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八人の魔法使い  作者: 小伽華志
サトラ・ミナ編
12/29

卵が先か鶏が先か






 「いやぁ、何だかとんとん拍子に話が進んでしまいましたが、それでは道具の使い方などは精霊の皆様が教えてくださるということでよろしいでしょうか?」


 「ああ、我らは構わん。」


 精霊を代表して四季が答えた。


 「ご協力ありがとうございます。では、次の話に進みましょうか」


 染太郎は話を進めた。


 「実は、八道具の復活が確認された時とほぼ同時刻、各地で『導く腕輪』が確認されたと報告がありました。」


 初めて聞く話に、永遠は思わず目を瞠った。


 「導く腕輪が確認されたところは、それぞれに『龍』が封印されている町でした。単純に考えて、この町にも導く腕輪が確認されると思ったのですが、まだ報告は来ていません。なので、皆頭を悩ましているのですが・・・」


 染太郎は困ったように眉尻を下げた。


 「導く腕輪は、各地にいる人の腕に唐突に現れたそうです。」


 染太郎が説明を付け足す。


 永遠は素人ながら、そのことについて考えてみた。


 各地で確認されて、染太郎さんに連絡がいってるんだよね。ということは、この町にいる導く腕輪が現れた人は、最終的に染太郎さんに連絡できる人がいなかったってことだよね。そんな人って・・・引きこもりの人とかヴァンパイヤ?・・・そういえば、灯台もと暗しっていう言葉があるよね。この状況に当てはめると・・・・・・


 「あ――――――――!!」


 唐突に静藍が叫んだ。


 あと一歩というところまで推理していた永遠は、その声に推理が吹っ飛んでしまった。


 「わっ!もう、先生いきなり叫ばないでよ。」


 紅玉が文句を言ったが、静藍には聞こえていないようで口を開けたまま固まっていた。


 「ど、如何されましたか?」


 染太郎が質問すると、静藍はハッと我に返った。


 「私だ・・・」


 「は?」


 遠慮なく怪訝そうな声を上げたのは、菫青だ。


 菫青に構わず、静藍は右腕のローブの裾を捲くった。


 「あっ・・・!」


 翡翠は思わず、驚きの声を漏らした。


 静藍の右腕には、鈍く銀色に光る輪っかがはまっていた。


 輪は、一見ただのブレスレットに見えるが、その輝きは無限の書と全く同じものであった。


 しかも、表面には無数の∞という文字が彫り込まれている。


 「八道具の光が止んだ時、ふと手首に違和感を感じてな。見たらこれが現れていた。思わず声を上げてしまったが、皆八道具に目を奪われていて気付かなくて。その後、艶麗が現れたり色々あっただろう?それで今の今まですっかり忘れていたんだ。」


 静藍は呆然と腕輪を見つめながら、うわ言のように呟く。


 あの時の静藍の叫びには、ちゃんと意味があったのだ。


 「こ、これは、斜め上を行く想定外でしたね。」


 染太郎はポケットから二つ折りの携帯電話を取り出した。


 「すいません。ちょっと本部に連絡させてください。」


 永遠達に一言わびると、部屋の隅で携帯を操作し始めた。


 おそらく、本部にメールを送っているのだろう。


 しばらくすると、携帯をポケットにしまいながら、再び染太郎はソファーに腰を落ち着けた。


 「いや、お話を中断させてすいませんでした。無事に導く腕輪が見つかってよかったです。それでは、次のお話に移りましょう。」


 そう言うと、染太郎は膝に乗せていたタブレットの電源を入れた。


 すると、すぐにホーム画面が写った。


 染太郎はタブレットの操作をしながら、口を開く。


 「八人の魔法使いは、サキアカ・トラを護る四匹の龍の元を訪れたと言われております。これをご覧下さい。」


 テーブルに差し出された画面には、サキアカ・トラの画像が映っていた。


 「これが、私達の住む国、サキアカ・トラです。そして、ここがサトラ・ミナです。」


 染太郎の操作で、永遠達が住むサトラ・ミナがズームになった。


 「サトラ・ミナには火龍、キトラ・サナには水龍、カトラ・マヤには風龍、アトラ・エマには土龍が封印されています。それぞれヴァンパイヤ、マーメイド、メドゥーサ、そしてアトラの人々が龍を護る門番としています。」


 染太郎が上げた町が、次々スライドして画面の表示された。


 「まだ細かいことは未定ですが、おそらく選ばれし者に方々にはこれらの町をめぐっていただく必要があると思います。詳しい事が決まり次第また連絡をさせていただきます。」


 染太郎は画面を消して、電源を落とした。


 「これで話は以上ですが、何か質問等はございますでしょうか?」


 染太郎の問いかけに、皆首を振った。


 「では、何かございましたら、こちらまで連絡してください。」


 最後に、染太郎は静藍に名紙を渡すと、タブレットを抱えて腰を上げた。


 「長らくお話に付き合っていただき、ありがとうございました。こちらの車で送ります。」


 染太郎に続いて、ぞろぞろと部屋を後にした。


 博物館の玄関前で、今まで後ろを歩いていた(というか、浮いていた)四季が、唐突に立ち止まった。


 「どうか、しましたか?」


 永遠は振り返って、四季を見つめた。


 「我らはこれ以上進めない。元々我らは八道具の精霊として存在しているのだ。まあ、精霊というよりは、亡霊のほうが近いがな。それはさておき、八道具がここにある以上、必然的に我らはここに留まらなくてはならない。従って、永遠達に付いていくことは出来ないのだ。」


 四季の説明に、永遠は頷いた。


 「分かりました。それじゃあ、おやすみなさい。」


 永遠は四季に別れを告げると、慌てて静藍達の元へと足を速めた。


 静藍達に、追いつくと皆は艶麗のことについて話している最中だった。


 「でもさ、よく考えると艶麗って名前けっこう凄いよね。」


 紅玉が言い出すと、翡翠や菫青は頷いて同意した。


 陽と陰なんかは、にやにやと口角を上げている。


 瑠璃が不思議そうに首を傾げると、それに気付いた翡翠が説明した。


 「ええと、艶麗っていう言葉は、確か容姿が艶やかでなめかわしく美しい、という意味だったと思います。」


 それでも頭上に?マークが浮かんでいる瑠璃に、菫青が簡潔に述べた。


 「ようは、セクシー系の美女ってことだろ?」


 翡翠は非常に微妙そうな表情で首肯した。


 「・・・ええ、まあ、おそらくは・・・」


 そこで静藍が我慢の限界というように噴き出した。


 「ははは、まあ一説には昔の艶麗がとんでもない美女だったもんで、艶麗という言葉が生まれたとも言われているらしいがな。」


 「つまり、卵が先が鶏が先かみたいな話ですね。」


 翡翠がそう言うと、「まあ、そうだな。」と静藍は頷いた。


 ええと、卵が先か鶏が先かと人物艶麗が先か言葉艶麗が先かで、卵が人物艶麗で、鶏が言葉艶麗で、人物艶麗がいたから言葉艶麗が生まれたのか言葉艶麗が先にあったから、人物艶麗が艶麗と名づけられたのか・・・・・・ややこしい!


 頭がこんがらがりそうなので、永遠は考えるのを止めた。


 「しっかし、まあ。艶麗の魔法は巧みなものだったな。呪文を唱えずに魔法を使うとは、中々出来る事ではないぞ。あれは敵にまわしたら厄介だな。」


 艶麗絡みで思い出したのか、静藍が感嘆したように呟く。


 「センセー、気が滅入ること言わないでよ。僕達はその艶麗を倒さなくちゃなんないんだからさぁ。」


 紅玉がうんざりしたように言った。


 「永遠さんは何か艶麗に対して思うことはありましたか?」


 翡翠が永遠を振り返る。


 永遠は重々しく口を開いた。


 「私、あの人はね・・・・・・」


 自然と永遠に視線が集まり、皆ぴりりと気を引き締めた。


 永遠は少し溜めてから言った。


 「・・・・・・少し天然だと思う。」


 その瞬間、皆ぽかんと口を開け、静藍は盛大にずっこけた。


 「何でそうなる!?」


 静藍は永遠に突っ込んだ。


 「だって、何か予言みたいなの言う時、忘れてたって言ってたから。」


 永遠は俯いてごにょごにょと言い訳を口にした。


 紅玉がぽつりと呟く。


 「いや、多分永遠さんのほうが天然だから。」


 その言葉に、皆激しく同意した。




 零は自分の部屋で、電気も付けずに椅子の上で膝を抱えて座っていた。


 視線の先には、机の上にカッターナイフが置いてある。


 暗闇に慣れた目でそれをぼんやりと眺めながら、零は一層強く膝を抱きしめた。


 選ばれし者が見つかったあの時、零は即座に永遠を斬りつける筈だった。


 しかし、艶麗が出てきてしまい、しかも情けない事に先生の魔法まで喰らいそうになってしまった。


 あの時、右手にカッターナイフを隠し持っていた零は、うっかり取り落としそうになり、手汗の滲む震える手で、何とか掴み取り、隠し通すことが精一杯だった。


 選ばれし者が、あの忌々しい永遠とその仲間であることは好都合だった。


 「・・・なにを、躊躇うと、言うの・・・?」


 零は一人呟く。


 「・・・まず、一人。」


 零は、抱えていた膝を離すと、カッターナイフを手に取り、机の引き出しに放り込んだ。







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