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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
66/149

71 足取り

 エミリーから貰ったマントを羽織ってフードを被る。

 少し遅くなったな。もうリリーとキャロルはガラハドの屋敷に着いてるかもしれない。

「エルロック様」

「なんだ?」

「これをリリーシア様に届けて頂けますか」

 オレンジの花の蜂蜜の瓶。

「オランジュミエル?」

「お勧めはフレッシュクリームに混ぜて使うことだとお伝えください」

「ん。わかった」

 リリー、エミリーと仲良くなったのか。

「そうだ。ピッツァの作り方知ってるか?」

「存じております」

 そう言って、エミリーがメモ帳にレシピを起こす。

 流石だな。

「生地の配合と、お勧めのトマトソースのレシピを載せております。具材の組み合わせもいくつか書きましょうか?」

「何でも良いんだろ?」

「もちろんです。ただし、載せ過ぎると火の通りも悪くなりますから。食べやすさと見栄えの為にも、平たく盛り付けるのがよろしいかと」

「了解」

 リリーとキャロルと一緒に作ってみるか。

「ロザリー様とお会いになられましたか?」

「まだ会ってない。でも、剣術大会以降は城に居るんだろ?」

「エルロック様次第でございます」

 剣術大会の結果次第だって?

「負けなきゃ良いんだろ」

「はい。どうかお気を抜かずに」

「わかってるよ」

 負けるつもりはないし、優勝は狙えると思う。

 ただ、自分の納得の行く形で勝てるかは自身がない。


 ※


 アレクに刀を渡したことをアヤスギに伝えて、中央広場で買い物をしてガラハドの家へ。

 ずいぶん遅くなったな。

 歩いていると、一番隊が走って行くのが見える。

 セントラルで事件?

『珍しいわねぇ』

 目の前の通りで隊員が曲がる。

『ベーリング家か?』

 あの方角はマリアンヌ王妃の家。ベーリング家の別邸だ。

『ふふふ。嫌なパターンねぇ』

『え?どういうこと?』

『すぐにわかるわよぉ』

 一番隊が向かったのがベーリング家だって確証もないのに。

「冗談じゃない。巻き込まれてたまるか」

 ことあるごとに、エイダが俺のことを何にでも巻き込まれるって言うから。

 ……結局、賭けに勝ったことは一度もないな。


 そのままガラハドの家に行くと、見慣れた犬が二匹出てくる。

「ロドリーグ、シメーヌ。久しぶり」

 ガラハドの家の番犬。元々牧羊犬だけあって、二人とも大型の犬だ。

『エル、この家に来たことあるの?』

「何回か世話になったことはあるよ」

 ロドリーグが俺のマントを噛んで引く。

「わかってるって。ほら、干し肉をやるよ」

『……?』

 買っておいた干し肉を二つ置くと、二匹が尻尾を振って、餌の前に座る。

「食べて良いぜ」

 そう言うと同時に、二匹が干し肉に食らいつく。

『エル。何か言いたいことがあったみたいだぞ』

「え?言いたいこと?」

 二匹の前にしゃがむ。

「俺に何か用か?」

 そう言ったところで、屋敷の扉が開いてメイドが出てくる。

「いらっしゃいませ、エルロック様」

「久しぶりだな、ブリジット」

「また勝手に餌を与えるんですから」

「良いだろ。たまにしか来ないんだから」

「あら。少し背が伸びましたか?」

「は?伸びるわけないだろ。最後に会ったのだって……」

 あれ?何年前だっけ。

『エル、この人と知り合いなのね』

『ずっとガラハドの屋敷でメイドをしているからな』

 ずっとって言っても、ガラハドが王都に来たのは数年前の話しだけど。

「ふふふ。成長したように感じます。皆様、もういらっしゃっていますよ」

「リリーとキャロルか?」

「ルイス様とジニー様も到着済みで、書斎にいらっしゃいますよ」

 花は渡せたみたいだな。


 二匹を残して、ブリジットと一緒に屋敷の中に入る。

「フランカとファルは?」

「フランカ様はシャルロ様宅にいらっしゃいます。夕刻までには戻るかと」

『?』

「ファルクラム様は台所にいらっしゃいます」

「リリーとキャロルを手伝ってるのか」

「はい。お暇そうでしたから」

 ブリジットが微笑む。

 ファルの奴、手伝わされてるんだな。ブリジットは相手に有無を言わせないところがあるから。

『エル』

 ん?何かあった?

「これ、台所に運んでおいてくれないか?」

「かしこまりました。お花は食卓にお飾りすればよろしいでしょうか?」

「あぁ。頼む」

「承りました」

 荷物を預けると、ブリジットが台所の方に歩いて行く。

『フランカが屋敷の中に居る』

「え?」

 おかしいな。ブリジットが知らないなんて。

 正門に誰か入って来たらロドリーグとシメーヌが出て行くから、ブリジットがすぐに気付いて玄関まで出迎えるのに。

「どこだ?」

『西』

 ロビーから西側の廊下に入る。

 こっちって、あまり使ってない場所のはずだ。

『ブリジットには散々苛められたのよぉ』

『え?あの、優しそうな人に?』

 あの、逆らうことを許さない感じは何なんだろうな。

『子供の扱いが上手いだけだ』

『四人も子供を育てているらしいからな』

 その全員が王都を離れて暮らしてるから、ブリジットはここで住み込みで働いてるんだけど。

 ……え?血の匂い?

「人の気配は?」

『フランカだけだ』

「フランカ。居るんだろ?」

 カーテンが揺れて、フランカが現れる。

 隠れてたのか。

「エルロック」

 顔色が悪い。

「怪我してるだろ」

「……少し」

「見せてみろ」

 フランカが腕を上げた瞬間、血が溢れる。

「お前っ、」

 どこが少しだ。

「バニラ、頼む」

「了解」

 バニラが顕現してフランカに治癒魔法を使う。

 一番酷い部位は……。ここか。

 もしかして、ロドリーグとシメーヌが俺に伝えたかったことって、これか?

 ちゃんと話を聞いてやるんだった。

「これを飲め」

 薬の入った瓶をフランカの口に突っ込む。

「……なんだ、これ」

「体内の病原菌の繁殖を抑える薬。めまいや吐き気が起こるかもしれないけど大人しくしてれば大丈夫だろ。……毒は浴びてないのか?」

「斬られただけだ」

「痛くないのかよ」

「……別に」

 薬も自力で飲めるし、意識もしっかりしてる。血の匂いに毒の匂いが混ざっているようにも感じないから、即効性の毒を浴びてる可能性は低いと見て良いだろう。

 腹部はこんなところか。

 包帯を巻いて様子を見よう。もし遅速性の毒……、自己治癒能力を下げる毒なんかを浴びていたとしたら少し危険だけど、見たところ大丈夫そうだ。

 他は。

 足も怪我してるな。

「良くこの足で帰って来たな」

 抉られたような傷が平行に三本。

「血を落とすようなへまはしていない」

「そんなことは聞いてないぞ」

 でも、血の足跡を残さないのも技術なんだろう。危険な状態になってないのは止血の技術が優秀だったからだ。

「どこに行ってたんだ?」

「分からない」

 知らない場所?

「近くか?」

「北東のでかい屋敷」

 それって、もしかして。

「蘭の園があったか?」

「あった」

 間違いない。

「そこはベーリング家の別邸だ」

「ベーリング家?」

「マリアンヌ王妃の家だよ。もしかして、侵入したのか?」

「あぁ」

 一番隊が走って行ったのは、フランカがベーリング家に侵入したからか。

「騒ぎになってたぞ」

「だろうな」

「この時期の貴族の家に侵入するなんて危険過ぎる」

「仲間を見かけたから尾行してただけだ」

「仲間?」

「俺と同じ出自」

「知り合いだったのか」

「俺は教官でもあったから、知ってる顔は多い。ファルも俺の教え子の一人だ」

 それで兄貴って呼んで慕ってたのか。

「自分の教え子に返り討ちにされたのかよ」

「まさか。仲間同士で殺し合うなんて絶対にない」

「絶対なんて……」

「裏切者は存在しない。最も優先されるべき任務はラングフォルド家の出したものだ」

 育てた子供が買われても、それは変わらないってことか。

「ってことは、ラングフォルド家はどこに誰が居るのか把握してるのか?」

「いずれ回収する可能性もあるから、子供が移動したとしても、すべて把握してるはずだ。……俺も詳しくは知らない」

 売った先の情報を詳細に記録した書類が存在するのか。それが手に入れば子供の保護に役立ちそうだけど。

 ……怪我の治療はこんなところかな。安静にしていれば良くなるだろう。

 フランカの舌打ちが聞こえて、フランカを見る。

「尾行がばれたのも、近づく人間の気配に気づかなかったのも初めてだ。不意打ちで足を斬られて、逃げるのに手間取った」

 訓練された暗殺者を出し抜けるなんて、相当な手練れだな。

「良く無事だったな」

「退路は常に確保してる。それに、この家に逃げ込むとは思っていないだろう」

「そうだな」

 一番隊がいくら早く駆け付けて周囲を警戒していたとしても無理だろう。

 調査ぐらいには来るかもしれないけど。

「バニラ、ありがとう。戻ってくれ」

『了解』

 バニラが顕現を解く。

「精霊は見せちゃいけないんじゃないのか」

「緊急事態なんだからしょうがないだろ」

「こんな怪我じゃ死なない」

「ファルが同じ怪我をしても言えるのか」

「部下に怪我なんてさせない」

 暗殺者としての技術は高くても、非情になれないから教官なんてやってたんだろう。

「部屋はどこだ?」

「一人で歩ける」

「お前を眠らせてファルを呼んで来るぞ」

 フランカがまた舌打ちをする。

 相当イラついてるみたいだな。

 対象を尾行中に出し抜かれたのは初めてみたいだから、無理もないか。

「お節介な奴だ」

「子供のくせに生意気な口聞いてるんじゃねーよ」

『ブリジットが来る』

 扉の方を見ると、ブリジットが顔を出す。

「どなたかいらっしゃいますか?」

「ブリジット。こっちだ」

「エルロック様?」

「手伝ってくれ。フランカが怪我をしてるんだ」

「フランカ様が……?すぐにお薬を、」

「治療は済んでる。部屋に運びたいんだ」

「かしこまりました。あまり動かさない方がよろしいでしょう。こちらの部屋をお使いください」

 ブリジットがすぐ近くの部屋の鍵を開けて、ベッドの準備をする。

 フランカを抱えて部屋に入ると、ブリジットが口元に手を当てて悲鳴を抑える。

「フランカ様……!」

 この怪我を見たら驚くよな。

「軽傷だ。ガラハドには言うなよ」

「どこが軽傷だよ」

 そのままフランカをベッドに寝かせると、ブリジットが傍に来る。

「大怪我じゃないですか!ガラハド様に報告させていただきます」

「余計なこと……、いてぇっ」

『うわぁ……』

『流石、子供の扱いに慣れてるわねぇ』

 慣れ過ぎだ。

「よろしいですね?」

「わかったよ」

「お着替えを御用意いたします。包帯の替えも必要ですね」

「巻いたばかりだから、傷が落ち着いたら患部を清潔にして巻き直してやってくれ」

「かしこまりました」

 ブリジットが部屋を出る。

 さてと……。

 薬をいくつか出して、メモ用紙に処方箋を書く。

「傷が良くなるまでは絶対安静。俺が指示した通りに薬を飲むこと」

「王妃の家系がラングフォルド家と関わりのある可能性は?」

 調べに行くつもりか。

「絶対安静って言っただろ。その怪我で次も上手く逃げられると思うなよ。ここに来る途中で一番隊が走って行くのが見えた。侵入者騒動でしばらく周辺の警戒が続くはずだ。……貴族の敷地で身元がばれたらどうなるかわかるだろ?大人しくしてろ」

 それに、この時期に王都入りしてる貴族の目的は剣術大会の観覧。相手はしばらく王都に滞在してるはずだ。仮に大会前に王都を出るなんて不審な行動をとればすぐにわかるだろう。剣術大会が終わるまでに調べて、方をつけないと。

 シャルロにも話しておくか。

 でも、侵入調査はフランカの得意分野。大人しくしてる気はないようだし、ほっといたら勝手に調べそうだな。

「ベーリング家に行ってお前の仲間を保護できる可能性は低いぞ」

「何故」

「剣術大会時期で色んな貴族が王都に来てる。王都の外から来た貴族は、王都に居る貴族がもてなすんだ。今の段階では、お前の仲間と一緒に居たのがベーリング家の人間か、ベーリング家に滞在してる客人か、それとも、たまたま招待を受けてやって来た客人なのかは判別できない。……お前に怪我を負わせた相手がどこの誰かも含めて」

 どちらにしろベーリング家と親交のある家で間違いないんだけど。

 また舌打ちが聞こえる。

 ……どうするかな。

 シャルロに頼めば、ベーリング家の情報も、今日ベーリング家で誰かを招待するようなイベントがあったかも調べることが出来るだろう。

 ラングフォルド家が持っているはずの、子供を売った先の情報があれば手っ取り早くわかるんだけど。

 今はシュヴァイン家の本家が動いてフランカの報告書の精査を進めてるはずだ。爵位のある者を法廷に出すとしたら管轄は陛下。シュヴァイン家が資料を手に入れたとしても、俺が見せてもらえる可能性は低い。

 アレクはどこまで関わってるのかな。後で聞いてみよう。

「人身売買組織の被害者の救済は国の方針だ。とりあえずアレクに報告して……」

『ファルだ』

 扉が急に開いて、ファルが部屋に駆け込んでくる。

「兄貴!」

「ファル。静かにしろ」

 扉の音はともかく、足音は一切立てずに入って来たぞ。

「誰にやられたんだ」

「関係ない」

「シャルロの依頼か?」

「違う」

「教えてくれ。任務なら俺が引き継ぐ」

「お前はもう暗殺者でも密偵でもない。昔のことは忘れろ」

「でも……」

 忘れろ、か。

「エルロック、何か知ってるんだろ?」

「知ってるよ」

「言うなよ」

「教えてくれ」

 ファルもほっといたら何をするかわからないな。

「ファル。お前に依頼だ」

「依頼?」

「俺が次にここに来るまでフランカが外出しないように見張ってろ。動いたら傷口が開いて死ぬぞ」

「え?」

「適当なことを言うな」

「薬を飲んで安静にしてろ。じゃあな」

 扉を開いて廊下を歩いてると、ブリジットが来る。

「エルロック様」

「ブリジット。数日中にもう一度来るから、ファルとフランカを外に出さないようにしてくれ」

「かしこまりました。もう少しフランカ様の御加減がよろしくなれば、見晴らしの良い場所に移動させて、シメーヌを傍に置いておきましょう」

「それが良い」

 後でバニラに頼んでシメーヌにお願いしておこう。

「薬と処方箋を置いて来たから、毎日飲ませてくれ」

「かしこまりました」

 本当は入院させたいところだけど、ガラハドの家に大怪我をした人間が居ることは隠した方が良いだろう。

 そうだ。

「ルイスたちにもしばらくここに居てもらうか。その方が見張りやすいだろうし」

 ルイスなら容体の変化にもすぐに気づくだろう。

「まぁ。それは願ってもない事ですわ」

『嬉しそうねぇ』

 子供は好きみたいだからな。

「容体が急変したらすぐに知らせてくれ。方法は……」

「シャルロ様にご連絡差し上げればよろしいですね」

「あぁ」

 そこが一番正確で早いだろう。

「エルロック様。お預かりしている剣は、食堂にお運びしてよろしいでしょうか」

 ルイスの剣か。

「そうだな。頼むよ」

「承りました」


 ※


 甘い匂いがする。

『エル、どうしたの?』

『ふふふ。リリーとキャロルが美味しいもの作ってるんじゃないのぉ?』

 そうだった。

 廊下でもこれなら、台所はどうなってるんだ。

 台所に顔を出すと、リリーとキャロルが振り返る。

「エル」

「エル」

 ……やばい。想像以上だ。

「あ、待ってて」

「手伝うわ」

 気づいたリリーとキャロルが窓を開く。

「あの、大丈夫?」

 周囲を見渡す。

 粉物は全部片づけてあるみたいだよな。

「リリー、キャロル、伏せてくれないか」

「え?」

「うん」

 リリーがキャロルと一緒にその場に伏たのを確認してから、風の魔法を集める。

 力の加減を気を付けないと。吹き飛ばすような強い風じゃなく、優しい風のイメージで。

 集めた魔法で部屋中にそよ風を起こす。そして、その風を窓の外に向かって放つ。

 これで、さっきまでの甘い匂いは、薄まったかな。

『おー。エルも風の扱いが上手くなったねー』

「ありがとう」

 風の精霊に褒められるなんて。

「もう良い?」

「あぁ。良いよ」

 リリーとキャロルが立ち上がる。

「今のも魔法なの?」

「そうだよ」

「空気の入れ替えが出来るなんて、魔法って本当に便利ね」

 精霊は自然そのものだからな。

「エル、ファルに会った?」

「フランカの所に居るよ」

「お兄さん、帰ってたのね」

「あぁ」

 ……怪我してるけど。

「じゃあ、私、サブレをルイスとジニーに届けて来るわ」

「うん。いってらっしゃい」

 キャロルが俺の脇を通り抜けて走って行く。

 サブレか。

「食べて良い?」

「これがお勧めだよ」

 良い香り。

 リリーが差し出したのを食べる。

「美味い」

 スパイスが効いてる。

 あれ?

「これが、ペッパルカーコル?」

 リリーが驚いた顔をする。

「知ってるの?」

「前に、作ってくれるって言ってただろ?」

「言ったけど……」

 香ばしくて美味しい。

 そうだ、エミリーから頼まれてた奴。

 ミエルの瓶を出して、リリーに渡す。

「オランジュミエル。エミリーからだ。フレッシュクリームに混ぜて使うと良いって言ってたぜ」

「そっか。あれって、香りの良いミエルを使ってたんだ」

 サクサクした食感もすごく良い。

『エルって、リリーのお菓子が好きなのね』

 リリーは天才だからな。

 シナモン、ジンジャー、クローブ、カルダモン……。

 いくらでも食べられそうだ。

「菓子作りは終わったのか?」

「ケーキは今焼いてるところだよ。ヴィアリさんに聞いたタルトタタンの林檎をポワールに変えてみたんだ」

 おぉ。面白いな。

「せっかくだから、添え物のフレッシュクリームにオランジュミエルを使ってみるよ。きっと美味しいと思う」

 楽しそうだな。

「じゃあ、夕飯の支度手伝ってくれないか?」

「えっ?私、その……」

 ここまで手際良く菓子を作ってるんだから、苦手意識を持つことないのに。

「これを作って欲しいんだ」

 エミリーから貰ったレシピをリリーに見せる。

「ソースは俺が作るよ。ピッツァの台を作って欲しいんだ」

 材料を見る限り、パンを作るのと大して変わらないはずだ。

「これなら手伝えると思う」

「なら、頼んだぜ」

 良かった。リリーの方が上手く作れるだろう。

「この魚介って、ピッツァに載せる具だったの?」

 ブリジットが運んでくれたものがテーブル脇の台に置いてある。

「そうだな。魚介を載せても良いか」

「え?別の材料だったの?」

「ピッツァには、あまり具を載せ過ぎるなって言われてるんだ。これはアクアパッツァの材料」

「アクアパッツァ?」

「魚のスープだよ。美味しそうな魚が手に入ったからさ」

「これ、全部使うの?」

「そうだよ」

 さて。下処理をするか。

「!」

 リリーがいきなり俺の腕を掴んで背後に回る。

「いま、うごいた?」

「活きが良いからな」

 ……怯えてる?

『大丈夫か?』

『苦手なものが多いんだねー』

『見たことないだけだよ』

 そういえば、グラシアルって巨大魚が主流だっけ。それなら、加工前の魚を生で見る機会はなさそうだな。

「ただいまー」

「おかえり、キャロル」

 キャロルが、怯えるリリーを見て首を傾げる。

「リリー、どうしたの?」

「ピッツァの生地、作れるか?」

 リリーがようやく俺の背後から出てくる。

「大丈夫。まかせて」

 本当に?

 そういえば、マーメイドは魚が食べられないんだっけ?

 リリーはマーメイドじゃないけど。

 


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