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三:襲撃

不定期更新をお許しください。

最近は仕事が始まり更新が更に遅れますが長い目で見てやってください。

「ふぅ……」

 ホコホコと頭から湯気を出し、リアはカウンターに姿を現した。

「なんだ、風呂に行ってたのか」

「えぇ。帰りに少し走ったものですから」

 『少し』とリアは言ったがあれが少しではないことは本人が一番よくわかっている。

 それを聞いたアイアンはリアに問う。

「走った。走った…ねぇ、なんでだ?」

「え?」

「何で走った? 走って帰ってくるほど道は暗くねぇだろ。それに買い物袋持ったまま走る理由がわからねぇ。何で走った?」

 アイアンの問いは正しかった。両手に買い物袋をさげたまま走れば、中の物が無事とは限らない。ワイズの本などは無事だと断言できるがレンナの食材はそうとは言えない。むしろ、無事と断言するほうが無理な話だ。

 リアは言葉を詰まらせることなく口を開いた。

「実は…ちょっと会いたくない人を見つけてしまったんです。それで、見つからないように走ってきたんですよ。極力、買い物したものには衝撃は与えないようにしましたから…大丈夫だとは思うんですけどね」

 子供の言い訳に近い屁理屈だとリアは思っていた。しかし、彼の言うことには何故か信憑性が高い。リアの屁理屈にアイアンは納得したのか、何も言わずに酒を飲み続けた。

 手持ち無沙汰になったリアはレンナがいるキッチンに向かった。

「何か手伝いましょうか? レン…ナ。」

「もっと自然に言えればいいのにね。今は別にないよ。リアと遊んでたら?」

 少し残念そうにため息を吐き、レンナは手をひらひらと振った。リズと遊んでやれという意味なのだろう。リアはそれに従った。

 階段を上がってふと気づいた。何故この酒場には二階があるのか、と。

(お客は来ませんし…、何ででしょうかね?)

 そんなことを黙考しながら階段を上り終えたリアは視線を動かす。先程までリズがいた席には自分が買ってきた、否。買わされてきたお菓子の袋が詰まれているだけだった。リズの姿が見当たらない。

「おかしいですね。リズのことですからてっきりキャンディを舐めながらチョコでも食べていると思ったんですけどね」

「ひゃはあお〜♪ ヒア、どほひはお?」

 後ろを振り向けば、そこにはリアの予想通りの姿をしたリズが立っていた。口に含みすぎているために上手く話せていない。

「ダメですよ。立ったまま物を食べるのは。それと、口に物を入れたまましゃべらないこともです」

「ん〜〜♪」

 両頬をパンパンに膨らませながら笑顔で返事をするリズ。子供らしい素直な返事にリアは微笑む。

 急に服の袖に引力を感じリアは前につんのめる。

「え?」

 袖を引っ張っていたのはリズだ。「こっちへ来て」と言う意味なのだろうか。リアはそれに従い買い物袋が置いてある席にリアとは向かい合う形で座った。

「どうしたんですかリズ」

「はおえ、へぇふひほ?」

「口に入れたまま喋らないでください。食べ終わるまで待ってますから」

 急いで口の動きを早めチョコを咀嚼し飲み込むリアの姿はどこか小動物を思わせるすがただった。そんな姿を口元のみに笑みを浮かべリアは静かに見物していた。

 すべてを飲み込んだのを確認したリアは再度問うた。

「それで、どうしたんですリズ?」

「ゲームしよう。つまんないんだもん」

「ゲーム…ですか。いいですよ、どんなゲームですか?」

「順番に数字を言っていくゲームだよ。20を言ったら負け。数字は一回に3までしかいえないからね」

 実に単純なルール。それゆえに攻略法は無いと思われる。が、このゲームはマンツーマンでやる際には確実に勝てる必勝法が存在する。

「シンプルですね。じゃあ、僕から始めますよ。1,2,3」

「4,5,6!」

 妙に張り切ってリズが数字を口にする。

「7だけです」

 いたって冷静に、だが口元には笑みを浮かべたままのリアは一度だけ数字を口にした。

「ん〜…8,9。どうぞ♪」

「そうですね…10,11。はい、どうぞ」

 少し考え、リアは数字を口にした。

「12。…13,14!」

「15です。僕の勝ちですね」

「う〜〜負けたぁ! アイアンとなら絶対に勝てるのに」

 必勝法。それは『最後の数字の5つ前の数字を言う』こと。そしてもう一つは、『残りの数字を4の倍数に1を加えた数』にして相手に順番を渡すこと。前者は後者のように必ずできるとは限らないが、後者は数字が大きいほどに条件を満たし易く、条件を満たすチャンスが増える。相手に順番を渡し、数字が帰ってくる際に相手の言った回数を記憶しておけば確実に勝てるのだ。

 相手が3回数字を言ったならば自分は1回。2回なら同じく2回。そして、1回ならば最初と逆に3回数字を言えば、負けはない。簡単な引き算だ。リアはこの手の問題(ゲーム)は理数系の自分にとっては楽なもの。むしろ、体力を使う行動(ゲーム)の方が苦手なのだ。

 数回ゲームを繰り返し、結果は言うまでもないだろう。リアの全勝である。

 リズは地団駄を踏み悔しがっていた。

「なんでそんなに強いんだよ!」

「フフ、すいません。実は、必勝法が存在するんですよ」

「必勝法!? 教えて教えて!」

「いいでしょう。リアにだけお教えしますよ。耳を貸してください」

 リアは必勝法をリズに教えた。さっきの方法を二人が知っているとなれば、この勝負は完全な『運』のみの勝負になる。規定の数字が4の倍数に1を加えた数の場合は後攻が勝ち、それ以外ならば先攻が勝つと決まってしまう。故に、このゲームは必勝法を知らないものたちが行うと盛り上がるゲームではあるが。知っているものたちが行うとどこまでもつまらないゲームになる。

 リアに必勝法を伝授されたリズは意気揚々とアイアンに対戦を申し込みに階段へと走って行った。だが、階段の一歩手前で彼は立ち止まりリアに言った。

「無理しないでね♪」

 その言葉の意味が何だったのかはリア自身がわかっていた。だが何故、何故リズがそのことを知っていたのかまでは知らない。どこかで見ていたのだろうか。それはないだろう。彼はリアが帰ってくるまでの間、二階の、ちょうどこの席のテーブルで寝ていたのだから。

 リズに恐怖を覚え、彼は二階のベランダに出た。『自由人』は無駄とも言っていいほどに広い。二階にはベランダがあり、そこからは噴水広場を中心に広がっていくワノールの街が一望できる。

 優しい風がリアの銀糸のような髪を撫で、撫でられた銀糸は風が止むと同時に彼の首筋や耳を撫でる。心地いい風は一瞬で過ぎ去り、突如、突風がリアの顔面を叩く。

「んっ…!」

 突風により眼鏡がずれ視界がぼやけた。だが、そのぼやけた視界の中ではっきりと『見えた』ものがあった。本来なら眼鏡をかけていても視認できる距離ではないことをリア自身理解していたが考えるより体が動いた。瞬間、リアは体を真半身にずらし『襲ってきた者』を回避した。判断が遅れ、それによる行動がコンマ数秒遅れていれば、おそらく彼の頬は深くえぐられていただろう。

 轟音が、『サーカス館』に響いた。

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