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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
84/149

92 永遠の都

 眩しい。

「晴れてる……」

 久しぶりに陽射しを見た。雲一つない良い天気だ。

 ここって一体……。

「懐かしい空気だわぁ」

「そうだな」

「気持ち良いねー」

 え?

「なんで、皆、顕現してるんだ?」

 顕現の許可を出してないのに、皆が顕現した状態で飛んでる。

「本当だわ。どういうことなの?」

「僕、何もしてないのに……?」

 精霊が意識してなくても、顕現する場所?

「ここは太古の空気を色濃く残す場所」

「精霊が本来の姿で居ても、魔力を消費しない場所だ」

 太古の空気……。

 遠くの方でも、色んな精霊が飛んでるのが見える。

 見渡す限り木々や花が生い茂っている自然豊かな場所。

 でも、高い山と言えるものは見当たらない。

 クレアの里って山奥だと思っていたのに。これじゃあ隠れ里って雰囲気はないな。

「あなた、本当に平気なの?」

「あぁ」

 何の違和感もないけど。

「オイラが守ってるからねー」

 ジオが頭の上に座ってる。

「大気の精霊?この子、あなたと契約している精霊なの?」

「俺の周りに居るのは、みんなそうだよ」

「こんなにたくさんの精霊が味方しているなんて……」

「ジオ、魔法を使い続けて平気なのか?」

「こんなのは魔力を消費することじゃないよー。オイラは大気の精霊だからねー。エルの周りの空気を、地上と同じに変えてるだけだよー」

 あれ?それじゃあ、もしかして。

「ヴェラチュールが世界を雲で覆うことも、そんなに難しいことじゃないのか?」

「そうじゃないかなー」

「雨を降らせたり、槍を降らせたりするのには魔力を使うでしょうけどねぇ」

 世界を雲で覆う分には、大した力も必要ないってことか。

 いや。ここは雲で覆われてないんだっけ。

「イレーヌ、ここって世界のどの辺なんだ?」

 周りに何も見えないし、オービュミル大陸だと思えないんだけど。

「前にも言ったでしょう。ここは、地上から切り離されたクレアの最後の土地よ」

「俺が聞いてるのは地理的な……」

「イレーヌ。おかえり」

 声が聞こえて、振り返る。

「ルネ。迎えに来てくれたの?」

「客が来たみたいだからな」

 金髪に、菫の瞳……。

「ごめんなさい、勝手に連れてきてしまって」

「別に謝ることじゃないぜ。イザヴェラに用があるんだろ?そいつは俺が預かるから、行って来な」

「イザヴェラ?」

「長老よ。……エルロック、また後でね」

「あぁ」

 イレーヌを見送って菫の瞳を見上げると、相手が笑う。

「本当にレイリスにそっくりだな。お前」

 レイリスのことを知ってる。

「月の大精霊?」

「そうだよ。俺の名前はルネ」

「俺はエルロック」

「それ、レイリスがつけたのか?」

 俺の名前を付けたのが誰かなんて知らないけど。

「なんで?」

「何の用でここに来たんだ?」

「別に、用なんてないけど」

 ルネが笑う。

「何の用もなくここに来たって言うのかよ。下は大変なことになってるんだろ?」

「下?……ここって、山の上なのか?」

 雲より高い位置にある場所だから晴れてる?

 でも、気温が寒冷な感じはしないよな。むしろ今の王都より過ごしやすい暖かさを保ってる。

「まだ、ここがどこだかわかってないのか」

「オービュミル大陸じゃなさそうだけど……」

「お前、俺の魔法で飛んでも平気だよな?」

「月の魔法なら平気」

「じゃあ、ちょっと来い」

 ルネが俺を抱えて、空を飛ぶ。

「エル!」

「待ってよぉ」

 皆が後からついて来る。

「どこに行くんだよ」

「高いところから見れば一目瞭然だからな」

 山脈ならこの位置から別の山が見えないのが変だよな。

 一つだけ山が飛びぬけているような場所?

 そんな場所、あるか?

 地上からどんどん離れていって、その地平線が……。

 欠けた。

「え?」

 大地の下にあるのは、太陽の光を受けた白い海。

「あれって何?」

「雲だよー」

「雲……」

「私たち、雲の上に来てたのね」

 見渡す限り一面の雲海の中で、まるで切り取られたかのような大地が存在している。

 ……不自然過ぎる景色。

「良い景色だろ」

「あ!あれってドラゴンじゃない?」

「本当だ」

 ルーベル、ウィリデ、ニゲルと、紫の小さなドラゴンが居る。

「あれがフィカス?」

「良く知ってるな。あの辺にあるのが集落で、あっちが葡萄園。横にあるのが、」

「ワインの蔵?」

「正解」

 ロマーノ・ベリルを作っている場所。

 温暖な地域でしか作ることのできない葡萄が、気温の低い山頂で栽培できるわけなんてない。

 っていうか、こんな雲を突き抜ける高さの山が知られていないわけ……。

―ここは、地上から切り離されたクレアの最後の土地よ。

 地上から?

 確かヴィエルジュが言ってた地上って……。

―あの雲に至る範囲までは、アンシェラートの影響下にあると考えて良い。

 ……まさか。

「ここって、空に浮いてるのか?」

「正解」

 ルネが微笑む。

「浮遊大陸ロマーノ。古代の空気を残す、クレア最後の土地だ」

 浮遊大陸……。

「何処に浮いてるんだ?」

 ルネがゆっくり下降する。

「セントオの真上」

 ラングリオンの上?

「見たことがない」

「当たり前だろ。下から見ることはできないようになってるからな」

「こんなに広い土地が?」

「月の渓谷の光を見たことは?」

「あるけど……」

 レイリスが月の女神に月の花を願う時。月の渓谷の上では、月の石が青白く光り、その光が月に向かって昇って行く。

「それと同じ仕掛けだ」

 でも、それは下からは絶対に見ることが出来ないようになっているらしい。

 実際に、俺もその光景を見たのは月の渓谷の上だけだった。

「この大陸の下は月の石で覆われてるんだよ」

 ルネと一緒に、魔法陣の近くに着地する。

 ラングリオンの上に、こんなに広い土地が浮いてたなんて……。

「さてと。お前に頼みがあるんだ」

「頼み?」

「棺の封印を解いてくれ」

「は?何言ってるんだよ。俺が出来るわけ……」

「出来るんだよ」

 出来る?

 封印魔法は、対になる精霊の力でしか解くことが出来ないはずだ。

 転移の魔法陣を見下ろす。

 この魔法陣を描いたのは……。

 頭の中で魔法陣の図柄をずらす。

「なんだ?この記号」

「記号?」

 メモ用紙を出して、記号を描く。

「これ」

「良く知ってるな」

「……わからないから聞いてるんだけど」

「なんで、自分で描いておいてわからないんだよ」

「魔法陣から読み取っただけ」

「読み取った?」

 話がかみ合わない。

「なんで魔法陣の構造を知らないんだよ」

「知るわけないだろ」

「セントオの封印の棺を封印したのはルネなんだろ?」

 あれを封印したのはレイリス以外の月の大精霊だ。

「そうだけど。魔法陣を描いたのは人間だぜ」

「人間?」

「これが精霊の描いた魔法陣のわけないだろ」

 それは、俺も思ってたことなんだけど。

 精霊がこんな複雑な加工をするわけないって。

 これ、人間が作ったものだったのか。

「人間が描いた魔法陣を、大精霊が封印に使った?」

「精霊ばかりとは限らないぜ。これはクレアを表す記号だ」

「クレア?クレアが、この魔法陣で封印の棺を封印してるのか?」

「そうだよ」

「だって、クレアは精霊と契約できないんだろ?なんで封印魔法を使えるんだ」

「巫女は魔法を使える。神によって卵から孵された人間は、神の力を持って生まれてくるんだぜ」

 神の力?

「じゃあ、ヴェラチュールも?」

「それはあいつの名前じゃないぞ」

「ヴェラチュールって呼べって言ってたけど」

「その言葉の意味は、人間の神。呼ぶだけで、あいつを神さまって認めてるようなもんだ」

「冗談じゃない。本当の名前は?」

「忘れた」

「……なんだそれ」

「良いから封印を解けよ」

 クレアが封印したってことは。

「解けるのはブラッド?」

「ブラッドの男だな」

 クレアは女しか居ないからか。

「でも、そんなことをすれば転移の魔法陣が使えなくなるし、あいつが中身を持って行きかねないだろ」

「逆だ。その危険があるから、俺が封印し直すんだよ。ここもブラッドが簡単に入り込める土地になったからな」

 確かに。

 ここはブラッドが入り込めない土地だから、魔法陣は安全だったのだろうけど。

 俺が来たことで、大気の精霊や風の精霊の助力を得られる魔法使いは、クレアの土地に入った所で死ぬことはないって証明されてしまったから。

 悪意を持ってこの土地に入る人間が居たら、簡単に封印が解かれてしまうだろう。

「わかった。協力するよ」

 実質、誰でも解けるような封印なんて、封印の意味がない。精霊が封印し直した方が良いだろう。

「封印解除の呪文を唱えるだけで良いのか?」

「呪文?……あぁ、何でも良いぜ」

 呪文を使わなくても良い?

 そういえば、レイリスもそんなようなこと言ってたよな。

―言葉とは意思を表す。

―抗おうという意思を明確に提示することで、自分にかけられている魔法に打ち勝つんだ。

 魔法は基本的に呪文なんて必要ないものだ。

 でも、この場合は言葉を使った方がイメージしやすくて楽だろう。

 転移の魔法陣の上に立つ。

「スタンピタ・ディスペーリ」

 封印、解除。

 地面の魔法陣が光り輝き、文字が浮かび上がる。

 そして、正しい配列に形を変えると、眩しい光を放って……。

 消えた。

「これで封印が解かれたのか?」

「あっさりしてるわねぇ」

 魔力を奪われた感じも全然しなかったけど。

「魔法陣が消えたんだから封印は解かれてる。……ついて来い。あの祠の中に封印の棺があるはずだ」


 石で出来た小さな建物。

 ひんやりとした建物の中には、周囲に赤いロープが張られた棺がある。

「あそこにあるはずなんだけど」

 ルネが棺を指す。

「あるよ」

 あの棺は、精霊には見えないんだっけ。だからロープで区切ってあるのか。

「どうやって封印するんだ?」

「これを棺の上に置いてくれ」

 ルネが金色の宝石を出す。

「精霊玉?」

「目印にするんだよ」

 ルネの精霊玉を、封印の棺の上に置く。

「あれは見える?」

「見えるよ。それに、精霊玉の位置なら何処からでも探せる」

 精霊玉の特徴。俺も、ある程度の距離ならリリーの位置がわかるからな。

「でも、精霊の力で出来てるものは、ほっとくと棺に吸収されるんだ。……早く封印するぞ」


 さっきの場所に戻ると、ルネが転移の魔法陣を描く。

「知らないって言ってたのに、なんで描けるんだ?」

「図柄はあいつから聞いてるんだよ。……いずれ、俺の力で封印し直さなければならない時が来るかもしれないからって」

 内容がわからなくても、図柄はそのまま覚えてたのか。

「あいつって?」

 この魔法陣の制作者は……。

「死んだ人間の話しなんてしても仕方ないだろ?エル」

 そうだよな。

 人間なら、もう生きてるわけないか。

「ここに、永久の封印を」


 魔法陣が黄金に輝き、その黄金の光が祠の中に向かう。


「……こんなもんだろ」

 思ったよりもあっさりしてるな。

「祠に行くぞ」

 ルネと一緒に、祠を目指して歩く。

「これでしばらくは安泰だろ」

「しばらく?ずっとじゃなく?」

「人間は何をするかわからないからな。魔法陣の内容も解明するぐらいだ。いずれ、精霊の力を頼らずに封印を解除する方法を編み出しても不思議じゃない」

 不思議じゃない、か。

 確かにそうかもしれない。

 ここにブラッドが来ることだって、クレアにとっては想定外のことだったんだ。

「まぁ、俺の封印を解けるのは太陽の大精霊だけ。あいつも、あの馬鹿な男の為に封印を解いたりはしないだろ」

「太陽の大精霊を知ってるのか?」

「大昔に俺が月から来たように、太陽からも大精霊が来てるからな」

 ルネが透き通った宝石を一つ俺に見せる。

「これが、そいつの精霊玉」

「綺麗」

 リリーが喜びそうだ。

「貰って良い?」

「だめに決まってるだろ。これがないと、あいつが死んだかどうかわからないんだから」

 そういえば、大精霊が消えると精霊玉はただの宝石になるんだっけ。

「太陽の大精霊って一人しか居ないのか?」

「俺がここに来てから、外部から地上に来たのはレイリスだけだ」

 月から来たルネ、レイリスと、太陽から来た太陽の大精霊が一人だけ。

 ルネと一緒に、封印の棺のある祠の中へ入る。

「棺に乗ってる精霊玉なら、お前にやっても良いぜ」

 祠の中の封印の棺から、精霊玉を取る。

「これがある場所なら、どこでも封印魔法を使える?」

「おい。地上の棺の封印を片っ端から俺にやらせる気か?」

 それが、今考えられる中で一番安全な方法だと思うけど。

「竜の山にあった棺が、ラングリオンの王都にあるんだ」

「王都?……なんだ。あいつ、封印の棺を回収し損ねたのか」

 ルネが笑ってる。

 レイリスと同じこと言ってるな。

「今、その棺は封印されてないから……」

「封印ぐらい、お前がやれば良いだろ」

「え?」

「封印の仕方、見てただろ?お前が持ってる月の力で封印すれば良い話しだ」

「封印って、大精霊じゃなくても出来るのか?」

「普通の人間じゃ無理だろうけど。月の花を咲かせられるんだから、お前にも出来るだろ」

「なんで知ってるんだよ」

 俺が月の花を咲かせたこと。

「雲に穴開けて月の女神に願っただろ。ここからも良く見えたぜ」

 そっか。

 ここはラングリオンの上に浮いてるんだから、見えてたのか。

「ルネ、エルロック。ここに居たの?」

「イレーヌ」

「イザヴェラ。彼がエルロックよ」

 イレーヌの隣に居るのが長老のイザヴェラか。

 クレアは本当にみんな同じ髪の色と瞳の色なんだな。

 でもって、実年齢が不明だ。皆、同じ年ぐらいに見える。

「こんにちは」

「こんにちは。私はイザヴェラだ。……勇者よ。里の代表としてお前を歓迎しよう」

「勇者って何だよ」

「私が巫女と呼ばれるように、大精霊によって生まれた人間はそう呼ぶ習わしだ」

「なんで俺のことを知ってるんだ」

「お前がここに来る可能性があると、ポラリスが言っていた」

 あの占い師。ここにも出入りしてたのか。

「少し話をしておこう。地上とこの土地の行き来には、必ずタリスマンを使わなければならない」

「これに何か特殊な力でもあるのか?」

「地上における転移の魔法陣の使用は、アンシェラートの保護が得られるだろう」

「あぁ」

 ヴィエルジュが言ってたな。

「しかし、ここは地上から切り離された土地。アンシェラートではなく、月の女神の守護を受けることになる。月の力は人間に祝福を与えるばかりではなく、悪影響をもたらす場合もある。月の女神の祝福だけを得る為にも、タリスマンによる守りが必要だ」

「タリスマンなしで使ったらどうなるんだ?」

「運が良ければ無事に転移してくる。悪ければ亜精霊と化すだろう」

 やっぱり、転移の魔法陣で失敗すると亜精霊化するのか。

「クレアでもタリスマンを持たずに転移する者は亜精霊化の危険が伴い、ブラッド化した者は二度と里には帰れない。……お前は、ただの人間。気を付けることだ」

 ただの人間、か。

「随分、ブラッドに優しいじゃないか」

「客人を持て成すのは礼儀だ。クレアもまた、ブラッドに客人として持て成されているのだから」

 ブラッドに対して警戒はしていても、完全に敵視してるわけじゃなさそうだな。

「また来ても良いか?」

「歓迎しよう」

「ん」

 まだまだ気になることはあるけど、それは時間のある時にしよう。

「イレーヌ、行こうぜ」

「えぇ」

「ちょっと待て。こいつを連れて行け」

 ルネの近くに飛んでいた精霊が傍に来る。

「月の精霊のマーニだ。アレクシスの傍に置いておけ。あいつに死なれると困るし、連絡係にもなる」

「わかった」

 さて。帰るとするか。


 ※


 転移の魔法陣を使って、遺跡の魔法陣を経て王都に戻る。

「カミーユ。まだ居たのか」

 魔法部隊の宿舎のロビーで、カミーユが魔法陣を描いてる。

「あれを封印し直す為の魔法陣を描いてたんだよ」

「おぉ」

 丁度良かった。

「エルロック、カミーユ。私はエレインの所に戻るわ」

「あぁ、気を付けてな」

 イレーヌがロビーを出るのを見送って、カミーユの傍に行く。

「ほとんど出来上がってる」

「対応する精霊の記号を描く場所はまだ描いてないけどな」

「月の記号を描いてくれ」

「月の記号?……月の大精霊でも呼べるのか?」

「俺が封印する」

「は?お前、出来るのか?」

「出来る」

 でも、棺の場所がわからないとできないんだよな。

「レティシアは?」

「仕事で出て行ったぜ」

「カミーユ、封印の棺をロビーに持って来るのを手伝ってくれ」

「封印って、近くにないとできないのか?」

「場所がわからないと無理。……地下室の鍵を取って来る」

「お前、魔法部隊でもないのに勝手なことして良いのか?」

「良いんだよ」

 ある場所は知ってるから。

 いつもレティシアが使ってる机の中。

 ちゃんと隠しておかない方が悪い。


 カミーユと一緒に、封印の棺を地下室からロビーまで運ぶ。

 思った以上に軽いな。キャロルよりも軽いかもしれない。

 一人で運ぶには持ちにくいから、誰かと一緒じゃないと難しいけど。

『エル、何か持ってるの?』

『近づかない方が良い』

『契約中の精霊は大丈夫だって話しだけどねぇ』

 アレクが言ってたな。でも、精霊にとって危険なものに違いはないだろう。

 ルネだって近寄らなかったぐらいだから。

「ここで良いか?」

「あぁ」

 魔法陣の横に封印の棺を置く。

 さてと。

 どうせ、開けることなんて考えなくて良いんだから、思いっきり魔力を込めて良いだろう。

「封印が終わるまで近づくなよ」

「了解」

 カミーユが玄関扉の方に行ったのを確認してから、新しい魔法陣の上に立つ。

 対象は、目の前の封印の棺。

 魔法陣に魔力を流し込む。

 ……レイリスから教わった封印魔法。まさか、月の力で実践することになるとは思わなかったな。

「ここに、永久の封印を」


 魔法陣が黄金に輝き、魔法陣から放たれた光が封印の棺を包む。


 力が奪われるような感覚。

 これ。必要な魔力量が最初から決まってるんじゃないのか?

 やばいな。かなり持って行かれる……。


 ようやく光が止んで、地面に膝を突く。

「エル!」

 走ってきたカミーユが、俺の体を支える。

「大丈夫か?」

「ん……。気を失うほどじゃないから平気」

「平気じゃないだろ。少し休んでろ」

「アレクの所で休むから良いよ。この棺、地下に運んでおいてくれ」

「良いけど。本当に封印されてるのか?これ」

 見た目には変わらないからな。

「転移の魔法陣が使えるようになってれば、ちゃんと封印されてるってことだ」

「呪文はナイリで変わらないのか?」

「変わらない。試して来るから……」

「これ以上無理するな。俺が試して来るから、ここで待ってろ。帰れなかったらリリーシアちゃんの名前は借りるぜ」

「わかったよ」

 魔法陣から離れると、カミーユが転移の魔法陣の中央に立つ。

「スタンピタ・ディスペーリ・セントオ・メタスタード」

 魔法陣が光って、カミーユの姿が消える。

 っていうか。ここに魔法陣を描いたら、クレアはここしか使えなくなるな。

 ……まぁ、もう少し他のことが落ち着いてから考えれば良いか。この魔法陣なら、クレアも魔法使いに頼らずに使えるんだし。

『カミーユってぇ。どぉしてエルが月の魔法を使えることを不思議に思わないのかしらねぇ』

「カミーユだからだろ」

『そうだな』

 昔から、そうだから。

 目の前の転移の魔法陣が光って、カミーユが現れる。

「成功だな」

「当たり前だろ」

 カミーユが肩をすくめる。

「はいはい。わかってるって」

 


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