第二十一話 小畑愛 (2)
昨日の今日で、香波と顔を合わせるのが気が重い。
香波だって、こちらに心配をかけまいとして黙っていたのだ――友達なら、それぐらいは察して然るべきだった。
自分がどうかしていた――だいたい、どう考えてもストーカー被害を受けている香波は相当に辛いし、苦しいはずなのだ。その友達に対して、打ち明けてもらえなかったからと憤慨するなど自分勝手にもほどがある。
千春にも八つ当たりをしてしまった。愛は昨日の自分の行いを恥じた。
朝一番、香波にまず謝罪することにした。
結果を言えば、愛は香波とまともに話せなかった。
いざ香波を前にすると、何を言えばいいか分からない。目を逸らし、避けがちになる。
どのタイミングで声をかけ、どう切り出すかで悶々としているうちに、時間だけが経ってしまった。
普通に謝ればいいのに、細かいことばかりに余計に頭を悩ませてしまっている。
自分らしくない――愛はそう思う。
どうにも自分には香波のこととなると、いつになく感情的になる傾向があるようだ。
そんな自分に、愛自身が戸惑っていた。結論が出ないから、香波と冷静に向き合えないのかも知れない。
原因が判明すれば、この気まずさも解消されるかも知れない――と、愛は思った。
学校から帰ろうと下駄箱で革靴に履き替えているとき、愛はちっ、と舌打ちをした。
スマホを忘れていることに、気が付いたからだ。
バイトまでの時間に、余裕はあまりない。急ぎ足で廊下を戻り、階段を一段飛ばしであがっていく。
教室のドアを開け放つ――突然のことに、中にいた人物が驚きの表情で愛を見た。
「…………」
そのまま中には入らず、教室の入り口で愛は動きを止める。
「……何を、してるの?」
相手に問いかける、愛の声はかたい。
それもそのはずだ――その人物は、机の中に手を突っ込んだ姿勢だった。
そして、更に言えば――その机の主は、愛とは親しいクラスメイトである――沖田香波だった。
まさか、この人物がストーカーの正体なのか――愛の顔つきが険しくなる。
愛の鋭い視線にさらされ、その人物は取り繕うような笑みを浮かべた。
だが愛は、そんなもので誤魔化されるつもりはない。
もう一度、愛は相手を問い詰める。
「何をしてるのかってきいてるんだよ……千春」




