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第四話~儀式1日目~

夕食を終えた一同は翌日からの儀式に備えるため、入浴の後に早めの就寝に入ることにした。


「・・・・・・・・」


剛は居間を見回して人数を確認する。


この別荘にいるのは零課から剛と小林、封杖院からは禊と弥生、付き人の3人、そして周防の計8人である。


今、この広間にいるのは、剛を除けば、広間から見えるキッチンで夕食の後片付けをしている周防だけであろう。


禊と弥生はそれぞれ部屋で休んでいるそうだ。


剛は最初、一人で人数分の夕食の後片付けをしている周防を手伝おうとしていたが、『これが私の仕事ですので』と断られてしまい、暇を持て余しながら風呂が空くのを待っている。


この別荘には10人は泊まれる個室があるが、浴室は一つしかなく、一度に4人までしか入ることが出来ないため、先に男性が入り、禊と弥生が最後に入ることとなった。


今は小林と禊の付き人であった3人が風呂に入っているのである。


「ふあ~。さっぱりした~」


小林が風呂から上がったようで、寝間着姿で風呂から出てきた。


よく見れば、その後ろから、一緒に入っていた付き人たちがぞろぞろと出てくる。


付き人たちは剛には興味もないのか、一瞥(いちべつ)もくれることなく、冷蔵庫から酒を取りだして、雑談を始めた。


ちゃっかりと周防に頼んで酒のつまみになる物も作らせることも忘れていない。


(・・・・・・やっと空いたか)


付き人たちと一緒に風呂に入るなど考えたくもなかった剛は、彼らが出たことで無人となった風呂場へと向かう。



「・・・・・・いったね」


弥生はその様子を遠くから(なが)めていた。


剛が脱衣所で服を脱ぎ終えて、浴室に入ったことを確認した弥生はすぐに準備して(、、、、)禊の部屋に向かう。


「禊。男たちはみんな風呂に入ったらしいからお風呂に入っておいで」

「あ、分かった。すぐに準備するね」

「私も部屋に戻って準備する。少し時間が掛かるから、待たずに先に行ってて」

「うん」


微塵(みじん)の疑いもなく、禊は弥生に(うなが)されて先に風呂場へと向かった。


「お膳立(ぜんだ)てはしたから、後は禊次第(しだい)よ・・・・」


今から真っ赤になって(あわ)てる禊の顔を思い浮かべ、笑いを(こら)えられない弥生であった。







風呂場に向かった禊は脱衣所で服を脱いで(かご)にいれ、弥生の思惑(おもわく)に気付くこともなく、引き戸の取手に手をかける。


ガラガラと音が鳴りながら引き戸が引かれ、禊は浴室の中に入った。


「うん?」

「・・・・・・・・・・・・へ?」


一瞬、禊の思考は完全に真っ白になってしまった。


浴室の中には椅子に座って体を洗っている剛がいたためである。


「あ・・・・えと・・・・あれ?・・・・・・どうして兄様が?」


禊は軽くパニック状態になりながら、今の状況を確認する。


そもそもどうして風呂場に兄がいるのか。


脱衣所にはスリッパも脱いだ服も着替えの服もなかったはずである。


そもそも禊と弥生の入浴は男性全員が風呂に入ってからだったので、弥生が男性は全員入ったと言っていたから、次は女性陣(自分たち)の番――――――。


(弥生ちゃんの仕業(しわざ)ね!?)


そこまで考え、禊はようやく弥生に()められたことに気が付いた。


実は、剛が浴室に入った瞬間、弥生が剛のスリッパと服を隠しておいたのである。


(何が仲直りだよ!!無理無理無理!!お兄ちゃんを意識しちゃってまともに見れないよ!!)


禊は敬愛する兄の前で全裸で立っていることに気付き、すぐに胸と股間(こかん)を手で隠す。


まあ、残念なことに隠せるだけの胸はないのだがそこは女の意地である。


しかし、そうすると自らの顔を手で(おお)うことが出来ないため、禊にははっきりと見えてしまった。


8年ぶりに見る兄の裸体。


最後に見た時は、兄が高校生であったころだが、その頃よりも引き()まった肉体に無数の傷跡(きずあと)


そして何よりも、兄の股間(こかん)の凶悪なまでにそそり立つ巨大な――――――。


「ふぁ・・・・・・」


そこまで見てしまった瞬間、禊は意識を手放した。



「おっと・・・・」


崩れ落ちる禊を受け止める剛。


「禊?」


禊の(ほほ)を何度かペチペチ叩いてみるが、全く起きる気配はない。


「気絶したのか・・・」


剛は気絶する直前の禊の目線から、禊が(ナニ)を見て気絶したのかを予想していた。


「若い()には刺激が強すぎたか?」


そう考えながらも剛はテキパキと禊に服を着せていく。


(さいわ)いなことに、禊が叫びをあげる暇もなく気絶したため、剛に変態のレッテルが張られることはなかったが、もう一人の少女(弥生)まで誤って風呂に入ってこられたら目も当てられない状況になるため、手を休めずに動かし続ける。


10歳も年が離れている妹に欲情する(はず)もなく、特に何もなく着替え終えさせた剛は急いで自分の寝間着に着替え(着替えはよく探せば脱衣所の(すみ)に隠されていた)、禊の肩と(ひざ)の裏を抱える、いわゆるお姫様抱っこで禊の部屋まで連れて行った。


(これは本格的に嫌われたかな?)


今回のことに剛の非は全くないのだが、こういう状況では()てして男性が悪いと言うのが世の常である。


見苦しいものを見せてしまい、本格的に兄妹の関係が壊れてしまったと感じた剛は、仲直りするにはあまりにも幸先(さいさき)の悪い出来事にため息が出た。


(しかし、『兄様』か・・・・)


剛は気絶する直前の禊の言葉を思い出す。


(まだ兄だと思ってくれているのだな・・・・)


まだ妹が自分を兄だと思ってくれていることに、剛は少し嬉しさが込み上げてきた。






「・・・・うん?ここは?」

「気が付いた?」


禊が目を覚ますと、その顔を(のぞ)き込むように弥生が見ていた。


「・・・・・っ!!あーーー!!弥生ちゃん!!」

「うるさい・・・」


間近で大声を出された弥生はうるさそうに両耳を押えながら(つぶや)く。


「うるさい、じゃない!!さっきのは何なのさ!!」

「どう?仲直りできた?」

「できるわけないでしょう!?恥ずかしくってそれどころじゃないよ!!」

「ええ~?せっかく二人きりで話せるように場を整えてあげたのに。お兄さんへの気持ちを全部さらけ出しちゃえばよかったんだよ」

「物理的にさらけ出してどうするの!?」

「まあ、禊にはさらけ出せるような胸もないか」

「よ・け・い・な・お・せ・わ・だ!!」


余りの興奮に冷静さを完全に欠いている今の禊には弥生に(いじ)られて遊ばれているだけだとは気が付かない。


しかし、弥生の策も、倫理的にぶっ飛んでいることを(のぞ)けば、意外と的外(まとはず)れでもないのである。


実際、男どもは剛を除けばすでに全員風呂に入り終えていたため、弥生が風呂に入るまではあの風呂場には誰も近づくことはなかったのだ。


弥生も話が済むまでは鍵を閉めて二人を閉じ込め、その後は誰も来ないように見張るつもりであった(まさか話すらする間もなく禊が気絶するとは思わなかったので弥生が風呂場を訪れた時にはもう誰もいなかった)し、第一印象から堅物そうなあの刑事さんが風呂場で妹である禊に手を出すとは考えにくかったからである。


まあ、実際のところ、剛は妹の全裸を目撃したが、理性で抑えたというよりは全くの無反応であったのだが――――。


「ぜえ・・・ぜえ・・・・・ぜえ・・・・・・・」


あまりに興奮しすぎて疲れたのか、禊は呼吸を落ち着けるために深呼吸する。


「・・・・・・・・・・・・・・」


そして、思い出すは剛の猛々(たけだけ)しい肉体。


そして、股間(こかん)にそびえ立つ男性の象徴。


「~~~~~~~~~~っ!!」


それを思い出した禊は悶絶(もんぜつ)しながら、ベッドの枕に顔を(うず)める。


そして、禊の頭の中に唐突な妄想が浮かび上がる。



自分と兄が結ばれた未来で迎える初めて夜。


ベッドに押し倒され、乱暴に服を()かれる自分。


縄や手錠で拘束され、身動きを封じられる。


それでも抵抗しようとする自分を兄は力づくでベッドに押さえつけ、それ(、、)を自分の中に――――。



(無理無理無理無理・・・・絶対無理だって!!あんなモノがボクの中に入ったら壊れちゃうよ!!)


ナニがドコに入ると言うのかはあえて聞くまい。


その破廉恥(ハレンチ)な内容以上に突っ込みどころのある妄想であったがあえて言うまい。


「どうしたの?お兄さんの裸に興奮した?」

「ちぎゃ!!そんにゃこと!!」


()みながら答えられても、かえって弥生の質問を肯定するだけである。


「そうね。禊もそんな年だもんね」

「な・・・ちが・・・」

「でも、お兄さん、あんなに背が高いんだから、禊ももう少し大きくならないとね~。じゃないと、あなた、壊れちゃうわよ?」


剛は180cmを超える高身長なのに対し、もうすぐ高校生にもなる禊の身長は140cmちょっとの幼児体型であった。


「う~~~~~~~~!!もう知らない!!」


気にしているところを弥生に指摘され、禊はすっかりふてくされてしまった。


「ごめんごめん。からかい過ぎたわ」

「・・・・・・・・・ねえ、弥生ちゃん」

「何?」

「ずっと気になってたんだけど。ボクを着替えさせたのって弥生ちゃん?」

「ううん?私がこの部屋に来た時はすでに寝間着(そんな恰好)だったよ」

「えっ?・・・それって・・・・・」


さっきまで真っ赤だった顔が今度は真っ青になる。


その反応を見て、あることに思い至った弥生は意地悪な笑みを浮かべる。


「ああ、その年もになってお兄ちゃんに着替えさせて(もら)ったのね」

「キャーーーーーーーーーーーーー!!」


(すで)羞恥(しゅうち)の限界に達していた禊は別荘中に響き渡るほどの叫び声をあげたが、咄嗟(とっさ)に弥生が展開した防音結界によりそれが部屋の外に()れることはなかった。






禊が羞恥(しゅうち)の悲鳴をあげていたその頃。


剛は部屋で自分の装備の手入れをしていた。


警棒のスイッチを入れて先端に取り付けられているスタンガンの調子を確かめる。


さらに警棒の柄の端を握って引き抜くと、中から刃物が出てきた。


しかし、その刀身には切先(きっさき)もなければ、刃も付いていない。


ただ叩き砕くことだけに特化した刀身『鉄砕(てっさい)』である。


剛は柄のボタンを押して、刀身を抜き取る。


続いて、アタッシュケースから整備室で受け取った『鬼切』を取り出して柄に取り付けた。


鬼切を数回振って刀身がグラつかないことを確認した後、再び警棒の中に戻すと、もう一つの装備を確かめる。


装備の名称は『飛穿(とびうがち)』。


その見た目は、一般的な物と比べたら銃身が少し長いことを除けば、何の変哲のない自動式(オートマ)のハンドガンである。


しかし、剛がその銃のグリップを右手で掴み、強く振ると、銃身が1mほど伸びた(、、、)


よく見ると、銃口の上下に二本の伸縮棒(しんしゅくぼう)があり、それぞれを結ぶように、先端にはゴムが取り付けられている。


『飛穿』は拳銃型のスリングショット、要はパチンコである。


だが、ただのパチンコと(あなど)ってはいけない。


パチンコは狩猟用(しゅりょうよう)の本格的なものなら小動物の(りょう)にも使用されることも多い立派な殺傷兵器なのである。


剛はゴムを引いて飛穿を撃てるようにセットした。


次に、右手をグリップから銃身に持ち替え、銃口を上に向けると、銃身の左側面から飛穿の()――飛穿の銃身は発射機構が右端に寄っており、残りの部分は弾を収めるケースになっている――を取り出す。


弾の形状は、先ほどの鉄砕とまったく同じものであった。


それもそのはずで、元々鉄砕は消耗することが前提の量産品であったため、戦闘中に折れることが多く――と言うより、必要以上のダメージを相手に与えないように、敢えて一定以上の負荷で自壊する構造になっている――常にいくつかの予備を(ふところ)に持っていたのだが、時にはそれを投擲(とうてき)する必要に迫られたため、特注で飛穿を作ってもらったのである。


剛は飛穿のグリップの上部(銃で例えるなら撃鉄(ハンマー)がある部分)に開けられた穴に鉄砕を挿入し、引き抜くと、鉄砕には長方形の部品が取り付けられていた。


この部品は対象物に命中して電流を流す電撃弾(スタンブレッド)である。


飛穿は弾である鉄砕に部品を取り付けることでいくつかの特殊弾を放つことができるのだ。


さらに流れるような動作でゴムをセットした飛穿に鉄砕を取り付け、構える。


「・・・・・・・約3秒か」


調子を確かめた剛はゴムのセットを外した。


さらに、飛穿のグリップから電撃弾(スタンブレッド)用の弾倉(マガジン)を抜き取り、アタッシュケースから整備室で受け取った『自壊乱トランジスタ・バースト』の弾倉(マガジン)を取り出して、飛穿のグリップに挿入する。


明日以降の警備に向けて、装備の限定解除を一通り終えた剛は、就寝時間までの残りの時間を細かいパーツの整備に(つい)やすのであった。






翌日。


朝食を済ませた一同は禊の指示の下に儀式を開始する。


「あの周防さん」

「刑事さん。いかがなさいましたか?」

「父上・・・いや封杖院の組長(ギルドマスター)が姿を(あらわ)さないのはどうしてですか?」

「旦那さまは今回の儀式には参加なされません」

「何ですって?」


周防の言葉剛は驚きを隠せずに、聞き返してしまった。


それも当然であろう。


『御霊移し』は守宮家にとっては何よりも優先させるべき重大な儀式であり、それを責任者である当主不在で行われるのは前代未聞であるからである。


「なんでも、大切な用事だとかで、現在はイギリスの方へ行っておいでです。しかし、心配は無用です。()わりに禊お嬢様のサポートは前回の儀式において旦那様の()り行いを全て目に焼き付けておりますこの(わたくし)が引き受けさせていただきます」

「そうですか」


一族の威信がかかった儀式よりも優先させなければならない用事に疑問を抱くものの、これ以上考えても(せん)無い物であると判断し、剛はすぐにそれについては意識の(すみ)に移した。






儀式の一日目は、主に封印場所の選定に(つい)やされる。


封杖院が買い取った範囲の土地の地脈の流れを調べていくつかの候補を選び、実際に(おもむ)いて最適な封印地を決定するのだ。


まあ、土地を買い取る際に大きな地脈が流れる土地を選んでいるはずなので、ここまできて最適な場所が見つからないといったことはまずなく、一日、早ければ半日で封印地は決定する(はず)である。


禊が陣の上に巨大な地図を用意し、その上に和紙を重ね合わせて魔術的工程で作られた薬品である『霊薬(れいやく)』を()らす。


そして言霊を詠唱すると、和紙が一瞬で燃え上がり、地図の範囲の地脈の流れが焼き付いた。


それから、禊は屋敷から持ってきた資料や過去の封印場所の記録や地図から最適な場所を選択する。


午前中をかけていくつかの候補を決めた禊は、昼食の後、車に乗り込み、現地を順に回っていく。


夕方ごろになり全ての候補をめぐった結果、いくつかは立地的な理由や魔術的な理由により適格ではないと判断されたために(ぼつ)となったが、条件に合う好条件の場所をいくつか見つけることができた。


その後、禊は周防たちと協議した結果、別荘から車で30分ほどの場所を封印の地に決定したようである。


ちなみに、禊は昨夜のことを思い出したのか、今日一日中、剛とまともに目すら合わせることができなかったようである。


補足:零課で支給されている装備一式は一般的な刑事の者と同じであり、それ以外の装備は基本的に自費で用意している。

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