dressing room.
トラに案内されたのは、さきほどの薄暗くて真っ赤なライブハウスとは様相が全く異なる、清潔感溢れる白い楽屋だった。
参加バンドは皆一緒の部屋に押し込められているらしく、それでも広さに余裕がある空間にはロックな輩がめいめいにグループを作ってざわついている。
右手側の壁には丸い白熱灯がくっ付いた鏡がずらりと並んでいて、そこでメイクをしている人間もいて、映画やテレビで見た舞台裏そのものな風景に少し心が踊る。
楽器や機材片手に興奮した面持ちで会話している男たちの中で、レイはひとり端っこのパイプ椅子に座りながら長机に突っ伏している。
俺達が近づいたのに気付き、顔を上げて聞いてきた。
「どーだったあ?」
俺は目を瞬きさせながら「感動した。」とだけ答える。
「同い年なのに、凄い力で、圧倒された。」
こんな言葉少なでいいのだろうか?とも思うけど、心に湧き上がる熱量を伝えるには知識が足りなかった。
音楽の事など全く無知だから。
小、中、高、と授業でそれなりに習ったはずなのに、ヘ音記号が何の働きをするのかも解らない、こんな人間に“あそこのフレーズがさあ”等と一丁前にのたまえるワケがない。
だけどレイは左右の口角をあげて、嬉しそうにした後、腕の中に再び顔を隠した。
咲乃から借りた服は綺麗にたたまれて傍らに置いてある。
その代わりに、レイはこのライブでトリを飾る主催バンドの名前が英語で書かれたダサいオレンジのTシャツを着ていた。
「ギターって聞いてたけど、ドラムもやるんだ。」
俺はレイを眺めるのは止め、勝手にパイプ椅子を引き寄せて座るとトラへ話を振った。
「昔はやってたけど、今日は全然ダメだったわー、肩とかすっげー痛いし。
激しめの曲は止めて正解だったよ。」
革ジャンを脱いでだトラは言いながらグルグルと肩を回す。
半袖だから腕にビッシリ入った入れ墨が丸見えだが、数時間一緒にいて人柄の良さを知ったために全く怖いとは思わない俺はすっかりタメ語で喋ることに決めた。
「じゃあ早く新しい仲間探さないと、っていって、すぐ見つかるもん?」
「どーだろねー、うちらはちょっと異色だから、シュミとか合う奴ってなると難しーかもね。」
トラの言葉に俺は頷く。
オリジナル曲はちょっとダークで、歌詞も陰鬱なムードなものが多かった。
爽やかな青春ポップスではなく、ロックンロール、最高!!って感じでもない。
流行りのスタイリッシュなダンスチューンともほど遠い。これくらいは俺でも解る。
「それよりも第一関門として、レイ坊目当てにヨダレ垂らしてやってくる色気づいた野郎をまず見極めないといけねーし。」
本人を目の前にして、これがまず厄介なんだわ、とトラは煙草の煙を吐きながらレイの頭を小突いた。
「野郎バンドのメンバー募集より一個手間がかかんだよ。」
「でもさ、マジメかどうか探るためのごきぶりホイホイには、なってるよねえ。」
レイが笑って顔をあげる。
「捕まったゴキブリをそのままゴミ袋にダンクする作業がまた辛ーんだわ。」
「でも、変な感情抜きに、あの歌声と一緒にやりたいって思う人は出てくるんじゃないの。」
トラの言葉に続いて俺が言うと、二人は笑った。
「皆、最初はそー言うんだよ!!もうどっちか解んなくなるわけ。オマエ、ゴキブリ?それともコオロギ?つって。」
「たまにハムスターが引っかかったりして。」
「ちゃんとゴキブリサイズに作っとけよー!ってなぁ。」
俺たちがゲラゲラ笑っていると、部屋の奥で別のバンドマンと会話していたセオがこちらを振り向き、俺の姿も目に入れて、片手を上げ合図してきたのに目礼で返す。
するとセオは「清水さん、この子がさっき言ってたロキノン少年。」
と言いながらイカツイ髭もじゃのおっさんを伴って俺の前へやってくる。
「違うし。」俺はすぐさま返した。




