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ココロ物語の鍵と管理人  作者: 土の屋錦二
第二章 コレクター
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5.女子校生と妖精


 僕の母校、藤ノ下高校は只今文化祭真っ只中。仮装大会の会場である2年1組は大盛り上がり中だ。

 参加者が簡易ステージに上がる度に黄色い悲鳴や笑い声が上がっている。


「キャー!カワイー!!」

 人ってあまりにも恥ずかしい思いをすると思考が停止するのか。観客がなにか叫んでいるが頭の中に入ってこない。

 僕は今、三、四十人余りの人だかりの前で白いモフモフした猫の着ぐるみを着てステージの上に立っている。

 確かに自分から参加するとは言ったが、こんな子供が着るような衣装だとは一ミリも思わなかった。一体この中の誰が、僕が二十歳を過ぎた成人男性だと気付いてくれているだろうか。…いないだろうな…。とにかく恥ずかしすぎて頭の中が真っ白だ。

 そして何故か最前列を陣取った原田さんが怒涛のごとくスマホで僕を激写しまくっている。頬を染めた表情はとても愛らしいが、その画像は全力で削除してくださいお願いします。


 参加者十一名が出揃ったところで審査が行われた。観客が一人一つずつ持っている厚紙で作られた金メダルを気に入った参加者の首に掛けて、メダルの数が一番多かった者が優勝となる。

 結果、女装をしたオッサンが優勝の座を獲得した。服に収まりきれていないはみ出た腹が受けたらしい。そしてなんと僕は二位を取ってしまった。

 そう言えばさっき見かけた妖精の格好をした女の子がいなかった。帰っちゃったのかな。参加してれば絶対優勝しただろうに。

 三位までの入賞者には賞品がもらえた。二位の僕は手作りポーチだ。手芸部の生徒が作ったようでとても良く出来ている。


「お疲れ様、保戸塚くん!」

「原田さん、メダルありがとうね」

 彼女は当然と言わんばかりに僕にメダルを掛けてくれたのだ。まだ着ぐるみを着たままなので指が使えず、猫の手でそのメダルを挟んで掲げてみせた。

「ふあっ」

「?」

 今、原田さんから変な声が聞こえた。どうしたんだろう。

「――――っっもう我慢できない!!!モフモフッかわいいっかわいい!!!」

「!?!」

 一体何が起こった。あの原田さんにもの凄い力で抱きしめられているんだが。

 ふおお!滅茶苦茶いい匂いがする!なんか色々柔らかい!…って、そうじゃなくて!!

「はっ原田さん!!」

「あっ!や、やだ私ったらつい…う、うふっ」

「うちの姉ちゃんねぇ、可愛いもの大好物なんだわ~。ここまで食いつくとは思わなかったけどさ。まぁ、小鈴姉ちゃんも喜んでくれたみたいだし参加してくれてありがとうね」

 鞠ちゃんが半分呆れ気味に言った。でもどこか嬉しそうだ。

「小鈴姉ちゃんにはいつも苦労かけてるからちょっとした感謝の気持ちってヤツ?」

「鞠ぃ~」

 苦労?一番上のお姉さんだから色々弟妹の世話とかで大変なのかな。抱きついてきた姉の頭をよしよしと撫でる鞠ちゃんはとても優しい笑顔をしている。ちょっと気が強そうだけど姉妹仲はいいようだ。


「やれやれ、やっと終わった。この着ぐるみ返してこなきゃ」

 仮装大会が終わり、僕は着替えるために再びサッカー部の部室に来ている。脱いだ着ぐるみをダンボールに入れ、部室を出たところで足を止めた。

「鍵太郎」

 辺りを見回して誰もいないことを確認してから相棒の名を呼んだ。

「はい」

「ちょっと付いて来て」

「?」

 着ぐるみを返しに行く前に少しだけ体育館に寄って行こうと思ったのだ。

 館内に入ると演劇部が劇を演じていた。観客はステージに夢中だ。暗幕が張られ、暗い館内をこっそりと進んで用具室に入った。

 目当ての物はすぐに見つかり、僕はバスケットボールを籠から一つ拝借すると鍵太郎に放ってやった。

「!」

 前触れもなくパスしたのに手馴れた感じでボールを受け取ったのは流石だ。鍵太郎は受け取ったボールを感慨深げに見つめている。

「……三ヶ月振りです。バスケを始めてからこんなにボールに触れていないのは初めてですよ」

「ん」

 パスをよこせと手を広げる。

 鍵太郎は微笑むとかなり手加減したパスをよこした。僕はバスケは不慣れだが体育の授業で経験したことがあるのでチェストパスくらいは知っている。

 扉の向こうで演劇のセリフが響く中、しばらく狭い用具室でパスは続いた。

「死んだからってバスケやっちゃいけないって決まりはないよね。霊体でもお前は鍵として生まれ変わったんだ、パスもシュートも出来るだろう?」

「え?」

「これからもたまにバスケやろう。僕じゃ役不足だけどマンツーマンくらい出来るようになるよ」

「紡さん…」

 そうだ、今度ボールを買ってこよう。昼間は人の目があるから無理だけど、夜の公園なら人もいないはずだ。それにいつも行っている公園には確かバスケットゴールがあったはず。だいぶ傷んでいてボロボロだったので今まで何の価値もないと思っていたが、急にありがたみが増してきた。


「さて、名残惜しいけどそろそろ行こうか。あまり原田さんたちを待たせちゃ悪いし」

 ボールを籠の中に入れようとした時、用具室の扉がガラリと開いた。急に人が入ってきたので僕は咄嗟に鍵太郎を隠そうと彼の前に立った。当然僕の方が小さいので隠しきれないのだが……。

 しかし考えてみれば一般人には彼の姿は見えないのだった。

「す、すみませんっ懐かしくてつい……、あれ?」

 用具室に入ってきたのは先程見かけた妖精の格好をした少女とそのお姉さんらしき人物だった。

「――――うっそでしょ…!超イケメンなんですけどっ!!」

「え!?」

 イケメンなんて言葉は僕にはだいぶ縁遠いものだ。よく見るとお姉さんの視線は僕の頭上を越えていた。

「あなた白金の鍵だよねっ!?」

「!!!」



 黒髪で前下がりのレイヤーボブで、一重のパッチリした好奇心旺盛な目が印象的な片桐優麻かたぎりゆまちゃん、高校二年生。鞠ちゃんのクラスメイトだそうだ。

 そしてその隣でフワフワ宙を浮いている妖精の姿をした少女は妹の麻美まみちゃん十二歳、銅の鍵だ。ブロンズの目と同じ色の、肩に届くくらいのツインテールが可愛い。

 この子も例に漏れず閻王の餌食になったのだろう。スカートの裾はピンクで上に行くにつれグリーンに変わるグラデーションで、花びらをモチーフにしたミニワンピを着ている。背中についた半透明の羽根は服に縫い付けられているようだ。

「ねぇなんで?なんであんたみたいな鈍臭そうな奴の相方が白金の鍵なの?しかもこんな超イケメン!!」

 …………なかなか手厳しい子だ。やっぱり女の子はみんな鍵太郎みたいなこう、シュッとしたイケメンが好みなんだろうか。

「なんでと言われても」

「あの!ちょっとだけ帽子とってもらえませんか?髪と目の色がよく見えなくて…」

 無視された。優麻ちゃんの目は完全にハート型になっている。それにしても白金は余程珍しいんだな。以前、森川さんにも同じことを言われていた。

 こっそり鍵太郎の様子を伺うと案の定、冷めた目をしている。女の子に騒がれるの慣れてるんだろうな。

「嫌です」

「あぁ~んっクールなのもサイコー!!」

「あの、ところでなんで僕らの居場所が分かったの?」

 話が進みそうもなかったので強引に間に割って入った。

「あんた仮装大会が始まる前に麻美のこと見てたでしょ。すぐに同業者だって分かったのよ」

 怖い顔で睨まれたのは変質者と思われたからじゃなかったんだ。良かった。

「大会が終わったらすぐ声を掛けようと思ったんだけど、この子がぐずり始めたから部室棟の近くで相手してやってたのよ、あの辺人少ないでしょ。そしたらあんたたちが体育館の中に入っていくのが見えてさ。よく見たらあんたの相方さん、白金っぽい髪してたからまさかと思ってついて来たの」

「ぐずってないもんっちょっと飽きただけだもん」

 子供扱いされた麻美ちゃんが頬を膨らませた。

(あの場に人がいたのか…全然気付かなかった。もっと注意しないとダメだな。これじゃ鈍臭いと言われても仕方ない)


 それにしてもこんな特異な状況に身を置いている人間なんてそうはいないと思ってたら結構いるんだな。閻王、よっぽど切羽詰ってるのか。

「ところであんた…保戸塚、くん?管理人になってどれくらい経つの?」

「まだ二ヶ月も経ってないよ」

「ええー!?マジで!?超新米じゃん!あたしは二年目よ。それじゃあんた”コレクター”って知ってる?」

「コレクター?」

「そう。あたし達と同じ管理人でありながら、魂の浄化を放棄した奴よ。書籍になった魂を閻王の所に持っていかず、自分のものにしちゃうの。この半年で結構、現場荒らされてんのよ」

「なんでそんなことを?」

「読むのよ。その人の人生を丸覗きするの。悪趣味だったらありゃしない!知人に聞いた話なんだけど、他の管理人が浄化した魂を横取りすることもあるんだって。その時に本人がそう言ってたって。襲われたその人、大怪我したらしいわ…あんたも気をつけた方がいいよ」

「えぇ~…なんだか物騒な話だね…コレクターの手に落ちた魂はどうなるの?」

「成仏できないままだから下手すれば悪霊になっちゃうんじゃないかな。そうなったらもう存在そのものを完全に消し去るしかないわ」

「………………」

 悪霊になりかけてた魂の憂いを払ってあと一歩で天界に逝けるという所で、その者の羽根をもぎ取るような真似をするのか。

 ――――酷すぎる。

「優麻ちゃん、教えてくれてありが」

「この情報お役に立てましたかぁ?鍵太郎さん!」

 優麻ちゃんはお礼を言おうとした僕を丸々素通りして、鍵太郎に擦り寄った。

「有益な情報、感謝します」

「これからもなんでも聞いてくださいね!」


 僕に対する扱いはともかく、鍵太郎がいると色々得をしそうだという事は分かった。



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