精霊
「で、では、その生徒さんたちにも確認をしてもらいましょう。」
反論していた政府の人たちは冷や汗を垂らしながらそう言った。
と、言う訳で永遠たちは皆が見つめる前で確認をすることになった。
「ほら、琥珀、皆において行かれるぞ。」
静藍は後ろを向きながら琥珀に声をかけた。
しかし、琥珀は動こうとしなかった。
「しょうがないな、えーっとー、永遠、ちょっと来い。」
ことの展開に体がついていかなかった永遠は静藍の呼びかけではっと我に返った。
「は、はい。」
急いで静藍の元へ向かうと静藍は困ったように後ろを向いた。
「琥珀、永遠の後ろについて行かないか?」
静藍の言葉に琥珀は少し、顔を上げた。
初めて、長い前髪の間から永遠と目が合うと、じっと永遠を見つめた。
「え、ええっと、よ、よろしくね。」
永遠は戸惑いながら微笑んでみると、琥珀は永遠に後ろに隠れるようにくっついた。
「よし、それじゃあ永遠頼んだぞ。」
静藍はほっとしたようにそう言い、永遠はなんだかこそばゆいような気持ちになった。
琥珀が後ろにくっついているのを意識しながら前へと進んだ。
「はい、準備が整いました。」
博物館の職員さんが声をかけた。
いつの間にか部屋には横長の机があり、その上には八つの塊が置いてあった。塊は、どれも灰色で泥だ
らけだった。
永遠は、塊を一目見た瞬間、ドクンと心臓がはねた。
一番最初に動いたのは陽と陰だった。
ふらりと動いたかと思うと、右から一番目と二番目の塊の前へと歩いていった。
次に動いたのは琥珀だった。
躊躇わずに永遠の背中から離れると、迷わずに左から一番目の塊の前へ向かっていった。
その後に続くように紅玉と菫青が、右から三番目と、左から三番目の前へ行った。
そして、瑠璃と翡翠がそれぞれ左から二番目と、三番目の塊の前へと歩いた。
その瞬間、永遠は、周囲のざわめきが聞こえなくなった。
何も聞こえない。
何も聴こえない。
聞こえるのは自分の鼓動だけ。
聴こえるのは自分の鼓動だけ。
何も見えない。
何も視えない。
見えるのは塊だけ。
視えるのは塊だけ。
目を奪われ、
耳を奪われ、
心を奪われるのは、
何?
呼んでいる。
呼んでいる。
何かが私を呼んでいる。
何かが僕を呼んでいる。
呼んでいるのは
何?
うるさいくらいの心臓の鼓動を聞きながら永遠は、一歩一歩を軽やかに進んでいった。
そして、塊の前へ来ると、震える手を持ち上げて、八人同時に塊に触れた。
周りの人は皆、息をつめて八人を見つめていた。
しかし、いつまで経っても、塊に変化は見られなかった。
「ほら、やっぱり違ったじゃないの!」
零は、自分が説き伏せられた怒りからか、おじいさんに向かって怒鳴っていた。
しかし、おじいさんは微笑むだけで八人から目を離さなかった。
そんな中永遠は、一心不乱に塊に意識を集中させていた。
己の姿を見よ。
己の姿を視よ。
己の声を聞け。
己の声を聴け。
己を認めろ。
己の名前は。
・・・・・・己の名は・・・・・・
「・・・己の名は・・・永遠・・・!!」
その瞬間、泥にまみれ、灰色に薄汚れていた塊が、仄かに光り始めた。
陽は白、陰は黒、琥珀は黄色、紅玉は赤、菫青は青紫、瑠璃は青、翡翠は緑、永遠は銀色と、それぞれ
触れていた塊が光り輝いていた。
驚いて、思わず永遠たちが手を離しても輝き続けた
それどころか、目を瞑らずにはいられないくらいに光りは強くなっていった。
永遠たちは目を細め、手をかざした。
その瞬間、塊の汚れが一気に弾けとび、半透明の人影が陽炎のように立ち上った。
「うお!何だこれは!?」
静寂を破ったのは、静藍のすっとんきょんな叫び声だった。
しかし、人々は静藍には構わず八道具が置かれた机を凝視した。
有色透明なオレンジ色の地に繊細な金色の木の葉が散りばめられた琥珀の笛からは、金髪とオレンジ色の瞳が印象的な少年が真っ直ぐに琥珀を見つめていた。
心が吸い込まれそうな青紫色の雪の結晶が、柄や刃にびっしりと隙間無く埋め尽くされた菫青の薙刀からは、栗色の髪と藍色の瞳が特徴的な男性が、菫青を試すように目線を動かしていた。
銀色の扇に、深い青色の雫形の石が何個かくっついて花のような模様がいくつもある瑠璃の扇からは、水色の髪を弄びながら優しそうに瑠璃に向かって水色の瞳を細めているマーメイドの女性がいた。
紅色の宝石で、弓の部分に燃え上がる炎がデザインされたルビーの弓からは、白い髪をなびかせながら面白そうに血のように赤い瞳を細めている女性が出てきた。
柄も刀身も真っ黒で、刀身に紫色と黄緑色の石が散りばめられた勾玉の剣からは、灰色の髪を黒いリボンで結い上げ、灰色の瞳で静かに陰を見つめている少女がいた。
銃口も引き金の真っ白だが、勾玉の剣のように紫色と黄緑色の石が散りばめられた勾玉の銃からは、同じように灰色の髪を白いリボンで結い上げ、静かに陽を見つめている少女がいた。
飴色の細長い木に緑色の蛇が尻尾から巻き付き、杖の一番上には大きく口を広げた蛇の頭があり、その口の中には透明で透き通った玉石が埋め込まれている翡翠の杖からは、緑色の蛇の髪を頭から垂らして瞳を閉じているなんの感情も感じられない男性がいた。
そして。
銀色に輝く∞のマークと白銀に煌く表紙に目を奪われる無限の書からは、長い銀髪を無造作に垂らした銀色の瞳の青年が永遠から目を離さないで見つめていた。
唐突に銀髪の青年が口を開いた。
「我が名は、四季。そなたの名を述べよ。」
永遠は真っ直ぐに見つめ返しながら、言った。
「私の名前は、永遠。」
青年は満足そうに頷くと、口元に笑顔を浮かべながら高らかに宣言した。
「よかろう、永遠よ我が名のもと、新たなる八人の魔法使いの誕生をここに誓おう!!」
それは、誰の目にも永遠たちが八人の魔法使いであることは明らかだった。
部屋全体が、しんと静まり返ったが、ある者が喜びを隠し切れないように叫んだ。
「え、『選ばれし者』が見つかったぞおおおおおっ!!」
その瞬間、人々は我を忘れて喜びの歓声を上げた。
「八人の魔法使いの誕生だああああああああああっ!!」
「八人の魔法使いばんざああああああいいいいいい!!」
人々が、喜びに身を躍らせたその時、
「は、はは、ははは、ははははははははははははっ!!」
頭に直接響くような高らかな笑い声が聴こえた。