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八人の魔法使い  作者: 小伽華志
サトラ・ミナ編
13/29

ストレス発散






 翌朝、永遠がベットから体を起こすと、やけに廊下がざわざわと騒がしく感じた。


 永遠は不思議に感じたが、取り合えず寝巻きからローブに着替え、しっかりとフードを被ると、恐る恐るドアを開けた。


 その瞬間、数え切れない程のたくさんの双眸に、一斉に見つめられ永遠はドアにしがみ付いたまま硬直した。


 不自然すぎる沈黙が流れ、刹那、歓声が沸き起こった。


 「・・・え・・・え?・・・え!?」


 一人事態が飲み込めず、プチパニックに陥っている永遠を、人混みはぐるりと囲む。


 「おっはよー!選ばれし者。朝御飯、一緒に行こうよぉ。」


 「ね、ね、無限の書は今日の授業、何があるの?もし同じ教科があったさ、一緒に教室まで移動しよう

よ!」


 「あ、あのさ、一昨日の宿題やった?もしやってないなら、あたしの写してもいいよ!」


 気が付くと、永遠はドアから引き剥がされ、人混みに囲まれながら食堂に移動していた。


 窓が多く、明るい食堂に入ると、人々から驚くほどの熱気が醸し出されていた。


 思わず気後れしてしまうが、永遠を取り巻いていた一人が円状になって朝食を食べていた人々に向かっ

て声を張り上げた。


 「おい!無限の書が来たぞ!!」


 わあっと再び歓声が上がり、円状になっていた人々は一斉に立ち上がって永遠を迎え入れた。


 言われるがまま円の中心に進むと、そこには朝にもかかわらずぐったりとした様子で朝食を口に運ぶ紅

玉と翡翠と菫青の姿があった。


 「あぁ、おはよぉ。永遠さん・・・」


 永遠に気付いた紅玉が片手を上げる。


 遅れて翡翠が会釈をした。


 菫青も気が付いてはいるが、挨拶は省略するようだ。


 「こ、これは何事?」


 人混みに勧められるまま紅玉の隣に座り、(その時に、またもや歓声が上がった)永遠は声を潜めて疑

問をぶつけた。


 「その様子だと、永遠さんもあれを受けたらしいね。」


 紅玉はうんざりしたように顎をしゃくって、人混みを指した。


 「僕達も、さっきからああなんですよ。」


 苦笑しながら、翡翠は説明してくれた。


 「どうやら、昨日の確認が原因らしくて。僕が朝起きたら部屋の前で出待ちされてまして、ほぼ食堂に

連行状態で連れて行かれたら、菫青さんが渋い顔で囲まれていたんですよ。その後は紅玉さんで、で、今永遠さんが来たところです。」


 翡翠の説明が終わると、間を置かずに菫青が口を開いた。


 「昨日見つかった選ばれし者は皆この扱いらしいな。瑠璃さんは僕より前に連れて来られたらしいし。陽さんと陰君はざっくりと拒絶したところ、ひっそりと見守られて、二人は不機嫌の最高潮まで上り詰めたとか。琥珀さんは、先生の部屋の前で皆が待っていたところ、中から静藍先生が出てきて一喝したそうだよ。『朝っぱらから、騒ぐんじゃない!』ってね。それで琥珀さんは引きこもり状態だってさ。もっとも、」


 菫青は一回言葉を切った。


 「今まで誰も彼女のことを知らなかったんだとさ。昨日始めて見た奴が大半でさ、今じゃミステリー・ガール琥珀って、皆で噂し合ってる。」


 菫青の饒舌っぷりに、永遠は驚いてしばらく言葉が出なかった。


 そういえば、こんな話を聞いたことがある。


 女の人は友達とたくさん喋る事で、ストレス発散しているんだと。


 これって、男の子にも当て嵌まるみたいだね。


 どうやら、菫青も相当うんざりしているようだ。


 「ああ、その話なら僕も聞いたことがあります。」


 ここで翡翠が口を挟んできた。


 「何でも、静藍先生の部屋に金髪の美少女が住んでいて、誰一人彼女が授業に出ている姿を見たことがないと。多少間違っているかもしれませんが、おおよそこんな感じだったと思います。」


 永遠は目を丸くした。


 「二人とも、一体いつの間に情報収集したの?」


 翡翠は何でもないといったように肩を竦めた。


 「友人から聞いたんです。丁度選ばれし者の確認の前に。」


 一方、菫青はしくじったというように顔を顰めたが、永遠の視線に気付いて、不自然なくらい無表情になった。


 「秘密。」


 彼は一言そう言った。


 冷たくなりかけた雰囲気を遮るように、紅玉が喋り始めた。


 「ていうことはさ、その金髪美少女が琥珀さんでしょ?琥珀さんって授業出て無かったってこと?そ

れって、引きこもり?」


 紅玉の遠慮の無い問いかけに、答えられる者はいなかった。


 永遠は少し考えてから発言した。


 「・・・・・・すっごい、頭良い、とか?」


 永遠の答えに、紅玉はからからと笑った。


 「まさか!永遠さんでさえ授業受けてるんだよ?っていうか、やっぱ永遠さん天然?」


 茶化すように言った紅玉に、永遠は頬を膨らませた。


 「からかわないで、下さい。」


 ぷいっとそっぽを向くと、たまたま視界の端に零が入り込んだ。


 零は醒めた目付きで人混みを見つめていたが、やがて朝食のトレーを片手に、どこかに去っていった。


 感じは好くなかったが、零のおかげで永遠は何をしに食堂にきたのかを思い出した。


 慌てて立ち上がって、朝食を取りに行く。


 トレーに乗せて運ぶと、今度は菫青の隣に座らせられた。


 すっかり冷め切ってしまった朝食はあまり美味しくなかったが、永遠はせっせと口に運んだ。


 あらかた食べ終わったところで、永遠はふと人混みに視線を走らせた。


 人混みは大体永遠と同学年が多かったが、所々上級生が混じっていた。


 その上級生は、携帯やスマホを構えて、一心に永遠達の方を向いて画面を連打していた。


 その意図を悟った永遠はゾッとして、箸を取り落とした。


 幸い他の人には、永遠が手を滑らして箸をトレーに落としたようにしか見えなかっただろう。


 何気なさを装って、永遠は震える手で箸を拾い上げた。


 上級生達は、携帯やスマホで永遠達の写真を撮影しているのだ。


 無断で平然とやっていることに、永遠は嫌悪感を感じた。


 さらに、上級生の一人が下に屈んで携帯を構えた。


 おそらくフードを被って見えずらくなっている、永遠の顔が撮りたかったのだろう。


 それを察した永遠は思わずフードの裾を引っ張り、叫んだ。


 「やめて!!」


 その悲鳴は驚くほど食堂に響き、たちまち静まり返った。


 勿論永遠の顔を取ろうとした上級生も、唖然として口を半開きにしていた。


 永遠は羞恥に顔を染め、居た堪れなくなって食堂を飛び出した。


 「永遠さん!」


 誰かが呼びかけたが、おそらく三人のうちの誰かだろう。


 すれ違うたびに降り注ぐ好奇の視線を掻い潜って、永遠は人の少ない方に闇雲に走った。


 人もまばらになった頃、脇腹も痛くなってきた永遠は勢いを落として歩き始めた。


 「おい永遠、どうかしたか?」


 唐突に肩を掴まれ、永遠はぎょっとして勢いよく振り返った。


 そこには、片手にクリアファイルを持った静藍が永遠の肩を掴んでいた。


 「せ、先生。どうしてここに?」


 食堂のことを聞いたとしたら、いくらなんでも早すぎる。


 思わず身構えた永遠に、静藍は不思議そうに言った。


 「だって、ここ私の部屋だぞ?」


 「え・・・・・・」


 急いで辺りを見回すと、確かに静藍の部屋のまん前だった。


 永遠はいつの間にか、職員の自室の並ぶ廊下に迷い込んでいたらしい。


 道理で、人道理が少ないはずだ。


 呆然とした永遠の様子に、静藍は何かを察したようだった。


 「寄ってくか?」


 静藍は自分の部屋のドアを開け、永遠を招き入れた。









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