hidden secret.
「ここから電車に乗るから。」
しばらく歩いた後、俺はそう言って地下へ続く階段を降りた。
時間帯故にホームには若い恋人たちしかいなくて、俺たちは互いに沈黙する。
そのまま無言で到着した電車に乗って、座るのも面倒になりドアに凭れながら、俺は今日のイベント盛りだくさんな一日を目を閉じて思い出していた。
師匠の自宅兼工房に行ったこと等、まるで遠い昔の記憶のようだな、等とぼんやりしつつ暗い地下道をただ通過するのに身を任せていたが、数駅停車した直後に、はて今は何処だったかと思い至って目を開ける。
その時、横のシートに座っていたレイとバッチリ視線が合った。
「今、何の駅だった?」
ダメ元で確認してみる。
「えー?解んない…。」
困ったように眉を潜めるレイに、もしかしてずっと俺のことを見ていたのかもしれないというもやもやした恥ずかしさが胸をよぎる。
「まあ、時間的にまだ過ぎてはいないと思うけど、」
と呟いて俺はレイの目線から顔が見えない角度に身体を移動させ、自分の住む最寄駅をレイに教えた。
「あんまり京都っぽい名前じゃないね。」と笑うレイに、それは仰る通り、そこは京都のイメージとはかけ離れた場所である、と伝える。
「治安悪いし、住民の運転は荒いし、ヤンキーが多い。」
「それで、イトちゃんの居酒屋の駐車場にも“車上荒らし大量発生中”って看板が出てたんだねぇ。」
レイはうんうん、と納得顔で頷いている。
「トラが気付いてね、取り敢えず目立つ楽器だけ持って行こうってなったんだよ。
結果エイスケに車乗って行かれたから、持ってって正解だったね。」
俺はそれで思い出す、やけに荷物の多いバンドマンたちだなあと初見で思ったこと、それがトラの判断だったと聞いて、その注意深さに感心した。
「あー、不幸中の幸いってやつだね。
でもホントにあそこでカーナビとか盗まれる事件起きてるから。
俺も、自転車停めてたらサドルだけ持ってかれたことある。」
「なにそれ怖い。」
「変態も多いんだよ。」
「イトちゃんのサドルで……何してるんだろ。」
「気持ち悪いこと想像してない?」
「古都のダークサイドー。」
レイは言いながら俯いてふふふ、と笑った。
そんな下らない会話をしている間に最寄駅に到着する。
レイは地上に上がってから、まるでそこへ初めて降り立ったかのように興味津々で周囲をキョロキョロ見まわしている。
「犯罪者や変態が出てくるかもしれないから、しっかり観察しとかないとね。」とのことだが、いざ掛かってきなさい!と思ってる時には登場しないのが奴らの特徴で。
「もし出現しても俺、か弱いから無理だわ」と言うと、レイは「ギターがあったら良いんだけどね」と呟いた。
ギターを振りかぶって武器にする、150cm足らずのガリガリ美少女、って最早厨二が考えた漫画の設定かよ……と俺は想像して呆れた笑いを漏らす。
「――笑ってるけど。
もしイトちゃんが危険なニンゲンだったりしたって、コテンパンに出来るんだからね。」
レイは俺のニヤけた顔を見て、馬鹿にされたと受け取ったのだろう、少し眉根を寄せて威嚇するように呟いた。
「はいはい。」
「本当だからね。」
俺はサラッとあしらおうとしたが、それを逃さないという勢いで警告するようにレイは言い、垂れ下がった俺のマフラーの端を正面から掴んでくる。
「解ったよ。」
その真剣さに少し引きながら、とりわけ明るく言った。
だけどそんな貧弱な身体つきで、どうするっつーんだか。
発言こそ強気だが、見た目との差異は大きくかけ離れていて、普段からそんな態度他人に取ってんの?
と疑問に思ったけど、またややこしくなりそうだから止めた。




