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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
64/149

69 かける言葉

 大きなボタンのついたダークブラウンのワンピース。中には白いブラウスを着ていて、首元には黒の細いリボン。それから、つば広の帽子。

 マリーのセンスかな。今日の服も可愛い。

 でも、帽子は邪魔だな。

「あ」

 帽子を取ると、リリーと視線が合う。

「これで良く見える」

 並んで歩くとリリーの顔が見えないから。帽子はしまっておこう。

「祭りは全部見て回ったのか?」

「全部かはわからないけど、初日にルイスと一緒に見て来たよ」

「そういえば、変装してたんだって?」

「え?……うん」

『ポラリスみたいな恰好してたんだよ。エレインにも誰かわからないって言われたからね』

 ローブを着て、完全に顔を隠してたのか。

「そこまでしなくても良いのに」

 リリーがそんな恰好で居たらわからないな。……いや。道を歩いてたなら、挙動で気づくか。きょろきょろしながら歩いてるし、背が低いし。

「今日は一人で見てたのか?」

「違うよ。家に帰る途中にガレットを買っただけ」

 一人で見てたんじゃないか。

『ランチの後だったのに、良く食べるよね』

「だって、食べたかったんだもん」

 お腹が空いてる?

「他に食べたいものは?」

 リリーが首を横に振る。

「もう、お腹いっぱい」

 なら、食べ物屋の並んでいない辺りに行ってみるか。

「シリルさんにオランジュエードも奢られちゃったんだ」

『結局、何のお礼もしてないよね』

「そうかも……」

「絡まれたんだって?」

「うん。吸血鬼が歩いて良い場所じゃないって、髪を引っ張られたの」

「なんだって?」

 リリーの髪を引っ張るなんて。

「でも、シリルさんが助けてくれたんだ」

『揉め事にならないように穏便に済ませてくれたんだよ。リリーが相手の腕をひねり上げたりするからさ』

「だって……」

 因縁をつけられてたのはそのせいか。

「そういう時は、悲鳴を上げて助けを呼ぶんだ。周囲の注目を集めるのは相手にとって不利な状況だし、守備隊が巡回中だから、すぐに駆けつけてくれる」

「……はい」

 そうじゃなくても助けが入ったみたいだけど。

 シリルはリリーを助けて、黒髪のリリーが一人で歩くのは危険と判断したから一緒に行動したんだろう。そして、予想通り付け狙われることになったから三番隊の近くまで保護したってところか。

 悪いことをしたな。

 リリーに薔薇を贈ったのは、あいつじゃなかったんだし、ちゃんと礼を言うべきだった。

「明日の夜に、ガラハドの家でルイスの誕生会をやることにしたんだ」

「隊長さんの家って、セントラルの?」

「知ってるのか?」

「うん。オルロワール家の近くだよね?」

 オルロワール家の裏だ。

「そうだよ。準備もあるから、昼過ぎには行く予定」

「オーブンもあるかな」

「あるよ」

 一通りの設備はそろってる。

「じゃあ、キャロルと一緒にケーキを作って良い?」

「良いよ。皆で材料を買っていこう」

 楽しみだな。

 今度はどんなケーキを作るんだろう。

「剣術大会は見に行ったか?」

「え?……行ってないよ」

 意外だな。行ってないのか。

「バーレイグを持った参加者が居たんだ」

「えっ?バーレイグ?」

『エル、予選を見に行ったの?』

「レイリスと一緒に見て来たんだ」

「あの、バーレイグって……」

 やっぱり気になるか。

「どこかの貴族みたいな女剣士が使ってたぜ。名前はわからないけど。本戦にも出るだろうから、楽しみにしておくと良い」

 バーレイグなら、見ればすぐにわかるだろう。

「うん」

「ムラサメも勝ってたな」

 たぶん予選を通過してるだろう。

「本当?良かった。きっと、勝つと思ってたんだ」

 ムラサメが戦ってるところを見たことがあるのかな。

 あいつと戦う対策、しておかないと。

「あ!」

 リリーが上空を指す。

「エル、あれ」

 飛行してるあれは……。

「フォルテか?」

 色は紫のように見えるけど。

「そうだと思う」

 リリーが言うなら間違いないな。斑の光を持っているんだろう。

「ドラゴンってどれぐらい目が良いんだろうな」

 クレアは目が良いって言うけど、ブラッドに堕ちたフォルテはどうかな。

 フォルテはそのまま北西の方角へ飛び去る。

「近場に降りる気配はなさそうだな。行くか」

「うん」

 元気に飛んでるってことは、近い内に襲撃に来るかもしれない。

 イリデッセンスって、ずっと刺さったままなのか?どこかで落とされていたとしたら、探すのが大変だな。


 日が暮れてきた。

 夕暮れ時の、色んな音や匂いの混ざる祭りの雰囲気は嫌いじゃない。

『この辺、リリーは初めて来るんじゃない?』

 中央広場の西側は子供向けの露店が並ぶ場所だ。

「あれは何?」

 リリーが指した方角で、子供がヨーヨーをしている。

「水ヨーヨーだよ。ほら、あそこで売ってる」

 ヨーヨー釣りの店で、子供がヨーヨーを釣っている。

「中に水が入ってるの?」

「そうだよ。欲しいのか?」

「子供の玩具なんだよね?」

「この辺は子供が遊ぶ場所だからな」

 銅貨を一、二枚も持っていれば十分に遊び尽くせるような店が並んでいる。

「見て、エル。シャボン玉だよ」

 目の前で、シャボン玉がふわふわと浮いている。

「懐かしいな」

 養成所の時に良く遊んだ。

「シャボン玉がしたいなら、今度作ってやるよ」

「作れるの?」

「簡単だよ。子供でも作れる」

 材料をそろえるのも簡単だ。

「割れないシャボン玉ってある?」

「割れないシャボン玉?」

 割れにくいシャボン玉のレシピならあるけど。

 割れない……?

「やってみるか」

 シャボン玉を吹いている子供たちの傍へ行く。

「ちょっと頼みがあるんだけど」

「なぁにー?」

「俺が合図したら、一斉に上に向かってシャボン玉を吹いてくれないか?」

「上って、こんな感じ?」

 一人がシャボン玉を吹く。

「あぁ、そんな感じで頼む」

「はぁい」

 子供たちが、ストローをシャボン液につける。

「せーのっ」

 子供たちが上に向かって吹いたシャボン玉に氷の魔法を使うと、シャボン玉が一瞬ですべて割れた。

「あーぁ」

 ……失敗した。

「難しいな」

 冷やし過ぎたのか?

「もう一回頼めるか?」

「良いよー」

「しょうがないなぁ」

 もう一度空中に舞ったシャボン玉に、今度は雪の魔法を使う。

 冷えたシャボン玉が結晶を作りながら白く凍って行くと、歓声が上がる。

『ナターシャの魔法だね』

 上手く行った。

「綺麗……」

 凍ったシャボン玉を手に取ると、球体が砕ける。

 シャボン玉の膜が薄過ぎるんだ。もっと扱いに気をつけないと。

「お兄ちゃん、もう一回やって!」

「良いぜ」

 宙に放たれたシャボン玉に向かって雪の魔法を使う。

 触らなければ形を保っていられるかもしれないな。

 風の魔法でその一つを包む。

 気をつけて……。

 できた。

「ほら。割れないシャボン玉」

「わぁ……」

 美しい球体は、凍る際にできた結晶で複雑な模様を描いている。

 これじゃあ、元がシャボン玉だってわからないかもしれない。

「ありがとう。すごく綺麗」

 良かった。喜んでくれて。

「これ以上の保存は少し面倒だな」

 封印魔法なら可能だろうけど。あれは無暗に使いたくない。

「あ……」

 リリーがシャボン玉に触れると、氷の球体が割れる。

「冬になったらもう少し形を保っていられるかもしれないな」

「お兄ちゃん、もう一回!」

『懐かれたわね』

「良いよ。ほら」

 みんなが吹いたシャボン玉に雪の魔法を使う。

 楽しそうだな。

『こんなに派手に魔法使って良いの?』

『雪の魔法なら平気だろう』

「面白い事やってるな」

 二人組の男。冒険者みたいだけど……。

「もうすぐ夜だ。暗くなっても綺麗なんじゃないか」

 敵意はなさそうだな。リリーが黒髪だから近づいたわけじゃないか。

 ……だめだな。普段だったらこんなに疑心暗鬼にならないんだけど。

「あ、一番星」

「どこどこ?」

 リリーの言葉に、子供たちが空を見上げる。

『この人たちもブローチ持ってるわ』

 本当だ。二人とも、襟にビオラのブローチをつけてる。

 なんで?

「そのブローチをどこで手に入れた」

 花屋でわざと俺にぶつかってきた奴といい。

 わざわざ話しかけて来たのは、俺に用があるからじゃないのか?

「他人には言えないな」

「お嬢ちゃんは持ってないのかい」

「え?」

 なんでリリー?

 リリーはブローチをつけてないのに。

 リリーが横に居る男と握った拳を合わせ、腕を合わせる。

「遅刻組って何ですか?」

 遅刻組?

 目の前の二人が驚いた顔をして、顔を見合わせる。

「知らないのか」

「不思議だな。どうして君は挨拶を知っているんだ?」

 挨拶?

 ……何かの、合図か?

「参ったな。こういうケースは想定外だ」

「どうせ近い内にわかるだろう。さようなら。エルロック、リリーシア」

 俺たちのこと、知ってる。

 ……っていうか。目薬、城を出る前に使ったきりだ。

 瞳の色、戻ってるよな。

『追跡するか?』

「いや。いいよ」

 追跡して得られる情報は大してないだろう。

「リリー。今の、なんだ?」

「今のって?」

「挨拶」

『シリルがやってた奴だよね』

「さっきの男か」

「うん」

『シリルもブローチを持ってたよ』

 シリルがリリーのことを助けたのは偶然じゃない?

 あいつも最初からリリーを知っていた?

「バニラ、同じものだったか?」

『同じものだ。しかし、石の話しならばリリーの方が詳しいだろう。私はそこまで細かい仕訳は出来ない』

 そうだ。バニラは人間が分類した石の名前に詳しくないけど、リリーなら全部わかる。

「リリー。これに使われてる石を教えて」

 ブローチを外して、リリーに渡す。

「赤はカーネリアン、白はムーンストーン、藍は瑠璃だよ」

 どこでも手に入りそうな石だな。

「どんな意味があると思う?」

「こういうビオラをイメージしたものじゃないの?」

「こんな配色のビオラはないよ」

 藍、白、赤なんて。

「石の組み合わせによる意味は解らないかな。でも、どれも歴史が古くて、昔から幸運を呼び寄せる石って言われてるよ」

 幸運中の幸運?

「このブローチを作るのは難しいか?」

 リリーがブローチを眺める。

 光に当てたり、角度を変えたり……。立派な宝石鑑定士だな。

「どの石も綺麗な加工をされてるよ。土台の細工も、石の取り付けも丁寧に作られてる。高い技術は必要だけど、特殊な加工をしているわけじゃないから、材料さえそろっていれば作れるものだと思う」

「そうか」

 良い職人が居れば……。

「ただ、ここまで全部のブローチを同じ色で統一するのは難しいんじゃないかな」

「同じ色?」

「私が見たブローチは全部、同じ色だった。同じ形のブローチを複数作ったとしても、石の色にここまでこだわる事って珍しいんじゃないかな」

「確かに」

 俺が見たのって全部同じ色だよな。

 石の色なんて単一なものじゃない。原石でも違うし、加工の仕方でも変わるはずだ。

「何よりも特徴的なのは、黄鉄鋼の入ってない瑠璃を選んでることだよね」

「黄鉄鋼?」

「瑠璃に入ってる金色の点や線は、黄鉄鉱の粒なんだ。これが美しく入ってる方が喜ばれるけど、ブローチに使われてる瑠璃は、どれも黄鉄鉱が入ってなかったよ」

 良く気づくな。

「どれもって、今まで見たの全部そうなのか?」

「詳しく見てみないと、はっきり言えないけど……。少なくともエルのには全く入ってないよ」

 そう言って、リリーが俺にブローチを返す。

 確かに。瑠璃っぽい金色の粒は入ってないな。

 このブローチが、特に色に留意して作られたのは確からしい。

 ってことは、模造品を作るのは難しそうだな。

 加工がどうにかなったとしても、それぞれ同じ色の石を用意しなければならない。特に、黄鉄鉱の入ってない同色の瑠璃を用意するのは相当難しそうだ。

 近衛騎士も持ってたし、俺が見たものは全部、アレクが作って配ったものだと考えて良いと思うんだけど。

 どういう意図があるんだ?

 そういえば、アレクの奴、俺が出かける前に変なこと言ってたよな。

 あれって……。

「あの……」

 だめだな。今はリリーと一緒に居る時間を大切にしたいのに。

 あれ、取りに行ってくるか。

「リリー。皆と噴水のところに行っててくれないか」

「え?」

 リリーは歩くのが遅いから、走れば間に合うはずだ。

『皆って、私たちのこと?』

「そうだよ。すぐに戻るから、リリーを頼む」

『了解』

 フードが脱げないように頭を抑えながら、人の合間を縫って、中央広場の南側に向かって走る。

 

 急いで……。

 あった。ルイスと最初に寄った花屋。

「頼んでたものを取りに来た」

「あぁ、兄さんか。出来てるぜ。そこに飾ってあるのだ」

 これか。

「貰っていく」

 赤い薔薇の花束を取って、今度は北へ走る。

 薔薇が好きだったら良いんだけど。

―マリユスからもらったの。

 マリユスから貰ってるなら、嫌いってことはないか。

 あれ?

 これって、リリーらしくないな。

 マリユスと何かあった?

―マリユスがオルロワール家に来たって言うのぉ?

―そうだよ。リリーはどこに居ても揉め事に巻き込まれるんだ。

 揉め事?

 あの馬鹿、リリーにまで決闘を挑んだのか。良く停職で済んだな。

 受ける方も受ける方だけど。リリーなら仕方ない。


 暗くなってきた通りを噴水の場所に向かって走る。

 皆に頼んだけど、リリーが誰かに絡まれていないか心配だ。

 出来ればリリーが着く前に追いつきたいんだけど……。

 あぁ。間に合わなかった。

 噴水の前にリリーが立ってる。

「エル……?」

『早かったな』

『ちょうど着いたところだよー』

「良かった」

 そんなに待たせることもなかったみたいだ。

 呼吸を整えて顔を上げると、リリーの輝く黒い瞳と目が合う。

 リリーに言いたいこと……。

 あぁ。最悪。

「だめだな。タイミングが悪い」

 今、俺がリリーに言えることって、何があるんだ。

「幸せにするって言ったのに、約束を何一つ叶えられなくてごめん。まだしばらく叶えられそうにないんだ」

 こんな時に。花に添えるべき言葉を何も言えないなんて。

「でも、いつも一緒に居たいと思ってるよ。俺のことを信じてくれるなら、受け取って」

 リリーに向かって花束を差し出す。

 え……?

 赤い薔薇越しに見えるリリーの輝く黒い瞳が、潤んでる。

 リリーが花束を手に取った瞬間。

 大粒の涙が頬に流れた。

「ごめん」

 ……泣かせた。

「泣かないで」

 リリーが首を横に振る。

 泣かせようなんて思ってないのに。

 また泣かせた。

 何が嫌だったんだ?

 薔薇の意味がグラシアルとラングリオンでは違う?

 それとも赤薔薇が嫌い?

「ごめん。薔薇が好きじゃないなんて、知らなかったんだ」

 リリーがまた首を振る。

「エルのばか」

 リリーの頬を伝う涙が、薔薇の花びらに落ちる。

 そんな顔をさせたかったわけじゃないのに。

「違うよ……」

「違う?」

 何が?

「だって、聞いたばかりだったから」

 リリーが顔を上げる。

「赤い薔薇だけの花束は、好きな人以外から貰っちゃいけないって。だから……」

 え?知ってる?

「だから、すごく、嬉しくて……」

 嬉しい……?

 あぁ。ようやく微笑んでくれた。

 薔薇の花を抱いたリリーを抱きしめる。

 その顔が見たかったんだ。

「リリー。受け取ってくれて、ありがとう」

「お礼を言うの、私だよ」

「違うよ。これは、最愛の人へ贈る特別な花束なんだ」

 言葉になんてできない、想いのすべてを花に託して。

「だから、リリーが受け取ってくれて嬉しい」

 愛してる。リリー。

「ありがとう、エル。私、すごく幸せだよ」

 リリーが幸せを感じてくれることが、俺の一番の幸せ。


 ※


 秋だから、夜は冷えるのが早くなってきた。

 紅茶を飲んでいると、リリーが顔を上げる。

「エル」

「ん?」

「どうして薔薇を選んでくれたの?」

 普段なら赤い薔薇なんて、絶対選ばないんだけどな。

「リリーが好きだから」

 リリーと一緒に居ると、紅も悪くないと思えるから不思議だ。

「私もエルが好きだよ」

 こんなに喜んでくれるとは思わなかったな。

 泣いた理由が、悲しいからじゃなくて良かった。

 ……それでも、リリーの涙を見たいとは思わないけど。

「エル、我儘言って」

 我儘か。

 そうだな。リリーにしてもらいたいこと。

「俺も薔薇が欲しい」

「薔薇?」

「そう。城の薔薇園で見つけた、一番可愛い薔薇」

 何のことかわかるかな。

「探せるかな」

「探せるよ」

「赤い薔薇?」

「紅も薔薇も好きじゃない」

 でも、あの薔薇をもう一度見たい。

「じゃあ、今日はどうして……」

「リリーは特別」

 リリーじゃないと、渡したいなんて思わない。

「どんな薔薇か教えて」

「赤い花びらを着てたな」

「赤……?」

 気づかない?

「ロザリーが作ったんだ」

「ロザリーが?」

 ……あ。気づいたな。

 リリーが頬を膨らませる。

「ばか」

 可愛い。

 やってくれると思った。

「着て」

 似合ってたから。

「うん。良いよ」

 珍しく素直だな。

「楽しみだ」

 いつもこうなら良いのに。

 リリーは可愛い服が似合うから。

「好きな花を教えて」

「なんでも好きだよ」

 嫌いな花はないのかな。

 薔薇が好きで良かった。

 そうだ。あれ、聞いておかないと。

「なんでマリユスから薔薇を貰ったんだ?」

「え?あの……」

 マリユスと戦ったことは間違いないんだろうけど。

「詳しく教えて」

 リリーが同性以外の相手を呼び捨てにするなんて滅多にない。

 マリユスの停職中に何かあったんだろう。

「稽古をお願いしたの」

「稽古?」

「手合わせをして……。エグドラ家で、カミーユさんとお兄さんの話しを聞いて。マリユスが、勘違いしてることがあったから……」

 勘違いか。

「だから、一緒にカミーユさんに聞きに行ったの」

 なんか、マリユスの様子を見てると想像がつくな。

「で?誤解を解いたお礼に薔薇を貰うことになったのか」

「貰っちゃいけなかった?」

「別に良いよ。赤じゃないし」

 本数は問題だけど。

「七本の意味って?」

「秘密」

「意地悪」

 わかってないな。

 


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