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幾千夜の誓いを君へ  作者: 月詠命
終章 グレザリアの夜明け
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第96話 次なる景色へ




 リリスが生み出していた世界よりも、遥かに少ない星々。

 小さな満月。

 漆黒の夜空に光るそれらを、薄い雲が隠しては流れていく。


 そんな優しい光景を、ミラア・カディルッカは純白のバルコニーから眺めていた。

 着心地の良いナイトウェア越しに感じる夜風が、また心地良い。


 掃き出し窓の向こう、部屋の扉を廊下からノックする音が聞こえた。


「ミラアさん?」


 愛しい声に、


「いいよー」


 返事をすると、扉が開いてドレスに身を包んだフィーネが姿を見せた。


「あ、ごめんなさい。寝られるところでしたか?」


 ミラアの服装に目をやって僅かにたじろぐフィーネに、銀髪の食客は微笑んだ。


「うん、フィーネが来なかったらねー」


 上手い言い回しの向こうに偽りの無い本心を感じて、少し照れた微笑みを返す少女。


 夜風が、ミラアのいるバルコニーから部屋を通り、廊下に立つフィーネへと流れてくる。


「失礼します」


 扉を閉めて、ミラアの部屋に足を踏み入れる。


 夜を背景にして白いバルコニーに佇むミラアに、ゆっくりと歩み寄っていく。


 掃き出し窓を超えて、優しい月明かりを浴びて、ミラアの傍に立つ。


「明日、王の戴冠式ですね」


「そうだね」


 会話はそれきり。


 空いた間は、柱時計が刻む小さな音の回数に比例して長く伸びていく。


 やや視線を下げたまま黙るフィーネを尻目に、ミラアは夜空を仰いだ。


 孤独に輝く小さな満月。

 空一面に輝く無数の星々は、より小さいけれどももっと美しく瞬いている。


「綺麗だね」


「……そうですね」


 フィーネもミラアに習って夜空を見上げた。


 広がる視界に、目の奥が解れる気がした。

 同時に心も解れる。


 そして――。


「ミラアさんは、これからどうされる予定ですか?」


 そう言った声音が、少し硬く細くなってしまった自覚。


 それを他所に、ミラアは答える。


「どうしよっかねー。こっちの特産品をジャスニーまで運ぶキャラバンがいいかなー」


「――――」


「いやあ、でもなー」


 フィーネはミラアを見た。

 ミラアの瞳は、ただ遠く広がる夜空を見上げている。


「せっかくグレザリア王国まで来たんだから、北の方にも行ってみよっかなー。山岳地帯には、まだドワーフとかが住んでるってゆーし。見応えのあるものもあると思うんだよね」


「ミラアさん」


「?」


 既に赤みの殆どが消えた、紫色の瞳がフィーネを見た。


「良かったら、このお屋敷に住みませんか?」


「――――」


 決意のある青い瞳。

 清楚で、精悍な瞳。

 初めて出会ったあの時よりも、より凛々しい輝きでミラアを見る瞳。

 そこに浮かんでいる不安の色。


 そんなフィーネから視線を外して、ミラアは遠くを見た。


 不安と決意に揺れるまだ若い視線を頬と耳に感じながら、銀髪の女ハンターは視線を向けずに答える。


「どうしよっかな」


「……すぐには決められませんよね?」


 少しだけ笑って見せるフィーネに、ミラアは言う。


「……うーん……あー、そうじゃなくてね」


 しばしの静寂を挟んで、


「私は、今の生き方が合ってるからさ」


 グレザリア王国は――――――

 王都グレザリアは――――――

 フィーネが共に過ごした時間は――――――

 ミラア・カディルッカの居場所にはなり得なかった。


「そう、ですか」


 直面したその事実に、フィーネは少し俯く。


 栗色の前髪が目元を隠していたのも束の間、ミラアに笑顔を見せて言う。


「分かりました。でも、自分に合った生き方っていいですよね。私、それをミラアさんから教えて貰ったと思ってます」


 ミラアと見つめ合いながらそう言って、フィーネは踵を返した。


「じゃあ、おやすみなさい」


 そう言うのは、凛としたフィーネの後ろ姿。


「……おやすみ」


 ミラアも微笑を浮かべてそう言う。


 少し足早にフィーネが出て行き、やや勢いよく扉が閉まる。


 一人残されたミラアは、自らを抱きしめるように腕を組んで俯き、それからまた夜空を見上げた。


 遥か天空に輝く星々は、泣きたくなる程に美しかった。




 

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