I still don't know much about you.
「あー、確かに、前までは東京に住んでたかなー。」
そんなことより、何か話題を逸らせる面白げな物がないか。俺はダラダラ歩きながら通路の両脇にこれでもかと並ぶ土産物店の一つで足を止める。
「かなー…ってどういうこと。イトちゃん、関西弁じゃないし、すぐ解ったよ。」
レイは笑いながら赤福餅のパッケージをまじまじと眺めている。
「京都人でも関西弁喋らない奴はいると思うよ。」
まあ俺は会ったことないから、全く真実味のない答えを返す。
「そうなの?あのね、京都に行くってなった時ね、トラがセオくんとアニメをパソコンで観てたんだけどさー。
皆が普通に標準語喋ってるっ驚いてたんだよね。
今はそんな感じなの?関西弁が滅んじゃうってこと?」
「いや、それはないんじゃね。
つーか、ああいうのはスタッフだか作者だか役者の都合でしょ。」
全くどうでもいい会話だけど、話の流れが変わったことに安堵する。
俺の生い立ちや東京での生活のことはあまり大っぴらにしたくないことだった。
こっちに来て新しく知り合った同級生や、バイト先の人たちにも詳細なことは告げておらず、出来ればこのまま新しい自分だけの印象でもって他人の記憶に残りたい、というのは言葉にすればいかにも中学二年生的痛々しい発想だけれど。
「関西弁って難しいもんねー……ねえ、ところでこれって伊勢丹で出してる名物ってこと?」
レイはピンクの箱を手に取りながら不思議そうに首をかしげる。
「新宿で見たことないけど、山積みになってるってことは人気なのかな。」
俺はその問いかけに最初意味が解らなかったが、まさかと思い聞いてみる。
「伊勢ってのは、三重県にある地名で、伊勢丹とは関係ないよ。」
「じゃあ三重県って京都にあるの?」
ビックリして、目を見張るほどの馬鹿っぷりに唖然とする。
アレレー?同い年って、言ってなかったか?
それともこいつ、義務教育を外国で受けてきたインターナショナルガールだったわけかな?
英語詞の歌も難なく歌い上げていたし?
それともマジモンの無知?小学生以下の?
……ウケ狙いで言ってるのか?
「あ――いや、それは禁断の京都七不思議のうちの一つで、伊勢名物って書いてあるけど京都でも買える特別なお菓子。」
俺は冗談交じりでそう返してやった。
「そうなの?じゃあ伊勢は三重県で、京都とは違うんだ。」
「だね。」
頷いてそう言った俺の表情を見て、レイは眉を少し下げて笑う。
「わたし、あんまり頭がよくないから、ちょっと色々知らなくって。」
マジかよ……都道府県も知らない脳みそなら、ちょっとどころの騒ぎではないぞ。
「いや、うん、まあ……俺も知らないことあるしね。」
「うそ、イトちゃん超ものしり博士じゃん。」
“ものしり博士”とな。
はるか昔に読んだ学習漫画を思い出させる、あまりにノスタルジックな言葉にくらりとなる。
「ちゃんとガッコにも通ってるしさー……」
レイは拗ねたように口を僅か尖らせながら呟いた。
「学校ねえ……そんなのさして特別なことじゃないでしょ。
学校に行ってても、無職や引きこもりになる奴っているし。頭悪い奴はとことん悪いよ。」
俺は昨晩のレイがライブハウスで放っていたオーラを回想しつつ言った。
将来に向けてやりたいことがあって、その道筋がハッキリしているのならば、若いうちから取り掛かるっていうのも一つの手だとは思う。
咲乃のような職人の世界にも中卒で頑張っている人間は山ほどいるわけで。
それでも訝しげな目で見てくるレイを慰めるつもりで言葉をつづける。
「学歴、にコンプレックスがあるなら、高認だってとれるわけだしさ。
そっから大学行ったって「小学校中退だもん。」
レイは遮るように言った。
“小学校中退”
初めて耳にするパワーワードにおもわず「え」という声が漏れてしまった。
隣で同じように和菓子を眺めていた女の二人連れ客も、この会話をいつの間にか盗み聞いていたのだろう。
双方ともにレイの方を驚きの表情で仰ぎ見た後、俺と視線を一瞬合わせ、気まずそうにバッと逸らしてその場を退散していった。
「だからほんとのほんとに、何も知らないんだよ。」
その口調で、こいつが外国からやってきたインターナショナルなんちゃらの線は消えて、根っからの常識知らずである理由が判明した。
「でも、友達になりたいの。」




