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19話 「輝海世界のメロディ」

 〈生まれついての攻撃者(エクステンダー)〉。

 得たくて得たわけではないが、わたしには生まれつきそんな能力があった。

 魔法のように小難しい過程が必要なわけでもない。

 ただ、わたしの意識に呼応する不思議な力である。

 これのせいで、わたしは前の世界でどこまで行っても魔王だった。


「行きなさい、砂の巨人」


 わたしは意志を持って触れたものに、敵に対する撃滅志向性を持たせることができる。

 つまるところ、生物でも無生物でも、わたしが意志を持って触れた瞬間かなりアブナイ抹殺兵器になるのだ。

 

 わたしは攻撃の意志をもって、砂浜の砂に触れた。

 すると震動とともに砂が舞い上がり、ついに人型を象る。

 砂の巨人。

 その足が今、ゆっくりと海面に差しこまれた。


「行って、ぶん殴りなさい」


 物量とはすなわち力である。

 それを証明するかのように、莫大な量の砂で作られた巨人が腕を振るい、一番近い場所にいたアンデッドたちをぶん殴った。

 さらに捻った身体を戻し、勢いを利用して逆の腕をアッパー気味にぶち込む。

 もはや吹き飛ぶというより塵になって消えるという感じだ。


「もう一体」


 さらにわたしは、もう一体の砂の巨人を作り出した。

 二体目の巨人は砂浜を足場にして大跳躍をする。

 着地地点はあの幽霊島。

 海の向こうから着地による轟音が聞こえた。


「あれ、落としていいのよね」


 わたしは唖然としているキールに訊ねた。


「お、おう、ただあんまり派手にやりすぎるなよ? 破片で輝海が荒れそうだ……」

「じゃあ、ほどほどにするわね」


 早く退くがいい。

 退けば追わない。

 幽霊島から巨人が暴れる音がする。


「お、退くみたいっスよー!」

 

 上からクーンの声が聞こえた。

 空から幽霊島の動きを察知したらしい。


「わかった。じゃあ戻すわね」


 指を鳴らす。

 海岸線で暴れていた砂の巨人と、幽霊島の上で四肢を振り回していたもう一体の巨人が一瞬で砂に戻る。

 さらさらと流れ落ちる砂が、霧のようにあたりを舞った。


「ふう」


 ひとまずこれで安心だろう。


「おっかねえ技だ……」

「これでもマシになった方なのよ」


 わたしは徐々に遠くなっていく幽霊島を見ながら、キールの言葉に答えた。


「今はずいぶんわたしの言うことを聞くようになったからね。昔はわたしが触れたものが意図せず嫌なものを攻撃することがあった。子どもの駄々が簡単に大惨事につながっちゃうわけ」

「おおう……」


 わたしが魔王だったときの両親は、それをたぐいまれな才能だと言って喜んだが、当のわたしはそれどころではなかった。

 裁縫をしようと思って触れた針が、魔王城の天井裏からわたしのことを狙っていた暗殺者に突如として襲い掛かったこともある。

 花を育てていたとき、愛でるように触れた花弁が、切れ味のするどい刃のようになって地面に突き刺さったこともある。

 たしか、地中にわたしの嫌いな虫がいたのだ。


「わたしの害意に反応するのか、わたしに対する害意に反応するのか、いまいち仕組みがわからないんだけど――」


 これではまともに淑やかな趣味に耽ることもできない。

 どこに触れた花びらを刃に変える淑女がいるのか。

 綺麗な花には棘があるとかそういうレベルじゃない。


「おかげでわたしは歴代最強の魔王として名を馳せたわ」

「なにそれこわい」

「わたしは女の子らしく暮らしたいだけなのにっ!」


 いまさら言っても説得力はないだろう。

 かくいう自分も、魔王であることに慣れてしまっていた節がある。

 今回もなんだかんだ派手にやってしまった。

 でも、まだ諦めてはいないのよ。


「今度こそうまくやる……!」

「うまく殺る?」

「あ?」

「ひっ、冗談冗談」


 「どうあったってうまく殺るにしか聞こえねえ……」とキールが小さくつぶやいているが、あたりも騒がしくなってきたので今は放っておこう。


「……はあ。でも早速使っちゃったなあ……」


 思わずため息が漏れる。

 

「まあ、でもよ――」


 と、今度はキールが苦笑を浮かべてわたしの肩を叩いた。


「今回はメロディのおかげでうまく乗り越えられたぜ? だから、オレからは礼を言う」

「うんうん。わたしも助けてもらったもの。お互いさま」

「なら、改めて訊くが、オレたちのところに来るか?」


 不意にキールが片手を伸ばして言った。

 すると、サンク、クーン、ロボ子、そのほかの世界遊子の面々もキールの後ろにやってくる。

 彼らは楽しげな笑みを浮かべていた。


「そうね……。なんだかあなたたちといると楽しそう」


 わたしは、できることなら人並みの日常を享受したい。

 正直、わたしが人より衝動的に動きやすいことも理解している。

 それでも、できるのであれば、魔王時代の荒涼とした生活を払しょくできるくらい、この世界では人並みの趣味とかに没頭したいのだ。


「わたし、どっちつかずね」


 独り言が出る。

 結局のところ、わたしは欲張りなのだ。

 普通の女の子としての日常を享受したいという欲求と、こういう荒事のときには自分なりの意志を貫きたいと思う欲求が同居している。


「それでいいじゃねえか」


 キールがわたしを見て言った。


「どっちつかずで結構。オレたちだって似たようなもんだ。だから神士たちの勧誘から逃げたり、そのくせこういう島の危機にはでしゃばったりする。てっとり早く神士になっちまった方ができることは多いんだがな」


 でも、とキールは続けた。


「それはなんか、ちげえんだよ。オレたちはあくまでこの世界の住人として、生きていたいんだ。一つところに留まれるってことが、オレたち世界遊子(レルーザ)にとってどれだけありがてえことか、神士たちもわかってるはずなんだがなぁ」

「神士たちも人手が足りなくて困ってるんじゃない?」

「そうだな。そうかもしれない。ってなると、結局オレたちはわがままなガキだ。……次あいつらが来たら、少しは労ってやるかね」

「普通はそこで『しかたねえ、神界に行ってやるか』ってなるはずッスよ?」

「うるせえよクーン。まだそこまで覚悟は決めらんねえわ。てかお前が行け」


 横から口を挟んだクーンの額をキールが小突いた。


「ともあれ、そういうわけだ。オレたちはどいつもこいつもどっちつかず。だからメロディ、お前も心の整理がつくまではどっちつかずのままここで暮らしていけばいい」

「――うん」


 なら、今はその言葉に甘えよう。

 わたしはキールの差し出した手を取った。


「よし、んじゃまずは街の復興作業からだ。撃ち漏らした砲弾もアレだが、メロディの砂の巨人が跳んだときに地盤がぐずった箇所があるからな……」


 次からはもっとうまく調節します。


 そういうわけで、わたしの輝海世界での暮らしは賑々しくも始まりを告げた。

 同じ世界遊子の仲間たちとの生活の中で、これからどういう出来事が起こっていくのか。

 わたしにもまだ予想はつかない。

 けれど、きっとこの世界での生活は悪くないものになるだろう。

 そんな確信が、わたしの中にはあった。



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