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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
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102 依頼

 二人と別れて、リリーと一緒に冒険者ギルドへ。

「仕事を探しに来たの?」

 そんなわけないけど。

「そんなところ」

 情報を探すなら、まずはギルドだから。

 やっぱり、ここでも亜精霊討伐依頼が結構出てるみたいだな。

「エル、これ」

 リリーが依頼書の一つを指す。

「吸血鬼捜索依頼?」

 性別、容姿は不明。人数も不明だが、単独犯の可能性が高い。

 夜間に出没。施錠されていない屋内への侵入も確認。

 被害者は後ろからいきなり襲われ、気絶。発見時には左右どちらかの首筋に浅い傷跡を残している。

 傷は気絶後に付けられたものであり、他の外傷は見当たらない為、気絶の原因は薬物か魔法によるものと考えられる。

 現在、死者の報告は無し。

 身柄確保、情報提供者には懸賞金。

 ……って言っても、額が低い上に死体に払われる懸賞金は無しか。しかも、身柄の引き渡し先は冒険者ギルド?

 変な依頼だな。

 依頼書を剥がしてギルドマスターの所に持って行く。

「吸血鬼なら黒髪にブラッドアイだろ」

「おいおい。決めつけてかかるな。被害者は全員後ろから襲われていて、犯人を見た奴は居ない。事件自体が吸血鬼種への嫌がらせの可能性が高いから、慎重に動いてるんだよ」

「引き渡しが死体じゃ駄目な理由は?」

「お前みたいに早とちりした奴が吸血鬼種狩りをするのを防ぐ為だ」

 ちゃんと配慮してるってわけか。

「最初の被害者が出たのは?」

「依頼を受ける気か?」

「考えてから決める」

「三日前の夜だ」

 収穫祭後。休み明けの十九日。

「主な出没エリアと被害者の層は?」

「市街地だ。狙われてるのは一般市民が中心で、貧困区と富裕区には出てない。うちに届いてる情報はこれだけだ」

 王都市街地の地図。

 十九日と二十日は西部、二十一日は東部を中心に被害が出てるのか。

 人通りの少ない深夜とはいえ、裏路地に限らず大通りにも現れてるみたいだな。

「王都の兵士は何やってるんだ?」

「捜索に当たる人員はそんなに多くないんだよ」

 吸血鬼なんて仰々しい名前がついてる割りには大した事件じゃないからな。これ。

 依頼書を弾く。

「愉快犯なんて追い掛け回しても金にならないな」

 マスターが肩をすくめる。

「だろうな。うちに回ってくるような依頼じゃない」

 警備の厳しい富裕区にも、危険な貧困区にも現れていないんだ。安全圏で騒ぎを起こしているだけの愉快犯。最初にマスターが言ってた通り、吸血鬼種への嫌がらせ目的と見て良い案件だ。

 ……でも。

「他にも聞きたいことがあるんだけど」

「なんだ?」

「ここではラングリオンで流行ったって病は流行ってないのか?」

「そんなの、旅してきたならわかるだろ?」

「対応なんて都市によってばらばらだろ」

 都市国家だった名残で、クエスタニアは都市ごとの自治権が大きい。

「まぁ、聖典主義の金持ちの都市が一番良いって話しだからな」

 加えて、宗教上の問題が大きいこの病は、聖典主義が強い都市と教皇主義が強い都市で対応に大きな差が出るのは当たり前。

「王都ではどうなんだ?」

「一時期は増えたって話しだが、今は落ち着いてるぜ。感染者はすべて教会か貧困区に隔離されている」

「貧困区に?そんな不衛生な場所に隔離したら、感染者が増えるだけだろ」

「隔離施設があるんだよ。教会で保護されたなら身内に看取ってもらえるが、それ以外は合同葬儀ですぐに焼却される」

 グランツシルト教は火葬が一般的って聞いてたけど。

「火葬施設は貧困区の方にあるのか」

「あぁ。南西の方だ」

「隔離された奴のその後は?」

「治った奴は戻ってるみたいだぜ」

 自然治癒は不可能な病なのに?

「治療を受けてるってことか?」

「まさか。治療薬の情報は国にも都市にも提供済みだが、この国で治療を受けようと思うなら相当な金が必要だ」

 薬代が高いってのは神官も言ってたな。教会ですら薬が回ってこないのに、貧困区の隔離施設で治療を受けているとは考えられない。

 そんな患者が回復している事に加えて、王都で病の流行が下火になっている事を考えると……。

「あんた、どっから来たんだ?」

「冒険者にそれを聞くのか?」

「この国の奴じゃないなら、輸血って方法を知ってても良いと思ってな」

「輸血?」

「延命措置らしい。詳しく知りたかったら魔術師ギルドで聞きな」

 輸血の知識は、冒険者ギルドには出回ってない情報なのか。……当たり前だよな。ラングリオンでも一般的な方法として確立されてないんだし。

「この国の奴はやらない方法なのか?」

「やるわけないだろ。血を抜き取って別の人間に与えるって話しだぞ」

 事実とはいえ。その表現はグランツシルト教徒から嫌われるだろう。

「仕事を探しに来たんだろ?ギルド証を出せ。見合った仕事を紹介してやる」

「さっきの仕事の依頼元は?」

「国だよ」

「発信者を聞いてるんだよ」

「そんなもん聞いてどうする」

 言えない相手なのか。

 こんな緊急性の低い事件に懸賞金をかけてまで情報を集めている事と、身柄の引き渡し先を国家機関じゃなく冒険者ギルドに指定していることを踏まえれば、個人で依頼を出している可能性が高い。

「教えて」

 ギルド証を見せる。

「お前、なんでこんなところに」

「どうでも良いだろ」

「こんなの、お前が受けるようなレベルの仕事じゃないぞ」

 素人でも受けられる依頼になってるからな。

「事と次第によっちゃ、素人には任せられない仕事なんじゃないのか」

「何を知ってる」

「俺が探してる相手と同じ可能性が高いんだ。保護目的で探してるなら依頼を受けてやっても良い。逆なら引き受けない」

「……耳を貸せ」

 マスターが声を潜める。

「依頼主は聖典主義の王族だ」

 誰とは言えないのか。

「受ける」

 王妃が聖典主義者だし、王族に聖典主義者が居る可能性は高い。

 聖典主義なら、この依頼の目的は保護だろう。

「依頼受諾者の情報は依頼主に渡すぞ」

「良いよ。その代り、身柄の引き渡し時は必ず立ち合うって伝えてくれ」

 依頼書にサインをする。

「その注文が通るとは限らないぞ」

「通らないなら依頼を破棄するだけだ」

「信用を落とすような真似はしないでくれ」

「だったら、交渉は頼むぜ」

 マスターがため息を吐く。

「身柄引き渡しには必ず応じろよ」

 保護の目的次第だけど。

―この国にはこの国のやり方がある。

「了解」

 後は本人の意思次第だろう。

「二日以内に一度連絡に来る。……ん?」

 居ない。

 どこに行った?

『リリーなら、あっちに居るよー』

 居た。

 テーブル席でラガーを飲んでいる冒険者の横にリリーが座ってる。

 また絡まれてるのか。

「リリー」

「あ、エル」

 側に行くと、リリーが暢気に顔を上げる。

『エトワールのメンバーだ』

 エトワールの?

「よぉ。仲間を探してるなら付き合ってやるぜ」

 襟の内側にブローチを付けてる。

 試してみるか。

「夜」

 相手が笑う。

「おいおい。今日は休みじゃないぜ」

 休みじゃない?

 そういえば、あの日はバロンスの八日で休日だったっけ。この合言葉は休日に使われるものだったのか。

「仲間は探してないけど依頼ならある。俺の代わりに護衛してもらいたい相手がいるんだ。期間は今日の夕方から明日の昼まで。場合によっては伸びる可能性もある。出来るか?」

「随分急な話だな」

 エトワールのメンバーなら安心して頼めるんだけど。

「まぁ、引き受けてやっても良いぜ」

 良かった。

「依頼はギルドを通じて出しておく。報酬は高めにしておくから、仲間を雇っても良い。危険があれば別に手当も出す」

「は?護衛対象は誰だよ」

「マリアンヌと、ローズって名乗ってる赤髪の騎士」

「騎士も護衛の対象なのか?」

「そうだよ。護衛の方法はローズと相談してくれ。今、ローズ宛の手紙を書く」

 マリーがまた怒りそうだけど、仕方ない。

 手紙は闇の魔法で封をしておけば、どっちかが開くだろう。


 手紙を預けてギルドに依頼を出し、リリーと一緒に外に出る。

「あのね」

「ん?」

「エルのギルド証を見ても良い?」

 ギルド証?

「良いけど」

 リリーにギルド証を渡す。

 正式な名称は冒険者ギルド登録証。

 なんでこんなものを……。

「ランクが書いてない」

 書いてないわけじゃないんだけど。

「ギルド証なんて大した情報は載ってないんだよ」

 リリーから取り上げたギルド証をしまう。

 さっきの奴と、ランクの話しなんてしてたのか?

 ランクとはギルドにおける信用の度合いを示すもの。

 高ランクだと色々便利なことも多い。

―依頼主は聖典主義の王族だ。

 こういった情報は、低ランクの冒険者には教えない内容だ。

 さてと。

「魔術師ギルドで買い物をしたら、この辺りに宿を取る」

「この辺りに?」

 富裕区に出没しないことは解りきってるんだし、この辺を拠点にした方が楽だろう。

「戻らないってこと?」

 根城としてる場所の予想はつくけど、ギルドに依頼を出した奴も探し出せてないんだ。今から夜まで探し続けるよりは、動き回ってることが明らかな夜間を狙った方が良い。

 


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