bad mornin.
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きょうだいの年齢で理想的なのは、2、3歳差らしい。
年が近いと親が目を離していても子供だけで遊ばせることも出来るだろうし、自分達が若く、元気なうちに次の子を産んどこう、という勢いもあるんだろう。
育児アイテムや衣類も古びないうちに使いまわせるし、学生になる年頃に成長すれば兄姉は先輩として下の見本になるわけで、互いに成長していくのに親が期待するのも解る。
だけど、ウチは6歳差だった。
咲乃がまあまあ自我もあり、性格も確定しつつある6歳の時に俺がこの世に生を受けたというわけだ。
これは結構離れてるといえるのではないだろうか。
まあサザエさんとカツオほどではないにしろ。
幼少期は塩ビ人形のポポちゃんよろしく一緒にママゴトの道具扱いされ、
(だからか赤ちゃんの俺は咲乃によって女装させられた写真がめちゃくちゃ多い)。
俺が意思をもって我儘を言う頃には、完全に暴力で負かされていた。
「あんなの姉ちゃんじゃなくて兄だよ。」と姉の存在を羨ましがるクラスメイトに何度この台詞を言ったか解らない。
耳にタコ、ならぬ口にタコが出来るくらい……(タコの吸盤が口に出来たら相当気色悪い)。
とにかく、力でも口でも完膚なきまでにボロッボロに打ち負かされていた俺は、十代半ばになって体力的に咲乃なんて楽勝に伸してしまえる筈なのに、生来から刷り込まされているせいか、今現在もどんな不条理な状況であろうと反撃が出来ない身体になってしまっていた。
恐らくカツオも将来そうなる。これは絶対断言できる。
―――だから、今俺は寝起きざまに突然後頭部へ昔からお馴染みの“咲乃キック”を喰らっていても暫く動くことが出来なかった。
「……寝てた。」
俺は誰にともなく呟いた。
どうやら、映画を観ながらいつの間にか眠ってしまったらしい。
髪の毛に埋まったままの咲乃の足ごと、ぐぐっと頭を持ち上げて上半身を起こした俺は無理な体制で睡眠していたために軋んだ身体を伸ばした。
「誰か泊めるなら連絡しろって言ったじゃんね。」
咲乃が俺の頭から足を退け、キツイにらみをきかせる。
「悪ぃ。」
俺は暗転したまま電源の付いたテレビをリモコンで消し、隣にいるはずのレイを確認する。
と、レイはいつの間にか自分で布団を出したらしく、離れた場所で規則正しい寝息を立てて頭を壁に向けて熟睡していた。
「しかもレイちゃんだけとか。他の子たちはどうしたの。」
責めるように言われて、俺は頭を抱える。
こういう誤解が煩わしいから泊めるのは躊躇したんだ、ということを今さらながらに思い出して後悔した。
「他の奴らは打ち上げとかで、四条界隈で飲んでるっぽい。」
俺は欠伸をしながら答える。
「朝まで飲みとかは嫌だって、で、ここ来たいって言われたわけ。」
俺はあくまで自分主体でレイを家へ連れ込んだのではないということを主張する。
「変なこととか、してないって言える?」
……この場合の変なこととは、ひょっとこのお面をつけて暴れまわったり、新聞紙と一緒にコンテンポラリーダンスをするような奇行のことではない。
勿論、アレのことなわけで。
(自分はキャバ嬢しているくせに)弟に対して、というか、この家に対して潔癖なのは解るけど、わざとボカす様な物言いに、睡眠不足も重なってイライラしながら俺は言い返す。
「何もしてねーよ。」
「かわいいオンナノコが目の前にいるってのに?」
……この姉は畜生、カマかけるような言い方しやがって。
「してないって。」
俺は叫びだしたくなった。
そうまで言うんならゴミ箱漁れよ!と。
しかしそれはレイが目を覚ましたことによって喉元で寸止めされる。
「ふああ、おはよーございます。」




