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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅲ.剣術大会編
61/149

66 月に吠える

「アレクシス様」

 アニエスがアレクに何か耳打ちする。

「わかった。エル、今日はここまでで良いよ」

 仕事の途中だけど。

「急用か?」

「午後には戻るよ」

「ん」

 どうするかな……。

 ランチまでは、まだ時間がある。中途半端に時間が空いたな。

 そうだ。

「魔法研究所に行ってくる」

 アラクネを持って行かないと。

「エルロック様。本日は、どのような御支度をいたしましょうか」

 何を用意するつもりだ。

「剣術大会で人が集まってるんだ。あれだけの人ごみなら変装の必要なんてないだろ」

 アレクが笑ってる。

「そうだね。研究所に行くだけなら、マントと目薬だけで良いんじゃないかい」

「かしこまりました。では、こちらをどうぞ」

 アニエスの表情って全然変わらないけど、流石にこれだけ一緒に居ればわかるようになる。

 ……なんで、少し残念そうなんだよ。


 目薬を差して、アニエスが用意したマントを羽織ってフードを被り、城を出る。

 そろそろ目薬がなくなるな。

 亜精霊を預けたら、カミーユのところに行って作ろう。

『人がいっぱいだ』

『賑やかだわ』

『お祭りだものぉ』

『剣術大会が始まったからな』

『え?始まったの?』

『予選が始まってるからねー』

 予選か……。闘技場でやってるはずだよな。

 どんな奴が出るのか見に行っても良いけど、行くなら参加者が絞られる後半だろう。

『エル、こんなところに居て良いの?』

『あんなに頑張ってたのに』

 大会までは毎日、早朝に弓術の稽古、午前は秘書官の仕事、午後は剣術の稽古を続ける予定だ。今日みたいなイレギュラーがない限り。

『エルはアレクの名代だから予選に出る必要はない』

『そうなの?じゃあ、予選って?』

『一般参加者はバロンスの朔日に登録して、予選を勝ち抜かなきゃいけないんだよー』

『予選が終わったら、エルも参加するの?』

『二日から八日までが予選だ。エルの参加するのはその後。十三日が開会式、十四日から本選が行われ、十六日が準決勝と決勝戦。十七日が閉会式だ』

『九日はルイスの誕生日ねぇ』

 元気にしてるかな。

『人間って細かいわ』

『難しいね』

『ふふふ。わからないことがあったら、何でも聞いてねぇ?』

『ユールはろくなことを教えない』

『そんなことないわよぉ』

『今日って何日?』

『バロンスの三日だ』

『ありがとう』

 アンジュが馴染んで良かった。


 魔法研究所に入る。

『わぁ。精霊がたくさんだ』

 そんなに居るのか。ここ。

『アンジュ、あまり離れないように』

『うん。……どうしたの?ナターシャ』

『なんだかじろじろ見られて落ちつかないわ』

『雪の精霊は珍しいからねー』

 受付けに行く。

「ようこそ。……あら。どうなさいました?」

「アレクから頼まれた亜精霊を渡しに来たんだ。この中に、アラクネの子供が二体入ってる」

「アラクネ?しかも幼体ですか?」

「そうだよ。出してみるか?」

「ロビーでそのようなことをされては困ります。研究所でお預かり致しますので、こちらにサインを」

 受付嬢が出した用紙にサインをする。

「聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

「去年、王都で亜精霊騒動があっただろ?」

「実験体が盗難にあった件ですね」

「盗難?」

「はい。地下の管理者が不在の間に、何者かが侵入したようなのです。盗まれたものの内、虎の亜精霊が四体と、巨大化した虎の亜精霊が一体は、無事に回収できたのですが……」

 中央広場で亜精霊が暴れた騒動。

 俺が駆け付けた時に居たのは、通常サイズの虎の亜精霊が二体、巨大な虎の亜精霊が一体だったな。

「他にも何か盗難にあったのか?」

「これは内密なことですが」

 受付嬢が声を潜める。

「ルー・ガルーが盗まれたままなんです」

「ルー・ガルー?」

「人狼です」

 人型の亜精霊だ。毛深く、狼の尻尾と狼の頭部、そして鋭い爪を持つという。

 なんで、そんなものが。

「中央広場の騒ぎは陽動です。目的はルー・ガルーだったのでしょう」

 適当に盗んだものを広場に放って逃げたのか。

 王都で亜精霊が暴れればパニックだからな。

 亜精霊の対応をしていたのが魔法部隊だけだったのは、他の連中がルー・ガルーの捜索に当たってたからか?

「興味がおありでしたら、管理室へ向かわれてはいかがでしょう」

 亜精霊を管理してる部屋は地下だよな。

『行くのか?』

「行く。これは地下の管理人に渡せば良いか?」

「はい。よろしくお願いいたします」


「身分証の提示を」

「研究員じゃないと入れないのか?」

「基本的には。しかし、皇太子秘書官の権限ならば入れるでしょう」

 秘書官の官位章を見せる。

「こちらにサインを」

 研究所内でこういう手続きをさせるのは珍しい。盗難事件以降、チェックが細かくなってるのかな。


 薄暗い地下を進んで、扉をノックする。

 魔法研究所には滅多に来ないし、亜精霊を管理してる部屋に入るのは初めてだ。

「誰だ」

「エルロック・クラニス」

「……入れ」

 扉を開く。

 中も薄暗い。

 実験用流し以外は壁一面棚になっていて、中央に大きめの机がある部屋。

 管理人は、部屋の奥にある机の前に座ってる。

 確か、亜精霊の管理をしているのは以前の魔法研究所の副所長だったな。

 名前は……。忘れた。

「こんにちは」

「何の用だ」

「亜精霊を捕まえたんだ。アラクネの幼体が二つ入ってる」

「アラクネか。珍しいな。その上に置いてくれ」

「ん」

 言われた通り、部屋の中央にある机の上に小瓶を置くと、机の上に猫が飛び乗る。

「猫?」

「気にするな」

 猫が小瓶を咥えて行く。

「良いのか?」

「賢い子だ」

 小瓶を咥えた猫は、奥の机の上に小瓶を置くと、管理人の足元で丸くなる。

「そっちの棚に、別の小瓶がある。同じ仕掛けの空き瓶だ。持って行くと良い」

 そっちって……。

 あぁ。書いてあるな。捕獲用の小瓶。

「亜精霊狩りなんてしないけど」

「必要になるかもしれないだろう」

「ルー・ガルーを捕まえるのに?」

「そうだ」

 はっきり答えるな。

 アレクも必要かもしれないし、持って行くか。

「ルー・ガルーについて聞きたいんだけど」

「人狼についての知識が欲しいのならば、王立図書館に行くと良い。亜精霊図鑑に載っている。ページは確か……」

「そうじゃない。なんで魔法研究所に人型の亜精霊が居るんだ」

「ここは亜精霊の研究を行っている場所だ」

「マーメイドだって、ここには居ないはずだろ」

「マーメイドの生息場所は海域だ。海のない場所での管理は難しい。……亜精霊は、小瓶に入れたまま管理できるものばかりではない。放っておけば小瓶の中で死んでしまうものも居る」

 長期間入れっぱなしにするのはまずいのか。

「それに、あれは自立した意思を持つ亜精霊だ。倫理上の問題も大きい。私が知っている個体は、亜精霊にしては珍しく言語を持っていたな」

「え?会ったことがあるのか?」

「あぁ」

「すごいな」

 亜精霊研究の第一人者なのか。副所長をやってたってことは、それなりの実績があるんだろう。

「キマイラと戦ったことがあるだろう」

 キマイラ。

 獅子の頭、山羊の頭と胴体、蛇の頭の尻尾を持った亜精霊。

 昔、戦ったことがあるけど。

「なんで、そんなこと知ってるんだよ」

「獅子、山羊、蛇が混ざった亜精霊は存在するんだ」

『会話が成立してるの?これ』

『エルの話しは無視されてるようだな』

『そんな亜精霊と戦ったなんて、いつの話しよぉ?』

『昔の話しだ』

 メラニーしか知らない。

 あの時は疑問になんて思わなかったけど。確かにキマイラは特殊だ。

 そういえば、亜精霊化する時って、大きさが変化することや精霊との融合、精神の崩壊が主だけど、元の生き物が何か分からなくなるほど変化するものも居るんだっけ。

 確か……。

「突然変異種?」

「もう二十年以上前か。田畑や家畜を食い荒し、人間を襲い、王国中に被害をもたらした亜精霊が居た。国を挙げての狩りの末、その亜精霊は生きたまま捕獲され、秘密裏に研究所に運ばれることとなった」

 どっかで聞いたことあるな。凶暴な亜精霊。

「それがルー・ガルー?」

「人狼だとわかったのは捕獲後のことだ。あまりの恐ろしさから、今でも各地で伝説の生物として語られている。そして、ルー・ガルーの研究によって生まれたのがキマイラ。突然変異の法則を割り出す為に実験が行われていた。キマイラは山羊を素体とした突然変異種だ」

「キマイラは、魔法研究所によって生み出された亜精霊なのか?」

「そうとも言えるし、違うとも言える」

「同じ条件が揃えば発生の可能性はあるから?」

 ルー・ガルーが自然発生した亜精霊なら、ほかにも突然変異種が生まれる可能性はある。

「しかし、ルー・ガルーですら、過去に他の個体が存在したと学術的に示す文献はない。物語の中で人狼という存在が語られているだけだ」

 存在した可能性はあるが、それが作者の空想上の生物なのか、実在した亜精霊なのかは不明ってことか。

「そんな実験、誰が許可してたんだ?」

「秘密裏の研究に許可など必要ない」

「今もやってるのか」

「すべて一昔前の話しだ。……実験なくして何かを証明することは出来ない。ルー・ガルーから得た情報は、今日の亜精霊研究に多大な貢献をした」

 わかってる。

 今まで試行錯誤されてきた多くの失敗と、わずかな成功。それによって支えられる知識があるのは目を背けることのできない事実だ。

 だから、今得ることの出来る知識を探求し、証明した先人は評価されるべきだって。

 けど……。

「何かの犠牲の上でしか成り立たないなんて学問じゃない。力づくで物事を解決することは簡単だ。でも、それ以外の方法を模索しないなんて、論外だろ」

「お前ならそう答えるのだろう。……方法を探るのは自由だ。私も前線から引退し、今は若者の時代だからな」

『エル、この人と知り合いなの?』

 知り合いだった覚えはない。

 けど、俺のことを良く知ってるみたいだ。

「ルー・ガルーは、どこに居るんだ?」

「不明だ。ルー・ガルーが小瓶から出ているならば、何らかの情報が得られると踏んでいたが、音沙汰なしだ」

「なんで?」

「ルー・ガルーをもう一度元に戻すのは難しいと考えられる」

「難しい?……魔法使いじゃないと小瓶に戻せないから?」

「呪文による魔法の発動は研究所の極秘情報だ。呪文と理論を正しく知っている者じゃなければ、一度小瓶から出たルー・ガルーをもう一度戻すことは難しい」

 俺もカミーユから聞くまで、魔法の研究がそこまで進んでるなんて知らなかったからな。

 それなりに機密性の高い情報ではあるのか。

「盗んだ当人が魔法研究所や魔法部隊の関係者ではないことはわかっている。手引きした人間は存在しただろうが、協力は一時的なものだったのだろう。その後の繋がりを追うことは出来なかった」

 上手く逃げられたってわけか。

 ……なんかそれ、あいつらのやり口に似てるんだけど。

「ルー・ガルーについて補足しておこう。あれは二本脚での歩行が可能だ。頭部と尻尾、そして毛深さを隠せば、大柄で凶暴な人間にしか見えない」

「小瓶から出て、どこかで人間として潜伏してる可能性があるのか?」

「そこまで高い知能は持たない。せいぜい犬や猫と同じ程度だ」

 犬や猫……。

 管理人の足元に居る猫の尻尾が動く。

 ある程度、飼いならすことが可能って聞こえるな。

「欲しい情報は得られたか?」

「充分」

 聞きたかったことは聞けた。

「なら、コーヒーを淹れてくれないか」

「良いよ」

 サイフォンに水とコーヒー豆を用意していると、管理人が椅子を動かして広いテーブルの前に座る。

「一日中、こんなところに居るのか?」

 地下だから陽射しが入り込む場所はない。

 灯りは天井からつるされたランプだけ。

「ここが私の墓場だからな」

「辛気臭いな。元魔法研究所のトップじゃないのか」

「副所長だっただけで、トップになったことは一度もない」

「似たようなものだろ」

「違うな。たとえば、一般人がどれだけ頑張っても王族になることはない」

「王族になりたいなら自分で国でも建てれば良いだろ」

 ……笑われた。

「言葉を変えよう。王族が得る祝福は得られない。頂点に立つべき人間は、選ばれた人間だ」

 精霊の加護のことか?それともエイルリオン?

「たぶん、ろくなもんじゃないぜ、それ」

「相変わらず、王族に対して失礼な態度だな」

 相変わらずって。直接会ったこともないのに良くそんなことが言えるな。

「アレクは聖剣に選ばれたせいで、この国を守る王として戦い続けなければいけない。誰も肩代わりできないんだ。……それが本当に幸せなことか?生まれた時から将来を決められて、逃れられない責任を負うことが。俺は、アレクはこの国で一番不自由な立場に居ると思うよ」

 リリーは俺の運命を変えてくれた。

―終わりを延ばしたければその命を捧げよ。

 俺は、アレクの運命を変えられるのか?

「そうだな。選択権を与えられた私は、まだ幸せだと言えるのか」

 選択権、か。

「ほら。出来たぜ」

 コーヒーを管理人の前に置く。

「良い香りだ。……用が済んだなら、もう行くと良い」

「飲まないのか?」

「飲むのは、少し冷めてからだ」

 雪の魔法……。

 難しいな。冷めすぎるかもしれないけど。

 だめだったら淹れ直そう。

『大サービスねぇ』

 色々、教えてもらったから。

「どうだ?」

「あぁ。良い具合だ」

 相手が器用に腕でカップを引き寄せる。

 ……その、二の腕の下が、ない。

「それ、」

「私の罪が公正に裁かれた結果だ」

 その断面。……あいつと同じ。

「何したんだ」

「古いことだ。詮索しないでくれ」

 亜精霊研究に関係がある?それとも……。

「不便じゃないのか」

「私の腕の代わりになるものなど、いくらでも存在する」

 足元に居る猫が、小さく鳴いた。


 ※


 眩しい。

 なんだかずいぶん暗いところに居たみたいだ。

 魔法研究所を出て、そのまま錬金術研究所のカミーユの研究室へ行く。


「おはよう、エル」

「おはよう、アシュー」

 あれ?一人だけ?

「他の連中は?」

「魔法部隊の宿舎に行ってるよ。転移の魔法陣の研修に行ってるんだ」

「イレーヌたちを運ぶ段取りか」

「うん」

 今のところ、クレアについての情報は伏せたまま。イレーヌたちは昔から魔法陣を管理してる一族ということになっている。

 イレーヌが里の長老と話し合った結果を踏まえて、王都の魔法部隊の宿舎に転移の魔法陣を設置すること、その魔法陣を使用する里の人間はイレーヌが事前に伝えた者だけに限ることが決まった。

 使用者を限るのはクレア側の提案だ。呪文だけで転移可能なものを不審者が使用する危険を排除する為で、お互いの利益となると言っていたけれど……。イレーヌの話しぶりからすると、里の長老は俺たちと慣れ合いたくはないようだった。クレアとブラッドの歴史を一番知っているなら、間にブラッドが介入しなければならないような魔法陣を使いたくないのもわかるけど。

「アリシアも行ってるのか?」

「グラシアルの姫君が到着されてるから、剣術大会の間はオルロワール家に居るはずだよ」

 そういえば、到着してるって聞いたな。

「名前は何だっけ」

「メルリシア姫だよ。まだ会ってないの?」

「謁見の日程は調整中だ」

 陛下とも会うはずだから。

「エル。……相変わらず、死人の癖にふらふらしてるな」

 部屋の奥からカミーユが出て来た。

「居たのか」

「俺はこっちでやることがあるんだよ。予防薬に関する問い合わせに回答しなきゃいけないんだ。……アシュー、この書類、まわしておいてくれ」

「そのまま昼休みにして良い?」

 もうそんな時間か。

「良いぜ」

 アシューが書類を持って部屋を出る。

「転移の魔法陣の研究は?」

「お前、俺が忙しいって言ってるの聞いてなかったのか?」

「進んでないのか」

 カミーユが机の上に置いてあった書類の束から一部を引き出す。

「これが古代の魔法陣の解析結果だ」

「古代の魔法陣?」

「遺跡の魔法陣や竜の山の魔法陣のことだ。いつまでも遺跡の魔法陣って呼んでいたんじゃ、どれのことかわからないからな」

「確かに」

 古代の魔法陣の解析結果。

 中央に描かれている魔法陣の基本構造はグラシアルのものと同じ。

 周囲に描かれている魔法陣は、外周にある円をずらすことによって、精霊の記号が現れる?

「そんな面倒な仕掛けがあったのか」

「あぁ。どれも似たような構造になってるからな。比べて違いのある部分を調べたらわかる」

「じゃあ、これは?クエスタニアの」

 確か……。

「お前、一度しか見てない魔法陣、覚えてるのか」

 全部似てるから、他のと違う違和感のある部分は印象に残ってる。

「こんな感じだったと思う」

「流石だな」

 紙に描いた魔法陣を、カミーユが切る。

「こう切って、回転させれば……」

 闇の精霊の記号が現れた。

「これは、闇の大精霊が描いた魔法陣ってことだ」

 ってことは、クエスタニアにある棺の封印を解けるのは、光の大精霊なのか。

 他の魔法陣の解析結果は……。

 竜の山の魔法陣は、大地の大精霊だから、封印解除に必要なのは水の大精霊の力。

 砂漠の魔法陣は、真空の大精霊だから、封印解除に必要なのは風の大精霊の力。

 遺跡の魔法陣は……。

「え?」

「それ。セントオの記号がわからないんだよ。お前が前に描いてたのに似てるんだけど。知ってるか?」

「砂の精霊の記号だ」

「……砂?」

「もしくは月の大精霊」

「月だって?」

「月から砂漠にやって来た大精霊は、砂の精霊を生んだって言えば分るか?」

「そういや、マリーが砂漠にしか居ない精霊がどうとかって言ってたな」

 セントオは、月の大精霊が封印した棺……?

―俺もその場にいたわけじゃないから知らないけど。

 これはレイリスが封印したものじゃない。

 レイリス以外の月の大精霊が地上に居る?……もしくは、過去に存在していた?

 でも、月の大精霊が封印した棺なら太陽の大精霊じゃないと開けない。実質、開くのは不可能だよな。

「この解析結果、持って帰って良いか?」

「良いぜ」

「ん」

「聞きに来たのはそれだけか?」

「あ。目薬を作りに来たんだ。機材を貸してくれ」

「ここにあるもので良いなら、使って良いぜ」

 十分だ。

 器具と材料を準備する。


 神の台座にあった封印の棺は、氷の大精霊が封印を施して、炎の大精霊が封印を解除した。

 フォルテが腹に抱えてる封印の棺は、封印されてない可能性が高い。

 じゃあ、クレアの里にある魔法陣は何で封印されてるんだ?

 解析結果は、全部違う大精霊が封印を施してるみたいだけど。

 他の組み合わせって?

 根源的な神に近い元素の組み合わせは……。

 運動する神に祝福された風の精霊と、停止する神に祝福された真空の精霊。

 温度を上げる神に祝福された光の精霊と、温度を下げる神に祝福された闇の精霊。

 同じく温度を上げる神に祝福された炎の精霊と、温度を下げる神に祝福された氷の精霊。

 溶ける神に祝福された水の精霊と、固まる神に祝福された大地の精霊。

 そして、地上には存在しない神の力である、太陽の神に祝福された太陽の精霊と、月の神に祝福された月の精霊。

 これ以外の組み合わせって?

 俺が知ってる他の精霊は、基本の精霊の亜種に分類される。

 大河の精霊や海の精霊は、水の精霊の亜種。雪の精霊は、氷の精霊の亜種。雷の精霊は、光の精霊の亜種。……正確に対になる組み合わせを導きにくい。

 もしかしたら、同じ精霊が封印しているのかもしれないし、俺の知らない精霊なのかもしれないし、全く違う方法で封印されているのかもしれないし……。

 魔法陣を見ない限り、何とも言えない。

 クレアの里には入れないんだけど。


「できた」

「簡単そうに作ってるな」

『エルにしか作れないわよぉ』

 大地の魔法があれば上手く作れると思うけど。

 これでしばらくもつだろう。

「カミーユは、亜精霊を管理してる奴を知ってるか?」

「魔法研究所の前副所長だろ?」

「名前、なんだっけ」

「知るか。魔法研究所の受付嬢にでも聞いて来れば良かっただろ」

「室長なら人事ぐらい把握しておけよ」

「お前。いいかげん、研究所に引きずり込むぞ」

「冗談じゃない。帰る」

「待て」

 肩を掴まれる。

「何だよ」

「なんでそんなこと聞いたんだ」

「両腕を失った理由を知りたかったから」

「……会ったのか?」

 前副所長に両腕がないことって有名なのか?

「亜精霊を渡して来たんだよ。何か知ってるのか?」

「知るかよ。魔法研究所のことなんて」

 知るわけないよな。


 あの腕の断面は、リリーがブルースに使った魔法と同じもの。

 どんなものでも砂に変える月の魔法。

 魔法研究所の副所長が入れ替わったのは俺たちが養成所から卒業する前で、当時、ラングリオンでその魔法を使えたのは一人しか居ない。

 けど、それは一般には知られていない事実。

 何故なら、アレクの使う魔法は光の魔法と言われてる。

 アレクが魔法で作り出す金の剣は、光の魔法使いには作れないものだ。光の魔法は一瞬で消えるものが多く、その力を残そうと思うなら球体にして安定させるのが定石だ。だから、実体を持つかのように浮遊する金の剣はアレクだけが使える光の魔法と言われ、アレクが魔法使いとしても優秀と謳われる要因となっている。

―私の罪が公正に裁かれた結果だ。

 アレクに砂の魔法を使わせるほど怒らせたなんて。

 亜精霊の実験を行っていたから?それとも……。

 


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