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閑話~8years ago(1)~

禊が(はじ)めて守宮の屋敷に来た時のことは、剛は今でも鮮明に覚えている。


あれは、守宮家の先代当主、つまりは剛の祖父にあたる人の葬儀(そうぎ)も終わって間もない頃であった。


「剛。少しいいかい?」

「父さん?どうしたんですか?」


剛は突然父に呼び止められた。


「屋敷の皆には今晩にでも伝える予定だったんだが、お前には先に知らせておこうと思ってな」

「はあ・・・」

「そう言う訳だから、後で私の部屋に来なさい」

「分かりました」


要領(ようりょう)を得ない父らしからぬ言葉に(いぶか)しみながらも、剛は父の書斎を訪れる。


そこには、父だけでなく一人の少女が(たたず)んでいた。


幼いながらも腰にまで届くような黒い長髪を持つ美しい少女が藍色(あいいろ)の着物に身を包み、花のような笑みを浮かべて剛のことを見つめている。


「この娘が今日からお前の妹になる禊だ。兄としてしっかり面倒を見てあげてくれ」

「え?」

「ほら。禊も剛に挨拶して」

「はい。初めまして、禊といいます。不束者(ふつつかもの)ですが、どうかよろしくお願いします」

「え?ええええええええええ!?」


いきなりの父の言葉に、剛は驚きを隠せなかった。


それも当然である。


高校生活も半分を過ぎたこの時期に、急に妹ができたとあっては驚くなと言う方が無理な話であろう。


「ちょっと、父さん!?いきなり妹って!?一体どういうことなのさ!?」

「話せば長くなるのだが・・・」


父の話によると、事の切掛(きっか)けは、先日の祖父の葬儀(そうぎ)であると言う。


葬儀(そうぎ)を終え、遺品を整理した際に祖父の遺書が発見されたのだ。


そして、そこに書かれていたのは、誠実な人であると知られていた祖父がかつてたった一度だけ犯した(あやま)ち。


(めかけ)の女性に産ませた息子の存在が記されていたのだ。


遺言に従い、守宮家はその行方を探したが1年前に他界していたことが判明する。


しかし、彼には一人娘がいたのだ。


その娘こそが禊である。


そして、幸か不幸か、彼女には魔術師として非常に優れた素質があることが分かったのだ。


昔の人は『類は友を呼ぶ』と言った格言を残したそうだが、よく言ったものである。


異能は異能を呼び集める。


魔術師としての素質を持つ者は、いずれは何らかの形で魔術(こちら)の世界と関わりを持つことになる。


それがただ優れているだけならば問題はなかったのだが、彼女の素質はあらゆる魔術業界が(のど)から手が出るほど欲しがるような非常に稀有(けう)なものであった。


そんな彼女を世間がそっとしておくはずがない。


まだ自らの身を守る術すら知らぬ幼い時期に、何の後ろ盾もない禊の存在を良からぬことを目論(もくろ)む連中に知られれば、すぐにでも彼女の意志の(およ)ばぬ強大な悪意(ちから)によって、彼女の命運は理不尽に()じ曲げられてしまうことは想像に(かた)くないだろう。


「そうならない為にも、禊は我ら守宮家、それも本家の養子として迎えることになった。何も知らせずに事後承諾の形になってしまいすまなかったな」

「いや、そこはいいけどよ。事情が事情だからな」

「そうか・・・それじゃあ、後のことはよろしくな」

「へ?」

「『へ?』じゃない。私は多忙の身だから禊にばかり構っていられないのでな。彼女のことについてはお前に任せるよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!いきなりそんなこと言われても、俺に子守なんて・・・」

「じゃあ、任せたぞ!!お兄ちゃん!!」

「あ、おい待てよ!!」


剛の話を最後まで聞くこともなく、剛の父は書斎を出て行ってしまった。


「いっちゃった」


剛は父が出て行った扉を(なが)めていたが、その視線を禊に向ける。


「(ニコニコ)」


相も変わらず、禊は笑みを浮かべながら剛を見ていた。


「は~~~~~~」


これからの事を考え、剛は憂鬱(ゆううつ)な気分になりながら、頭を()く。


それが二人の初めての出会いであった。


これから始まる、二ヶ月にも満たない短い時間が、皮肉(ひにく)にも剛にとって、この屋敷で(もっと)も苦しく、(もっと)も幸せに満ち(あふ)れた瞬間でもあった。


補足:大半の魔術は現代社会では行使する機会に恵まれないことが多いため、戦闘職以外の魔術師にとって最も重要視される素質は、魔術を後世に伝える『魔導師』としての才能である。

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