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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
63/149

68 良い夜を

 弓術訓練場で弓を構える。

 これで十本目。

 集中して……。

 矢を放つ。

 放たれた矢が狙い通り、正鵠を射る。

「合格だね」

「二本外したけど」

「的に中っていたよ」

 中心を狙ってたのに、十射中、二本は中心からずれた場所に中った。

 狙った場所を射抜けなきゃ意味なんてない気がするけど。

「不満そうだね。もう少し練習するかい」

「冗談じゃない。休みは貰えるんだろ?」

「その前に大会の予選を見ておくと良いんじゃないかな」

「予選か……」

 今日はバロンスの八日で予選の最終日。

 大会の参加者が決まる日だ。

 誰が出るか見ておいても良いだろう。

「エル、大会の開会式のイベントに参加してくれないかい」

「イベントに?皇太子の名代として?」

「違うよ。派手に魔法を使ってもらいたいんだ」

 ってことは。

「俺が生きてるって開会式の時にばらすのか」

「そうだよ」

「なんで?」

「レイリスが大会中、堂々と私の傍に居られるようにする為だよ。開会式でエルが派手にやってくれれば、大会中、顔を隠して私の傍に居るのはエルだって周囲に誤認させることができるだろうからね」

 確かに。

 あいつはいつどこから現れるかわからないんだし、レイリスはアレクの傍に居た方が良いよな。

「リリーは?」

 アレクの観覧席に連れて来る予定だったと思うけど。

「私の観覧席に招待済みだよ。彼女にも顔を隠してもらう予定だ。私の隣に座る黒髪の女性が誰なのか、皆、興味があるだろうからね」

 黒髪の女性が皇太子の寵姫だって噂は広まってるからな。

「エルがリリーシアに作ったティアラを借りたいのだけど、構わないかい」

「良いよ」

 こういうイベントじゃないと身に着ける機会はないだろうし、あのティアラが誰のものか知ってるのは知り合いだけだろう。

「あれはオルロワール家に預けてるはずだ」

「リリーシアの許可を貰って、もう城に運んであるよ」

 いつの間に。

「リリーシアには、エルも私の傍で観戦すると伝えてある。彼女にもレイリスがエルだと思わせておいた方が都合が良いだろうからね」

「ん……」

 城で仕事してることにしても良いけど。

 俺が何処に居るかはっきりさせておいた方が、剣術大会に参加してると思われる可能性は下がるか。

「騙せるか?」

「エルとレイリスの光の見え方が同じなのは、アリシアの協力で確認済みだよ」

「いつの間にそんなことやってるんだ」

「謁見に来てもらった際に、少し時間を貰ったんだ」

 用意周到だな。

「アリシアは……」

「彼女は優秀だね。深くは追及してこなかった」

 俺とレイリスの関係について感づいてるのかもしれないけど……。

 アリシアなら信頼できるか。

「レイリスには近衛騎士と共に前方の警護を任せる予定だ。リリーシアも、後ろ姿だけでエルじゃないと判断するのは難しいんじゃないかな。金色の光を持つ者がほかに居ないことからも、リリーシアを騙せる可能性は高いと見てるよ」

「そうだな」

「何か質問は?」

 仮に俺がアレクの席に居ないことがリリーにばれたとしても、レイリスが俺のふりをしてアレクの傍に居る理由は妥当なものだし、問題ないだろう。

 俺が大会に出てることがリリーにばれなきゃ良いだけだ。

「大丈夫」

 出かけて来よう。

 ……あ。

「これ、渡しておく」

 魔法研究所でもらった亜精霊を捕獲する小瓶を渡す。

「エルは持ってるのかい」

「一つ持ってる。ルー・ガルー用に」

「腕のない男に会ったんだね」

「あぁ。なんであいつは……」

「古いことだよ。国の機密にも当たることだから、簡単に語れるようなことじゃない」

―古いことだ。詮索しないでくれ。

 話す気はないんだな。

「わかったよ」

「いってらっしゃい。良い夜を」

「まだ朝だぞ」

「星が見たい気分なんだ。大会では派手にやってくれると期待してるよ」

「何やらせる気なんだ」

「詳細は帰ってきたら教えるよ」

「ん。いってきます」


 ※


 城門を通り抜けて、堀にかかる橋を渡る。

『また城門の上に居るねー』

 レイリスか?

『アレクの傍に居なくて良いの?』

『あれが現れる時は予兆があるからな』

 精霊が感じる嫌な感じ、だっけ。

 いつ現れるか予測がつかないよな。

『あ。来たわ』

 え?

「エル」

 急に肩を抱かれた。

「レイリス」

 この前会った時と同じローブ姿で、左目に眼帯。

「なんで眼帯?」

「この国は金髪碧眼だらけだからな」

 菫の瞳を隠しても不便じゃないのか?

「一緒に試合を見に行こうぜ」

「ん」

『良いのぉ?』

「良いんだよ」

 まぁ、良いか。


 ※


 剣術大会が行われる闘技場は、セントラルの東。

魔法研究所からそう離れていない場所にある。

「一一三番」

「一一三番」

『一一三番ってどっち?』

『右側よぉ』

 レイリスと一緒に、どちらが勝つか予想しながら観戦しているのだ。

 予選は人数が多いから、会場を二面に仕切って二つの試合を同時に行う。参加者は全員に番号が割り振られ、その番号のついた腕章をつけて試合を行い、本選まで名前が呼ばれることはない。

『西は?』

「八一番」

「八一番はムラサメだ」

『黒髪は目立つわねぇ』

「知り合いか?」

「あぁ。たぶん勝つぜ」

『一瞬で勝ったわ』

『あの技は危険だな』

 早過ぎて、どこから攻撃されるか見極められないんだよな。ただ、刀を抜いた後の連続攻撃には限界がある。最初の攻撃さえどうにかできれば自分のペースに持ち込むことは可能かもしれない。

 ……いや。まだほかにも技を持っているか。

 当たりたくない相手だけど、予選を勝ち上がって来るだろう。

『予選から観客が満員ね』

「純粋な客ばかりじゃないぜ」

『違うの?』

「人が多い場所では掏摸が横行するし、商売も繁盛する」

『あ。売り子が居るね』

「昼時だからな」

『あっちに居るのは掏摸だ』

『あ、財布取られちゃったよ』

『気を抜くのが悪い』

 こういう場所で警戒しておくのは礼儀の範疇だ。

『売り子が来たわ』

「ファラフェルはいかがですか?」

「もらう」

「おひとつですか?」

 レイリスは……。

「俺はオランジュエード」

「かしこまりました」

 売り子からファラフェルを受け取ると、レイリスが銅貨を二枚売り子に払って、オランジュエードを受け取る。

「ありがとうございました」

 奢られた。

「自分で買えるのに」

「ついでだ」

 ファラフェルを食べる。もう少しスパイスを利かせた方が好きだな。

 隣を見ると、レイリスがオランジュエードを飲んでる。

 こうしてると本当に人間と変わらない。

「飲めるのか?」

「まさか」

 精霊は食べ物を食べないし味覚もない。食べ物を摂取する行為は、精霊にとってプラスにならないはずだ。

「飲みたいならやるよ」

「もらう」

『あ、一一三番が勝ったよ』

『時間がかかったわね』

「相手を怪我させないように戦ってるんだよ」

『思ったよりも荒っぽい行事じゃないのね』

 前半はもっと血が流れる戦い方が多かっただろうけど。

 後半に残るような連中は、たいてい二つ名持ちの強者だ。顔が売れてる分、スマートな勝ち方を心得ているだろう。

『喜んでる人が居るわ。一一三番の知り合いなのかしら』

「まさか。どうせ賭博をやってる連中だろ」

『賭けをしてるの?』

「そうだよ」

「これだけ賑わってれば、元締めはもうかってるだろうな」

 大元締めは盗賊ギルド。賭博が公然と行われているのはいつものことだ。

 参加者が去って、次の参加者が並ぶ。

「え?」

 あの、独特な形状の大剣。

「バーレイグじゃないか」

 新品らしい、磨かれた白銀の鎧を着た剣士。頭部を完全に覆う兜からは栗色の長い髪が覗いている。あの膨らみのある胸部と言い、女剣士か。

 胸の中央には赤い宝石がついてる。どこかの貴族かもしれないな。そんな噂も耳にしたし。

『どっちが勝つかな』

「六三番」

「六三番」

『またかぶったねー』

『六三番は右側の子ねぇ』

『西は?』

「三八番」

「じゃあ、俺は一〇八番にするか」

 賭けをしてるわけじゃないんだから、全部同じでも構わないのに。

『三八番はぁ』

『右ね?』

『正解よぉ。ナターシャも数字、覚えたのぉ?』

『文字よりもわかりやすいわ』

『そぉねぇ』

 数字なら、他の皆も読めるみたいだけど。アンジュはどうかな。

 試合開始。

 ……あれ、本物のバーレイグだよな。

 あの店主がバーレイグを誰かに渡すとは考えられないけど。知り合いなのかな。

 六三番が、振り降ろされた片手剣をバーレイグで弾く。

 良い振り方だ。絶妙な角度で叩かれた相手の片手剣が吹き飛ぶ。

 勝利条件を簡単に満たすな。剣術大会の参加経験があるのかもしれない。

 優勝しない限り、大会には何度でも出場は出来るから。

『三八番が勝ったわ』

 西は見てなかった。

「良い試合だったんだけどな。場外か」

 剣術大会の勝ち方はいくつかある。相手を場外に出すか、相手の得物を吹き飛ばすのが定石。

 参加者が退場して、審判も退場した。

「予選はこれにて終了です。本選参加者はロビーにて番号を張り出しておりますので御確認下さい」

 終わったか。

 会場を埋め尽くしていた人々が、出口に向かって移動する。

「見に行くのか?」

「誰が本戦に参加するかは試合を見てればわかるよ。今年は十人ぐらいだろうし」

「勝てそうか?」

 どうだろう。

「ムラサメと六三番には当たりたくないな」

「なんで?」

「ムラサメの剣術は特殊でやりにくい。それに、大剣は苦手なんだ」

「苦手、ねぇ」

 大剣を扱う女と戦うなんて、やりにくいに決まってる。

『エル、帰るの?』

「あぁ」

『オイラ、ちょっとレイリスと遊んできて良いー?』

「良いよ」

「どの辺に居るんだ?」

『ここだよー。アレクの瞳だと見えないのー?』

「見えるわけないだろ」

『大精霊の癖にぃ』

『リリーの方が精霊っぽいわね』

 確かに。


 ※


 レイリスと別れて家に帰ると、扉に閉店の看板が下がっている。

 そういえば、今日は休日だっけ。

 鍵を開けて家に入る。

『ルイスが居るようだな』

 出かけてないのか。


 ノックをして、研究室に顔を出す

「ただいま、ルイス」

「おかえり」

「リリーとキャロルは?」

「キャロルは礼拝堂。リリーシアはオルロワール家だよ」

「また?」

「姉妹が来てるから向こうで過ごしてるんだ」

「そうだったな」

 アリシアはしばらく王都に居る予定だけど、メルリシアは剣術大会が終われば帰国するはずだから、一緒に過ごしてるのか。

 あの分じゃ、メルリシアの方がリリーを呼びとめてるのかもしれないけど。

「注文があるよ」

「誰が注文して行くんだよ」

 死んだことになってるのは知ってるはずなのに。

 ルイスから発注書の束を受け取る。

 また、面倒なものを頼みやがって。

「紫蝶の羽なんて、在庫あったか?」

「あるよ」

「……あるのか」

 市場には出回ってない、レア素材なんだけど。

 手に入れるなら自分で探しに行くか、冒険者ギルドに依頼するしかないものだ。

 素材があるなら作ってしまおう。

 後は……。

「もう死んだふりはやめることになったの?」

 これは後回しでも良いとして……。

「剣術大会までは続けるよ」

「じゃあ、もうすぐ帰って来るんだね」

「あぁ」

 こっちは作っておいても良いな。

 っていうか。これ。

「ルイス、これ読めるか?」

「え?……古代語なんて読めないよ。でも、それと同じものって良く注文されるよね」

 何度も見てるから覚えたのかな。

「これは滋養強壮剤。要するに栄養ドリンクのことだ」

「そうなの?」

「あいつら、わざと古代語で書いて行くんだよ。……古代語の本でも探しに行くか」

「うん」

 書斎にも古代語の本はあるけど、あれはルイスにはまだ難しいだろう。

「昼は食べたのか?」

「さっき食べたよ。買い物が終わったら、お祭りに行こうよ」

『私も行きたいわ、お祭り』

『僕も』

「そうだな。珍しいものがあるかもしれないし、寄ってみても良いか」

「じゃあ、着替えて来るから待ってて」

「着替え?」


 ※


「なんでその恰好を選んだんだ?」

 旅装束にマントと大きな帽子。

 剣は持ってないけど、駆け出しの冒険者みたいだ。

「この前もリリーシアと一緒に出掛けた時は変装してたよ」

「なんで?」

「喪中なのに、お祭りを見に行ったら怪しまれると思って」

「そんな心配してどうするんだよ。死んだって噂から一月以上経ってるんだから、気にする必要ない」

「エルだって冒険者みたいにマントを着てるのに、一緒に歩いてる僕が普段の恰好してたら変でしょ?」

 確かに。違和感のある二人連れなら人目を引くかもしれない。

「それに、喪中にしておかないとリリーシアはあの服は着ないと思うよ」

 ロザリーの作った服か。

 可愛くて似合ってるのに。

「なんて言ったら進んで着るんだろうな」

「可愛いのにね。……あ、この本屋で良い?」

「あぁ」

 イーストでも指折りの本屋だ。良い本が揃ってる。


 ※


「本当にそれで良かったのか?」

 本屋で選んだのは、古代語の辞典と魔法陣の本。

 魔法陣は精霊の言葉、古代語で書かれているから古代語の勉強にもなるとは思うけど、魔法陣なんて覚えたところで、魔法使いじゃないと必要ない。

「うん。欲しかったんだ。ありがとう、エル」

 喜んでるなら良いか。


『賑やかだね』

『いつもの中央広場と雰囲気が違うわ』

『店がたくさん並んでるものねぇ』

 年始の祭りも外に出なかったし、この前はセントラルに出かけただけで、露店が並んでる広場までは来なかったからな。

「エル、花屋があるよ」

 鉢植えが並ぶ花屋だ。

 珍しいのもいくつかあるな。

「実がついてる」

 その鉢植えは……。

「触るなよ」

「どうして?」

「ベラドンナだ。扱いに気をつけないといけない植物だよ」

「毒草なの?」

「薬草の一種だよ。薬草っていうのは毒にも薬にもなるからな」

「そっか」

 ベラドンナは古くから錬金術や医療に使われてきた植物だ。

「植物の本も買ってもらえば良かったな」

「書斎に図鑑がある」

「入って良いの?」

「良いよ」

「危ない本があるからだめって言ってたのに」

 そんなこと言ったかな。

「リリーが片づけたから大丈夫だよ」

「散らかってるから入っちゃだめだったの?」

「そんなところだ」

「これ、薬草なら買って行く?」

「要らないよ。ベラドンナを欲しがるのは女なんだ」

「え?特別な効能でもあるの?」

「果実のエキスを抽出して点眼薬にすると、美しい瞳になるっていう伝承があるんだよ」

「伝承?……実際はどうなの?」

「単に瞳孔が開くってだけだ。毒性の方が強いし、知識もなく使用するのは危険。……けど、農薬中毒に対する薬としても知られてる」

「あ。それって、店頭には出してないけど、うちの店にもあるよね」

「用法に気をつけないといけない薬だからな。……っ」

「大丈夫?」

 誰かがぶつかって来て、少しよろける。

『わざとぶつかって来たな』

 わざと?

「悪いな。ちょっと昨日の夜に飲み過ぎたんだ」

 酒の匂いもしないし、素面じゃないか。

「何の用だ」

「……用なんてないぜ。悪かったな」

 相手がそのまま歩いて行く。

 わざとぶつかってきた割に、俺に用があったわけじゃないらしい。何かを取られたわけじゃないから掏摸でもなさそうだ。

『あの人、エルと同じのつけてたわ』

『同じの?』

『ほら、襟に付けてるのと同じブローチ』

 なんで?

 このブローチはアレクが配ってるものじゃないのか?

「本当に同じものだったか?」

『見て来よう』

 バニラならわかりそうだな。

「あぁ」

『私も行くわ』

「どうしたの?」

「なんでもない。何か欲しいものはないのか?」

「せっかく花屋に来たんだから、リリーシアに花を選んであげたらどう?」

 花か。

「ブーケならフローラに頼んだ方が良いのを作ってくれそうだけど」

「お客さん、恋人にプレゼントかい」

 話しを聞かれてた。……仕方ないな。

「何か良いものはあるか?」

「恋人へのプレゼントなら薔薇だろう。香りの良い赤薔薇をそろえてるぜ」

 赤も薔薇もそんなに好きじゃない。

 でも。

「三六本で作ってくれ。後で取りに来る」

 店主に銀貨三枚を渡す。

「お。特別な日なのかい。良いのを選んでおこう」

 特別な日ってわけじゃないけど。

 この前、薔薇園で会ったリリーが可愛かったから、赤も悪くない。

 ルイスと一緒に花屋を後にする。

「赤薔薇の花束なんて、フェリックス王子みたいだね」

「ルイスも見たことあるのか?」

「あるよ。マリーが王子から薔薇の花束をもらうのは恒例行事だからね」

 有名だからな。

 っていうか。赤薔薇の花束なんて、その気がないなら受け取るべきじゃないと思うけど。

「エル、的当てをやろうよ」

「的当て?得意なのか?」

「カミーユ程じゃないけどね」

 カミーユは的当てが得意だからな。

「俺は見てるからやって来いよ」

「景品に欲しいもの、ある?」

 的当ての店に並んでいるのは、菓子や玩具、ぬいぐるみ……。

 俺が欲しいものはないけど。

「ぬいぐるみならリリーとキャロルが喜ぶんじゃないか?」

「そうだね。狙ってみる」

 代金を払って、ルイスがダーツを三つ貰う。

 番号が書かれた的に的中すれば、番号に対応した景品がもらえるシステムだ。

『ぬいぐるみは八番ねぇ』

 ルイスが一投目を放つ。

『ルイスが今当てたとこ、八番?』

『アンジュも数字、覚えたのねぇ』

『少しだけ……』

 二投目も八番に当たった。

『また八番だ』

『上手いな』

 ルイスが三投目を放つ。

『惜しかったわねぇ』

『あれは?』

『五番だ』

「景品はポム・ダムールとぬいぐるみが二つだよ」

「ありがとう」

 店主から景品をもらったルイスが戻ってくる。

「外しちゃった」

「上手いじゃないか」

 あんなに的確に当てられるなら。最後のだって惜しかった。

「飴食べる?」

 小さな林檎が丸ごと入った飴、ポム・ダムール。

「食べるわけないだろ」

 ルイスが笑う。

「ジニーはお祭りを見られないだろうから、ジニーにあげようかな」

 それが良いだろう。

『ただいまー』

 ジオ。

『ただいま』

『戻った』

 ナターシャとバニラも一緒だったのか。

『おかえりなさい』

『リリーを見つけた。三番隊の前のベンチに居る』

「リリーを?」

「リリーシアがどうかしたの?」

「この辺に居るらしい。迎えに行くか」

「うん。わかった」

『リリー、見張られてるみたいだよー』

 見張られてる?

 ロニーの件は方がついてるはずだから、護衛じゃないよな。

 きっと別件で因縁つけられてるんだろうけど……。

『誰かに絡まれているところを冒険者に助けられて、その冒険者と一緒に行動しているらしい』

『イリスは引っ張り回されてるって言ってたけど?』

『リリーって流されやすい上にぃ、誰にでもついて行っちゃうものねぇ』

 知らない奴には付いて行くなって言ってるのに。

 リリーを見張っているのは誰だ?

 最初に絡まれた奴に関係があるのか?それとも、今一緒に居る奴?それとも全く別件?

『揉め事に巻き込まれることの多い娘だな』

『エルと同じだねー』

『確かに』

『エルとリリーは似てるの?』

『ふふふ。そうねぇ』

「……メラニー以外は、リリーを見張ってる連中を探してきて」

『了解』

『一人は見つけてるよー』

『他にも居ないか探せば良いのね』

『まかせてぇ』

『アンジュは私と来い』

『うん』

「何かあったの?」

「リリーが何かに巻き込まれてるらしい。リリーは三番隊宿舎の前に居るはずだから、探してくれないか?」

「良いけど、エルはどうするの?」

「上手く片付いたら合流する」

「守備隊に捕まらないようにね」

「あぁ」

 ルイスを見送って、少し暗い通りに入る。

『こっちだよー』

 こいつか。

 背後から近づいて、闇の魔法を使う。

 後はどの辺に居るかな。

 通り過ぎ去った後で、人が倒れる音が聞こえる。

 少し強い眠りの魔法をかけたから、しばらく目は覚まさないはずだ。気づいた誰かが守備隊に通報するだろう。

『エル、こっちだ』

 バニラの声がする方に向かう。

『この人がずっとリリーの方を見てるよ』

 バニラとアンジュで見つけてくれた奴を同じように眠らせて、そのまま進む。

 リリーが居るのはあそこか。ルイスも合流したみたいだな。

 一緒にベンチに座ってるのが、リリーを助けて連れまわしてる奴か。

『こっち側には居なかったわよぉ』

『ナターシャは?』

『どこまで探しに行ったのかしらねぇ』

 広場側に二人居たから、反対側にも居るかもしれないけど。

『あ、おかえりー』

『向こうには居なかったわ』

 これで終わりか。

 闇の魔法を解く。

『エル、報告だ。さっきのブローチは、お前の持っているブローチと同じ石を使っているものだった』

 同じなのか。大地の精霊が言うなら間違いないんだろう。


 ベンチに座っているリリーの傍に行く。

「リリー」

「エル」

 なんで、薔薇の花束なんて持ってるんだ。

『リリーを尾行してた連中を退治してきたの?』

『ちょっと寝てもらっただけよぅ』

「見事な御手並みじゃないか」

 リリーの隣に居る男が言う。

 尾行の存在は把握してたみたいだけど。

「誰だ」

「冒険者のシリル」

「知らないな」

「たまにお店に珍しい素材を持って来てくれる人だよ」

 俺は会ったことない。

「そう、睨むなよ。恋人が絡まれてるところを助けてやったんだぜ」

 ……恋人。

 リリーが言ったのか?

「リリーを助けてくれたことには礼を言う。でも、無理に連れまわしたことは別件だ」

「こんなに可愛い子が一人で歩いてるんだから仕方ないだろ」

「俺に喧嘩売ってるのか?」

 こいつ。善意でリリーに近づいたのか怪しいな。

 シリルが大げさに肩をすくめて、立ち上がる。

「冗談だよ。……じゃあな、リリーシア」

「あの。シリルさん、色々ありがとうございました」

 リリーがシリルに向かって頭を下げる。

「変なことされなかったか?」

「え?……大丈夫だよ」

 なら、なんで薔薇の花束なんて貰ってるんだよ。

「その薔薇は?」

「マリユスからもらったの」

「は?」

 なんでマリユスの名前がここで上がるんだ。

「えっと……」

 リリーが持ってる薔薇の花は七本。

『マリユスとカミーユを仲直りさせたお礼だって』

 感謝を示すなら、七本じゃなくて十二本だろ。

『どぉしてリリーがそんなことしてるのよぉ?』

『しょうがないだろ。なんにでも首突っ込むんだから』

 だいたいマリユスは停職で謹慎中のはずなのに。どこで会うって言うんだ。

「リリーはオルロワール家に居たんじゃないのか?」

「どうして知ってるの?」

「僕が教えたんだよ。姉妹が来てるからオルロワール家に行ってるって」

『マリユスがオルロワール家に来たって言うのぉ?』

『そうだよ。リリーはどこに居ても揉め事に巻き込まれるんだ』

 その言葉に説得力があるから困る。

 リリーは自分が可愛いことを自覚した方が良い。

「パーシィだ」

 三番隊の宿舎の方からパーシバルが来る。丁度良いな。

「パーシバルさん」

「お久しぶりです」

「久しぶり。あの辺に転がってる連中を頼んだぜ」

「もう回収しに行ってますよ。あんまり派手にやらないで下さい」

「眠らせただけだぞ」

「蹴り飛ばしても起きない不審者が居るって通報が来ました」

 もう?通報が早いな。

 でも、パーシバルが出向かないなんて。

「暇そうじゃないか」

 三番隊は今時期、忙しいはずだけど。

「今年は派手な揉め事もなくて平和です。今のところ定期巡回で事足りてますね」

「珍しいな」

 剣術大会と言えば守備隊が走り回ってるイメージだ。

「そうなんっすよね……。妙な感じです」

 何か理由があるのか?

『そういえば、ルイスの剣はどうするの?ガラハドに預けっぱなしじゃなかった?』

 あれ、ガラハドに預けてるのか。

「ルイス、リリーを頼めるか?俺はガラハドに用があるんだ」

『エルが取りに行くの?』

「じゃあ、ここで待ってるよ」

「時間がかかるかもしれないから先に帰っててくれ」

 他にも話したいことがある。

「その用事って後回しにできないの?」

「なんで?」

「リリーシアを迎えに来たのに行っちゃうの?そんなんだから、リリーシアを他の人に取られちゃうんだよ」

「なっ……」

「え?」

「そうっすねー」

 全部、俺のせいなのか?

『リリーはふらふらしてるからね』

 俺がリリーと一緒に居ないから?

『ふふふ。薔薇が七本、ねぇ』

「七本の意味、知ってるの?」

『リリーは知らないようだな』

「知らないの?」

「うん」

 ラングリオンの風習だからリリーは知らなかったとして。

『意味があるの?』

『後でこっそり教えてあげるわねぇ』

『私も知りたいわ』

「教えて」

「秘密」

『秘密よぉ』

 マリユスが七本贈ったのは意図的に違いない。

 ……今日はリリーと過ごそう。

「ガラハドは宿舎に居るのか?」

「居ますよ」

「すぐ戻るから、待っててくれ」

「うん」

「いってらっしゃい」


 三番隊の宿舎に行くと、ガラハドがロビーに居る。

「ガラハド」

「なんだ。捕まりに来たのか?」

「そんなわけないだろ」

「一般人を闇討ちしておいて何を言ってるんだ」

 なんで俺がやったって分かるんだよ。

「そいつはリリーに因縁つけてた連中だ」

「黒髪の女の子が絡まれたって話しは何件か上がってるからなぁ」

 リリーが絡まれたのはそういうわけか。

「神聖王国の連中か?」

「ラングリオンだって吸血鬼種が嫌いな奴は多いぜ」

 祭りで色んな人間が来てるからな。

 黒髪の人間が堂々と一人で歩いていたなら絡まれる可能性はあるのか。

「で?何の用だ?」

「リリーが預けた剣のことなんだけど」

「あれか。ファルかフランカに届けさせようと思ってたところだ」

 そういえば、二人はガラハドの所に居るんだっけ。

「あの二人は、いつまでガラハドの所に居るんだ?」

「グリフの家は王都にはないからな。しばらくはうちに居るんじゃないか?」

 グリフの家って、ジュワユーズ地方にある本家のことだろ。

 結婚していない騎士が王都に自宅を持つことなんて滅多にない。

 ガラハドが住んでいる屋敷は、ガラハドがアレクの名代として出た剣術大会で優勝した際に、名誉騎士の叙勲と共に陛下から賜ったものだ。

「明日、ガラハドの家を借りても良いか?」

「お。ルイスの誕生会をやるのか?」

「そのつもり」

「良いぜ。俺もしばらく帰れないし、賑やかなのは歓迎だ。メイドに話しをつけておくから派手にやっていけ」

「ん。わかった」

 話したいこともあったんだけど。ガラハドが忙しいなら、大会が終わってからになりそうだな。


 三番隊を出て、さっきの場所に戻る。

「あれ?ルイスは?」

 リリーとパーシバルしか居ない。

「先に帰ったみたいっすよ。俺は宿舎に戻ります。お気をつけて」

「はい」

「じゃあな」

 パーシバルを見送って、リリーの方を見る。

「リリー」

 リリーが顔を上げる。

「ただいま」

 リリーが微笑む。

「おかえりなさい」

 その言葉が聞きたかった。

「行くか」

「うん」

 リリーに手を差し伸べると、リリーが手を握る。

 ……久しぶりだ。

 


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