったら絶対一人暮らしとかアカンってゆわれるわ。」
信也がボヤキながら溜息をもらす。
「一人暮らしじゃねーよ、アネいるし。」
「放任主義ってやつ?そういうとこも、サクラ君ってトカイ的なんやなー。」
褒めているのか何なのか、八柳は羨ましそうに言った。




