critical hit me.
―――――
「へえー、あそこの学校に通ってんのか。やったら、将来はそういう系目指してんの?」
セオが話していた清水、という今回のライブでトリを飾る大御所バンドのドラマーで、このライブハウスのオーナーの男に学校名や出身地を尋ねられた後にされたその質問に、俺は「映画が好きなんで。」と答える。
それを聞いて意外そうに目を丸くした清水は、音楽がキーとなる有名な映画タイトルを幾つか挙げた。
『バグダットカフェ』『ブルースブラザーズ』『スパイナル・タップ』……
どれも名作で、全て観たことがあるものだったのでそう告げると、restlandのメンバーそっちのけで清水は感想を言いはじめ、いつの間にか初対面のイカツイオッサンと二人っきりで映画トークを繰り広げるという妙な展開になってしまった。
しかもなにやら俺の映画評は彼のツボにいい具合に入れたらしく、興奮しながら肩をバシバシと強打される。
笑いながら他人をドツく文化のある関西人ドラマーの張り手は、Gが凄い。
「めっちゃ語れるやん!!ちょお、喋り足りひんし、この後の打ち上げも参加してーや!!!」
まだ自分の出番が終わってないのに、ゴクゴクと喉を鳴らして缶ビールを煽り、満面の笑みで誘ってくる清水に、痛手を負った肩を抑えて俺はどうしようかと考える。
聞けば四条の大衆居酒屋に、ライブ後団体で予約を入れているらしい。
―――明日は日曜だし、学校は無いし、こんな大人数なら年齢確認もおざなりだろうし、まあ人生経験の一つとして行ってみても良いかもな……
「あ、駄目。イトーちゃんは帰らないとだめだから。」
しかし、イエスの返事をする前に、それは阻止されてしまった。
「は?」
俺は、意味不明な返事を勝手に発した隣のレイに驚いて目を細める。
「お姉さんが待ってるから。わたしも一緒に帰るんだもん。」
「え、ちょ、なに言ってるのレイ?」
セオもビックリして首をレイへ近づける。耳にビッシリくっ付いた銀の輪っかが音を立てて微かに鳴った。
「初耳なんだけどぉ!?」
次いで、俺へと視線が向けられる。
「俺も初めて聞いたわ。」言いながら、乾いた笑いが口から漏れた。
「だって、泊まるとこまだ見つかってないんでしょ?」レイがしれっと言い放った。
「わたし、朝まで飲み会なんてヤだもんねー。」
「あのねえ…」
セオが咎めるように言う。バンドにもサラリーマンみたいな上下事情があるのだろう。
居酒屋で働いていると、いやいや上司に付き合わされている部下の図、なんてのもよく見る。
若手の一存で参加拒否なんてもっての外よ、という感情がセオの表情から読み取れた。
「あー、良い良い。レイ坊はハナから飲みの数に入れてねーよ。
泊まる場所はすぐ探してやっから。」
トラはまだ言い足りないであろうセオを制してスマホを取り出す。
しかし土曜の夜、飛び込みで泊まれる京都の格安宿泊施設はもう無いに等しいらしく、その顔はみるみる陰っていった。
「ちょっと甘かったなー…こうなりゃラブホで「トラと!?ヤダよ!誘拐されましたって大声で叫ぶからね。」
「シャレならんね、それ。」
言いながらトラが顔をしかめる。確かに、この二人はパッと見、美少女とヤバい兄ちゃんだ。
「てゆーかさあ、京都にそんなのあるの?」「あるある、ちょっと行ったトコにも面白い名前のがあんだよー。」
冗談なのか本気なのか解りかねるレイとトラのやり取りを聞いて、片耳を塞ぐ格好をしながらセオは眉を下げて言う。
「もー、レイはひとりで漫喫にでも行きなさいよー。」
「やだやだ、大の字になって寝れないじゃん。」
「はあ!?あんた何時もコンパクトに丸まって寝てんでしょーが。」
「今日はギター弾いて手が痺れたから大の字なのー。」
どの案も否定するレイ。
どーすりゃ良いってんだよ、え、これってまさか家に泊まらせます、って俺が言うまで帰れない感じ?
完璧レイはその言葉以外に頷かない雰囲気だよな?
……とすればすさまじい頑固さ、と図々しさだ。
「ウチん家は泊まらしてやってもええけど、嫁さん妊娠中やし、乳児いるしでユウレイちゃんが逆に寝にくいかもしらんなー、」清水のおっさんが呟く。
それを聞いて、先ほど何度も聞いたユウレイ、というのがマジでレイのあだ名だということを確信して
、しかもこんなガタイの良いオヤジも“チャン付け”して呼ぶのか、と思うと急に可笑しく思えてしまい俺は思わず噴き出してしまった。
「……何や、俺に嫁さん居んのがおかしいんか。」
清水がそれを勘違いして、不機嫌さを露わに眉をしかめた顔を向けてくる。
ヤバい……さっき肩に喰らったスキンシップだけでも折れんばかりの衝撃だったのに、キレた勢いで殴られでもしたら全身の骨が粉になってしまう。
「いえ、違って。」
俺はどう誤魔化すか一瞬悩み、オヤジの怒りを鎮めるためにはまあ犠牲になるのも仕方ないか、という変なスイッチが入ってしまって勢いで言ってしまった。
「もうこうなったら、一泊も二泊も同じようなもんだし、絶対俺がオッケーしないと動かない雰囲気だなーって思って。
ウチなら大丈夫すよ。」
ああー…やっぱりこうなってしまう……けどまあ別に。
減るもんじゃなし。
ここで周りを見渡せば、清水も、他の面々も“頼っちゃって良いの?”という期待を込めた顔つきになっている。
上手く誤魔化せたか。




