90 あなたに手を伸ばす
「あら。エルじゃない」
「どぉして、あなたがここに来るのよ!」
「こら。失礼な言い方をするものじゃないよ」
「マリー、話があるんだけど」
「区切りの良いところまで待ってくれない?」
マリー、アリシア、メルリシアが、本の散らばった机に向かってる。メルリシアの横に居たフィオが軽く頭を下げた。メイドも何人か部屋に居る。
「本当に勉強会をしてたのか」
「あなたには関係ないでしょ。それより、」
「うるさいのが一人居ないみたいだけど」
「ポリーは冒険者ギルドだ。亜精霊討伐の依頼が山ほど来てるらしいからな」
「……確かに」
王都の周辺にも出てるみたいだし、討伐依頼は増えてそうだな。
「ちょっと!聞きなさい!リリーはどこに居るの!」
「知らないよ。ガラハドの家に居るんじゃないか?会いたいならマリーに頼んで呼んでもらえ」
その方が居場所が把握しやすいし、ここに居れば安全だろう。
「マリー、お願いできる?」
「もちろんよ。リリーのことだから、きっとお菓子を焼いてくれるんじゃないかしら」
「それってすごく楽しみかも!せっかくだから、ガレットデリュヌが食べたいな」
「それは年明けを祝う菓子じゃなかったか?」
「心配ないわ。ラングリオンではいつでも食べられるパイよ」
フェーヴを入れないものなら年中食べるからな。
「星座盤?」
机の上に、何故か星座盤が置いてある。
「魔法の勉強じゃなかったのか?」
「ラングリオンの星座の話しをしていたの。グラシアルとは違うみたいだから」
「あぁ。サンティユモンを天の河って呼ぶんだっけ?」
「良く知っているな」
「リリーから聞いたんだ」
星座の名前も星の名前も、暦と共にラングリオンの呼び方が一般的になってるみたいだけど、国や地方によって呼び方が違うものも多い。
「こう曇っていると、星の鑑賞も出来ないけれど」
「つまんないよ。いつになったら晴れるのかな」
「天気に愚痴を言っても仕方ないだろう」
「そうね。晴れるのを待つしかないわ」
窓の外は相変わらず暗い。
あれ?
「ヴィエルジュの大樹、ここにもあるのか」
「そんな名前なの?あれ」
名前があるかわからないけど。
「いきなり生えてきてびっくりしちゃった。ラングリオンでは良くあることなの?」
「そんなわけあるかよ。空からの攻撃に備えてるだけだ」
どういう基準で生えてるのかわからないけど。この場所が守られてるのは確かだろう。
「……え?」
目の前の大樹の幹が、急に膨らむ。
まさか。
開いた木の洞の中から、ヴィエルジュの御使いと共に、見慣れた黒いツインテールが顔を出す。
『本当、リリーってどこにでも現れるのねぇ』
なんでこう……。
「リリー!」
「メルリシア様、外に出てはいけません!」
「メル!落ちつけ」
部屋の中の俺たちに気付いたリリーが、木の洞の中から手を振る。
「誰か!リリーを玄関まで案内して頂戴!」
マリーが窓を開いて外を見渡すと、衛兵の一人がリリーの傍まで行く。
「迎えに行ってくるわ」
「俺も行く」
「わた……」
「メルは大人しく待っているんだ」
「むぅ」
「マリー、エルロック。リリーを頼んだよ」
「まかせて」
「行くぞ」
マリーと一緒に部屋を出て、玄関に向かう。
「ヴィエルジュ様って、人をあんなふうに運べるの?」
「知るわけないだろ」
そもそも、あれがなんなのか。
―私はヴィエルジュ。
―水の神より生まれた植物の祖にして妖精の女王。
情報はそれだけ。気になることはいくつもあるけど、ヴィエルジュを呼び出したアレクが居ない状態で考えたって仕方ない。
でも、木の洞に居るのは御使いだってロニーが言ってたよな。
だったら、ヴィエルジュは人間の肉体をどこにでも運べる?それってなんだか……。
いや。後で考えよう。
「それよりも。マリー、本当にクエスタニアに嫁ぐ気か?」
「嫁ぐ、ですって?」
「交渉に失敗すれば嫁ぐしかないだろ」
「冗談じゃないわ。失敗を前提に話さないでくれる?王都でやり残したことがたくさんあるのに、どうして知りもしない相手と他所の土地で結婚しなくちゃいけないのよ。勝手に決めないでちょうだい!」
「帰って来れると思ってるのか?」
「当然よ。これは私の仕事なんだから、ほっといて」
『マリー。そんなこと言わないで、エルに協力してもらった方が良いわ』
ナインシェ。
『エル。マリーも不安なのよ。向こうでは頼りに出来る人も全然居ないし、相手がどんなことしてくるかわからないんだもの』
「平気よ。優秀な騎士を連れて行くわ。私一人抱えて逃げるぐらい出来るわよ」
優秀な騎士……。
あれも一応、騎士だよな。
「マリー、一緒に行く人間の人選は俺に任せてくれ」
「そんなの困るわ。個人旅行だから、ユリアとセリーヌに一緒に行こうって頼んでいるんだから」
「却下だ。連れて歩けない」
「どうしてよ」
「遊びに行くんじゃないんだぞ」
「わかってるわ。二人は魔法も使えるし……」
「一人で隣町にも行ったことのない御嬢様を頼りに出来ると思ってるのか。足手まといはごめんだ。他に連れて行くのは?」
「護衛の騎士ぐらいね」
「メイドは?」
「連れて行かないわ。自分の身の回りのことぐらい、自分でできるもの」
意外だな。
「その服、自分で着られるのか」
「馬鹿にしないで頂戴」
「だったら、人選は楽そうだな」
「だーかーらっ!勝手に決めないでって言ってるじゃない。下手なことをすれば外交問題に発展するのよ」
「非公式な訪問に外交問題も何もないだろ」
「あるわよ!」
形としては、旅行中にちょっと寄るだけだ。
「オルロワール家の名に傷をつけるようなことはできないわ」
「マリーが泣かなければ何とかなるんじゃないか」
「失礼ね。泣いたりなんかしないわ」
すぐ怒るか泣くイメージしかないけど。
「だいたい、エルはアレクシス様の主命があるんでしょう?そっちを優先すべきだわ」
騎士でもないのに主命なんて、変な言い方だな。
「アレクからはまだ何も聞いてないんだよ」
「え?出発は明後日よ。大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
『リリーだ』
目の前から、リリーとレオナールが歩いて来る。
なんでレオナールが一緒なんだ?
「エル!マリー!」
「リリー。迎えに来たわ」
「ありがとう」
「エル、久しぶりだね」
「久しぶり、レオナール。……なんでリリーの案内なんてしてるんだ?」
「リリーシアは、僕に用があって来たんだよ。リリーシアが頼めば、ヴィエルジュ様が大樹の移動に協力して下さるみたいだからね」
「大樹の移動?」
「エルは見ていないのかな。メインストリートのあちこちに大樹が生えているんだ」
「は?あんな大きな木が道を塞いでたら、邪魔で仕方がないだろ。良く、今まで切られなかったな」
メインストリートの迂回路は複雑だし。あそこが使えないのは相当不便だ。
「切らないように要請はしていたけれど。時間の問題だっただろうね」
『切ろうとしてた人と残そうとしてた人で、ずっと揉めてたよね』
なんだか想像がつくな。
「マリー、こちらの準備が終わるまで、リリーシアを頼んだよ」
「はい。……リリー、メルリシア姫のところに行きましょう」
「うん」
「俺はヴィエルジュのところに行ってくる」
リリーを運んだこととか、聞きたいこともあるし。
「エル」
「ん?」
「あの……。今度はいつ帰って来るの?」
……いつ?
「また、しばらく忙しそうなんだ」
神聖王国に黒髪のリリーを連れて行くわけにはいかない。
「わかった。無理しないでね」
「あぁ」
「リリー、行くわよ」
「うん」
リリーとマリーを見送る。
「家族が心配じゃないのかい」
「……心配だよ」
ガラハドの家に居るなら、大丈夫だと思うけど。
「エンドに亜精霊が出没すると言う話しは?」
「エンドって……、王都の城壁の内側に?」
「そう。地震で街を覆う城壁の一部が崩れているんだ。復旧作業は今日から始まっているけれど、亜精霊がどれぐらい侵入しているかは未確認。報告されているのは危険性の低い亜精霊ばかりだけど、積極的に人間を襲うらしいよ」
報告書で見た通り。普段は大人しい亜精霊も攻撃的になってるのか。
「怪我人は?」
「ルイスとキャロル、リリーシアが、昨日、エンドに行って怪我人の治療を行ったそうだよ」
「あの馬鹿……」
危ないって言うのに。
「それは自分に言っているのかな」
「?」
「子供は親に似るって言うからね」
……俺のせいなのか?
「リリーシアが居るなら亜精霊が現れても平気だろうけど。クエスタニアに行く前に顔を見せたらどうかな」
「わかったよ」
今日はガラハドの家に行こう。
「ヴィエルジュの移動先は、すぐに検討できそうなのか?」
「問題ないよ。移動が必要なのはメインストリートだけなんだ」
レオナールが王都の地図を開く。
「これが、現在の大樹の場所」
地図上の印が付いている場所。
「案外、良心的な場所に生えてるんだな」
メインストリート以外は、広場として使われている場所ばかりだ。
「逆だと思うよ」
「逆?」
「リリーシアの話しでは、一つの大樹でカバーできる範囲はオルロワール家の敷地程度。ヴィエルジュ様は、古い時代にも王都を救われたことがあるんじゃないかな。その時にいらっしゃった場所が都市計画に反映されて、広場やメインストリートとして残っているんだよ」
地図上で左右対称に存在する礼拝堂や広場。
それは、ヴィエルジュが一度にカバーできる範囲とも似通っている気がする。メインストリートも含めて、最初から建物が作られないよう、つまり、ヴィエルジュが大樹を生やすスペースを残すよう、配慮されてたってことか。
「そうだ。一つ困っていることがあったんだ」
「なんだ?」
「エルは、ムラサメがどこに住んでいるか知らないかい」
「知ってるよ」
「良かった。ムラサメは剣術大会の上位入賞者だからね。閉会式が中止になって渡せなかった褒美を届けたかったんだ」
決勝戦の参加者には、例年、陛下から褒美が与えられるからな。
昨日予定されていた閉会式は中止。優勝者がリリーってことだけが公布されていたはずだ。
「ムラサメなら、アヤスギの家に居るはずだ」
「アヤスギ?」
「ポラリスの家跡に店を構えてる……」
「あぁ、包丁で有名な?」
「違う。マリーがなんて言って広めてるか知らないけど、あいつは刀鍛冶だぞ。ムラサメと俺が大会で使った刀もあいつの作品だ」
レオナールが笑う。
「それは失礼。マリーにも言っておかなければね」
その内、包丁の制作が本業になるんじゃないか?あいつ。
※
屋敷を出て、ヴィエルジュの大樹の傍に行く。
幹が膨らんでるってことは、まだ中に居そうだな。
「ヴィエルジュ」
声をかけると、扉のように開いた洞の中に女性が現れる。
「エルロックか。移動先は決まったのか?」
「まだ検討中。ちょっと聞きたいことがあるんだ。リリーをどうやってここまで運んだんだ?」
「根で繋がれた大樹はすべて私の体。どこへでも体内のものを移動させることは可能だ」
「そんなわけあるかよ」
「理論的には、転移の魔法陣と同じ。それで説明がつくだろう」
転移の魔法陣を知ってる。
やっぱり同じ原理なのか?
でも。
「説明つかないんだ。転移の魔法陣には、人間を精霊に近づけ、それを元通りにさせる為の情報があらかじめ書き込まれているはずだ」
「それが何の力だと思っている」
「え?」
何の力?
「お前は私についてどれぐらい知っている?」
何か関係がある?
「ヴィエルジュのことは何も知らない。妖精の女王の癖に、妖精を作れないってことしか。……後、神でもないのに御使いを持ってることか?」
「神でもないのに御使いを持っている男なら居るだろう」
「ヴェラチュール?」
「そう。私はあれと同じ。神の力を持っている」
それを言ったら、神から生まれた大精霊は全員、神の力を持ってることになるんだけど。
でも、精霊は自分を生んだ神以外から助力は受けられない。
「ヴィエルジュを生んだのは水の神って言ってたよな」
「いかにも」
「他の神の力も持ってるってことか?」
「その通り」
自分を生んだ神以外の力……。
「ヴェラチュールと同じ?」
「全く違う。私が得たのはアンシェラートの力だ」
「アンシェラートだって?」
「何を不思議に思うことがある。アンシェラートの本体が存在するのは地中深くだぞ。影響を受けないわけがない」
言われてみればそうだな。アンシェラートと繋がりがあってもおかしくないのか。
「そして、アンシェラートから植物が受けた恩恵は生き物へ与えられる。地上はすべて、アンシェラートの影響下にあるというわけだ」
ってことは……。
「転移の魔法陣で人間の保護をしているのも、アンシェラートの力?」
「その通り。人間はアンシェラートの庇護下にある」
「庇護下?竜の山から出て、世界を終わらせようとしたのと同じ神だけど」
「目の前に愛する者が居るならば、触れようと手を伸ばす。それだけだ」
「……その説明は説得力があるよ」
そうじゃなくても、対になる存在は引かれあうものだから。
「じゃあ、封印の棺を封印するのに、アンシェラートの力も使ってるのか?」
「もちろん。人間がどこに魔法陣を描こうと、地上においては、そのすべてにアンシェラートの助力が宿る」
地上って。何処までを指すんだ?
「空中に描いても?」
ヴィエルジュが空を見上げる。
「あの雲に至る範囲までは、アンシェラートの影響下にあると考えて良い」
実質、どこに描いてもアンシェラートの影響を受けるってことか。
思った以上に身近な存在なんだな。アンシェラートって。
「俺をアレクの所まで運べるか?」
「可能だが。お前を運んでやる謂れはない」
誰でも運ぶわけじゃないらしい。
「リリーを運んだ理由は?」
「契約の証を持っている者は、私の庇護対象だ」
「契約の証?」
『剣花の紋章のことだろう』
そういえば、リリーに預けっぱなしだったな。
―ワインを三本空けるまでだったら良いよ。
残ってるワインは二本。ドラゴンを倒した時と、剣術大会が終わった時に飲むって約束したけど。一気に片付いたな。
「聞きたいことは以上か?」
「ん。……呼べば、いつでも応えてくれるのか?」
「私が呼びかけに応じるのは、アレクシスとリリーシアだけだ」
契約者だけ、か。
「今、応えたのは?」
「リリーシアと大樹を移動させる約束したからだ」
「……悪かったよ。違う用事で呼び出して。代償に何か渡せば良いか?」
『エル。簡単に約束を取り付けるな』
『そうだよー』
『本当に、何度言っても懲りないな』
「賑やかなことだ」
当たり前のように顕現してない精霊の声を聞いてるよな。
「私も命など欲しはしない。欲しいのは音楽だ」
音楽か。
「ちょっと待っててくれ」
メルリシアたちが居る部屋の前に行って窓を叩くと、マリーが窓を開く。
「エルじゃない。何か用?」
「バイオリンないか?」
「バイオリン?今すぐ必要なの?」
「ヴィエルジュは、音楽が好きらしいから。適当に何か弾く」
「誰か!バイオリンを持って来てちょうだい」
マリーがメイドに指示を出す。
オルロワール家なら、手入れされてるバイオリンを用意してくれるだろう。
「楽団を用意させましょうか?」
「音楽が好きみたいだから、喜ぶんじゃないか?」
「手配するわ」
「いや。今じゃなくて良いよ」
「でも、ヴィエルジュ様がいらっしゃる時じゃないと」
「大樹は、すべてヴィエルジュの体だ。いつでもどこでも聞けるんだよ」
「そうなの?」
マリーが後ろを振り返って、バイオリンケースを手に取る。
「ありがとう」
早いな。もう用意したのか。
「エル、これで良い?」
「あぁ」
オルロワール家のなら、ちゃんと管理されてるバイオリンだろう。
マリーからケースごとバイオリンを受け取る。
「何を演奏するの?」
「ん……」
何にするかな。
「明るい曲が良いわ」
「そうだな。……パルティータ第三番は?」
「良いわね」
「リリーは?」
「リリー!エルが呼んでるわ」
マリーと入れ替わって、リリーが顔を出す。
「何?」
「今日は帰るよ」
「本当?」
リリーが微笑む。
「あぁ。待ってて」
「うん」
※
亜精霊の被害は、思った以上に深刻だ。
城壁で囲われていない街や村は、簡単に亜精霊の侵入を許してしまう為、作物や家畜への影響も出ている。
各地の騎士団は、各都市に常駐の小部隊を派遣して防衛に当て、都市は自らも自警団を編成して防衛を強化している。陛下も亜精霊掃討に一軍を派遣されたらしい。
けど、これがすぐに落ちつくとは思えない。
トゥンク村は大丈夫かな。もともと村の人間と上手くやっていたアラクネが、村を襲うなんてことになってなきゃ良いけど。今のところ、そういった報告は見ない。
「できた。陛下への報告用と、オルロワール家用の二通作ってある」
書類を持って、アルベールの机に置く。
「報告例が集中してる場所を地図に書いておいた。騎士団に報告すれば亜精霊討伐が捗るはずだ。ついでに冒険者ギルドに連絡して旅行者に注意喚起した方が良い」
「こんな地図、どこで用意した?」
「さっき描いたんだよ。それから、海上の亜精霊の報告がまだ挙がってない。商人ギルドが何か情報を持ってるかもしれないから聞いておいた方が良いぜ。商船を運営してる連中は詳しいはずだ」
「そうだな」
「後、報告があった時点で、この用紙に概要を書いてもらえ。手の空いているメイドが居るならメイドに頼んでも良いし。その方が資料整理の手間が楽になる」
「……リック王子が、お前を欲しがるのもわかるよ」
「なんで?」
「優秀だって誉めてるんだよ。しばらく、うちで働かないか?」
「アレクに言えよ」
「ハードルが高いな」
「仕事も終わったし、俺は帰るぞ」
「もう少し待っていたらどうだ?まだリリーシアは帰ってないはずだ」
そういえば、リリーはレオナールの仕事を手伝ってるんだっけ。
「今何時?」
「そろそろ日が暮れてる時間だ」
アルベールが机の上の置時計を俺の方に向ける。
天気が解らないと時間が解らなくて不便だ。
「いつ帰って来るんだ?」
「今日中に終わらせるって言ってたが。夕食までには帰って来るだろう」
アルベールがそう言って、空のコーヒーカップを揺らす。
「俺はメイドじゃないぞ」
「本当に。こんな優秀な人材をメイドにしてたのが信じられないな」
「……アレクに言えよ」
コーヒーを準備をしてランプに火を灯すと、ノックがあってロジーヌが入って来る。
「まぁ!私がお淹れ致します」
「良いよ」
「エルロック様は、お寛ぎ下さい」
ロジーヌと作業を交代して、ソファーに座る。
「少しは落ち着いたのか?」
「はい。万事予定通りに」
……良く片付いたな。
「エルロック様。アニエス様より伝言がございます」
「アニエスから?今日は城に戻らないけど」
「伺っております。明日はリリーシア様とご一緒に王城へお越しくださいませ」
「わかったよ」
ようやく、アレクに会えるってことなのかな。
※
『帰って来た』
「ん」
思ったより早かったな。
残りのコーヒーを飲み干して、立ち上がる。
「リリーシアが帰って来たのか?」
「あぁ」
迎えに行こう。
また、マリーやメルリシアと鉢合わせても面倒だし。
「今日は助かったよ。気を付けてな」
「ん。じゃあな」
アルベールの執務室を出て、廊下を歩く。
……本当に静かになったな。
窓の外を見る。
ところどころに明かりが灯されているけれど、月明かりもない空は真っ暗だ。
玄関まで行くと、リリーとロジーヌが居る。
すれ違わないと思ったら。ここで待ってたのか。
「おかえり、リリー」
リリーに手を差し伸べると、リリーが俺の手を取る。
「ただいま、エル」
リリーが微笑む。
……あぁ、本当に。
その顔を見るだけで満たされた気分になれる。




