艶麗の復活
私と紅玉が魔法が使えないとクラスの広まって一週間。私にとっては地獄のような毎日を送っていた。
廊下でクラスメイトが立ち話をしているだけで自分の事を言っているのではないかと思っていまうの
だった。実際、そうだった事も少なからずあったからだ。
特に、零のグループが馬鹿にしてくるのが一番の苦痛だった。
「あ~ら、魔法もろくに使えないのに魔法実習には出席するのね~ぇ。」
合同授業の時には必ず嫌味を挟んでくるのだ。
「・・・け、見学だけでも、出ろって・・・せ、先生が言うから・・・」
ふん
永遠の言葉を鼻で笑った零は馬鹿にしたような目つきで永遠を一瞥するとさっそうと自分の席へと向
かっていった。
永遠が身を竦ませるのとドアから静藍が入ってくるのが同時だった。
「あ、永遠早く席に着け。さっさと挨拶してー。」
永遠は急いで席に向かうとそれを見た当番が挨拶をして着席した。
「えーっと、いきなりだが、明日魔法道具博物館に行く事が決まった。」
静藍がそう言ったとたん教室中にざわめきが広がった。
永遠も意味が分からずに困惑した。
「まあまあまあ落ち着け、って言ってもこれを聞いたら落ち着かないだろうがな。」
次の瞬間、静藍が爆弾発言をした。
「艶麗が復活した。」
「・・・は?」
今度は教室全体に?マークが生じた。
「先生、あの、艶麗っておとぎ話の類じゃないんですか?」
クラスメイトの一人が発言した言葉は、クラス全体の人の代弁だった。
「ああ、気持ちは分かる。ただ、『八人の魔法使い』の話は昔現実に起こった事だ。そして、艶麗は実在する。」
静藍は、淡々と述べた。
「そういうわけで今日の授業は魔法の練習を急遽止めて、『八人の魔法使い』について復習する。」
そう言うと静藍は黒板に『八人の魔法使いの復習』と書いた。
まだ、事態が理解しきれずふわふわとした気持ちのまま授業が始まってしまった。
「あー、『八人の魔法使い』は皆知っているよな。ではまず、『伝説の八道具』とはいったい何かをおさらいしよう。」
そう言うと、静藍はチョークを手に取った。
「八人の魔法使いは艶麗に対抗すべく八つの魔法道具を作って戦った。それが後に『伝説の八道具』と名づけられたものだ。また、その八つの魔法道具の名前を『瑠璃の扇』、『翡翠の杖』、『菫青の薙刀』、『ルビーの弓矢』、『琥珀の笛』、『勾玉の銃』、『勾玉の剣』、『無限の本』と言った。」
静藍は、手に取ったチョークを黒板に走らせた。
「次は、艶麗の事について確認しよう。」
チョークを止めずに後ろを向いたまま静藍は説明を始めた。
「かつて世界で争いは絶えなかった時代・・・」
静藍は皆が知っている、『八人の魔法使い』を聞き心地の良い声で語り始めた。
「・・・そして、数百年たった現在『伝説の八道具』は、魔法歴史博物館に展示されているのでした。こ
の話は皆知っているよな?この時出てくる艶麗が今現在復活し、再び現れた。」
その時、誰かの息を呑む音が聞こえた。
「話の最後に本の持ち主の言葉が載っているよな?『本よ、艶麗はいつか復活するであろう。その時の「選ばれし者」を我らが導けるように、我らを、道具の精霊にしておくれ。』と。艶麗が復活した今、一刻でも早く『選ばれし者』を見つけるために政府が魔法の使える者たちをかたっぽしから集めて探しているらしい。当然、うちの学校にも徴集がきた。この間、一年生にも魔法を教えただろう?だから明日、中学部の一年生から六年生まで魔法歴史博物館に連れて行くことになった。何か質問はあるか?」
「はい。」
静藍が聞くと零が手を上げた。
「物語には八人の魔法使いはその身が滅びたと載っていました。なら、一体どうやって人々は本の持ち主の言葉を知ることができたのですか?」
零の質問は的を射ていた。
確かに、八人の魔法使いがその場で死んだのなら一体誰がこの話を語り継いだというのか。まさか八人
の魔法使いの精霊が語り継いだと言うのだろうか。いくらなんでもそれは無理があるんじゃあ・・・
そんな永遠の考えは杞憂に終わった。
「ああ、その事だが、どうやら八人の中にテレパシーを使う者がいたらしい。その人が死ぬ直前まで
『導く腕輪』を受け取った人々に同時中継していたらしい。」
「あの、『導く腕輪』って・・・」
「あ、まだ説明していなかったか。『導く腕輪』とは、八人の魔法使いが各地を訪れた際、仲良くなっ
た現地の人々に渡していったらしい。その『導く腕輪』を受け取った人々が最後の言葉を伝え続けたそうだ。他は?」
「はい。」
零が座ると同時に今度は紅玉が手を上げた。
「博物館に行くのは魔法が使える人たちだけですよね、じゃあ、僕は行かなくてもいいんですか?」
紅玉の言葉に永遠は、はっとなった。
それは、紅玉だけでなく永遠にも関係がある事だったからだ。
「一応全員連れて行く予定だ。」
「それって、魔法が使えない人も関係がありそうじゃないですか?だったら、中学部だけでなく小学部や孤児院棟にも『選ばれし者』がいる可能性があるんじゃないですか?そこも考えてあるんですか?」
また、紅玉の質問は的を射ていた。
「いや、そこまでは考えていなかった。後で、他の先生方にも確認してみる。気付いてくれてありがと
うな紅玉。」
「いえ、別に。」
丁度その時、タイミングよくチャイムが鳴り響いた。
「そういうことで、明日は博物館に行くからな。」
静藍が席を立つと、皆興奮したように仲の良いグループに分かれて教室から出て行った。
おそらく、もしかしたら自分が『選ばれし者』のうちの一人かもという期待で溢れているのだろう。
永遠はそれを醒めた目で見つめていたが、やがてフードを押さえながら自分の部屋へと戻っていった。
その日の夜、零は自分の部屋のベットに腰掛けてじっと一点を見つめていた。
「・・・艶麗が復活した・・・」
零は、ぽつりと呟いた。
「・・・母さん・・・あたしは・・・」
やがて、零は顔を上げた。
その顔には、先ほどの迷いは微塵も残っていなかった。
「じゃあ、見つかったらさっさと実行に移さなくっちゃ。」
零は、頭でさまざまなことを考えながら、ぼそりと付け加えた。
「・・・例え、殺してでも。」
血の気が下がった青白い顔は、彫刻のような印象を与え、ピンクの瞳は、今まで無かった強い光が支配していた。
やがて、零はベットにもぐりこんだ。
胸の中に一つの決意を抱えて。