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八人の魔法使い  作者: 小伽華志
サトラ・ミナ編
16/29

訓練






 永遠は過ぎ行く風景をぼんやりと眺めながら、小型バスの窓ガラスに寄り掛かった。


 放課後、静藍によって呼び出された八人は染太郎の用意したマイクロバスに乗って、政府が用意したと

いう場所に向かっていた。


 これから、特別訓練を行う為だ。


 バスに揺られて十分ほど。染太郎に到着したと告げられ、降りた瞬間目に入ったのは一面黄土色の土で固められたグランドだった。


 近くには森も見えるが、永遠の目を引いたのはグランドのあちこちに設置されている機械の数々と、そ

れの近くに固まっている人々の姿だった。


 「ここは元々サッカー場として使用されていましたが、ゴールの老朽化が進んでいた為、ゴールを取り払い、選ばれし者の訓練場として整備されました。あの機械はカトラ・マヤから取り寄せたものでして、魔力を測る機械だそうです。あの人達は、訓練の様子を記録するよう指示された人達です。」


 染太郎は手で示しながら、丁寧に説明をしてくれた。


 永遠達がグランドに足を踏み入れると、ざわざわと騒がしかったのが一瞬で静まりかえった。


 「皆さん、八道具をどうぞ。」


 声をかけられ振り向くと、そこにはケースが広げられており、精霊達が興味深そうに機械の方を見つめていた。


 「四季さん。こんにちは。」


 永遠が声をかけると、四季はハッとしたように永遠に向き直った。


 「ああ、昨日ぶりだな。ところで永遠、あの黒いものは何だ?」


 四季の指差した先には、テレビなんかで見かける大型のカメラがあった。


 カメラ・・・・・・


 永遠は顔が引き攣るのを感じながら、四季に説明した。


 「あれはカメラというものでして、映像を記録して後で見返すことが出来る機械です。」


 「ほぉ、かめらと言うのか。非常に興味深い。後ほど我が頼めばそのえーぞーとやらを見せて貰えるだ

ろうか。」


 「多分見せてもらえますよ。」


 と、いうか昔の英雄に頼まれて断れるような人はいないだろう。


 永遠の言葉に、「そうか。それは楽しみだ。」と四季は顔を輝かせた。


 永遠が無限の書を手に取ると、他の七人もそれぞれ道具を手に取った。


 「では、さっそく訓練を始めるとしよう。」


 さっきと打って変わってキリッとした表情になった四季の声を合図に、あちこちで機械のスイッチを入れたヴーンという音が聞こえた。


 「カメラ回しまーす。」


 その声に、永遠はぐっとフードをより目深に被った。


 「永遠。こっちに来い。」


 永遠は四季に促されたが、他の七人もそれぞれ精霊に言われて皆、点でばらばらに散らばった。


 「永遠、まずは普通に魔法が使えるかどうか試してみろ。」


 四季に言われ、永遠は無限の書を左手で持って火の呪文を唱えた。


 「手の中に舞い踊りし炎よ我が目的へ飛び向かうのだ。」


 その瞬間、右手の指先が温まり、人差し指に小さな炎が灯った。


 「使えた・・・・・・!」


 永遠が歓喜に声を震わせるとそれを見た人々は小さな歓声を上げ、手元のタブレットに記入をした。


 「うむ、問題なく使えるな。他の呪文はどうだ?」


 それから永遠が水、風、土の呪文を唱えると、小さな水柱が上がり、控えめなそよ風が頬を撫で、地面

が土竜が出てきたようにこんもり盛り上がった。


 「問題ない。しかし、弱いな。」


 四季の言葉に、永遠は少なからずショックを受けた。


 「そんな・・・・・・」


 「見てみろ。」


 四季の指差した先には紅玉が呪文を唱えているところだったが、その瞬間、大きな炎の渦が巻き起こった。


 「わあっ!」


 悲鳴を上げ、尻餅をついた紅玉に、機械を弄っていた人々は慌てて駆け寄って水の呪文を唱えて消火活動を始めた。


 他にも、翡翠が風の呪文を唱えると突風が発生して木々を揺らし、菫青が水の呪文を唱えると彼の左手からこんこんと水が湧き出て記録の人はカメラを持ち上げて避難し、陽と陰が揃って土の呪文を唱えると小規模な地割れが発生してその中に菫青の水は吸い込まれていった。


 「皆・・・・・凄い・・・・」


 永遠が呟くと、四季は「当然だ。」と頷いた。


 「魔法道具を使うほどだ。魔力は豊富だろう。」


 しかし、見てみると瑠璃と琥珀は魔法が使えていない。


 「二人は、何で・・・・」


 永遠の視線を辿った四季は、「ああ。」と呟いた。


 「確か彼女達は声が出ないのだろう?声が出ないのならば呪文は唱えられない。すなわち、魔法が使えないんだろう。」


 四季の言葉に、目を瞠った。


 「それじゃ・・・・二人は・・・・・・」


 「いや、訓練によっては呪文を唱えなくても魔法が使えるようになる。だから、彼女達もきっと大丈夫

だろう。」


 四季の言葉に、永遠は心から安堵した。


 「・・・・・・・よかった。」


 「永遠も、その域に達するのだからな。」


 「・・・へ?」


 さらりと告げられた言葉に、永遠は目を瞬かせた。


 「さあ、特訓を続けるか。」


 にやりと意地の悪い笑みを見せた四季に、永遠は全力で逃げ出したくなった。


 それから数時間、四季のスパルタな訓練に、悲鳴を上げそうになりながら必死にこなした永遠は、どう

にか片手から零れるほどの炎を出せるほどになった。


 「まあ、今日はこれくらいにしとくか。」


 「・・・・・どうも。」


 ふんと満足そうに鼻を鳴らす四季に、息を切らして返事をかえす永遠は疲労困憊していた。


 「お疲れ様です、皆さん。お腹が空いた事でしょう。こちらで軽食を用意しているのでぜひ召し上がって下さい。」


 染太郎に言われて、永遠は初めて空腹であることに気が付いた。


 水道で手を洗ってから、グランドに張られたテントに行くと、折りたたみ式の机と椅子が用意されてい

て、机の上にはコンビニエンスストアで売られているおにぎりと人数分のペットボトルが乗っていた。


 「いただきます。」


 手を合わせてペットボトルのお茶を口に含むと、おにぎりを手にとって包装紙を破って口に運んだ。


 柔らかい梅肉の入ったおにぎりをお茶で流し込むと、紅玉がしきりに前髪を弄っているのに気付いた。


 「どうかしましたか?」


 同じく気付いた翡翠が声をかけると、「これ見てよ。」と紅玉は前髪を翡翠につきつけた。


 「なんか黒いなと思ってよく見たらさ、焦げてんの。多分さっきの火の魔法だと思うんだけど。」


 「確かに、ちょっと黒くなってますね。でも、そのくらいなら切ってしまえばいいんじゃないでしょう

か?」


 「まあ、そうだね。後で切っとくよ。」


 紅玉は前髪を離して仕方なさそうに溜息をついた。


 「それでは皆さん。学校までお送りします。バスに乗ってください。」


 染太郎の呼びかけに、皆億劫そうに重い腰を上げて立ち上がった。






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