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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅳ.神聖王国編
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88 閉ざされた部屋

「会えない?」

「はい。申し訳ありませんが、警備態勢が十分に整うまでは、たとえエルロック様と言えど御案内してはならないと陛下から命を受けております」

 陛下から?

「それ、いつ整うんだよ」

「二、三日中には」

 それまで会えないってことか。

「エルロック様。他の方からもご忠告を受けておられるかとは思いますが……」

「絶対に外に出すな、だろ?」

 廊下で誰かとすれ違うたびに言われ続けた言葉だ。

「はい。私から申し上げられることは以上です」

「メイドと近衛騎士は傍に居るのか?」

「はい。ロザリー様もご一緒です」

 ロザリーも一緒に居るのか。

「で?俺は執務室で仕事をしろって?」

「はい。詳細はエルザからお聞きください」

「わかったよ」

 アニエスと別れて、執務室に向かう。


 昨日、闘技場から城に戻った後。

 アレクは陛下に事の詳細を報告しに行ったきり、皇太子の棟に戻ることはなかった。そのまま、居室を別の場所に移されることになったらしいのだ。レイリスと契約しているアレクに何かあったらまずいから、警備を厳重にしたいのはわかるけど。外からの攻撃に備えると言うよりは、アレクが勝手に出かけるのを防ぎたいって聞こえる。

『アレク、どこに居るのかしら。メラニーはわかる?』

『もちろん』

 教えてもらわなくても、場所なら大体絞り込める。

 まず、一歩も部屋から出ることなく生活できる環境が整った部屋。広い応接室と寝室、シャワー室がついていて、従者が待機できる部屋もついているような場所。

 次に、階層は二階以上。一階だと、侵入者が入り込めるルートが多くなってしまうから。

 それから、広い庭に面していること。且つ、庭を見渡せる大きな窓か、バルコニーがついている部屋。ヴィエルジュがアレクの傍に居られる環境が必要だから、あの大樹を生やせるスペースがすぐ傍に必要なはずだ。

 俺も城内のすべてを把握してるわけじゃないけど、王族しか立ち入れない区画で、警備の都合も良くて、その条件を満たす場所となると……。チェスの庭か椿の庭に面した部屋だろうな。

『会いに行くの?エル』

「行かないよ」

 絞り込めたところで、無理に会いに行くメリットはない。

 厳戒態勢を越えて会いに行くほどの用事もないし、途中で見つかって警備の穴が露呈すれば、また警備の編成に時間がかかることになる。

 普通に会わせてくれるまで待っていた方が良いだろう。


「エルくーん!待ってたよ!もう、本当に助けて欲しいぐらいなんだから!急いで仕事してね!」

 執務室では、メルティとタリス、エルザの他に、グリフとロニーまで仕事をしてる。

「なんで、グリフとロニーまで居るんだ?」

「アレクが仕事できないから、手伝ってるんだよ」

「できないわけないだろ。書類ぐらい、誰かがアレクに持って行けば良い話しだ」

「そういうわけにもいかないんだ。陛下から、外の情報をアレクに流すなって命令が下ってるんだよ」

「プリーギの件で、アレクが勝手に錬金術研究所に行っちゃったからね。アレクには情報規制もされてるんだよ」

「あれか……」

 陛下がお怒りだって言ってたっけ。

 もう一度同じことが起きたらまずいからな。

 アレクに外部の情報が流れないようにした結果、仕事がここで溜まってるのか。

「チェスと椿、どっち?」

「椿だよ」

 アレクが居るのは、椿の庭の方。

 これから寒くなれば、椿が見頃になるだろうし。山茶花の生け垣にも花が咲いている頃だから、丁度良いのかもしれない。

「どうぞ」

 机に向かうと、エルザがコーヒーを持って来る。

「アレク様、お仕事が好きな方ですから。御自身で抱えておいでの仕事が全部こっちに来ると、すごく大変なんです」

「もともと秘書官が少な過ぎるんだろ」

「そうなんです。手が足りないので、王都の被害や亜精霊の件については、陛下とアルベール様にお願いしてるんですよ」

「亜精霊の件?」

「こちらに詳しい報告が上がってます」

 エルザが用意した報告書には、亜精霊に関する報告が複数載っている。

「一晩で、こんなに?」

 亜精霊が人間を襲うなんて珍しいことじゃないけど、件数が多い。

 王都の周辺なんて、もともと亜精霊の報告が少ない安全な地域なのに。

「各地の騎士団からも随時報告が上がっているそうです。剣術大会の観覧にいらっしゃっていた貴族の皆様も領地にお帰りになられましたし、これからラングリオン全土から報告が上がるんじゃないかと思います」

 だろうな。

 亜精霊が増えてるとしか思えない。

 普段は大人しい亜精霊も人を襲ってるみたいだし、ルー・ガルーみたいな亜精霊が現れなきゃ良いけど。

 ……ん?貴族が領地に帰ってる?

「ラングフォルド辺境伯領はどうなってるんだ?」

「陛下が伯爵代理として任命した騎士を派遣しておいでです。……今捕まっている方たちの領地のことでしたら、アルマス地方のモール子爵領はイルド家に、他の方たちの領地は公爵家にお任せになってますよ」

 もともと公爵領にあったものは、そのまま公爵に任せておくことにしたのか。

「裁判どころじゃないので、伯爵は引き続き城内に、子爵の皆様はノイシュヴァイン家にいらっしゃるみたいです」

 牢にでも入れておけば良いのだろうけど、罪が確定していない爵位のある人間の扱いは丁重にしなくちゃいけないらしいからな。

 報告書のページをめくる。

「アンシェラートが出た影響?」

「はい。亜精霊が活発化、あるいは凶暴化した原因は、アンシェラートが地表に出た影響だと説明しています」

「どっちかって言うと、ヴェラチュールのせいな気がするけど」

「王家の敵に関する話しは公には伏せています。原因はアンシェラートとした方が混乱は少ないと陛下はお考えです」

 人間の神を名乗って人間に攻撃するような奴が現れたって言うよりは、今は地中に封印されてるアンシェラートの影響とする方が良いか。

「それから、アンシェラートを封印しているのはアレク様であると公布されているんですよ。そのお力で地下に押し戻しているのだと」

 竜の山から伸びたアンシェラートの手を押し戻したレイリスの光は、金色。

 あれがアレクの金の剣を連想させるのは確かだけど。他国の連中もその説明に納得するのかな。

「ヴィエルジュ様を召喚したのもアレク様ですから。今は、強い力を使った反動で、アレク様は病に伏せっていることになっています」

「病、ねぇ……」

 アレクを城から出さない為の理由付けだろう。

「ヴィエルジュって、アレクの傍に居るのか?」

「私は知らないですよ。グリフ様、ロニー様、御存知ですか?」

「ヴィエルジュの大樹なら、庭に生えているよ。地下の根で繋がれた大樹は、すべて彼女の肉体。城内のあちこち、王都のあちこちにも生えていて、槍の魔法に常に警戒しているらしいね」

「本体はどこに居るんだよ」

 木の洞から現れた、あの女性。

「本体なんてないんじゃない?私たちの前に現れた女性は、彼女の御使いだって話しだから」

「御使い?」

「妖精みたいなものをヴィエルジュは作れないらしいんだ。だから、人間との意思疎通に御使いを使ってるんだってさ」

 妖精の女王なのに妖精が居ない?

 なんだか変な気がするけど。

「御使いが居なくても人間に語りかけることは出来るけど、結構面倒なことだから、御使いは重宝するって言ってたよ」

 樹木に口なんてないからな。あの御使いは、ベネトナアシュと違って大事にされてるんだろう。

 見終わった報告書を置くと、エルザが次の書類を出す。

「……大陸会議か」

「はい」

 オービュミル大陸会議。

 オービュミル条約の加盟国を集めて、盟主国であるラングリオンで開かれる会議だ。

 ……アンシェラートが飛び出たのは大陸中の人間が見ていること。その詳細と、各地の状況を報告し合い、今後の対策を立てる為に招集をかけたんだろう。

「今回の参加国はこちらです。エルロック様も御出席頂く可能性がありますから、参加国をご確認くださいね。グラシアル女王国からは、オルロワール家に御滞在のメルリシア姫様とアリシア様が御出席になられるそうですよ」

 グラシアルに帰らずに、そのまま大陸会議までラングリオンに居ることにしたのか。

 ヴェラチュールが何処に居るかわからないし、亜精霊が活発化してる今、無理に帰るのは危険が伴うからな。下手に動くよりは、状況がもう少しわかるまで王都に留まった方が良いだろう。

「ラ・セルメア共和国からも快い返事を頂いているそうですから、大統領がお越しになられる可能性が高そうです」

 その返事は、駐在大使からだろう。王都の西の街には主要国の大使館があるから。

「クエスタニアは?」

「お返事はありませんね。あまり乗り気じゃなさそうな感じがします」

 ……だろうな。

 クエスタニアが来ないと面倒なことになりそうだけど。

「西南諸国は、相変わらず知らない名前ばっかりだな」

「そんなことはありませんよ。半数以上は前回と同じ国です」

 西南諸国。

 オービュミル大陸西部、グラシアル女王国南部に広がる荒野に点在している、小国家群のことだ。オービュミル条約加盟国もいくつかあって、大陸会議の際には、ラングリオンと同盟を結んでいるモラルタ国が、西南諸国代表団長として他国の代表を引き連れて来るのが通例だ。

 けど、向こうは情勢がころころ変わるから、大陸会議に毎回同じ国が参加してる印象はない。最近は戦争をしているって話しも聞かないけれど、小競り合いの情報なんて、いちいちラングリオンまで届かないことも多いからわからない。

 見終わった書類を置く。

「ご連絡は以上です。……あ、もう一つ、お伝えし忘れたことがありました」

「なんだ?」

 目を通すべき書類はもうなさそうだけど。

「ベルクト様が保護されたというお話しは御存知ですか?」

「知らない」

「現在、アレクシス様の保護下にあり、城の北東の図書室にいらっしゃいます」

 良かった。

 無事に保護できたのか。

「ガラハド様にはご連絡済みだそうですよ」

 なら、フランカも聞いてるのかな。

「いつ保護したんだ?」

「バロンスの十四日です」

「……は?」

 十四日って、大会一日目。ベルクトを逃がした日だ。

「なんで今まで黙ってたんだよ」

「暗殺者の話しは機密事項です。それに、ベルクト様を保護したからと言って、次の暗殺者が現れないとは言い切れません。守備隊には怪しい子供の捜索と警戒を継続して頂くのが得策だと、アレク様が仰られてましたから」

 確かに。

 俺たちが持っていた情報が少ない以上、あらゆることに警戒する必要はあっただろう。

「誰が保護したんだ?」

 エルザの言い方だと、保護したのは守備隊じゃないみたいだけど。

「リリーシア様とライーザ様です」

「……なんで、リリーの名前が出て来るんだよ」

 何も知らないはずなのに。

「私に聞かれてもわかりませんよ。ベルクト様が闘技場から出て間もなく保護したって話しですよ」

 ベルクトのことを知ってたのか?

 いや。ベルクトの特徴がわかったのは暗殺未遂が起こった後。リリーがベルクトの特徴を知ってるわけがない。

 探そうと思って探したんじゃないなら……。何かに巻き込まれたってことだよな。

 あぁ、もう。

「今、リリーが何処に居るのか知らないか?」

「私がわからないことばっかり聞かないで下さいよ。そんなの、管轄外ですー」

 ヴェラチュールとの戦闘後。

 俺はアレクと一緒に城に戻って、リリーはシールに頼んでガラハドの家に送ってもらった。

 王都の被害も大きいし、ルイスとキャロルのことも心配だったから、しばらくガラハドの家に居るように言っておいたけど。

 ……ちゃんと大人しくしてるのか?

「心配ならお手紙でも書かれたらどうですか?」

「手紙は苦手なんだ。ガラハドの家に居るって確認出来れば良いんだけど」

「……エルロック様、束縛する男は嫌われますよ」

「束縛?」

 束縛してるつもりはないけど。

「エルザ、そういう話しをエル君にしても無駄だよー。リリーちゃん、たぶん縛られるの好きな子だからー」

「そうなんですか?」

「……お前ら。無駄話してる暇があると思ってるのか。手を動かせ、手を!」

「プッペちゃんこわーい」

 相変わらず、執務室は賑やかだよな。

「エルロック様、ご連絡は以上です。では、お仕事頑張って下さいね」

 目の前にあった資料を取る。

「あ、そっちは急ぎじゃないです」

「え?」

「順番に並べてあるんですよ。急ぎの案件からお願いしますね」

「わかったよ」

「……また、降って来ましたね」

 そう言って、エルザが窓を閉めに行く。

 ヴェラチュールの魔法のせいか、空はずっと雲で覆われたまま。

 このままじゃ昼と夜の感覚もなくなりそうだ。

 あいつをどうにかするまで、ずっとこの天気が続くのか?



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