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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
99/149

108 一番効果のある薬

「起きなさい!」

 何だ、この声……。

「……マリー?」

 なんで、マリーがここに?

 いきなり、両頬を掴まれる。

 いってぇ……。

「どうしてこう、馬鹿なの」

 ようやく離された。

「何が?」

 朝っぱらから、意味が解らない。

 ……朝?もう、朝?

「私はローズと一緒にクララの服を買いに行ってくるから、栄養ドリンクでも飲んで寝てなさい」

 クララの服?

 あぁ。謁見に同行出来るような服をクララが持ってるはずないよな。

 謁見は午後だから、早めに買いに行かないと……。

 ん?今、変なこと言わなかったか?

「リリー、この馬鹿の面倒は任せたわよ」

「わかった」

 面倒……?

 ローズがサイドテーブルに手紙を置く。

 読んでおけって?

「昨日は何もなかったか?」

「あの後は、特に何もありませんでした」

 良かった。

 起きられないぐらい熟睡してたみたいだから。

「精霊を交換しておきましょう」

 別行動の時は……。

『えぇ?また、あたしなのぉ?』

「当然です」

『エル、何とか言ってよぉ』

 また、セシルと交代か。

 流石に、治療を行うことはもうないと思うけど。

「頼むよ」

『もーぅ。何かあったらすぐに呼んでねぇ?』

「わかってるよ。いってらっしゃい」

『はぁい』

 不満そうだけど。

 約束だから仕方ない。

「いってくるわね」

「いってらっしゃい。気を付けてね」

 マリーとローズ、クララが部屋を出る。

「エル、大丈夫?」

 大丈夫って……。

 リリーが俺の額に手を当てる。

 ひんやりしてて気持ち良い。

「着替えた方が良いよ」

 着替え?

 確かに、かなり汗をかいてる。

「手伝う?」

「平気」

 貰ったタオルで汗を拭く。

 少し寒気がするな。早く着替えないと。

 リリーから貰った水を飲むと、喉が潤う。

「まだ飲む?」

「いや。着替えたら一緒に朝食を食べに……」

 ベッドから出ようとしたところで、リリーに止められた。

「だめだよ。ちゃんと寝てなきゃ」

 なんで?

「朝ご飯、持って来るね。皆、エルのことをお願い」

『了解』

『まかせて』

 リリーが部屋から出ていく。

 別に、持って来る必要なんてないのに。

 とりあえず着替えるか。

 謁見向きの服……。

『寝てなくて良いの?』

『大人しくしていた方が良い』

『病気になるなんて久しぶりだねー』

「病気?」

 俺が?

『気づいてなかったの?』

 倦怠感はあるけど、病気と診断するような状態には思えない。せいぜい微熱があるぐらいだろう。

「別に、病気じゃないよ」

『いつもと違うのは確かだ』

 精霊に、外傷もない人間の不調なんてわからないはずだけど。

「平気だ」

『エルの平気は当てにならないからねー』

『そうだな』

『リリーはちゃんと寝ててって言ってたよ』

 調子がそんなに悪いと思わないけど。

「わかったよ」

 仕方ない。今は楽な服を着て、栄養ドリンクでも飲んでおくか。

「リリーが宿から出たら教えて」

『すぐに戻って来るだろう』

『病気のエルを置いて、どこかに行くわけないじゃない』

 病気じゃないんだけど。

 でも、あの後……。

 気絶したままのグレゴール一行を神官のローレンツに押し付けるよう冒険者に頼んで、夜間の護衛計画を練り直して。

 マリーとリリーにはいつも通り奥の部屋で休むように言って、メラニーとユールに二人の傍に居るように頼んで。

 それから、ベッドに入った後の記憶がない。

「昨日の夜は本当に何もなかったんだよな?」

『さっき聞いただろう』

『静かな夜だったよー』

『何もなかったわ』

「なら、良いけど」

 マリーを狙ってるのはグレゴール一人じゃないから、昨夜の内に他の奴が襲ってくる可能性はあった。封印の棺を狙うヴェラチュールだって、いつ現れてもおかしくない状況は続いてる。

 それに、リースから話を聞く予定だったから、寝るつもりなんてなかったんだけど……。

 あぁ、この手紙って、ローズがリースから聞き出した話しか。

 ユールが居ない間に早く読まないと。

 空になった栄養ドリンクの瓶を置いて、ローズの手紙を開く。



 真空の精霊がメディシノ以外と契約しない理由。


 真空の精霊の力を借りた吸血行動により、人間はしばらく食事を不要とする。

 同時に、対象から魔力も吸い取ってしまう。これは人間が自然から得た魔力とは違うもので、契約中の精霊に譲渡不可能な魔力であり、自然発散も不可能な魔力である。

 その結果、人間が一度に貯めておける許容量以上の魔力が、過剰に人間に入り込む状態となる。

 過剰な魔力は、通常の人間には不可能な領域での強力な魔法の行使を可能にする為、一見、魔法使いにとっては有益なものに見える。しかし、この力は人間を狂わせ、悪魔に変えてしまう呪われた力である。

 吸血鬼種の多くが悪魔になってしまったのも、この力によって狂った為である。

 この力によって狂うことがなく、魔力を上手く発散、利用することが出来る完璧な治療者がメディシノであり、真空の精霊が唯一契約可能な人間である。


 また、人間が許容量以上の魔力を得ることは通常では有り得ないことだが、これは真空の力の副作用によるものと考えられている。

 人間は、大地、水、風、炎を中心として、光や闇、氷など、さまざまな自然の恩恵を受けられるが、現在、地上に存在しない自然の恩恵は受けられない。つまり、真空の力は、人間が恩恵を受けることが不可能な力である為、このように自然に反したことが起こってしまうらしい。


 以上が、リースから聞いた内容。

 尚、謁見に関しては、こちらですべて対処する予定なので余計なことはしない事。



 謁見はローズに任せておけば問題ないってことか。俺が居ない間にマリーと何かしてたみたいだし、上手くやれるんだろう。

 読み終わった手紙を炎の魔法で燃やす。

 ……真空の精霊の力を借りて人間が受けることの出来る恩恵。

 俺とリリーがメディシノ捜索中ずっと、クララが闇の魔法で隠れていることが出来た理由。

 あれだけ長時間魔法を使い続けていれば、普通の人間なら魔力切れで倒れてるからな。クララはメディシノとして治療を続けていたから、有り余る魔力を持っていたってことだろう。


 ただ……。どうして真空の精霊は人間に力を貸すんだ?

――私が今まで生きていたのは、治療の為です。

 そういえば、ロザリーもクララも、メディシノとしての役割を全うしなければならないと言ってたっけ。

―それが真空の大精霊との約束だからぁ。

―だから、あたしたちはぁ、メディシノに味方するのぉ。

―……どれだけ、人間が嫌いでも、人間から嫌われていたとしてもねぇ。

 治療を行うことはメディシノと真空の大精霊との約束で、だから真空の精霊はメディシノに味方してる?

 真空の大精霊は、どうしてそんな約束をしたんだ?

 千年前に何が……。

 千年前?

 プリーギが最初に現れたのって、本当に千年前なのか?

―ドラゴン王国時代を終わらせた災害について何か知っているかい。

―すべてが洗い流されたとしか。それによってクレアは自分の土地を失ったと聞いています。

 ドラゴン王国時代が終わったのは、およそ二千年前。

 千年前なら、クレアは浮遊大陸ロマーノに移り住んでいて地上にはほとんど居ないはずだ。この状況で、プリーギが現れる要素はないんじゃないのか?

 プリーギは、自分の意志に反してブラッド化してしまったクレアを元に戻す為のもの。

 それが最も必要だった時期があるとすれば、ブラッドとクレアの戦争中だろう。

 クレアは、ブラッドと交わることでブラッドになってしまう。つまり、ブラッドは、簡単にクレアの勢力を削ぐ手段を持っているのだ。クレアにとってそれは脅威だっただろう。

 これに対抗する手段を得るためにも、クレアは、ブラッドに変化してしまったクレアを戻す方法を模索しなければならなかったはずだ。

 プリーギが生まれたのはドラゴン王国時代……?

 

「エル?」

 急に声をかけられて、顔を上げる。

「リリー」

 部屋に戻って来てたのか。

「大丈夫?横になる?」

「平気だよ。少し考え事をしていただけだから」

 リリーが俺の顔に触れる。

「無理しないで」

「してないよ」

 心配しなくて良いのに。

「ご飯は食べられそう?」

 薔薇の花が飾られたテーブルの上に、朝食が並んでる。

「あの鍋は?」

「温かいスープだよ」

「おぉ」

 意外だな。クエスタニアでは、あまり朝食には出ないものなのに。

「マリーが頼んでくれたんだ」

 わざわざ用意させたのか。

 ベッドから出て席に着くと、リリーが俺の前に湯気の上がるスープを置く。

 じゃがいものポタージュか。美味そうだな。

 用意が出来たのに、まだ座っていないリリーを見上げる。

「一緒に食べよう」

「うん」

 リリーが座る。

「いただきます」

「いただきます」

 良い匂い。体が温まりそうだ。

 スープを飲みながらリリーを見ると、まだ食事に手を付けてない。

「どうした?」

 様子が変だな。

 顔色は悪くなさそうだけど。

「して欲しい事があったら言ってね?」

「心配し過ぎだ」

「でも……」

 マリーの奴、変なこと吹き込んだんじゃないだろうな。

 そんなに調子が悪いわけじゃないのに。

「病気って、私が持ってる力で治せないのかな」

 神の力で?

 なんで、そうなるんだ。

「魔法で何でも出来ると思わない方が良い」

 病気の根本的な治療は精霊には不可能なものだ。どんなに癒しの力に長けた精霊でも、病に対して出来る事と言えば症状を緩和することぐらい。

 病気なんて、基本的に人間が持つ自然治癒力で治すものだ。薬はその補助で……。

 あれ?

 なら、なんで真空の精霊はプリーギの治療が出来るんだ?

 真空の精霊の力を借りて、病原を吸い出すわけだけど。

 そんなことが出来る理由……。

 プリーギがクレアに恩恵をもたらし、ブラッドには毒になる特性……。

「ごめんなさい、変なこと言って」

 なんで、落ち込んでるんだ。

 ……俺のせいか。

「食べたら少し寝るよ」

 病人のつもりはないけど。

 休める時間があるなら、休んでおいても良いだろう。

「寝るなら、お話しでもしようか?」

「お話し?」

「物語とか」

 物語か。それも良いな。

「なら、お姫様じゃないやつで頼むよ」

「うん」

 リリーが微笑む。

 今日、初めて見た。

 その顔を見ると、ほっとする。

 物語を聞かせるのも好きなのかもしれない。

 ……物語なんて全然興味なかったけど。

 物語には、現代では確認されていない物事や史実が隠されていることが多いみたいだからな。眠り姫の物語はメディシノを彷彿とさせる物語だし、マーメイドも赤帽子も、実際に存在する亜精霊をモチーフとした話しだ。

 スープを飲んで顔を上げると、何故かリリーが顔をしかめてる。

 また機嫌が悪くなった?

 いや、違うな。

 パンを頬張ってる口は規則正しく動いてるのに、表情だけがどんどん変わっていく。

 今、何考えてるんだ。

 ……あぁ、もう。

「え?」

 思わず笑った俺を見て、リリーが首を傾げる。

 そんなに、表情がころころ変わるから。

「可愛い」

 また、変わった。

 そういう顔も良い。

 全然飽きない。

「好きだよ、リリー」

「えっ?」

 顔が赤く染まって。それから、少し俯く。

「私も、エルが好きだよ」

 ……本当に、可愛い。


 ※


 食事が終わって、布団に入る。

 これじゃあ、本当に病人みたいだな。

「高い壁っていう物語は知ってる?」

「それがタイトルなのか?」

 変な名前だけど。

「ジュリアスとマルベリーって呼ばれることもあるかな」

 男女の名前?

「知らない」

「なら、これにするね」

 お姫様じゃないみたいだけど。恋物語なのかもしれない。

「むかしむかし、とても栄えた国のお話しです。高い壁に覆われた大きな国の中。更に高い壁に隔たれた二つの家がありました」

 それで高い壁か。

 確か、アルファド帝国の帝都は、高い城壁で覆われてたんじゃなかったっけ。ラングリオンの王都を囲う城壁よりも、もっと高かったって言われてるはずだ。

 その目的は、外部からの攻撃に備えると言うよりも、内部の人間を外に出さないためのものであったと考えられている。

 帝都では厳しい身分制度が引かれていて、上位階級は下位階級を完全に隷属させることが出来たらしい。……要は、奴隷に階級をつけただけの制度なんだけど。自分より下の人間が居ると思っていても、隷属する対象が居る以上、それが奴隷と呼ばれる階級じゃなくても、奴隷と変わりない。一部の特権階級だけが得をする制度だ。

 この話しは、それをモチーフとした話し?

「高い壁越しに出会った二人は、すぐに仲良くなりました。マルベリーは壁越しではなく直接会いたいと願い、ジュリアスはすぐに会いに行く約束をしました」

 違うみたいだな。

 まぁ、良いか。

 ……声が心地良い。

 なんだか温かくて。

 子守唄みたいなリズム。

 ずっと同じようなトーンで話してるから。

 柔らかくて……。

 気持ち良くて……。

「壁越しに会うたびに、二人の思いは募るばかりです」

 あれ?

 そんな話しだったか……?

 内容が上手く繋がらない。

 ちゃんと、聞かないと。

 せっかく話してくれてるのに……。

「マルベリーは、自分が身に着けていた真珠の指輪をジュリアスに渡します。ジュリアスは、自分が持っていた短剣を彼女に渡しました」

 剣……?

 真珠の指輪はともかく、なんで女性に剣?

「……エル?」

 リリーなら喜びそうだけど。

 真珠と剣……。

 あれ……。

 誰が誰に渡したんだっけ……?

 


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