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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
96/149

105 駆け引き

 休日の礼拝堂は人が多い。

『マリーたちは奥に居るみたいだな』

 別の部屋に案内されてるのか。

 見知った顔の神官を探して、声をかける。

「こんにちは」

「クロエ様。お待ちしておりました。皆様の元へ御案内いたしましょう」

 話しは通してあるのかな。まずは、マリーたちと合流しないと。

「案内は結構です」

「ですが……」

「マリアンヌ様なら、気づいてくれますから」

「わかりました」

 全く説明になってないけど、これで納得できるのか。


 礼拝堂左の扉に入って長い廊下を進んで。

 メラニーに教えて貰った部屋に入ると、マリー、ローズ、ローグの他に、知らない男女が居る。

 男の方は華美ではないけど身なりの良い服。女の方はグランツシルト教の聖印が付いた服を着ている。どっちも若くて未成年に見えるな。

「待っていたわ」

『会いたかったわぁ、エル』

 お帰り、ユール。

「マリアンヌ様。遅くなってすみません」

「良いのよ」

『って、どぉしてリースがこんなところに居るのよぉ?』

 無事に再会できたみたいだな。

「荷物をお預かりしましょう」

 持っていた荷物をローズに渡すと、マリーが一番大きな袋を覗く。

「随分買ったのね。これ全部、林檎?」

「あの、一袋買ったらこんなにたくさんになっちゃって……」

 やっぱり買わされたのか。

「ふふふ。ありがとう、リリー。後で皆で食べましょう」

「うん」

「マリアンヌ様、そちらのお二人は?」

「こちらは……」

「こんにちは。僕はハルトです」

 ハルト……?

「彼女は修練女のドロテアです。いつも休日には、この教会で奉仕活動に参加しているんですよ」

「よろしくお願いいたします」

 修練女。この衣装は修練女学院生のものか。

「はじめまして、ハルト様、ドロテア様。私はクロエと申します。こちらは騎士のリリーシア様、クララ様です」

「よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします」

『伝言よぉ。ローグは今、マリーを護衛中の冒険者、ローグってことになってるわぁ』

 名前は変えてないのか。

「クララ様というのは、マリアンヌ様からは伺っていない方ですが」

 突っかかって来たな。

「王都の案内をお願いしている方です。おかげで行きたかった店にも行くことが出来ました」

「そうでしたか。そのショコラトリーは、クエスタニアでも有名店のものですからね」

「はい」

 ショコラの有名店なんて知らないけど。

 だから、リリーも行きたかったのか?

「丁度、クロエ様のお話しもしていたところですよ。医療活動をされながら旅をしておいでだと。そういえば、地方のお話しをまだ聞いておりませんでしたね。マリアンヌ様、各地の様子はどうでしたか?」

「旅の話しでしたら……」

 咳払いをして、マリーの言葉を遮る。

「身分を隠しながらの旅ですから、具体的なことを言うわけにはいきません」

 余計なことを言わせるわけにはいかない。

「それは残念です」

「けれど、気がかりな点があるのは確かです」

「気がかりなこと?」

「マリアンヌ様、話してもよろしいでしょうか」

「えぇ。構わないわ」

「ありがとうございます。私が疑問に感じたのは、都市によって対応がばらばらなことです。同じ国に居ながら、同じ病でも助かる人と助からない人が居ると言うのは残念なことに感じました」

「そうですね。この国では各地で統一した医療制度というものはありません。ラングリオンのような中央集権国家から見れば、分裂しているようにも見えるでしょう」

 そこまでは言ってないけど。

「けれど、都市の自治が保たれているのも悪くありませんよ。市民が政治に参加しやすく、都市ごとに違った特色が出ますから。医療の考え方は都市によって差はありますが、そこに住む市民が必ずしも困っているとは限らないんです」

 宗教的な話をしてこない。

 それに加えてまともな答えが出来るってことは、政治分野で活動する高貴な身分で間違いなさそうだな。

「ハルト様は、どちらの都市出身ですか?」

「僕は王都、フレノルの出身ですよ」

 やっぱり。

 ……失敗したな。マリーが来るなら、神官だって二人が会う場を設けるに決まってるのに。

 本当は変装を解いてから会いたかったけど、顔を見られた以上、仕方ない。

「こちらの手紙に見覚えは?」

 ギルドで預かった手紙を見せると、ハルトが少し驚いたような顔をした後で頷く。

「それは、僕が出したものですね」

「少しお時間を頂いても?」

「もちろんです。では、別室へ行きましょう」

『リース、行くぞ』

「マリアンヌ様、少々私用で離れます」

「良いけれど……。一人で行く気?」

「そのつもりですが」

「なんなら、俺が同行しますよ」

 ローグ。

 相手が護衛を連れていない以上、こっちが護衛を連れて行くのは気が引けるけど。

「ハルト様、よろしいでしょうか?」

「構いませんよ」

 良いのか。

「ありがとうございます」

「では。皆様、本日は貴重な御時間を頂き、ありがとうございました」

 ハルトが礼をする。

「とんでもない。こちらこそ、お会いできて光栄でしたわ。またお会いできる時を楽しみにしております」

 マリーが丁寧に礼をした後、ハルトがドロテアの方を見る。

「ドロテア、また来るよ」

「はい。ハルト様」

 ……どういう関係だ?


 ※


 案内されたのはテーブルを挟んでソファーが二つある部屋。教会内だけあって相変わらず質素な造りだけど、応接室として使われている場所に違いない。

 自由に案内できるってことは、この教会に通い慣れてるんだな。

「どうぞ、御掛け下さい」

 ハルトの向かいにローグと一緒に座る。

「あなたはエルロックさんですね」

「はい」

「男性と伺っておりましたが」

「見たままですよ」

 かけていたカラーレンズの眼鏡を外す。

 神聖王国の人間なのに、ブラッドアイを見ても特異な反応はしない?

「あなたは王太子、ハルトヴィヒ様で間違いありませんね」

 ハルトが苦笑する。

「その通りです」

 可能性がゼロではないとはいえ、依頼主に王太子が出て来るなんて。

「隠すつもりはありませんでしたよ。マリアンヌ様にも素性は話しておりますから」

 だったら、さっきの自己紹介の時に言っても良かっただろ。

「ハルト様は、従者はお連れにならないのですか?」

「いつもこんな感じです。王都は平和ですし、神聖な教会で危険な行為を行うものなど居りませんから」

 そんなの、グランツシルト教徒じゃなきゃ関係ないけど。

「依頼の件ですが。ハルト様の目的は、メディシノ捜索で間違いありませんね?」

「その通りです」

 メディシノの名前も知ってるみたいだな。

「何故、探しているのかお伺いしてもよろしいでしょうか」

「何故って……。会ってみたかったからです」

「会ってみたかった?」

「吸血鬼種とは会ったことがないので」

「……何故、そこまで興味をお持ちに?」

「教皇は吸血鬼種は悪魔の眷属だと仰いますが、彼らが本当に悪魔だと言うなら、僕たちはここまで平和に暮らすことはできないでしょう。それに、メディシノが多くの人を救ってくださったという話しは神官様からも聞いています。是非、お会いして感謝の気持ちを伝えたいのです」

 これが聖典主義の穏健派の意見か。

「では、会うことが叶ったならば、その後はメディシノの自由な活動を保証するということですか」

「いいえ。いくら目的が治療行為であろうとも、今のやり方では王都の治安に影響しますし、捕まれば刑罰を受けることになります。ですから、安全な修練女学院へ入っていただきたいと考えております」

 身柄引き渡しを個人的に要求して来たのは、その為?

「修練女学院のことは御存知ですか?」

「男子禁制の場所で、女性が共同生活を行う場所ですね。祈りと清貧な生活を心がけ、平日は完全に外との接触を断ち、休日は奉仕活動に参加されるのが日課だとか」

「流石ですね」

 説明すべきことならまだあるけど。

 修練女学院内校と呼ばれる一般の女学院は、その生涯を神への祈りに捧げる場所で、未亡人となった女性が残りの生涯を過ごす場所として選ぶことも多い。

 一方、修練女学院外校と呼ばれるのは、身分の高い女性が学問や教養を身に着ける為の場所だ。要はラングリオンでいう養成所みたいな所。

 どちらも入る際には寄付金が必要で、特に後者の方は授業料代わりに多額の寄付金を払うらしい。

 若い女性なら外校の生徒だろうし、王太子と親しげだったドロテアは良家の出だろう。

 でも、発見したメディシノを入れる予定なのは、より閉鎖的な環境である内校に違いない。

「女学院は確かに女性にとって安全な場所でしょう。けれど、女学院に入る為にはグランツシルト教徒にならなければなりませんね」

「はい」

「容姿による差別を受け、治療も顔を隠さなければ出来なかった立場の人間が、グランツシルト教徒になりたがるとは思えないのですが」

「この国で生きるならばグランツシルト教徒にならざるを得ないのが現状です。それに、自由な活動を行うならば、修練女という立場は適任です。修練女として病の治療を行うならば、どこへ行っても歓迎されることでしょう」

 修練女と言えば、教会に次いで身近な神職の一つだからな。

「けれど、医療行為を必要としている患者が居るのは王都だけではありません。安全の為とはいえ、一つの場所に留まるのはメディシノにとって本意ではないことです」

「今のままでは患者が居る場所を把握することも困難でしょう。王都に居れば十分な情報は集まります。治療が必要な場所に行く為の支援も検討させて頂く予定です」

『エル。リースから伝言よぉ。こんな奴にはクララを預けられないってぇ』

 結論が早いな。

 でも、俺も預けるのには反対だ。

「ハルト様のお考えはわかりました。残念ですが、私は依頼を破棄させていただきます」

「破棄?……何故ですか?」

「私が依頼を引き受けたのは、依頼主がメディシノが自由に生きられるよう支援し、保護してくれる方だと思ったからです」

「その通りです。その為に、修練女学院へ……」

「仰る通り、修練女となることがどれだけ安全かは私も理解できます。吸血鬼種が表通りを歩くだけでトラブルに巻き込まれ、弁明の余地もなく投獄されるような国ですからね」

「そんなことはありません!」

 本当に知らないのかな。

「訂正する気はありません。よそ者の意見と聞き流して頂いても結構です」

 ハルトが黙る。

「保護の為には、グランツシルト教徒となって修練女学院に入る以外の選択肢がないと仰いましたが。私にはそれが、隔離、情報規制の出来る施設に入れて、自分の監視下に置きたいという意味にしか聞こえませんでした」

「そんなことは……」

「メディシノは患者が居る限り治療を行います。けれど、それは本人の意思で行われることです。今以上に自由が保障されない状態に置かれてまで、治療を続ける必要もないでしょう」

「……確かに、そうかもしれませんね」

 引き下がった?

「では、現在までの調査結果を報告します」

「はい。お願いします」

「昨夜は市街地東部を捜索していましたが、犯人と接触することはできませんでした」

「え?接触もされていないのですか?」

「情報量からしても一日で片が付く案件ではありません。メディシノなら黒髪にブラッドアイの女性でしょうが、その容姿を隠すのは当たり前。他の身体的特徴が皆無な上に、襲撃傾向も絞り込めないのでは捕まえようがありません。昨夜の捜索の主目的は、確保ではなく情報収集でしたから」

 あんなの、メディシノに関する基本的情報を持っていたとしても、リリーが居なかったら無理だ。

「昨夜の被害件数は一件だったと聞いています。誰かが犯人に接触した可能性が高いと思っていましたが」

「一件だったのは、現場付近を警戒していた衛兵の数が想像以上に多かった為、犯人がその日の活動を諦めただけでしょう。私も捜索中に被害者のものと思われる悲鳴と衛兵の笛の音は聞きましたが、その間隔は短かったように思います」

「確かに。昨夜は衛兵も東部を中心に警戒していたと言う話しですからね」

 普通に考えれば東部に現れる可能性が高いことは想像つくからな。

「地の利が衛兵にあるのは明らか。複雑な住宅街では現場に到着することも叶わず、昨夜の捜索は早々に切り上げることにしました」

「本当に接触できなかったと言うんですか」

 今度は、しつこいな。

「お話しした通りです。続いて、私個人のメディシノに関する情報ですが。次に捜索するなら隔離施設だと思っています」

「隔離施設でメディシノの痕跡を発見されたのですか?」

「いいえ、推測です。この病は自然治癒は不可能です。感染後に回復した患者が居るならば、治療を受けたと考えるのが自然です。吸血鬼種の容姿なら貧困区を潜伏先としているでしょうし、隔離施設に現れる可能性は高いと見ています」

「流石ですね。実は、隔離施設は僕も捜索している場所です」

 捜索してたのか。

「ただ……。出入りする人間に吸血鬼種が居ないか毎日調べていますが、メディシノを発見したという報告は未だにありません」

 明らかに容姿を隠している人間や吸血鬼種を中心に探してたなら、金髪で歩いていたクララは引っかからないだろう。

「では、治療の形跡があったのは、善意の医者が治療を行った為かもしれませんね」

「いいえ、それもあり得ません。収穫祭時期に治療を受けた患者と同じ治療痕を持った患者が確認されています」

 そこまで確認済みなのか。

 丁寧に探してた割りに、吸血鬼種が髪を脱色することがあるって情報は持ってなかったみたいだな。

 吸血鬼種が簡単に投獄される実情を知らなかったみたいだし、王都の現状はあまり知らないのかもしれない。

「それなら、魔法を使っているかもしれません。今回、王都で吸血鬼騒動を起こしている犯人は、闇の魔法使いである可能性も示唆されています。闇の魔法を使えば自分の姿を一時的に隠すことが出来ますから」

「そういえば、被害者は薬か魔法によって気絶しているんでしたね」

「闇の魔法で隠れているならば、光を当てれば姿を現します。この方法もお試しになられては?」

「わかりました。検討してみます」

 クララを単独で隔離施設に行かせることはもうしないけど。

「では。今日までの報告は完了しましたから、以上をもって依頼を破棄させていただきます」

「待ってください」

「まだ、何か?」

「依頼の継続はお願いできませんか?」

「お話しした通りです」

「メディシノが誰かに捕まることは非常に危険なことです。殺される可能性が高い。身の安全の保障が先決です。……僕の手で探し出すのは、正直限界を感じています。どうにか探し出して保護していただくことはできませんか?」

 だから、ギルドに依頼を出したんだろうけど。

「依頼の破棄をしても捜索は続けます。元からメディシノは探していますから」

「目的が同じならば、依頼の継続をお願いします」

 しつこい。

「目的は違います。あなたの目的は、私の考えるメディシノの保護とは違うものです」

「では、依頼の内容を変えます。メディシノを保護出来たらギルドに報告して下さい。身柄の引き渡しは要求しません。それならどうですか?」

 嫌だって言ってるのに。

「それだと、依頼達成の証拠は何も残せません。適当な吸血鬼種にメディシノの代役を頼み、報告を行うことも出来てしまいます」

「構いません。あなたが信頼に足る冒険者であることは聞いています」

 ……あぁ、もう。

 逃げ道がない。

「わかりました。マリアンヌ様が王都を離れるまでで良ければ、」

「ありがとうございます!」

 話しを聞け。

「報告はギルドにしますから、依頼内容の変更は早めにお願いします」

「はい。どうか、お願いします」

 ハルトが微笑む。

「では、僕はそろそろ王宮に戻らなければならないので。これで失礼します」

 そのまま部屋を出たハルトを見送る。

 ……負けた。

『大丈夫か?エル』

「大丈夫ですか?」

『なんだか落ち込んでるねー』

 状況は良くない。けど。

「これは俺の仕事だから心配しなくて良い」

「相変わらず、何にでも首を突っ込むんですね」

「好きで突っ込んでるんじゃない」

『エルってそればっかりね』

 そんなつもり、ないんだけど。

「王太子が探しているメディシノとは、クララさんですか?」

「そうだよ」

 たぶん、ハルトにもばれてるだろう。

 リリーと二人で行動しているはずの俺が、護衛役でもない第三者を連れ歩いてるんだから。

 けれど、クララがメディシノであると証明する方法はない。クララの現在の容姿は吸血鬼種のそれとは全く違うから。俺にメディシノなんて発見していないと言われてしまえば、ハルトは身柄引き渡しを要求できないのだ。

 今回の話し合いで、俺が身柄引き渡し時に立ち会うよう要求した理由が、内容次第でメディシノを引き渡す気がなかったからだと、ハルトも理解しただろう。

 だから、依頼の破棄をするつもりだったんだけど……。

 しつこく継続を頼まれたからな。

 継続の目的は、俺がメディシノを確保したかの確認か?

 俺の目的がメディシノの保護で、メディシノを預ける相手がこの国に居ない以上、俺はメディシノを連れ歩くしかない。

 つまり、発見報告時に俺が連れ歩いている第三者はメディシノに違いないのだ。

 発見の報告をしなかったらしなかったで、ハルトはクララがメディシノに違いないと考えるだろう。殺される可能性を示唆されてるのに、俺がメディシノを保護せずに帰るなんて有り得ないから。

 だから、依頼の破棄をできなかったのは痛い。

「メラニー、皆は教会内に居るか?」

『居る』

 良かった。

『ドロテアも一緒だ』

「ドロテアも?」

 なら、情報交換は今のうちに済ませておいた方が良いだろう。

 もう小さくなったドロップを砕いて飲み込む。

「ローグ、そっちの状況は?」

「マリアンヌ様とリリーが王宮に来た時の話しは聞きましたか?」

「あぁ。ローグが協力してくれたって聞いたけど。もめ事は起こさずに終わったのか?」

「光の間の神官の計らいもあって、事後処理は問題なく済みました」

「ん」

 穏便に済んだなら良いけど。

「良いですか。ローズ様とマリアンヌ様にご迷惑はかけないで下さい。こちらは同行を願い出てる立場ですよ」

「悪かったよ」

「この先はリリーと行動してください」

 相当、怒ってるみたいだな。

「わかりましたね?」

「わかったよ」

「謁見は明後日の午後に決まりました」

「内容は?」

「まだ揉めているようですが……。ドロテア様の情報は持っていますか?」

「知らない。どこの令嬢だ?」

「現教皇の孫です」

「は?」

「王都の修練女学院外校で学ばれているんですよ」

「人質交換ってわけか」

 確か、王家の姫は教皇領に修行に行ってるはずだよな。

「いえ。昔はそういった意味もあったかもしれませんが、今では慣例と言う方が正しいです。教皇は世襲制ではありませんし、お互いに娘が居なくても続いていることですから」

 教皇に関する情報はあまり調べて来なかったな。

「ドロテア様は、王太子の婚約者として内定されている方なんですよ」

「婚約者?」

 内定ってことは、まだ公表されてないんだろうけど。

「もともと幼馴染で仲が良かったと聞いています。ドロテア様との縁談は王太子から教皇に掛け合ったことで、和やかに決まったことだと言われています」

「聖典主義なのに?」

「王太子が聖典主義であるという噂は公にもありますが、教皇との関係は良好なようですから」

「変な関係だな。ドロテアは教皇主義なんだろ?」

「もちろんです」

 教皇は王太子が聖典主義だと知ってる可能性が高い。だから、ドロテアを使って王太子を教皇主義に懐柔できると考えているのかもしれないけど。

 王太子の意図は?

「ただ、王妃様を筆頭に反対されている方々が、王太子とマリアンヌ様の縁談を無理やりまとめようとしているようです。今日、王太子がドロテア様と一緒にマリアンヌ様に会われたのも、婚約内定者が居る事、マリアンヌ様と婚約するつもりがない事を伝える為だったそうですよ」

「俺が来る前に、そんな話しをしてたのか」

「謁見に関する情報も頂いてますし、他の王族に警戒するよう助言も頂いています」

「マリーは狙われてるから気を付けろって?」

「はい。すでに昨夜、エルロックさんが手配した冒険者が、誘拐未遂犯を捕まえています」

 謁見申請後で、王族にもマリーの居場所が筒抜けだとはいえ。

 仕掛けて来るのが早過ぎだろ。

「ローズ様が冒険者の護衛を延長したので、同じ冒険者が引き続き護衛を行っています。これから依頼内容の変更をしに行く予定ですが……」

「護衛の延長はもう頼んである。ギルドにも三日分の依頼料は置いて来た」

「そうでしたか。謁見の内容よりも、マリアンヌ様の身の安全の確保の方が重要かもしれません。離れて行動しないようお願いします」

「わかったって」

「報告はそんなところです。何か聞きたいことはありますか?」

「王太子の人柄は?」

「率先して奉仕活動に参加することで有名な方で、地震が起きた際も、ずっと教会で被害者の支援に当たっていたそうです。温厚で慈愛の精神に満ちた方と言われていますね」

「評判が良いのは間違いないのか」

「はい。各都市からの評価も高いですし、王宮内でも安定した支持を受けていますから、政治的に見ても彼の王太子の座は堅いと言われています」

 宗教分野でも、政治分野でもバランス良く支持を得てるみたいだな。

「その王太子がメディシノを探してる理由は?」

「争いの火種を作りたくないと言うところでしょうか。教皇主義に捕まれば悪魔として殺される可能性がありますし、聖典主義の手に渡れば聖女として祭り上げられることになります。どちらの手に渡っても、教皇主義と聖典主義の対立に拍車をかけることになりかねませんから」

 だから、女学院に隔離して隠すつもりだった?

 だから、冒険者の俺に保護されるならそれでも構わないと思ってる?

 何か引っかかるんだよな……。

「なんで、あんな嘘を吐いたんだと思う?」

「嘘?」

「あいつは最初から俺の正体に気付いてたのに、手紙を出すまで気づかないふりを続けてただろ」

「気づいていた?何故、そう思うんですか?」

「マリーはあいつに、皇太子近衛騎士のリリーと、医者のクロエと旅をしてるって説明してたんじゃないのか?」

「その通りですが……」

「だったら、なんであいつは、マリーと同格以上の皇太子近衛騎士に対して王太子だって名乗らなかったんだ。王太子だってことを言わなかったのは、俺にばれたくないか、俺を試してたからだろ」

 俺があの場でハルトが王族であると気づけなければ、あの後、変装を解いた状態で、もう一度ハルトと会うことになっていた。

 つまり、変装中の姿と変装を解いた時の姿の両方を晒すことになっていたのだ。

「最初から気づけた要素があったとは思えませんが」

「確信を持っていたかは知らないけど、推測は充分に出来たはずだ」

 俺が変装して歩いているって話しはギルドマスターからも聞いているはずだし、ラングリオンを活動拠点にしてる俺が、マリーと同じタイミングでクエスタニアに現れたことを考えれば、俺がマリーの同行者である可能性に辿り着ける。

「それに……」

―吸血鬼種とは会ったことがないので。

「あいつは俺の瞳を見ても驚かなかった。以前、吸血鬼種と会ったことがあるはずなんだ。なのに、メディシノ探しの目的は、会ったことがないから会いたかった、なんて言っただろ?」

「黄昏の魔法使いはブラッドアイで有名だから、驚かなかっただけでは?」

「頭で知ってるのと実際に見るのとじゃ違う。お前は、初めてブラッドアイを見た時に嫌悪感を抱かなかったって言えるか?」

「……いいえ」

「それが普通だ」

 何の反応もしないなんてあり得ない。

 特に、ここは神聖王国なんだから。

「王太子の話しは、どこまで信用して良いかわからない。ローグの推測が正しければ、あいつは教皇主義にも聖典主義にもメディシノを渡す気はないんだぞ。メディシノは国を分裂させかねない邪魔な存在だって考えてる。密かに見つけ出して消したいって言うのが本音なんじゃないのか?」

 女学院に入れて支援するなんて言ってるけど。

 一度入れば、中の様子を知る方法はない。

「随分疑っているみたいですが。そこまで王太子に不審を抱く理由は何ですか?」

「あいつの評判が、温厚だから」

「え?」

「俺は、アレクが貴族連中から信用を得る為にどれだけ努力して来たか知ってる。王位なんて、綺麗ごとだけやってて継げるような甘い世界じゃないんだ。宗教が絡んでくる神聖王国なら特にそうだろ?なのに、あいつは十分周囲から支持を得ている。冒険者なんていつでも捨てられる相手に本音を話すとは考えられない」

 だから、どうしても。目的が別の場所にあるように思えてしまう。

 考え過ぎであって欲しいとは思うけど。

 クララを預けられない相手に違いはない。

 


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