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ココロ物語の鍵と管理人  作者: 土の屋錦二
第三章 白金の管理人
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11.アウトローな二人


 父と冷香さんとの別れを経てから一週間。

 僕は今、森川さんのマンションに来ている。本を引き取りに来たのだ。

 数が多いので宅配便で送るという話があったのだが、人様の魂を人任せにするのはどうかと、その案はすぐに却下された。

 森川さんはまだ体が本調子ではないので、こうして僕が出向いたわけだ。

「すまないね、紡くん。本来ならオレが君のお宅へ届けに行かなきゃならないのに」

「気にしないでください。それよりお体の方は大丈夫ですか?まだ少し顔色が悪いですよ」

「大丈夫だよ、家事は家政婦さんがやってくれるから一日中休ませてもらってるよ…それより本当に君一人でこの本持っていけるの?」

 本の数は二十冊弱といったところだ。つくづく、よくぞ短期間でこんなに集めたと思う。媒体となった森川さんの体は、相当酷使されていたようだ。彼は普段、父親の仕事を手伝っているそうなのだが、こんな状態なので今は療養中だ。

 冊数は多いけれど、紙魚の趣味が若い美少女だったので、本の厚さもそれに比例して薄い。少し大きめの段ボールひと箱分なのでなんとか一人で運べる…と、思う。

「紐括りつけて背負っていくので大丈夫ですよ。それであの…、護符貰っていっていいですか?」

「護符?」

 森川さんは憑依されていたから知らないのだ。部屋の四隅に貼られた護符を。

「冷香さんに聞いたんです。必要なら剥がして持って行っていいって」

 僕はそう言いながら部屋の四隅を指さした。

「うわっなんだあれ!全然気付かなかった」

「この部屋を隠すことができる護符だそうです。結界を張って閻王や他の紙魚から本を隠していたようですよ」

「へぇ…、そういう事なら全部持っていっていいよ。オレにはもう必要ないから」

 許可を得たので破れないように丁寧に護符を剥がし、ダンボール箱に貼り直した。これで紙魚が襲って来ることもないはずだ。

「それじゃあ、本、お預かりしますね。必ず無事に閻王の元へ届けます」

「ああ、頼むよ。…本当に君たちには迷惑をかけてしまったね。憑依されていた間の記憶はないが、きっと酷いこともしただろう…心からお詫びするよ…」

「まったくだ。紡さんは死にかけたんだぞ」

「鍵太郎!」

「ほ、本当にすまない…っ」

 深々と頭を下げた森川さんは俯いたままだ。想い人のためとは言え、他人を巻き込んでしまったことを悔いているんだろう。本来の彼はとても優しい人なんだ。

「気にしないでください、それよりまた遊びに来てもいいですか?」

「…!も、もちろんだよ!是非来てくれ!」

「その時は冷香さ…椿さんの幼い頃の話とか色々聞かせてください」

「紡くん…。ありがとう、楽しみにしてるよ」

 漸く笑顔を見せてくれた。今はまだ心身ともに辛いだろうけれど、早く元気になって欲しいものだ。



「お人好し過ぎます」

「いいじゃん、もう…っハァ、ハァッ、終わったことなんだしっうぅっ」

 重いっ!紙の重さを舐めていた。箱を背負った直後はいけると思ったのだが、時間が経つにつれ紐が肩に食い込んで痛い。まるで子泣きじじいのようにどんどん重くなってきた。

「持ちましょうか?」

「お、お前がっ持ったら、箱が浮いちゃうだろ!ハァ…ハァ…ッ」

 こんな真っ昼間に箱を浮かせて歩いていたら、動画サイトが大変なことになる。

「ああっ!重いぃぃ!ちょっとタイム!」

 家まであと少しなのだが、肩が限界だ。狭い道路脇にある空き地にへたり込んでしまった。荷物を降ろして肩を見てみると、見事に内出血していた。

「いたたた…」

「大丈夫ですか」

「ああ、うん。もう少しだから頑張るよ。それよりも…」

 実は困ったことがある。閻王のもとへ行くには本を浄化して、入口を出現させなければならない。この一週間、本を探しているのだが、一向に見つからないのだ。駅前の工事現場にあった例の白金の本は、森川さんの体力が回復するのを待つ間に、浄化してしまった。

 普段は街を歩いていると何気なく気配を感じるが、こちらから探そうとするとなかなか見つからない。森川さんから預かった本の中には、すでに一年近くこの状態のままの本もあるので、早く閻王のもとへ届けたいのだが…。

「本が見つかりませんね」

「うん…あの白金の本、取っておけば良かったよ」

「…この際、他の管理人に便乗しますか」

「え?」

 鍵太郎が空き地の奥の方を見ている。何かあるのかと僕もそちらへ視線をやると、二人の男が鍵付きの本を手にしているではないか。その二人の前には空間の歪みが見える。

「あーっ!!あったぁっ!!!」

「あ?」

 思わず大声を出して指差してしまった僕に、二人の男が気付いて振り向いた。


 管理人だと思われる男の方は金髪で右耳に二つ、左耳に三つもピアスをしている。長い前髪が右目を殆ど隠していて、日に晒されている左目は切れ長で鋭い――目つきが悪いとも言う――。春だというのに黒革のジャケットにダークグレーのタンクトップ、黒いダメージジーンズに指やら腕やらにシルバーアクセサリーがジャラジャラだ。

 どこからどう見ても、僕の苦手なタイプだ。

 そして鍵と思われる男は中世ヨーロッパの狩人のような格好をしていた。少し長めの襟足を無造作に束ねているその髪は、長い前髪から見え隠れする目の色と同じ銀色。こちらも同じく目つきが悪く、見事な三白眼だ。

「銀だ…銀の鍵だ!」

 閻王がいつだったか言っていた。白金と銀の輝きはまるで違うと。確かに鍵太郎と比べると大分違った。白金はキラキラと言うかピカピカで、白がメタリックになった感じだが、銀は灰色というか少しくすんだ輝きだ。

「んだぁ?このクソガキは。いばらが見えるってことは同業者か。ビビらせんじゃねぇよ、一般人に見られたかと思ったじゃねーか」

 …案の定、口が悪い。怖いっ。やっぱりお近づきになりたくないタイプだー!よく見たら着崩したジャケットから出ている右肩に、ドラゴンの顔ようなデザインのタトゥーが入っている。ヤバイ人だっ!怖いっ!!

「うぉっ!?こいつ白金じゃねぇの!?見ろよりゅう!」

「バカかてめぇは。こんなちびっ子に白金の鍵が付くわけ…って、おおおぉぉっ!!マジか!?超激レアじゃんっ!!」

 僕の背後で圧倒的な存在感を放つ鍵太郎に気付いた二人は大騒ぎだ。二人ともシルクハットの長いツバに隠された、鍵太郎の白金の目を下から覗き込むように眺めている。

 このパターンは…と、相棒を見ると、やはり冷めた目で二人を見ていた。…お前には怖いものはないのか。

 彼らが驚くのも無理はないが、今はあまりゆっくりしていられない。紙魚が涌いて出てきてしまうので、早く洞窟内に入れてもらわないと。

「あ、あ、あの!とっ突然で申し訳ないんですが、ぼぼ、僕らも一緒に入れてもらって…いいです…か?」

「はぁ?」

「ちょっと事情があって、こ、この本を急いで閻王へ届けないといけないんです~!」

「ざけんな、んなもん自分で…」

「竜!」

 もたついていたせいで、辺りが暗くなってきた。紙魚が集まってくる前兆だ。

「チッ!勝手にしろっ!」

 竜と呼ばれた男は紙魚の気配を察知して、銀の鍵の棘と共に空間の歪みへと飛び込んだ。僕らも慌ててそれに続く。


 洞窟内に入ると待ち構えていた紙魚たちが、彼らの持つ灰色の本に群がってきた。僕が持つ、本が入っている箱には護符が貼られているので、こちらには一匹も寄って来ない。もの凄い効果だ。

「おいガキ、てめぇさっき本って言ってたな。なんでそっちには紙魚がいかねぇ?」

 竜は紡たちに紙魚が向かっていないことに気づき、疑問を投げかけてきた。

「えっあ、あの、これはですね、この護符のお陰でして、これを貼ると結界が張られるので紙魚から隠すことができるんです」

「は?なにその便利グッズ。おい竜!一枚貰っとけよ、そしたらオレがこんな面倒臭ぇことしなくて済むだろ」

 棘は狩人の格好をしているが、武器は弓ではなく、鍵太郎や冷香さんと同じくやはりレイピアだ。もしかしたらこの武器が一番効率が良いのかもしれない。

「おー、だな。一枚よこせ、ガキ」

 竜が箱に貼られた護符に手を伸ばしかけた時、鍵太郎が腕を掴んでそれを阻んだ。

「触るな」

「ああ?」

「この箱の中には灰色から金色まで二十冊弱の本が入っている。これを剥がしたら大変なことになるぞ…それにさっきから聞いていれば、ガキガキと。この人はこう見えて今年21になる大人だ」

 その時、二人の動きが一瞬止まった。そしてハモった。

「はあぁぁぁっ!!?21ぃぃ!!?オレらよかニコ上かよっ!?どう見ても中坊だろーが!!」

 ――なんだと…!?という事は鍵太郎とタメ?また年下かーっ!!!しかもこの二人は鍵太郎ほどではないが、背が高い。180センチくらいありそうだ。

(なんだろう、この屈辱感…)


「そういう事なら尚更よこせよ。年上なら年下に気を遣え!」

「あっ」

 便利グッズに目が眩んだ竜が暴挙に出た。仁王立ちの鍵太郎を押しのけて、護符を剥がしてしまったのだ。その拍子に箱の蓋が開いてしまい、中身の本が地面に散乱した。

「あわわわわっ!!!なにすんだーーっ!!!」

 それまで竜が持っていた灰色の本を狙っていた紙魚たちの視線が、一斉にぶちまけられた本を捉えた。

 このままでは本を喰われてしまう。僕は慌てて散乱した本の上に覆い被さった。

「ヤバイヤバイヤバイっ!!鍵太郎ーーーっっ!!!」

「くっ!!」

 鍵太郎は咄嗟に僕を中心とした四方向に光の玉を出して、簡易的な結界を作ってくれた。光に囲まれた中心に、紙魚は入ってこられない。

 ホッとしたのも束の間、視界の端に一冊だけ結界の外に飛び出ている銀色の本が目に入った。

 そして言葉を発するよりも先に、僕の体は動いていた。



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