調子にのってんじゃねぇよ
「国王、何か御用ですか?」
国王と呼ばれた男が固い面持ちで頷いた。
それを見た王妃は、何か嫌な予感を感じた。
本来ならば国王はこの時間帯、書斎に閉じこもって仕事に勤しんでいる頃なのだ。
それがどうしたことやら、王妃の自室に訪れたのだ。
王妃は目を丸くして、国王を部屋の中に入れた。
王妃が普段ティータイムの時に使っているテーブルと椅子に腰掛けると、彼女は首を傾けて国王に問う
た。
「ああ、頼む。どうか驚かないでくれ。」
国王はそう切り出すと、言葉を探すように視線を巡らす。
「昨日、選ばれし者が見つかったということは聞いているか?」
彼の言葉に、王妃は顔を綻ばせて頷いた。
「ええ。おめでたいことですね。」
しかし、無邪気に喜ぶ王妃とは対照的に、国王の顔はますます曇る。
「そのことなんだが・・・・・・」
彼がこんな風に言いよどむとは珍しい。
不意に、国王はテーブルに肘を付け、両手で顔を覆った。
「・・・・・・その、選ばれし者の中に・・・・・・」
項垂れて声を振り絞る国王に、王妃の胸の中は穏やかでは無くなった。
「・・・・・・風雅が混ざっている・・・・・らしい・・・・・・」
国王の言葉に、王妃は愕然と目を見開き両手を口に当てた。
「そんな・・・・・・なんてこと・・・・・・!」
みるみる彼女の瞳に涙が盛り上がり、溢れる。
王妃は泣き崩れて、叫んだ。
「神よ!なぜ、なぜあの子にこれほどの試練をお与えになるのですか!?」
嗚咽を漏らす王妃を、国王は黙って抱き締めた。
「あら、こぉ~んなところで会うなんて奇遇ですこと。」
永遠が静藍の部屋から出て教室に向かっていた時のことだった。
人を蔑むような特徴的な喋り方の、とてもよく知っている声が響き渡った。
びくっと肩を揺らして恐る恐る振り返ると、案の定そこには自分を大きく見せるかのように腕を組んだ
零が立ちはだかっていた。
今日は取り巻きの連中はいないらしい。
零はずかずかと永遠に近づくと、ぐっと身を寄せて永遠の耳元に囁いた。
「調子にのってんじゃねぇよ。」
ビクッと肩を揺らし、目を見開く。
その言葉は、永遠の心を易々と抉った。
「あんた、八人の魔法使いに選ばれたからって自分が特別な存在だとか思い上がっちゃってんの?どうせそのフードも、キャラ作りなんでしょ。あんたなんか、どうせ数合わせに選ばれただけなのよ。」
零の言葉一つ一つが、永遠の心に刻まれていくようだった。
「いい?あんたは特別なんかじゃない。今は付き合ってくれてるお仲間にも、どうせすぐに飽きられちゃうわ。そうしたら、あんたはまた一人ぼっち。可哀想な永遠ちゃんに逆戻り。」
リズミカルに紡がれる言葉は、魔法の呪文のように永遠を絡め取ってゆく。
「でも、大丈夫よ。可哀想な永遠ちゃん。」
零は身を起こすと、永遠の肩をトンッと手で押し退けた。
「そうなったら、またあたしが相手をしてあげる。」
くすりと含み笑いを漏らすと、零は体を翻して立ち去った。
後には零の言葉に打ちのめされた永遠を残して。