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二:黙考の銀、行動の金

月の頭に更新予定でしたが遅れに遅れてしまったのを深くお詫びします。

 金髪の少女と会ってから一言も口を開かないリアを見ていたリズは少しだけ心配そうに口を開いた。

「リア? どうかした。さっきから変だよ」

 リズの心配をよそにリアは俯いたまま何かを黙考していた。歩くたびに買い物袋の中のものが外に飛び出しかけるが、上手くバランスをとり再び買い物袋の中で泳がせていた。初めてそれを見たとき、リズは落ちてくる食材を拾おうとしていたが今は慣れたのか行動に出ることはなかった。

 黙考していたリアは立ち止まり、さらに深い思考の海を航海し始めた。突風が吹こうと、雨が降ろうと恐らくリアは思考の海から帰港することはないだろう。それは『サーカス館』のメンバーなら誰しも理解していることだ。

 以前の教会での一件。その後のリアの様は筆舌に尽くしがたいものがあった。しかし、それは自分が助けられなかった女、リーナの為ではなく、リーナを侵食した『ダルク』の本質についてを考察していただけであった。『ダルク』についての不眠不休の考察は約七日。実物を見てその恐ろしさを体験してさえ七日間という時間がかかっていた。

 だが、今回は違う。『どこかで会った』という自分の曖昧な記憶の再認作業は時間が経つほどに薄れていくもの。それを長時間かけて思い出すのは困難以前に無謀な挑戦である。リア自身、それは分かりきっている事なのだろうが自分の性分とは厄介なものだと再認識させられたいた。

 リアの性分は『理解できないことはその場で理解する』ということであって、現在理解できないものとは『金髪の少女との接点、または記憶』。そのために、リアは思考、否。記憶の海の航海をしている。

「リア。リ〜ア〜! ……もう。しょうがない」

 待ちくたびれたリズは腰に手を当て深くため息をつく。ため息を吐き終わるとリズは自分の鳩尾あたりに右手を添える。すると、彼の銀糸のような髪がふわりと浮き、風によって踊り始めた。すると、一瞬にしてリズの周囲だけが突風に覆われる。

「あんまり痛くはしないからね。ふっ……!」

 リズは右腕を先ほど急に起こった突風と共に右に薙いだ。一息おいて、刃と形を変えた風はリアの右頬をかすめ、彼の右頬に横一文字に赤い線を書き入れる。

「っ!!」

 刹那的な痛みを右頬に感じリアの記憶の航海は唐突に終わりを迎えた。

「早く帰ろ!!」

 紙袋を左に移動させ前を見ると、そこには両頬を膨らませプリプリと怒っているリズの姿があった。まだ、風の残滓がリズの周りにいるのだろうか銀糸の髪を揺らめかせている。

「そう…でしたね。すみませんでした」

 リズに己の非礼を詫び、再び歩み始めた。彼の頬から一滴の血液が流れる。

 それを見たリズは自分のポケットから一枚のハンカチを取り出しリアの頬から流れた血液をふき取った。

「ありがとうございます。リズ」

 微笑を浮かべ礼を言うリア。それに感化されたのかリズも笑顔を返した。しかし、そのすぐ後に俯いて口を開いた。

「ヘヘ……俺がつけちゃったからね…」

 頭を掻き恥ずかしそうにリズはそう言った。リズは気にしているようだが、リアは気にしてはいない。という意味合いを込めてリズの頭をなでた。撫でられたリズははにかみながら歩いていた。髪を撫でればさらりとした感触があり、はにかむ姿が本当にリズが子供だということが理解できる。だが、いつもはこのように無邪気な子供だが実のところリアですらリズの事は知らない。否、それ以前にリアはその他の仲間のことも何一つ知らないのだ。

 だが、そんな懸念は今は必要ではないらしい。別な懸念事項がたった今起こったからだ。

「どうしたの? ………リア?」

「前から来る人…少し様子が、おかしくないですか?」

「え?」

 二人の目の前には、目の焦点が合わず呼吸すらしていないようにも見える男がフラフラと覚束無い足取りで歩いてきている。誰が見てもおかしいと感じるだろうが、決定的なのは『右手』だった。右手が無かった。しかも男の右手があった部分は黒い霧のようなものが漂っていた。

「『ブラット』……」

 怒りを孕んだ声がリズの喉の奥から聞こえた。

 男は覚束無い足でリアたちに近づく。

「どうするんですかリズ?」

 リアたちは何も知らない一般人を振る舞い歩いていた。

 男は近づく。

「俺たちが標的なら戦うけど……」

「違うならそのまますれ違うだけですね」

 リズは頷く。そして二人はそのまま足を前に動かし続けた。

 男は尚もリアたちに近づく。だが、襲ってくる様子は見受けられない。

 そして、リアたちと『ブラット』は戦うことなくその場をすれ違った。

 しかし、そのときリアの体が『ブラット』に掠っていたことは本人以外、気づくことはなかった。


 * * *

 この街に似つかわしくない二人は悠々とワノールを闊歩していた。一歩歩くごとに銀灰色のツインテールが揺れ動く。また、一方では一歩歩くごとに黒衣の外套が風に揺られて中空を舞い踊る。

「そういえば……」

 声を出したのはアラシだ。何かを閃いたのか、それとも思い出したのか、彼女はシャルトリューの方を向き言葉をつなげた。

「アーバスって何者ですの?」

「いきなり何を言ってるの?」

 困惑の表情でシャルトリューはアラシに向き直る。だが、アラシが問いかけるのも無理はなかった。

 事実、彼女たちは只、『アーバスという女がワノールという街で情報屋をしている。会いに行けばお前たちの力にはなるぜ』。と言われこの地に足を運んだのだ。(もっと)も、その情報を与えた『男』はかなり胡散臭いものだったのだがそこは敢えて突っ込まずにその情報をもらったのだ。

 数秒前にアラシの言った台詞を脳内で反芻してからシャルトリューはあるひとつの結論に至り、わざわざ口に出す必要もないことを言ってしまった。

「……そういえば、何者なんだろ?」

 苦笑を浮かべ、頬を掻くシャルトリューを見ていたアラシは腰に手を当て深くため息をついた。その姿はとても様になっていた。子供が言い訳をするかのようにシャルトリューは両手を目の前でパタパタと左右に振りながら口を開いた。

「で、でもさほら! 『女』ってことはわかってるわよ? それに……此処(ワノール)にいるってこ、と…も………わかっ、てる…」

 言いながら徐々に(しぼ)んでいくシャルトリューはどこか小動物を思わせた。ついには涙目になりながらアラシを上目遣いで見る始末。それを見かねたアラシは、またため息をつきシャルトリューに言った。

「すみませんでした。私が悪かったですわ。もう少し深く聞かなかった私にも責任はあります」

 そう言ってアラシはシャルトリューの頭を撫でる。それは、まるで我が子をあやすかのように。

「うぅ〜……ありがとー! アラシは優しいわー!! 前いた組織とは大違い!」

 叫びながらシャルトリューはアラシに激突、ではなく強く、きつく抱きしめた。

「いたたたた……!! 痛いです! 少し離れてくださいませ…」

 さば折りに近い拘束を耐え、アラシは声を出していた。シャルトリューは声に気づかずに顔をアラシの年相応に膨らみがある胸の谷間に(うず)めた。埋めた顔から声が発せられる。

「やわらか〜い。いいなーこの胸」

 顔に埋めたままの状態から離れる気がないシャルトリューをよそに、深くため息を吐くアラシ。公衆の面前でセクハラ発言しているシャルトリューに怒りは覚えないが周りからの視線が痛いことこのうえなく、さらに男たちにとっては記憶媒体(メモリースフィア)と呼ばれる半球体の物体に映像を記憶させていた。それを見つけたアラシはそっとシャルトリューを抱きしめ、耳元で囁いた。

「あなたから見て右前方、約30メートルほどにいる男達。それと左後方約10メートルほどにいる男。記憶媒体を持ってますわ……」

「わかってる…。アラシはあたしの後ろのお願い。前はあたしがやる」

 会話を終わらせた二人は右手甲を合わせ、その場から姿を消した。二人は風になり、アラシは一度の跳躍でシャルトリューの後方にいた男に近づく。シャルトリューはアラシが移動したのを確認した後、彼女を越える速度で彼女の標的より遠い場所にいる男達の背後に、彼女より早く移動していた。

「その媒体(スフィア)、置いてきなさい。置いていかなかったら首を置いていくことになるわ」

 右手の刀を1人の男の首筋に突きつけ脅迫するシャルトリューの双眸には殺気や怒気はなかった。

「あなたもですわ。即刻、媒体をおいて去りなさい」

 眼前に立ちはだかる男にアラシも言葉を吐く。だが、彼女はシャルトリューとは違い、双眸に殺気を付与し睥睨する。

 アラシが脅迫した男は、彼女の気迫に押されたのか、記憶媒体を捨てその場から早々に姿をくらませた。

 だが、シャルトリューが脅迫した男達は違った。記憶媒体が宙に舞った。それを合図に男達は、自分たちの背後に立っていたシャルトリューに攻撃を仕掛けた。彼女から見て右の男は体を屈め地面と水平に蹴りを放つ。それを予測していたのか、もしくは一瞬で蹴りに反応したのか、シャルトリューはバックステップを踏むと同時に左側の男の首筋に突きつけていた刀を首に押し付けながら引いた。彼女の予想では、それでまず男のうちの1人は首を自分に斬られ死んだ。と思っていただろう。現実はそんなに甘いものではなかった。左の男は、首に突きつけられていた刀とは逆方向に旋回。左足を振り上げシャルトリューの左脇腹を踵で攻撃。後方に跳び、尚且つ自身の予想に反した反撃が彼女の反応を鈍らせた。防御が間に合わず男の攻撃は直撃した。外套がはためきシャルトリューの体勢が崩される。その隙を狙い、水平蹴りをした男が1歩前に出て右拳を下から突き上げる。回避は出来ず、防御するしかないシャルトリューは右手に持っていた刀の所為で左手1本で男の手を包むように防御した。無論、大の男の拳が年端も行かない少女の片腕一本で防ぎきれるはずもなくシャルトリューは上空に打ち上げられた。

「ぐ………!」

 くぐもった声を上げ必死に男の手を掴んでいるシャルトリュー。

 勝敗は目に見えていた。

レンナ「えぇ〜っと…評価、感想、指摘があれば蒼炎鬼までドシドシ送ってください」


アイアン「何やってんだレンナ?」


レ「今回は出番なかったからねぇ……」


ア「なら爺さんはどうすんだよ? 今回に限らず殆ど出番ねぇぞ?」


レ「あ……」

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