Thank you for meeting with me.
「えー!ちょっと奇跡じゃなーい?」
俺たちの姿を見るにつけ、どっから見ても目立つ長身の金髪野郎が高い声で驚きの声をあげた。
「……煙草とビール、頼むな。」
「解ってるって。」
トラが得意げな表情で、興奮したままでいるセオの肩に手を置き静かに呟けば、セオはそれをシッシと煩わしそうに振り払って言った。
時間通りにきちんと到着するかどうか、二人の間で賭けられていたのだと悟る。
「イト君、ありがとねー。この子ってばスーパールーズだから、此処まで届けてくれて助かったわぁ。」
間延びした声で礼を言われ、俺は笑いながら返す。
「新宿や梅地下のダンジョンほどじゃないけど、ここも結構複雑だからさすがにね、案内がいないとヤバいでしょ。」
俺が言えば
「よねー、レイは時間も方向も超・音痴なのよ!
なのに向こう見ずで猪突猛進的なんだから、地図なんて絶対見ないし。
全く何処へ向かってんのよ、って時が何度も……。」
「もう、わたしの悪口はいいから。」
レイがまだまだフルスロットルで行くわよ!と言いたげなセオのトークに口を挟み、トラを見上げた。
「どうやって帰るの?昨日夜行バスに乗るとかって言ってたけど。昼にも走ってくれるバスあるの?」
「それがねー、この時期なかなか格安のバスってどこも売り切れで。」
疑問を投げかけるレイに、セオが遠慮しがちに話し出した。
「何とか空席見付けたんだけど、それだと東京着が朝の10時になっちゃうのよねー。」
「それじゃあセオくん、学校に間に合わなくない?」
レイが心配そうにセオの顔を見詰める。
学校……!?って、セオはまさかの学生だったのか。
まあ、17歳だと学生イコール高校生だとは限らないよな、この容姿だと音楽系や服飾の専門学校生だって言う可能性も大いにあるし。
そんな俺の驚きをよそに、会話は進行していた。
「そうなの、でね、トラが連絡してくれたのよね……さんに。」
セオがもごもごと口にする。
誰かに用立てを頼んだらしい、名前は聞き取れなかったけど
レイは把握したようで、冷たい眼をして「ああ、」と一言漏らした。
「全員新幹線で帰っていいって。お金はトラのカードで。」
「解った……。やったね。」
全然嬉しそうに見えない表情で、感嘆の言葉を吐き捨てたレイは、トラに向き直って言った。
「ありがと。」
「それ、イト君にもちゃんと言った?」
トラが軽く下げられたレイの頭をそのまま入れ墨の入った手でガシッと掴み、疑わし気な表情で呟く。
その出で立ちは保護者同然だった。
「…イトちゃん、今日も昨日も、本当にありがと。」
俯いた態勢のままレイは感謝の言葉を述べる。
「いいってことよ。」
俺は軽い態度でそれを受け入れた。
トラとセオからも、続けて深いお礼の言葉を頂く。
「今そこで買ったんだけど……、お姉さんと一緒に食べて。
あと、お師匠様にもよろしくね。」
と言って渡された紙袋から覗いた包装紙が明らかに伊勢名物のアレだったことにギョッとしつつ、俺は改札を通ろうとしている三人を見送るために手を振った。
「ちょっと待って。」
その流れに一瞬逆らって、レイはチケットを改札機に通す直前でパッと振り返ると、俺の元へ駆け戻ってくる。
「ごめん、……ちょっと言いたいこと、ある。」
「なに。」
そんなに弄ると読み取り出来なくなるよ、と言いたくなるくらい手に持った切符を爪でこすりながら、レイは言いづらそうに口を開けた。
緊張感ダダ漏れなその態度に、少しビビりながら俺はそっけない返事をする。
「忘れたふりしてたけどね、本当は……あー……うん、覚えてる。」
その言葉に思い当たる節が全く無くて、ナチュラルに眉が寄った。
解んないんだけど?という表情を察してか、レイはどう言おうか困惑しながら言葉を紡ぐ。
「だから、ね……あの、最初の時。
イトちゃんが、わたしのこと見付けてくれたの、覚えてるんだよね。」
最初の時、とは――そうか、こいつが店から飛び出して裸足で駆けて行ったときのことか。
「ああ、何か…色々目白押しだったから忘れかけてたけど。
そんなこともあったっけね。」
俺は何となく気恥ずかしくなって、後頭部を掻く。
初対面の印象は最悪だった。
ゲロを吐かれるし、寒いし、面倒くさいしで。
「ん。それもね、ありがと。」
レイは華やかな笑顔を俺へだけ振りまくと、そのまま流れるようにターンして、仲間の元へ走って行った。




