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幾千夜の誓いを君へ  作者: 月詠命
一章 潮風に舞う願いの残り香
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第7話 縁(ゆかり)




 ハンターの仕事は多岐に渡る。


 と言っても、賞金首や財宝の眠る遺跡などはそうそう見つかるはずもなく、臨時収入という枠を出ない。


 戦争の無いこの御時世では、傭兵業の需要だってあるはずがない――それについては、最近になって大きな変化を見せているのだが。


 とにかくそうした結果、ハンターとして最も堅い仕事が、採掘業や畜産業、運送業などの護衛となるわけなのだが、これには危険度という名のランクが存在する。


 危険な仕事ほどやり手が見つからず、需要に対して供給が少ないため、契約金の額を上げることで人手を呼び寄せることになる。


 ただ、雇ったハンターの死亡は、雇用主の払う人件費が浮くという反面、守るべきものが守れないというリスクも負うことになる。

 よって、危険度の高い仕事にランクの低いハンターは採用されないということが業界の常識である――と聞いていた。


「良かったね」

 無邪気な笑顔を見せてくるミラアに、フィーネがやや力の抜けない笑顔で答える。

「……はい」


 場所は、宿屋の一階にある食堂。

 時は既に夕刻、店内に設置された無数のランプに火が灯り、木扉の開いた窓からは黄昏に沈む街が見える。


 受け取った契約書には、一ヶ月以上遊んで暮らせる金額が書かれていた。


 貴族生まれのフィーネにとってははした金だったが、王都からジャスニーに来る時に思い知ったハンターとしての身分相応の賃金から考えると破格の金額である。


 そして、これは仕事の危険度の高さを反映しているということも分かっている。


 そもそも大掛かりなスパイス輸送一回によって生まれる利益は、一生遊んで暮らせるとまで言われる金額だ。

 こんなビッグ・ビジネスに嚙めるということ自体が、ハンターの特権なのかもしれないとフィーネは思った。


「私には幸運の女神がついてくれてますもんね」

 フィーネはそう言って笑顔を見せた。


 そんなフィーネをしばらく見ていたミラアは、冷めた目の温度をさらに下げて言う。

「……運は実力だと思う。でも、今回のことは多分フィーネのそれだけじゃないよ」


 フィーネは目をぱちくりさせた。

 浮かれていたわけではないが、ミラアが自分に冷たい目を向けたのが初めてだったからだ。


「フィーネがどうこうっていうより、私の連れだからね。Sランクハンターを雇いたいなら、その連れも雇わなきゃ逃げられちゃうから」


 ミラアの言い分は最もだった。

 Aランクハンターですら、できない仕事がないと言われるほど、重宝される業界である。

 Sランクとは、Aランクハンターとしても危険度の高い仕事をこなし続けて〝未だに死んでいない〟という勲章だ。

 魔獣とも何度戦ってきたか分かったものではない。


 そんな経験豊富なプロフェッショナル一人の戦力は、時に隊商の運命を大きく左右する。

 結局は商売、金儲けのための事業だ。

 ここでフィーネを雇わなければ、貴重なSランクハンターであるミラアを雇えなくなる恐れがある。

 それ故に、フィーネは雇用されたのだろうと。


 プライドを傷付けたかもしれない――そんな想いから、ミラアは少し気まずそうな顔でフィーネを見るが、少女は何でもないような表情を見せた。


「それは分かりますよ。ミラアさんとご一緒して貰えた私は、運に恵まれてるなって思っただけです。別に私の実力だとか、私自身の運で選ばれたなんて思ってませんよ?」


 ミラアは少し意外そうな顔をして騎士の少女を見た。

「そっか。浮かれてなかったなら、いらない言葉だったかな」

 なんだか罰が悪くて、そっぽを向く。


「いえ、言ってくれて助かります。戒めになりますから」


 素直で精悍な笑顔。冷たい氷を解かす太陽のような、見る者の心を照らす輝き。

 人の持つ命の光をそのまま反映したような、強く温かい精神を感じ、ミラアはしばし騎士の少女に見とれていた。


 先ほど少女が言った台詞が脳裏に浮かぶ。


〝私には幸運の女神がついてくれてますもんね〟


 この謙虚で義理堅い少女が言った、幸運の女神とは誰のことなのだろうか。


 そう思ったとたんに、鮮やかすぎる色彩――かつて過ぎ去った時間がミラアの心の中に蘇る。


 それは記憶という名の、今はもう有りもしない光景。

 幻聴や虚像にも劣る、現実に感じることができないもの。

 だがこの胸を絞める甘い感慨は、今もなお強く実感できる。


「フィーネ、なんか飲む?」

 無表情なミラアの誘いに、少女は得意げな笑顔を見せて、

「奢りますよ。ミラアさんのおかげで、前金までいただけましたし」


「違う方の〝驕る〟んじゃなくて?」

 意地の悪い笑みを浮かべてみせるが、

「そこは大丈夫ですよ」

 邪気の無い、人懐っこい笑顔で返される。


 見ている光景は大きく異なるが――だからこそこの心は今、あの日々より熱く潤っているのだろう。

 そんな想いを抱くこの瞬間の中で、ミラアは自分が幸せなのだと深く悟った。



 

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