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9話 「マッドハカセと機械侍女」

 しばらくわたしがほかの世界遊子たちと談話していると、それはやってきた。


「|実験材料どこッ!?」


 勢いよく開け放たれた会議室の扉。

 音に驚いて振り向くと、そこには――


「ぐ、ぐるぐる丸眼鏡……」


 あれよ、あれ。

 大きめの眼鏡で、レンズにうずまき模様が入ってるやつ。

 漫画の表現?

 ――違う。マジに模様入ってる。


「う、うわあ……」


 髪の毛はとても長く、ぼっさぼさで、――そしてピンク。すごい、ピンク。

 小柄で細身だが、その髪のボリュームがすさまじく、妙な圧力がある。


「どこっ! モルモットどこぉぉぉおおお!!」


 マッドな香りがします。

 身に纏っているぶかぶかの白衣が余計にその香りを際立たせている。

 襟元に赤い血痕のようなものがあるが――これはどうしたものか。


「……いたっ!! コレでしょ!?」


 その丸眼鏡のピンク髪マッドサイエンティストが、ビシ、とわたしを指差して近寄ってきた。

 とてとてと駆けてくる様子はかわいらしく見えなくもないが、モルモットとか実験材料とかヤバイ単語が聞こえるのでわたし不安。


「はじめまして!! じゃあ解剖させて!!」

「いやです!!」


 その「じゃあ」はどこから繋がった。

 駆け寄ってきた彼女は、わたしの前で跪き、手を握りながらそんなことを言った。


「……話が違うよおおおおおお!」


 テンション高い。

 と、大げさな身振り手振りで天を仰いだ彼女を、後ろから駆けてきたメイド衣装の美女が引き剥がした。

 絶世の美女と呼ぶにたる美貌で、若葉色の髪もきらきらと光を発しているかのように美しいが、背中についた推進器(バーニア)のようなものがついていて、それが火を噴いている。

 ……ん!? 推進器!?


「にょあああー! 離してよ〈ロボ子〉! 主に逆らう気かっ!!」

「わたくしはハカセにメンテナンスをお願いしておりますが、別にハカセに生み出してもらったわけではありませんので、主ではないです。わたくしを生んだのは第二宇宙系黄鶴(こうかく)惑星リュンミンです」

「私もその世界いきたーい!! 知らない技術いっぱいありそうだもん!!」

「では早くこの輝海世界から転移なされればいいと思います」

「それだと神界に引き上げられるからやだ!! 神士はやだ!! あれブラックなんだもん!! 研究時間なくなるもん!!」


 手足をバタつかせて子どものような駄々をこねはじめたぐるぐる眼鏡マッドサイエンティストを見て、周りの世界遊子たちは額を押さえながらため息を吐いていた。


「よし、いいかロボ子、まずその狂人を落ち着かせるんだ。そしてそいつの懐からステータスミエールVer3.0を取り出せ」


 キールが背中にバーニアついてるメイドに言う。

 メイドはこくりとうなずいて、じたばたと暴れるぐるぐる眼鏡ちゃんの首元に手刀を――


「あうっ」


 そうしてハカセは動かなくなった。


 ――物騒すぎない?


 続く動きでメイドは彼女の白衣の中をまさぐる。


「ございました」


 そう言ってメイドは小さな球形の機械を取り出した。

 手に握れるくらいの丸い球だが、内部には複雑な機器が詰まっている。

 細かな部品の接続部には青白い光も見えた。


「……ハッ!!」


 あ、ハカセ起きた。


「また手刀やったな!! 普通の人間だったら首飛んで死んでるぞ!! ロボ子のバカッ!」

「大丈夫です。ハカセは慢性的運動不足ですが、それでも並の人間とは比べ物にならない耐久性がございます。さすがは世界遊子(レルーザ)

「うう……みんなして騙した……モルモットにさせてくれるって……言ってたのに……」

「まあまて、モルモットはダメだが、もし珍しそうな能力とか持ってたら実験に協力してもらえばいいだろ。――いいよな? メロディ」


 キールがこちらを向いていってくる。

 垂れ目が「嘘でもいいからうなずいておけ」と言っていた。


「う、うん、モルモットじゃなければ――い、いいわよ?」

「ホント!?」


 ハカセが眼鏡越しにもわかるほど目を輝かせてこちらを見た。

 これだけ見ると子どものようで少しかわいい。


「う、うん」

「やったー! じゃあいいやー!」


 いいんだ。


「はあ……。んじゃ、早速どんな数値が出るか見てみるか」


 と、キールがさきほどハカセの懐から取り出された丸い機械を差しだしてくる。


「これは?」

「〈ステータスミエール〉って魔法機械だ。ゲーム知ってるなら多少わかるだろ? ステータスって単語」


 まあ、多少は。

 しかしいきなりステータスミエールとか言われても困る。


「〈数値世界〉って世界があってな。この中の何人かも種類こそ違うが似たような世界を通ってきてる。いろんなものを数値化する世界だったり、物体や生体にあらかじめ数値が設定されてたりする世界。極端なところだと神によって数値が決められてるなんて世界もあったな」

「ひ、ひどい世界ね」

「ああ、なんでもかんでも数値がはっきり出ちまうもんだから、いろんな差別の原因が横行してた。俺が通ってきた数値系世界も差別が原因の戦争だらけだったな。ちなみにその世界じゃ人間がその世界の神を殺しにかかってた」

「お、おお……」

「まあ神って単語も仮の名称で、実はもっと組織だった者たちが大規模な魔法で数値をコントロールして、そこから世界を意のままに操っていた、って感じだったんだけど。――話がズレたな」


 キールがごほんと咳払いをする。


「で、そういう世界の魔法や術式を解析して、人の能力を数値化したり、能力の鑑定をしたり、そういうことをできるようにしたのがこのステータスミエール。ver1.0は数値の上限が低すぎて、ver2.0は精度がおざなりになった。んでver3.0で劇的に改善した。実物がこれ」


 キールの手の上の機械球を取ってじっと眺める。

 頭が痛くなりそうなほどに中身が細かい。

 ほんのりと熱量があって、魔力の波動も感じた。


「握ってみ? あ、でも握りつぶすなよ?」

「う、うん」


 そう言われ、とにもかくにもわたしはそれを握ってみることにした。

 大雑把な説明しか受けていないだけに、実際にどういう数字がどんなふうに出るのか少しわくわくする。

 わたしは期待と同時にそれが何らかの合図を出すのを待った。



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