rest land showtime.
「セオクーン」や「トラー」、という黄色い声、それに「ユウレイちゃーん」の歓声が起こる。
さっきの女子二人も言っていた、幽霊、というのはつまりレイのあだ名だろうか。
次いで「ねえ、エースケはー!?」と、先日付でトンズラ脱退したメンバーの名前が叫ばれるが、舞台上の人間たちにその声は聞こえないのか、そういうフリをしているのか、涼しい目で観客席を眺めた後、徐に互いに目配せし合うと片手を上げて指を鳴らし始めた。
この曲はrestlandの定番となっているのだろう、ファンも示し合わせているように指パッチンをし始める。
突然始まったミュージカルめいた情景は『ウェストサイドストーリー』みたいで、非日常に叩き落とされたような不思議な感覚に陥る。
そしてレイが静かに囁き始めた英語の歌詞で始まるこの曲は、俺も知っている映画のテーマソングのカバーだった。
セオのコーラスが続いた後、激しくギャンギャン唸るギターを奏で、パワフルな声量で歌い上げる姿はレイの華奢で儚い外見とは大きなギャップがあって圧倒される。
しかもこの曲はワンコーラスごと4人で順番に歌われているのが特徴なのだが、レイは独りで4通りの歌唱法と異なる声色を操り、まるで中に別人が4人憑依しているかのように唄うのだった。
これで(俺含め)場内の掴みはバッチリで、バーや客席後方に居た観客達が押し合うようにステージの見える位置へ波のように移動していく。
俺も壁から背を離して、呼ばれるように前へ足を踏み出した。
「東京から来ましたぁ、restlandとゆいます。」
1曲目終わりに気の抜けた喋り方でレイがぺこりと頭を下げ、次の曲のイントロが始まる。
セオが「こっからオリジナルです」と静かに呟いて歌が始まったが、その曲はセクシーで大胆な先ほどのものとはがらりとムードを変えた可愛らしいポップな曲で、日本語だった。
レイは今度はショートケーキにハチミツをぶっかけたみたいな甘ったるい声で歌い出す。
前傾姿勢で激しく掻き鳴らしていたギターも緩やかな指捌きに変わり、まるでさっきとは違う人間の様だった。
その後3曲、MCやメンバー紹介が挟まれることなく、音は途切れずに演奏は移り変わり、その度にレイは歌い方と声を巧みに操り、目まぐるしい変身をした。
「これで終わりです。CDとかは行方不明になったのでありません。
ありがとうございましたぁ。」
やや息の上がったレイがマイクに向かって静かに呟き、そそくさと舞台上から捌けて、彼らの出番は終わった。
会場にいた客たちがしばしの沈黙に包まれた後、大きな歓声を上げる。
俺も、なにやら凄いショウを観覧した、という感動が隠しきれない。
そして「イエーイ!!」や「よっろしくう!!」等という客を煽るシャウトが無いことにそっと胸を撫でおろした。
ああいうのは正直どう反応すればいいのか(まあ真似してイエイすりゃいいんだろうけど)いまいちノリきれないライブ初心者にはキツイ。
そういう意味でも、restlandの面々はクール(なんとダサくて陳腐な表現)なバンドだった。
是非姉の咲乃に報告してやろう、と自慢げな気持ちが沸き上がる。
その後の出演者たちは俺が想像していた通りの、若いエネルギーに満ち溢れた勢いのある野郎共で結成されたグループばかりだった。
勿論「ウォー!」や「イエーイ!」アリの。
しかし一組目のインパクトが強すぎて、いい歌もあるんだろうけど記憶に残るかどうかといえば……と思うのはやっぱり知人贔屓だろうか。
もう無くなりかけたコロナを意味もなく振って退屈さを誤魔化すリズムを取りながら、電車の時間をスマホで検索しようとした所で横から何者かに服の袖を引かれた。
「うわっ、」
誰だよ、と鋭い目をして振り向けば、ああそれはさっきまでステージ上でドラムを叩いていたトラだとすぐに気づく。
「……疲れさまっしたぁ。」
俺は普段のバイト帰りのトーンで喋りかけたが、演奏の音が煩くて自分の声すらうまく聞き取れなかった。
“こっち。”とトラがジェスチャーで合図するのに大人しく付いていく。
通されたのは今日出演するバンドマンたちが集結する楽屋だった。




