第四幕:一;懐かしき双煌
「ねぇねぇ。今暇?」
見るからに遊んでそうな二人組みの男が少女に話しかけた。
それが地毛なのか、金髪のボブカットの少女は近づいてきた手を払いのける。少女の右目には眼帯がつけられていた。
「残念だけど暇じゃないわ。あたしたちは今から行かなくちゃいけないところがあるの。行きましょアラシ」
少女はそう言うと、アラシと呼んだ少女の手をとり足早にその場を去ろうとした。しかし、男たちがそれを許さなかった。少女の腕を強引に引き壁に叩きつけた。隠密行動でもしているつもりなのか、少女は黒の外套を羽織っているのだが髪の色、そして今は真昼ということもあり目立つことこの上ない。
「あら……強引な男はどの国でももてないと決まっておりますのよ」
高貴な喋り方をしてアラシと呼ばれていた灰色の髪をツインテールにした少女は男たちに詰め寄る。少女の腰には小剣が差してある。よく見ると壁に叩きつけられた少女の腰にも剣が2本差してある。しかし、こちらの剣はアラシの剣と形状が違う。鍔が丸く、片刃の剣。ジパング製の剣、『刀』だろう。
「あぁ〜…俺気ぃ強ぇ女ダメなんだよね。お前にやる」
壁に叩きつけた男は虫でも払うかのような仕草をした後、壁に叩きつけた少女のほうに振り返る。
「マジかよ! 最高だぜ、こんな女初めてだからよぉ……ふ〜ん」
もう一人の男はアラシに近づき細い体を嘗め回すように観察していた。それがアラシは気に食わなかったのか。右足を振り上げ、スカートがまくれ上がり自身の下着が露出するのもかまわずに男の顎を蹴り上げた。
「ィゲッ!!」
聞くに堪えない悲鳴の後、アラシに近づいた男は仰向けに倒れ、目を回していた。それを見てアラシは満足したのかしていないのか、腕組みをし倒れた男を睥睨し小さく鼻を鳴らした。
それを見ていたもう一人の男は壁の少女を口説くのをやめ、噛み付きそうな勢いでアラシに近づいた。
「てめぇクソアマ! 何してくれっ!?」
「良かったわね。それ以上前に進んでたら首と体がバイバイしてたわよ」
壁の少女は一瞬にして抜刀し男の首筋に突きつけていた。外套がふわりと浮きまだ風を纏っている。少女の瑠璃のような左目が男を射抜く。だが、男は屈しなかった。左手で刀の刃を持ち少女を睥睨する。
「バカかてめぇは!! ジパング製の剣は引かねぇと斬れねんだよ!」
それを聞いた少女は驚くこともなく口を開いた。
「だから?」
「俺が持ってる限り斬れねんだよバァカ」
それを見ていたアラシは深くため息をつき虫でも見るかのような目つきで男を見やる。
「愚かですわね。あなたの目はガラス玉か何かでできているのかしら? シャル、やっておしまい」
「命令はしないでよね。ま、いいけどさ」
刹那、刃を持っていた男の『右手』がゴトリと落ちた。シャルと呼ばれた少女の右手の刀は男に掴まれたままだが、左手には新たに抜刀した刀が男の右手を斬りおとしていた。そう、元々少女は刀を1本抜刀しただけであって不利ではない。むしろ、動きが封じられた男のほうが不利な立場にあったのだ。
「痛みはあまり感じないようにしてあげたわ。しかも綺麗に斬ったからすぐにでも医者に見せればくっ付くわ。じゃあね」
男が悲鳴を上げて去っていった方向と逆の方向へ二人は歩いていった。
* * *
「買い物〜。か〜いもの〜♪ きょ〜はお肉〜楽しみだ〜♪ 明日はリアが〜作るんだ〜♪」
自作の歌を歌いながら銀髪の少年はワノールの街を闊歩していた。右手にはアヒルの財布の紐を握っている。
「リズ。財布は首に掛けていてください。落としたりしたら大変ですよ」
少年の隣には少年より背が高いが少年と同じ銀髪で眼鏡を掛けた少年が立っていた。買い物帰りの為、両手で買い物袋を抱えて歩いていた。
「大丈夫だいじょ〜ぶ。リアは心配性だなー」
リズと呼ばれた少年は子供らしく無邪気に笑いながら地面のタイルの白い部分だけを跳んで遊んでいる。一方、リアと呼ばれた少年は苦笑しながらも微笑ましい光景を眺めていた。
リアが空を仰ぐとそこには雲一つない蒼天が広がっていた。風が吹けばリアとリズの銀糸のように細い髪が舞う。平和な光景だった。
「先日は死神と戦って…散々な一日だったね。でも、今日は何も起きな、てっ…!」
急にリズが尻餅をつく。理由は明白、すれ違う通行人にぶつかってしまったのだ。すれ違う予定だった通行人は振り返り、リズが持っていたアヒルの財布を拾ってリズに手渡した。ぶつかったときにリズが落としたのだろう。
「はい、どうぞ。でも今度からは気をつけて歩いてね」
財布を渡してきたのは少女だった。しかし、明らかに一般人ではないだろう。黒の外套を羽織り、隠密とは対照的なほどに明るい金髪のボブカット。右目を隠す眼帯。そして、極めつけは上手く隠している二振りの刀。観察力の高いリアは難なく見つけられたがおそらく一般人は外套の中に隠された刀を発見することはできないだろう。
財布を受け取ったリズは申し訳なさそうに頭を下げてリアのほうに詰め寄る。それに合わせるように少女もリアに近づいた。
「この子、キミの弟? 可愛いね」
「残念ですけど…僕とリズは兄弟ではありませんよ」
「そんなことはいいから早く行きますわよシャル。私たちには時間がありませんの。以後、気をつけなさいな。では、ごめんあそばせ」
話し方や服装からして上流階級の娘なのだろうか、ドレスのような服だが動きやすいように少女の体のラインにに合わせた服。しかし、肩から肘までは膨らみを持たせておりどこか高貴な服を思わせる。スカートは若干長く作られているが、動くのに邪魔になる長さではなく歩く姿には気品さえ感じられる作りだ。そして、ボブカットの金髪少女と違い銀灰色の髪をツインテールに纏めている。腰には小剣が差してある。だが、少女には鍛錬している様子は見受けられず、単に装飾品として身に着けているだけだろう。ツインテールの髪と同じ銀灰色の瞳がリアを睥睨する。
一瞬にして気圧されたリアは目を逸らした、しかし、視線を外した場所には金髪の少女がいた。彼女の瑠璃色の瞳と視線が重なる。
「あ…えっと、すみませんでした。うちのリズが…」
あわてて返事を返すリアを見て金髪の少女は微笑みながら言葉を吐いた。
「別にいいわ。でも今度からは気をつけてねリズ君」
リズを指差し、ウインクをした金髪の少女は先に行ってしまったツインテールの少女を追いかけた。
「はーい。ばいばーいお姉ちゃん」
リズが大きく手を振ると、それに答えるように金髪の少女が振り返り大きく手を振って返した。
「あの人……」
リアが金髪の少女の後ろ姿を見つめているのを見ていたリズは首を傾げながら口を開いた。
「どうかしたのリア?」
口元に手を当て何かを黙考するリア。そして彼の口から出た言葉は意外な一言だった。
「彼女…何処かで会ったことがあるような…懐かしい感じがしました」
* * *
「何なんですのこの街は! ナンパはされ、ナンパはされ。挙句の果てにナンパですわよ! 信じられませんわ!!」
腕組みしたままアラシは怒りをはき捨てている。十割方ナンパの愚痴だが。
それを横目で見ていたシャルは苦笑しながら金糸の髪を撫でる。
「まぁまぁ。でももう少しなんでしょ? アーバスの館。なら行きましょう」
「シャルトリュー。あなたはあのような低俗な輩が野放しにされているのが大丈夫だと思っていますの!? ここには法も秩序もないですわ。私がここを統治すればよっぽどマシになるというのに……」
先程までシャルと呼ばれていた少女の名はシャルトリューという名前だった。シャルトリューは瞑目し、何かを教えるように口を開いた。
「『誰も統治めず見て見ぬ振りを』。それがここ、ワノールのルールらしいわ。諦めましょう。それにしても、さっきの…」
シャルトリューは空を仰ぎ目を細めた。それを見ていたアラシは腕組みをした状態でシャルトリューに問いかけた。
「どうしましたのシャル?」
「さっきのリアって人…あたし、どっかで会ったことあるかも…」
「何故そう思うんですの?」
アラシの問いにシャルトリューは背後を振り返り、優しい笑みをしたまま口を開いた。
「うん。懐かしい感じがした……離れ離れになった家族が会えたみたいな感じ…」
シャルトリュー、そしてリアはほぼ同時に望郷の念を感じていた。
リズ(略、リ)「毎度お馴染み! キャラクター雑談のコーナー」
ワイズ(略、ワ)「今回から進行役が変わるのか。まぁわしには関係ないがの」
リ「ワイ爺だ。今回のゲストはワイ爺なんだね」
ワ「そういうことじゃ。わしの身長や体重を聞いても面白くはないじゃろうに…だから身長、体重は省くぞ。趣味は読書といったところじゃな」
リ「地味な趣味……まぁお爺ちゃんだからね。そういえば今回の見所はわかるの?」
ワ「ふむ。新たに新キャラクターが登場したようじゃの。そのキャラクターは蒼炎鬼が考えたのではないそうじゃな」
リ「そうらしいね。たしか…ク…クロヒナ?って人が考えてくれたらしいね。聞くところによると…蒼炎鬼が無理に書かせたとか…」
ワ「鬼畜じゃな。男として、いや人として終わっているのぉ…」
蒼「鬼畜ですみませんね…只今、連載ファンタジー『アンダーグラウンド』を執筆中の黒雛 桜様のアイディアで生まれた、シャルトリュー、そしてアラシを愛してやってください」
リ「そういえば、何で1ヶ月1話更新なの?」
蒼「作者の都合です。血を吐く努力をすれば2週間1話更新も可能ですが…作者の気分しだいです。もっと早く更新しろよと思う方はドシドシ感想にお書きください。こんな話を呼んでみたいというリクエストもお待ちしております」