終幕:五;不幸な幸せ
久しぶりの更新です。
作者の都合で後書きのキャラクターたちの会話劇は不定期にやらせていただくことになります。
それを楽しみにしている方がいれば誤ります。
「さーて…アイアンはいまごろ『原石』と戦ってるころかな」
昨夜、リアと激しい戦闘をした少年は噴水広場にいた。
誰かを待っているわけでもなくただ噴水の縁に座っている。
ちょうどその頃、リアはアイアンと激しい戦闘をしている。が、少年にはそんなことはわからずあくまで机上の空論だ。
「もうそろそろ終わったかな? うん。終わってる」
瞑目し、確かめるように首を縦に振る。少年は酒場『自由人』に足を運んだ。
「ねぇママぁ…さっきまでそこにいたピエロさんは?」
「そんなもの『初めからいなかったわ』」
名も知らぬ親子の子供はたしかに少年の座っていた場所を見て言った。
* * *
「終わった。」
やけに棒読みな口調でアイアンは酒場へと戻ってきた。
「おかえり。で、どうだった? 強かったの?」
レンナは問う。しかし、アイアンはそれに答えずリアをソファに投げた。
ソファに落ち一度だけ体をバウンドさせるリア。だが、一向に起きる気配がない。
「その気になれば殺れたわけね」
レンナは笑みを含んだ声を出した。だが、アイアンは「いや…」
と否定した。さらに続ける。
「俺は手加減はしてねぇ。だけどな、こいつは手加減してたと思うんだよな…」
アイアンの言葉にレンナは驚いたがアイアンは続ける。
「こいつは俺の剣をギリギリで避けやがる。そんだけ動体視力がよく、尚且つ俺の剣を避けれるスピードがありながらも…こいつは俺に攻撃を加えちゃいねぇんだ」
アイアンが怒りをあらわにする。
「ならば…」
店の奥から声が聞こえた。その声は老人特有のしゃがれた声だがなぜか勇ましく聞こえる。
「その者…リアと言うたか。その者は不幸じゃな。いや、幸せともいえるの」
「ワイ爺…なんで?」
レンナはワイ爺と呼ばれた老人に話を振った。すると、老人は続けた。
「それほどの反応・直感・行動力をもちながらそれを扱うことに躊躇いが有るのじゃろ。幸福な身体力じゃが、優しすぎてしまう不幸な性格…と言うことじゃよ」
「するってぇと…こいつは…」
「間違いなく原石だよ」
リア以外の三人は入り口を向いた。そこには少年が立っていた。
「たっだいまー♪」
「リズ! あんた、あたいのこと信用してなかったのかい?」
レンナは少年―――リズに対して怒りをあらわにする。
リズは愛くるしい笑顔で口を開いた。
「なっはっはっは♪ 信用はしてるけど、やっぱり自分で確かめないと〜…的な?」
「的なってなんだよ…」
ガクッと項垂れてアイアンが突っ込む。
「結果的にリアはどうするんだい?」
「え、どこにいるの?」
ソファに視線を向けるレンナ。そこにはスヤスヤと寝息をたてているリアがいた。
「俺と戦って体力が尽きたんだとよ」
「へぇ〜…」
珍しいものを見るかのようにリズはリアを観察している。
リズはリアの額に掌を添えた。
「何をするつもりじゃ?」
「ま、黙ってみててよ」
全員が息を呑む。店に入る微風の音すら聞こえるほどに辺りは静まっていた。
白く、細く、それでいて頼れるようなリズの手はリアの額に添えられたまま動かない。
「我、全を統べ、一を統べ、命を統べるもの。汝、我が声聞きし時、万物の理を超え、我と通じよ」
詠唱。だが、それは詠唱だがひとつの歌のようでもあった。
リズの掌を中心に何かの波紋が広がる。波紋は広がり数メートル広がった後にリズの掌に戻り、弾ぜた。
「今の詠唱は…なんじゃ?」
「意味はないけどねー。何か魔法使いみたいじゃん?」
「相変わらずだねぇ…」
「ま、直るもんでもねぇがな」
えへへ、とリズが笑う。すると、その数秒後リアが目を覚ました。
「お、起きたみたいだよ」
「気分はどうだい」
「大丈夫です。体にもそんなに残るほどの怪我は負っていませんから」
両腕を振り上げたり肩を回したりと体の調子を確かめるリア。顔や体には数個の切創があるものの動かす分には問題はなさそうだ。
「あのよ…」
アイアンから彼とは思えないほどの弱い声がリアに発せられた。
「さっきは、悪かったな。強そうな奴を見ると戦いたくなっちまうんだ」
リアは微苦笑して答えた。
「僕は…強くは見えないと思いますよ」
その言葉にアイアンの背後に立っていたリズはかぶりを振って答えた。
「いや、間違いなくリアは強いよ。君は力の原石だ。磨き様によってはとんでもない宝石になるよ。オレが保障する」
リズの言葉を咀嚼するのには数秒の時間を要した。
「つまり、リアはこのギルドに入んないかってことだよ。どう?」
レンナからの勧誘。しばらく悩みリアは答えをだした。
「いいですよ。入ります」
「じゃあ、改めて悪かったな。それと、これからよろしくな。アイアン・ラッサムだ」
アイアンは右手を差し出し、リアもそれに答え硬く握手を交わした。
「あたいとは初対面じゃないから必要ないだろうけど…あたいはレンナ・ノルイだよ。いつもは右腕に包帯を巻いてるんだけど今日はしてない。よろしくね」
次はレンナとの握手。しかし、今のことを気遣ってなのかリアは左手を差し出し、左手で握手をした。
「わしとは初対面じゃな。ワイズ・コローファじゃ」
年相応の皺だらけの手を差し伸べるワイズ。笑顔でそれに答えるリア。
「最後はオレだね。オレはギルド『サーカス館』のギルド長リズ、リズ・アルカナフィン。ギルド長だからって畏まんなくてもいいよ。よろしくね♪」
年は12、3あたりだろうか。そんな子供がギルドの長を務めているのが意外だったがリアは笑みを浮かべリズと握手を交わす。
「えと…リア・ロントです。迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします」
いかにも初対面の人に使う敬語だった。だが、そんな敬語すらリアが使うと違和感がない。
新たな仲間をリズ、レンナ、ワイズ、アイアンは温かく迎え入れた。
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