welcome to rest land.
レイとセオ、トラ達三人のバンドは“休息の国”を意味する“rest land”という名前だった。
通称はレストラン、というらしい。なんじゃそりゃ。
如何にも音楽大好きでーす!というルックスの男女がどんどん吸い込まれていく地下に通じるライブハウスの階段手前に、他のバンド4組と共にその名が書かれたボードが置かれているのを俺は見やった。
18時半から開演、一組目。
「今からリハだけど、見てく?」姉から託された衣装が入ったキャリーケースを運んでいた俺は、数時間前にトラからそう誘われたが、断った。
「練習風景見ると、サプライズ感薄まるし。楽しみにしてる。」
是非ライブに来てくれ、とチケットを3枚渡されたのだが、咲乃はキャバの上客から急遽メールでディナーに誘われ、師匠は「夜八時には夢の中や」と泣く泣く辞退したために、俺は一人で人生初インディーズライブを観覧することになったのだ。
この地に引っ越してきて2年近くたつけど、こういった場所に足を踏み入れたことはない。
何事も人生勉強、という往年の教師みたいな考えで挑んだけど、こういった場所に入っていくための作法やお約束を何も知らない俺は、ぎりぎりまで近場のコーヒー屋で時間を潰し、若干緊張しながら階下へ降りていく。
初めて味わう、煩い喧騒の渦。
ロビーでチケットを見せ、バーで飲み物を受け取ると手持無沙汰になって俺は壁に身体をもたれさせた。
収容人数200人程の会場がどんどん埋まっていくのをボンヤリ眺め、素人の音楽にそこまで需要があるのかと意外に思った。
まあ、もしかしたら全員親戚、ということもあり得る。
よく聞くじゃないの、雑誌なんかのインタビューでアーティストが“初ライブは観客5人だった”なんて言ってるの。
そんな惨めさに耐えられず、みんな親戚一同にチケットを売りつけてるんじゃなかろうか……等と考えていると、目の前に着飾った女子二人が現れて、この辺りじゃ耳にしない標準語で喋りしだした。
「セオくん、今日も付けてくれるかな」
「どーだろね。でもあれ気に入ってたっぽいじゃん?」
会話の内容に、今まさに考えていた友人の名前が含まれているのを耳にし、俺は思わず聞き耳を立てる。
「ユウレイちゃんは良いよね、いつでも一緒でさ」
「でも姉弟でしょ。駄目じゃん」
「ダメかな」
「ダメっしょ。」
――――どうやら、ちゃんとした固定ファンがいるらしい。
しかも、わざわざ関東から遠路遥々やって来てくれるような。
俺は出会って間もない彼らの事を思いの外心配していた事実に気付き、それが払拭された安堵感を誤魔化すように頭を掻いた。
やがて、ステージ全体が赤いライトで彩られ、ライブの開始を合図する。
舞台の中央にギターを抱えたレイ、下手側にベースのセオ、後方にドラムのトラがいた。
師匠から頂いた着物を完璧に着付けることなど出来ない男2人は、それを黒いシャツの上から無造作に羽織り、帯を適当に巻くという、価値ある着物が号泣しそうな冗談めいたスタイルだったが、咲乃の作った衣装を纏ったレイの横に並ぶと異国感とファンタジックさが増して、妙にサマになっていた。
さっき自分の前で話していた女子たちは最前列を陣取ったらしく、何時もと異なった装いのメンバーにキャアキャア喚いている。
よく見ればそう言った追っかけは他にもいるらしく、初見の地元客たちが“アイツらは誰だ”と首を傾げ注目していた。




