in the bathroom.
レイの期待に反して、おかしい奴らに会うことなく無事マンションに帰宅した俺は早速レイにシャワーを浴びることを提案した。
浴室へのドア越しに「今朝も入ったし、使い方は解るよね。」と聞けば「合点承知の助でごぜえ。」という人生で俺は一度も使ったことがない(けどたまに聞く)台詞が返ってくる。
江戸時代か!と突っ込む余裕もへったくれもないほど脱力した俺は、帰り際に腹が減っているとかなんとかレイが言っていたことを思い出して、パントリーを確認した。
今朝食べた食パンの残り、レタス、スパム、コーン缶を取り出してホットサンドを作ってやる。
完成するまでの間、汚れた服をネットに入れてやり、レースやフリルがくっついているからとお洒落着洗い用の柔軟剤を入れて洗濯機で洗い、寝巻の代わりになるような服を咲乃と俺の共通のクローゼットから適当に見繕いながら、何で自分がこんなに甲斐甲斐しく面倒を見てやっているんだろうと疑問に思った。
交通の便がよく、親がいないせいで課題の共同制作グループのたまり場になったりしているこの家には勿論、クラスメイトの女子がやってこないこともなかったが、それでもここまで世話を焼いたことはない。
ただ単に、知り合って少ししか経っていない相手だから、気心知れた同級生とは違い、お客様扱いが抜けていないのだろうか。
――いや違う。
今夜のライブ……で、魅せ付けられた能力に感動させられて、自分よりレイの方が優れていると思い知ったからだな。
と、俺は悟った。
同じ人間でも、才能や能力のある奴がチヤホヤされ好待遇を受けることに対してズルい、とか姑息だとか、文句を浴びせることの愚かさは学校に入学して嫌というほど思い知った。
ちょっと絵がうまいとか、技術があるとかだけでは追い越せないほど高みに位置する、自然的スーパーパワーを持った選ばれし存在というのは必ず居る。
そういう奴には幾ら嫉妬しても無駄で、並大抵の努力で勝てる相手ではない。
そしてそんな天才ほど、性格が破天荒ではっちゃけていて生活能力の低い人間が多く、周りがナチュラルに面倒を見る羽目になる
、というパターンのなんと多いことか。
レイもそのタイプだなー……。
そしてまさか、自分もそういうニンゲンへ手を貸してしまう立場になってしまうなんてな………
と自嘲しながら結論づけたところで、咲乃が昔着ていたモコモコした謎素材のハーフパンツと長袖のパジャマを発見する。
「これ、咲乃が昔着てたやつ。多分着れると思うけど。」
脱衣所に入ってシャワーを浴びる音に負けないように、大きめの声をかけてバスタオルと共に棚へ置いてやる。
お湯が止められて、「ありがとー」と、風呂場のドア向こうから唄うように声が返ってきた。
ザラザラした刻みが入っているとはいえ、半透明な樹脂でできた扉を見ないよう目を背けながら部屋へ戻ろうとしたその時、不意にそれが派手な音を立てて開いた。
「う、うわ」
情けない声が口から漏れ出て、後ずさる俺。
ほんの数センチのスキマから、薄いピンクの肌色がチラ見えした。
「あ、え、開けてないから!」
俺は閉めに行くことも出来ず、顔を背けて弁解する。
「ああ、開けたんだよ。」
レイは、顔を少しだけ出して、すこしの沈黙の後俺を伺うように言った。
「………シャンプー、どっち使えばいいのかなって。」
「ど、どどどっどどどっちでも良いから!閉めろ閉めろ!!」
レイは言う通りに閉め、そこで俺はやっと冷静になることができた。
「英語が書いてあるの、透明のが咲乃で、スーッとするのが俺の。好きな方で良いよ。」
「……コンディショナーも使っていい?」
「俺は使ってないけど、良い良い。」
適当に返事をする。
思わぬハプニングに慌てふためくオマエが女子かよ!というセルフ突っ込み。
逆にレイのクールな態度を思い出し、赤くなる自分が余計にはずかしくなってしまった。




