イケメンの同級生が「男の娘」の私に恋しちゃうの?
ついに完結です。
純愛ですよ。
「私なんかが出るなんて、無理・・・」
さっぽろスノーガールズコレクションへの出演を打診する、実姉沙織の誘いに対して、消極的に答える日向だった。
「大丈夫!
出てもらうのはほんのちょっとだし!
ランウエイ歩くのは私と一緒だから、緊張しないはずっ。
前田姉妹のラストをちゃんとやろうよっ!
体型変わったっていうけど、太ってないじゃない!
バストとヒップが大きくなって、
女の子らしくなっただけ!
合う服はいくらでもあるよ。
逆に、胸が大きくなったし、
ほら・・・、あの部分も無くなったから、大胆な服も着れるじゃない!」
日向は「はっ!」とした。
モデル時代は胸が小さいことと、股間に女性にはないものがあったため、服の形によっては着ることができなかったのだ。
胸とヒップが大きくなって、そして、男性器がなくなった今は、着る服に制限がなくなったんだ・・・!
と気付かされた。
「ちょっと、・・・だけなら・・・いいかな
でも、出るの少しだけだからね・・・
うん、出る。」
日向は承諾した。モデルとしての総括というか、最後の思い出にしようと決心した。
性転換手術を行い、完全に女性になった体で、舞台に立つのもいいかなとも思った。
過去にランウエイを歩いたときは、バレたらどうしようというという気持ちが常にあった。
今回はそれがない。
自由な気分で歩くことができる。
それはモデルとしては最高の気分になれるってことだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、あっという間に、クリスマスの時期がやってくる。
「さっぽろスノーガールズコレクション」は札幌ドームで盛大に開催された。
超有名なモデルやタレントも参加し、大いに盛り上がった。
日向も、姉の沙織と予定通り参加し、観客の喝采を浴びる。
ファンは、前田姉妹、そして前田ひよりの最後のランウエイを暖かく迎えてくれた。
日向には
「きれいになったー!」
「かわいくなったよーっ!」
「まだ、引退しないでーっ!」
とファンの声が届いた。
思わず目頭を熱くする日向だった。
(ファンの人たち、こんなに声援してくれてる・・・
うれしいっ!)
引退する前に知り合いになったモデルたちからは、
すごく女っぽくなったね!と何人にも声をかけられた。
「彼氏できたんでしょ?」とか「大人の経験しちゃったの?」みたいなことを囁く人もいたが、
「全然男っ気ないんですよーっ。成長期だから、おっぱいが大きくなっただけですよお」
っとふざけた感じで答えた。
そして、宴も終わり、打ち上げも終了し、
日向と姉の沙織はホテルの一室(日向の部屋)で、二人だけで、ゆったり過ごしていた。
「お姉ちゃん、今日はありがとう!
もう、ランウエイなんて、歩くことはないと思っていたけど、おかげさまで、すっごい素敵な思い出ができた。
ファンの人たちの声援、忘れない!」
「ううん、私こそお礼を言うよ。
私のわがままに付き合ってくれて・・・
私としても、一つの区切りがつけられた気がするんだ・・・
私にとって、前田姉妹ってユニットは基本だったからね」
二人はお互いに、感謝のことばを交わし、そのあとは、いつもの女子トークに移った。
「そういえば、ひより、
彼氏はいないって言ってたけど、好きな人もいないの?」
「えっ、それは・・・」
ひより(以下、日向のことはひよりとします)の頭の中には、ここ1年ほどずっと気になっている男子の顔が思い浮かんだ
(山東・・・、どうしているかな?)
「気になっている人はいるのかなあ?」
「ま、まあね・・・。でも1年くらい会ってない人だから・・・
たぶん、私のこと忘れちゃっていると思う・・・
同級生の山東君ってかっこいい男の子なんだけどね」
ひよりは、イベントが終わった解放感で、つい、姉に自分の恋のことを話してしまった。
姉に話しても、わからないことだろうし、何も起こらないと思ったからだ。
でも、ひよりにはわからなかったが、沙織はニヤリと目だけ笑っていた。
そして、スマホで、素早くメールを打っていた。
その会話から5分ほど経過したときだった。
会話を続ける二人の部屋のドアがコンコンとノックされた。
「あれっ、誰だろう?モデルの誰かが遊びにきたのかな?」
不思議そうにひよりはつぶやく。
「私が開けるわね。」と
沙織がニヤニヤ笑いながら、部屋のドアを開いた。
ドアの入り口には、何と
山東直也が立っていた・・・
「えっ、山東?えっ、えっ、どうして???」
「私が呼んだのよ。
山東君、私が説明していいかな?」
「あ・・・、お願いします。」
「実は、山東君、ひよりが、転校したあと、何回かウチに来たの。
ひよりの連絡先を教えて欲しいって言ってね。
お母さんが困って、私が山東君に会うことになって・・・
お話をしたんだ。
もちろん、最初は断ったけどさ・・・
だって、ひよりが、学校の友達には一切連絡先を教えないでって言ってたでしょ?
でも、何回も来るし、
山東君、本気でひよりのこと好きみたいだし、
事情を聴くと、どうも、ひよりは自分が山東君にふさわしくないと思って身を引いたっぽいし・・・
それに、すごいイケメンだよ。もったいないじゃない?
ひよりの正体を知っているのに、好きになってくれるなんて
こんなに美味しい話ってないと思うようになったの。
それで、札幌まで来るなら、会わせてあげるって、言っちゃったんだ!
ひよりに黙っていて悪かったけど、どうしてもそうしたくなったの。
さっき、ひよりが山東君の名前を出したとき、私の考えは間違いないって思った。」
「おねえちゃん・・・私・・・」
いきなりのことで、言葉が出ないひよりだった。
驚きと、喜びと、不思議な感情が合わさって、何を言っていいのかわからなくなっていた。
「ひより、何も言わなくていいよ。
私は、これから、彼氏に会いに行ってくる。
私、彼氏を札幌に呼んでいるんだ・・・
あとは、二人で積もる話でもしてね・・・
じゃあ・・・」
そう言うと、沙織は部屋を出て行っってしまった。
残された二人は、なかなか、うまく話が始められなかった・・・
沈黙を破るように直也が切り出した。
「いきなりで、驚いただろう?
・・・ごめんな!」
「ううん。
でも、驚いた!
山東・・・、彼女作らなかったの?
もてるのに・・・」
「ああ・・・
どうしても、他の女の子と付き合う気がしなくて・・・
君のことが忘れられなかったんだ・・・
でも、盲目的に君のことを好きでいたわけじゃない・・・。
実は、君のことを想い続けていいのかってことでもすごく悩んだ。
とっても、失礼なことを言うけど・・・
ふつうの女の子と付き合うのが常識的な判断だろうという心の声も聴こえてきて
君のこと忘れようとしたときも結構あったんだ。
矛盾するけど、君のお姉さん・・沙織さんに連絡先を教えてもらおうと交渉していたときでも
そういう考えは絶えず頭に沸き起こってきて、
君の家に連絡先を教えて欲しいって言いながらも、こんなことはもう止めようと思った時もあった。
でも、・・・止められなかった。
そして1年が経った。
俺の出した結論は一つだ。
君が・・・、秋山ひよりが性転換した女子でも、俺は君が好きだ!
この想いは変えられないんだ。」
その瞬間、ひよりは、直也に抱きついた。
涙をボロボロに流しながら・・・
「山東って、
ばかだよ、大馬鹿だ!
ふつうの女の子を好きになればいいのに!
私なんかに関わるなんて・・・
私も、好きだった・・・
でも、山東と同じ。恋をする自信がなかったの。
うん、山東の大馬鹿発言を聴いて私も馬鹿になる。
私を山東の彼女にして!
大好きっ!!」
涙でぐしょぐしょになった顔で吐き出すように、絞り出すように訴えるひよりを
直也は抱きしめる。
「ちょっと、遠回りしたけど・・・
正解にたどり着いた気がする。
君を大事にするよ。」
直也は抱擁を解き、ひよりの瞳をじっと見ながら、囁く。
「うん、お願い♡」
甘えた声で、小さな声で答えるひより。
二人の唇は自然に重なる・・・
何度も激しいキスを交わす二人だったが、ふとひよりが外の景色に気づいた。
「あっ、雪が降り出した!」
「ホワイトクリスマスか・・・
最高のクリスマスにしてくれて、ありがとう!」
「お礼を言うのは、私の方だよ。
札幌まで来てくれてありがとう・・・
メリークリスマス!」
「うん、メリークリスマス!」
二人は、再び唇を重ねる。
最初のキスのように激しいキスではなく、
じっくりと味わうようなキスを続ける。
好きあっている同士でも、時間が経たないと解決できない葛藤はある。
それを乗り越えたことに大きな喜びを感じる二人だった。
完
ボーイズラブの要素があるけど、片方が完全に性転換して女性になっているから、やはり、ふつうの恋愛っぽい感じに仕上がったと思います。こういう話ってありそうでないので、自分で書きました。