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八人の魔法使い  作者: 小伽華志
サトラ・ミナ編
10/29

挨拶

 





 いや、嗤い声と言ったほうが相応しいのかもしれない。


 今まで大騒ぎだった部屋は、水を打ったように静まり返った。


 「その場にいらっしゃる皆さん御機嫌よう。」


 謎の声は、そう挨拶をした。


 「あら、姿が見えないと分かりづらいかしら?」


 謎の声がそう言った瞬間、誰もいなかった空間にその人は浮き出るように現れた。


 真っ黒なローブには、薄っすらと光り輝く銀髪が流れるように垂らされており、顔には、微笑の浮かんだ口元から上を覆い隠すような黒いベールを付けていた。風が吹いているのか、はためくベールから時折見える目元には、銀色の仮面が着けられていた。


 「それでは、改めましてこんにちは。わたくしの名前はもう皆さんご存知だと思われますが、艶麗と申

しますわ。皆さん、ぜひ仲良くしてくださいね。」


 ローブの端を摘み、優雅にお辞儀をしながらその人___艶麗は、そう自己紹介をした。


 その言葉を聞いた途端、人々は、恐怖で声にならない悲鳴を上げた。


 「優しき衣となり荒れ狂う刃となる風よ、我が思うがままに動くのだ!!」

 

一人の先生が呪文を唱えた瞬間、弾丸のように固まった空気が艶麗の胸を直撃した。


 が、


 空気の弾丸は、容易く艶麗の胸を素通りし、零の顔のすぐ横を通り抜けていった。


 「きゃっ!!」


 零は、短く悲鳴を上げて身を竦ませたが、その時永遠には右腕の袖から鋭く光った何かがちらりと見え

たような気がした。


 「零!!」


 そんなことは気付かない静藍は、血相を変えて零の元へと向かった。


 「言い忘れたけれど、これは現実の体ではなく、幻ですわ。ですから、いくら攻撃してもすり抜けて

いってしまうことをお忘れなく。」


 艶麗は、付け足すように言葉を添えると、無限の書から出てきた青年___四季へと体を向けた。


 「さてと、愚かな精霊さん。どうして今になって出て来てしまったのですか?」


 四季はその質問には答えず、艶麗に向かって端的に述べた。


 「貴様は本当に艶麗か?」


 胸元に手を当てて、艶麗は言った。


 「先程も言いましたけれど、わたくしが正真正銘、艶麗ですわ。」


 四季は冷静に言い返した。


 「そうか、しかし、我が会った艶麗は貴様とは違う見た目だったはずだが?」


 艶麗は口元に微笑を浮かべて答えた。


 「わたくしは、過去艶麗の意志を受け継ぐもの。過去の艶麗とは見た目は異なります。しかし、ここにある魂は同じなのです。」


 その言葉を聞いた瞬間、人々は恐怖の壁を打ち破り、心に怒りの炎を燃やした。


 「ふざけるな!!何が『ここにある魂は同じ』だ、お前は艶麗の名前を利用しただけだろ!!」


 政府からそんな叫びが上がった。


 その叫びに艶麗は冷笑した。


 「わたくしに艶麗のような力は無い、そうお思いですか?何を根拠にそんな戯言をほざけるのです

か?」


 さっきと同じ人がまた叫んだ。


 「戯言をほざいているのはお前の方だ!!お前に何千人という人々の心を操れることが出来るのか!?出来ないだろう!?」


 その瞬間、艶麗は嗤った。


 「艶麗のことをろくに知らないくせによく話せますわね。では、わたくしの実力をとくとご覧あれ。」

 艶麗はそう言うと、大地に向かってサッと片手をかざし、不敵に嗤った。


 その瞬間、艶麗の足元からむくむくと何かが形作られた。


 『何か』はじょじょに大きくなり、やがて人型の茶色い塊が現れた。


 塊は一つ、二つと増えていき、その内に数え切れないほどの塊が艶麗の前に並んだ。


 「この泥人形たちは、意思を持たず、無差別に攻撃いたします。まずは、キトラ・サナを狙いましょう

か、それともアトラ・エマかしら、カトラ・マヤも忘れてはいけませんわね。」


 艶麗は人差し指を頬に当て、首を傾げながら次々に街の名前を挙げていったが、ふと永遠の方を見る

と、にやりと口角を上げて言った。


 「決めましたわ。まずは貴方たち・・・サトラ・ミナを狙います。」


 艶麗は実に楽しげに永遠たちの街の名前を言った。


 「日にちはわたくしの気が乗った時、場所はその時そこの子供たちのいる所にします。ああ、実に楽し

みですわ!!」


 艶麗は喜びを噛み締めるように言うと、現れた時同様、ローブの端を摘んでお辞儀をした。


 しかし、ふと何かを思い出したかのように顔を上げた。


 「ああ、忘れるところでしたわ。」


 本当に忘れていたらしい。


 「そこの赤いのと灰色と三つ編み。」


 艶麗は、ビシッと紅玉と瑠璃を指差した。


 「貴方達は、『力』を恐れ、隠し、忘れている。そうではなくて?」


 小首を傾げる様にしながら艶麗は問いただす。


 瑠璃は不思議そうにパチパチと瞬きしていたが、紅玉と菫青は思い当たる節があるのかビクリと体を揺

らした。


 「それから、金色。」


 次に艶麗は琥珀を指差した。


 「貴方は、『力』に目覚めつつある。」


 琥珀は、指された指から逃れるように永遠の背中の後ろに回りこんだ。


 「そして、フードと黒いのと白いのと茶色いの。」


 艶麗は、永遠、陰、陽、翡翠と人差し指を動かした。


 「貴方達には、まだ眠っている『力』がある。」


 艶麗は、手を下ろすと言い聞かせるように言葉に力を込めた。


 「忘れないで。『力』は恐ろしいものかもしれない。でも、いつか必ず貴方達を助けてくれるから、だから、大切にして。そして、」


 その言葉は、後に何度も思い出されることになる。


 そして、艶麗の口調は元の冷酷なものに戻った。


 「その『力』で、このわたくしを倒して見せなさい。」


 艶麗は口角を吊り上げて嗤った。


 「それでは、御機嫌よう。」


 艶麗が頭を上げた瞬間、その姿はふっと掻き消えた。


 後には、恐怖で怒りの炎が凍りついた人々を残して。






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