She really want to see.
レイは俺たちがボリュームを下げることなく何時ものトーンでお喋りしているのに目を覚ましたのだろう、寝ぼけ眼ながらも、仁王立ちしているこの家の主である咲乃に向けて挨拶した。
続いて、座ったままの俺にも。
「おはよー。」
頷いただけで返事をすれば、レイは目を細めて眩しそうに笑った。
「映画、ありがとうね。すっごく面白くて、ドキドキして全然寝れなかったー。」
素直に言われ、先に眠ってしまったことへの気まずさと照れを流すように俺は言う。
「うん。あれ30年以上前の作品だけど、俺も初めて見たときはかなり興奮した。」
それを聞いて、レイは余程驚いたらしく口を大きく開けた。
「えー!ほんとにー?でもそうだよね、皆の服とか、ちょっと古かったもんね?
ジョニー・B.グッドもでてきたもんね…え、でもあんな車見たことないし、30年前なんて、どうやってんのー?」
レイこそ過去からやってきた人間のように、こっちがビックリするほど驚いている。
3Dを映画館で見せたら気絶するんじゃないかとすら思うその興奮っぷりに、“映画を見たことない”という言葉が真実のものであることを納得せざるを得ない。
咲乃はその様子を黙って眺め、本当に俺らの間に怪しむべきコトがなかったのを察すると、着替えの為に自室へ入って行った。
「わたしこれから眠るけど、レイちゃんゆっくりしてってねー。」
去り際に放たれる一言に、今迄俺にしていた無体を感じさせる厳しい色は何処にもなく、外面は良いんだよなー、と呆れる。
レイは「本当にすみません、昨日もありがとうございました。」とお利口さんな返事をしたあと、俺に向き直って笑顔のまま喋りだした。まだ体内に燻る熱が冷めやらぬ、といった感じで。
「時間を移動するっていうのも面白かったしね、でも、マーティがライブするとこが一番感動したよー。」
レイは記憶を脳内に呼び戻すかのように黒目を上にしてうっとりしている。
「……あのね、わたし、音楽は自分だけで楽しめば良いって、ずっと思ってたの。
だからライブもするのあんまり好きじゃなかったんだけど……」
レイは呟いて、俺のことを伺うように見てくる。
悪戯の言い訳をするように。
「でもね、ああいう風に、聴いている人が喜んだり、湧いてくれたら、絶対、良いよね。」
俺は無言でレイを見詰める。
「わたしも、マーティやバンドが演奏して、歌うの見て、映画の中に入ってるみたいに一緒に楽しんでた。あんな気持ちになったの初めてだよ。」
――自分もだ、と言いたかった。
俺も、レイが歌っている姿をライブで見て、感動したよ。
声に出そうか戸惑う間に、レイは話を続ける。
「でもさー、イトちゃん。これって次も、その次もあるんでしょー。」
不機嫌そうに呟かれ、俺はああ、と答えに窮した。
記念ボックスで購入したために3作目までが一緒になっているパッケージが見つかったのだ。
しかし、デッキの操作方法が解らないのか、はたまた勝手に観るのを遠慮したのか、レイは歯噛みしながら眠りについたに違いない。
「なんで寝ちゃったのー?続きもみたかったよ。」
「これ残り2作で226分あるから、無理でしょ。
でも、これ1だけでも十分面白いから。」
「うそだね。」
断じて、嘘ではない。これだけでちゃんと、完成した作品にはなっている。
「みたーいよー!もー!どうしてくれんのー。このままじゃ東京かえれないよー。」
レイは片づけかけていた布団に再びごろりと転ぶと駄々っ子のようにゴロゴロ回り始めた。
「もうイトちゃんの馬鹿ー。」
えー、マジかよ……馬鹿呼ばわりされてんの俺。
「いやいや、帰ってから友達の家とかで見なさいよ。TSUTAYAなんかで借りてさ…。」
俺は宥めるように言う。
全く、これを勧めた奴誰だよ!?俺だよ!!
「友達いないもん。」
拗ねたように口を尖らすレイ。
「トラの家とかはどうよ?」流石にテレビやパソコンが無いわけないだろう。
「トラの家は立ち入り禁止なんだよ。」
うふふ、とレイは笑って言う。
何かとんでもないことをやらかしてしまったんだろう。想像がつく。
「あー、じゃあそうか。」
俺が次言う言葉を探していると、ぐだぐだしていたレイがいきなり上半身を起こして言った。
「またここに来れば良いんだ。」
俺は目を見張る。
「いいでしょー?」
猫のように擦り寄ってきて、レイは俺の横で手を合わせ、甘えるように首をかしげた。
「えー、まあ……いいよ。」
別に断る理由はない。
映画を見て、ポップコーンを食べて―――って、たまにやってくる東京住みの友人のような関係になるわけだ。
同じ学校の奴らとゲームしたり課題するのと何ら変わらねーか。
その中にはたまに女子が混じることだってあるわけだし(流石に泊まりはないけど)。
それに、何と言われようとも、決しておかしい関係にはならない。そんな、咲乃に対する反抗心もあった。
いくら外見が良くても、そういうのじゃないって。




