第92話 禁忌なる謁見
「天空の城……」
思わず呟く。
かつて、幾多の吸血鬼たちが夢見た神々の世界。
自らを創造した創造主を探し求め、多くの吸血鬼たちが空の果てを夢見ていたという。
「世界を創って、天空の城に住む――ね」
笑いが込み上げて来た。
ここに来た甲斐があったと、広大な夜の世界を見下ろしながらミラアは確信した。
そして、白亜の一枚岩で造られた天の島の端に立ったまま、硝子の城を振り返る。
(〝神〟ね)
呆れた笑みを浮かべて、ここにはいないこの世界の創造主であろう者に胸中で呟く。
一歩、城へ向かって足を進めた。
入口も出口もない、理も分からぬこの世界で。
二歩目。
閉じ込められたともいえるこの状況で。
三歩目。
恐れを知らぬ風格を、人ならざる心身に自覚しながら。
歩みは大きくゆっくりと繰り返され、階段を越え、やがてその瞳は硝子の城を見上げるまでに近付いていた。
やはり硝子で出来た巨大な扉は、来客を迎えるかのようにゆっくりと開いていく。
完全に開け放たれた扉の向こう、視界には硝子の壁や天井が見えるそこに、新たなる世界の歪みを感じる。
当然である。
半透明な硝子の城だ。
外から中身を通り抜けて向こう側の景色が薄く見える以上、そこに中身などあるはずもない。
そんな建物に中身があるとするならば――それは、そこに新たに創られた別の異空間でしか有り得ない。
〝多重次元構造〟そんな在り得ない状態の世界を、ミラアは涼しくも真剣な瞳で進んでいく。
扉を潜り、次なる世界へ入る。
そこは〝城の中〟を再現した別の異世界だった。
広々とした硝子の玄関ホールは、足元にまで広がる星々が透けて見える。
夜空の上に歩を進め、ミラアは巨大な硝子の階段へと進んでいく。
光源は、すべて透明な天井の向こうに輝く巨大な月明かりだ。
それと、天井に吊るされた銀色のシャンデリアには、本物の星々に酷似した輝きが瞬いている。
城の内部は、至ってシンプルな構造だった。
玄関ホールに入ると巨大な階段があり、他に道はない。
よって階段を上るしかなく、二階に登ってそのまま廊下を真っ直ぐに進むと、硝子の大聖堂とも呼べる広大な空間に行き着いた。
巨大な祭壇に設けられた豪華な扉は、ミラアを待っていたかのようだった。
多重次元構造なのをいいことに、城に収まるはずのない奥行きが設けられている。
祭壇の前に立つと、豪華な扉がゆっくりと開いて――さらなる異世界が、再びミラアを飲み込んだ。
白い光を超えると、グレザリア大聖堂の内部によく似た空間に出た。
ただ、広大な室内に聳える幾つもの束ね柱も、遥か頭上にてアーチを描いた天井も、すべて硝子で出来ている。
星空が透けて見える床には、天の川を連想させる煌びやかな絨毯が敷かれ、透明な天井の上にはやはり無限に広がる夜空と、途切れることの無い流れ星が透けて見えた。
ミラアが立つ床より数段高い位置に設けられた巨大な祭壇には、美しい装飾が彫り込まれた大きな硝子の壁と、その向こうに輝く巨大な満月を背景にして、奇抜なデザインの大きなソファーが玉座のように置かれている。
そこに座る者の姿は、人の目にはどう映るのだろうか。
腰まで伸びた金色の髪は、高価な絹よりも美しい艶を帯びていた。
白い肌は、陶器や雪よりもきめ細かく、そして白く透き通っていた。
その身体は、女神の彫刻よりも遥かに洗練された女性美を体現していた。
その瞳は血よりも赤く、どんな宝石よりも美しく輝いていた。




