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八人の魔法使い  作者: 小伽華志
サトラ・ミナ編
7/29

魔法歴史博物館




 翌朝、学校の校庭には集められた中学部の生徒たちで埋め尽くされていた。


 その様子を永遠は、自分の部屋で見ながら今朝のことを思い出していた。


 

 今朝、永遠の部屋のドアにノックの音が響いた。


 「永遠ー、私だ。入っていいかー。」


 その声は静藍のものであった。


 「はい、どうぞ。」


 永遠は、入室を許可した。


 「おはよう。昨日はよく眠れたか?」


 「ええ、はい。」


 入ってきた静藍は、ドアを開けたまま話始めた。


 どうやら、すぐに済む話らしい。


 「今日の博物館のことなんだが、永遠は連れて行けなくなった。理由は、昨日紅玉が授業中に質問していただろう?」


 永遠はすぐに思い至った。


 「あの後、先生方に聞いてみたら誰もそのことに気付いていなくて、急遽、職員会議を開いたんだ、政府にも電話をかけてね。で、結局今回はお前たちは連れて行けないことになった。」


 たいして期待もしていなかった永遠は、すんなりと了承した。


 「まあ、これで『選ばれし者』も見つかるだろうがな。」


 「え?どういうことですか?」


 静藍の言葉に永遠は疑問を持った。


 「ああ、言ってなかったか。実は、昨日のうちにほとんどの魔法の使える国民は確認が終わったんだ。まだ確認していないのはこの学校くらいなんだ。」


 「それで、『選ばれし者』は見つからなかったんですね。」


 「ああ、だから今日中には見つかるはずなんだ。」


 永遠は、この学校から『選ばれし者』が出るのかと少し、嬉しくなった。


 「だから、今日は一日自習をしていろな。昼飯は、小学部と一緒に食べるように頼んであるから心配するな。」


 「はい、分かりました。」


 永遠の返事を聞くと静藍は「じゃあな。」と言って部屋から出て行った。


 

 意識を今朝のことから引き戻すと、丁度皆がバスに乗り込んでいるところだった。


 どうやら、政府が気を使ってくれたらしい。


 列の一番最後に並んでいた零がふと、永遠の方を見た。


 永遠と目が合うと、零は永遠に向かって勝ち誇った笑みを向けた。


 思わず永遠が身を竦ませるのと、零がバスに乗り込むのがほぼ同時だった。


 永遠は、息を吐き出すと、机に教科書とノートを広げた。


 今日は零が邪魔をしてこないから今のうちに勉強しておこう。


 永遠はそう思い、早速自習を始めた。


 


静藍は、しばらくバスに揺られていたが目的地に近ずくと、器用に立ち上がって後ろを振り向いた。


 「もうすぐ、魔法歴史博物館に着く。その前に、日程を説明しておこうと思う。」


 静藍がそう言うと、騒がしかったバスの中は一気に静かになった。


 「『選ばれし者』の確認は、先生、六年生、五年生、四年生、三年生、二年生、一年生の順番でいこう

と思う。確認の仕方は政府の人が説明してくれるから聞き逃さないように。昼食は、順番を待っている間に弁当が配られるからそれを待ち時間内で食べるように。また長時間待つため、自習用のプリントを作ってきたから待ち時間中はそれに取り組んでいること。他の細かいことはその場で説明するから指示に従うように。」


 説明が終わると、バスが目的地に到着した。




 永遠は、しばらく自習を続けていたが集中力が切れ始めたため、休憩を入れることにした。


 少し、散歩でもするか。


 そう考えた永遠は椅子から立ち上がると、伸びをしてから部屋から出た。


 廊下に出て歩いていると、曲がり角から紅玉が曲がってきた。


 「ああ、永遠さんも留守番か。」


 永遠に気付いた紅玉は話しかけてきた。


 「じゃあ、永遠さんも皆と一緒に勉強する?」


 「え?皆、他にも誰かいるの?」


 「うん、翡翠君と瑠璃さん。あと、菫青君も。」


 思わず聞き返した永遠に、紅玉は平然と返した。


 「そ、そんなに?」


 「うん、で、来るの?」


 「う、うん。迷惑じゃないのなら。」


 「ぜーんぜん、迷惑じゃないよ。」


 永遠に向かって紅玉は軽い口調で言った。


 「じゃ、じゃあいろいろ持ってくるから、ちょっと待ってて。」


 紅玉にそう言うと永遠は自分の部屋に向かって駆け出していった。




 自分の確認が終わった静藍は、長蛇の列を見てうんざりした。


 静藍は『選ばれし者』ではなかったのだ。


 この分だと、夜までかかりそうだな。


 溜息を一つつくと、静藍は生徒の様子を見るため待合室に向かって歩いた。




 自分の勉強道具を持った永遠が紅玉に連れられて図書館に入ると、そこにはテーブルに教科書類を広げ


て勉強を瑠璃に教えている翡翠と、離れたソファーでまったりと読書をしている菫青がいた。


 「あ、お帰りなさい。あれ?永遠さんもお留守番ですか?」


 「う、うん。い、一緒に勉強してもいい?」


 「ええ、勿論です。」


 翡翠に手招きされて同じテーブルについた永遠は、進めていた自習の続きを再開した。


 「・・・だから、ここの答えは三番でいいんです。」


 翡翠に説明されて問題が解けた瑠璃は嬉しそうに頷いた。


 「ありがとう。」


 翡翠は、ノートに書かれた文字を見て、「どういたしまして。」と返した。


 菫青は変わらずに読書を続け、紅玉は図書館内をうろうろと歩き回っていた。


 永遠は一人でいるよりも皆といたほうが楽しいと感じた。


 その時、四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。


 「あ、昼食の時間ですね。永遠さんの分も小学部ですか?」


 「うん、そう。」


 翡翠の質問に答えると、永遠は立ち上がった。


 皆で小学部に向かうと小学部の先生は、「事情は聞いていますよ。」と快く永遠たちを迎えてくれた。


 「あれ?永遠お姉ちゃん、どうして博物館に行かなかったの?」


 昼食を貰ってテーブルに着くと、同じテーブルにいた小学部の子が無邪気に聞いてきた。


 「えっとね、私は魔力が無くて魔法が使えないから、『選ばれし者』にはなれないことが分かっているから、お留守番になったんだ。」


 「えー!?なんでまりょくが無いの?永遠お姉ちゃんなんか悪いことしたの?」


 永遠の答えに小学部の子は目を丸くすると、さらに質問を重ねてきた。


 「うーん・・・特になにもしてないんだけどねー・・・」


 「じゃあ、どうして?」


 「世の中っていうのは理不尽なもんなんだよ。」


 「りふじんってなあに?」


 「大きくなれば分かるよ。」


 永遠は困って質問をはぐらかした。


 できるだけ急いで昼食を食べ終わると、永遠は逃げるように小学部から出て行った。


 「あれ?永遠さん?」


 不意に声が聞こえて永遠は振り向くと、そこにはトレーを抱えた陽と器を持った陰がいた。


 「あれ?二人ともどうしてここに?」


 「そっちこそ。」


 「博物館は?」


 「わ、私、この前の授業で魔力が無いって分かったから・・・」


 「あ、おんなじ、おんなじ。」


 「僕らもそう言われた。」


 永遠はまさかと思って説明すると、あっさりと陽と陰も同じということが分かった。


 「それは?」


 永遠は、気になっていたトレーを指差して聞いてみた。


 「ああ、琥珀さんの分。」


 「静藍先生に頼まれて。」


 「あ、そうなんだ。」


 「うん、だから温かいうちに届けなきゃ。」


 「あ、引き止めてごめんね。」


 「ううん、じゃ、これで。」


 陽に遠回しに急いでいることを伝えられた永遠は慌てて陽たちを解放した。


 ・・・なんか二人で一人みたいな話し方するな。


 陽と陰の後姿を見ていた永遠はそう感じたのだった。




 一方、静藍は博物館の別室で冷えた弁当を食べていた。


 「・・・はぁ・・・」


 確認にまだまだ時間がかかることを考えると、思わず溜息が出た。


 昼までかかって、ようやく四年生まで終わったか。帰れるのは一体何時になることやら・・・


 『伝説の八道具』は、魔法道具が合計八つあるため、一人につき八回の確認が必要になる。そのため、

やたらと時間がかかるのだ。


 静藍が、空になった弁当箱をビニール袋に入れてゴミ箱に捨てるのと、交代の職員がドアを開けるのはほぼ同時だった。


 「あ、お疲れ様です。」


 静藍は、頭を下げながら廊下に出ると、気を引き締めて待合室へと向かった。




 その頃永遠は、図書館で魔法の呪文の暗記をしているところだった。


 「・・・よし、終わった。」


 「え!?まだ十分も経ってないですよ!?」


 永遠が教科書を閉じると、翡翠は驚いたように声を上げた。


 「え?だ、だって、テスト範囲は全部覚えたよ。」


 「本当ですか?ちょっと、いくつか言ってみてください。」


 翡翠に言われて、永遠は呪文を十個ばかし暗唱してみた。


 「・・・驚きました、全部合ってます。」


 教科書を見て確かめていた翡翠は、永遠の記憶力に驚愕した。


 「え?これが普通なんじゃないの?」


 「いやいやいや、普通は半日くらいかけて暗記しますよ。」


 永遠は逆に、自分が普通ではないと知って驚いた。


 「永遠さん、すごーい!!」


 瑠璃はノートの端に永遠を褒め称える言葉を書いた。


 「ち、ちなみに前回のテストの合計点数は?」


 紅玉は恐る恐る質問した。


 「ご、五教科で五百点だけど?」


 「え!?まじで!!」


 「それは凄い。」


 なんとなく予想していた通りの永遠の答えに、紅玉は驚きを隠せず、我かんせずといった感じで本の

ページを捲っていた菫青も読書の手を止めて会話に参加した。


 「ぜ、前回は、たまたま文章題が出てこなかったから高得点を取れただけだよ。」


 「いやー・・・それでも凄いって。ちなみに、どうやって暗記してるの?」


 紅玉は、暗記のこつを得ようと質問した。


 「きょ、教科書やワークを一通りやってるだけだよ。」


 「え?それだけ?」


 「う、うん。」


 永遠の答えに皆は顔を見合わせた。


 「きっと、記憶力が人の何倍も優れているのね。」


 瑠璃がノートの端に書くと、「まあ、そうなんだろな。」というような空気が辺り一面に漂った。




 零は、待合室でプリントに取り組むふりをしながら、『選ばれし者』がいつ出てもすぐに動けるように

神経を尖らせていた。


 いざとなったら、躊躇せずにすぐに刺す。


 零の手は自然と筆箱へとむかいそうになっていた。


 そんな零から何か感じるのか、取り巻きたちは零から離れた席で喧しく話していた。


 しかし、いっこうに『選ばれし者』が出てくる様子が無い。


 零は、今からぴりぴりしても仕方ないとふっと手の力を抜いた。

 



 永遠は、自習するものが無くなり、読書でもするかと図書館内をうろついていた。


 「・・・あ、これ・・・」


 ふと、永遠が見つけたのは、『題名の無い物語』というものであった。


 本棚から引き抜いて表紙を見ると、かなり古い本だということが見て取れた。


 『題名の無い物語』を持ってソファーへ行き、菫青から離れて座ると、『題名の無い物語』を読み始めた。


 それは、一人の男の悲しい恋の話であった。


 最後の行を読み終えた時、永遠の目には涙がうっすらと浮かんでいた。


 「それ、悲しい話だよね。」


 不意の話しかけられて、驚いて本から顔を上げると、菫青が永遠の方を見ていた。


 「知ってた?元々この建物は『無限の書』の持ち主の家だったんだって。それが、旅に出る時、村の孤児院に丸ごとあげちゃったんだ。だから、この建物には持ち主の私物が大量にあるんだって。その本も、元々は持ち主の私物だったらしいよ。」


 「へえー、そうなんだ。」


 自分が手に持っている本が『無限の書』の魔法使いも読んだ物だと思うと、なんだか不思議な感じがした。


 「でも、どうしてその話を私に教えてくれるの?」


 「なんとなく。」


 永遠が問いかけると、菫青はきっぱりと言った。


 そして、読書を再開してしまった。


 永遠は本を元に戻すためにソファーから立ち上がった。




 「なぜだ、なぜ見つからないのだ!!」


 政府から来た一人が叫ぶと、皆後に続いて騒ぎ始めた。


 結局、一年生まで確認しても、『選ばれし者』は見つからなかったのだ。


 今は、『伝説の八道具』が保管されている部屋に全員が集められていた。


 騒ぎ出した政府に生徒たちは、怯えたように縮こまっていた。


 そんな中、政府から一人の人が発言を求めるように静かに手を上げた。


 不思議と、それだけで騒いでいた者たちは静かになっていった。


 「学校の先生方、今回この場にいなくて確認をしていない生徒さんはいらっしゃいますか?」


 品の良いおじいさんのような印象を受けるその人は、声を荒らげることもなく尋ねた。


 それに答えたのは静藍だった。


 「はい、魔力が確認されないと判断されたため、今回連れて来なかった生徒はいます。」


 「では、今からその生徒さんを連れて来ることはできますか?」


 政府側からも生徒側からも、ざわめきが広がった。


 「しかし、魔力が無いのであれば・・・」


 「私は、先生方にお聞きしているのです。」


 反論しようとした政府の一人を、静かに、それでいて計り知れない迫力でおじいさんは黙らせた。


 「はい、魔法を使わせていただければ今すぐに連れて来ることは可能です。」


 「そうですか、では、その生徒さんを連れて来てください。」


 「分かりました。」


 静藍はおじいさんに一礼すると、身を翻して早足で歩いていった。


 「静藍先生、私が行きますよ。」


 「ああ、いえ、私でないと琥珀は出てきませんし、私が行きます。生徒たちのことをお願いします。」


 代わろうとした同職員を断り、外に出た静藍は呪文を唱えると、白い光と共に姿を消した。








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