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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
50/149

53 かきくらす心の闇に

 ニゲルに竜の山の中腹で降ろしてもらって、近くにある山小屋に向かう。

『小屋の中は誰も居ないようだな』

 暗がりにある山小屋の中に入って、炎の魔法であちこちのランプに火を灯す。

「ここって、誰が管理してるの?」

「宿の主人が居ないような休憩地は、冒険者ギルドの管轄だ。冒険者や旅人が自由に使えるように、ギルドが管理してるんだよ」

 外部に委託したり冒険者に頼んだりして、定期的に清掃や物品の補充を行っている。

「さてと。何か作るか」

 台所に立って、食材の在庫を見る。

 小麦粉や豆、砂糖が入った袋と。乾燥パスタに、チーズとベーコン。根菜類も少しある。

 思ったより食材が充実してるな。補充した直後か?

 これで作れそうなのは……。

「何か手伝う?」

「ん……。パスタとグラタンどっちが良い?」

「グラタン!」

「了解」

 じゃがいもでタルティフレットを作るかな。

 後は、ドライトマトと豆のスープにでもしよう。

「リリー、オーブンの準備をしてくれないか?」

「うん。わかった」

「アンジュ、顕現して、リリーを手伝ってくれ」

『はぁい』

「薪を取って来るね」

『リリー、待ってよ。ボクも行く!』

「え?」

 リリーが外に出て行く。

 薪なら、ここにもあるんだけど。

 まさか迷子になんてならないよな?

『心配なのぉ?』

「すぐそこに居るんだよな?」

『扉のすぐ近くに居る』

 扉の近くに薪は置いてあったけど。

 すぐに玄関の扉が開いて、リリーが入ってくる。

「ただいま」

「おかえり」

 良かった。

『本当、心配症ねぇ』

 目を離すとすぐに居なくなるんだから、しょうがないだろ。


 ※


 食事が終わって、後片付けはリリーがやると言うので、そのまま寝室に行く。

 本棚があるな。

 面白そうな本は……。竜の山の生態系か。読んでみよう。

 ついでに要らない本を置いて行こうかな。

『エル、着替えたら?』

「……そうだな」


 ベッドで本を読んでると、リリーが部屋に入ってくる。

 この香り……、コーヒー?

「何読んでるの?」

 リリーがサイドテーブルにコーヒーカップを置く。

 コーヒーなんて、あったっけ。

「竜の山の生態系についてまとめた本」

「持ち歩いてたの?」

「そこの本棚にあったから」

「……あのね、シナモンがあったら欲しいんだけど」

「シナモン?」

 確か持ってたな。

 香辛料ならいくつか持ち歩いてるから。

 ……あった。

「ありがとう」

 リリーがシナモンの入った瓶を持って行く。

 何か作ってるのか?


 ※


 へぇ……。竜の山って珍しい宝石が採れるのか。リリーも知ってるのかな。

 扉が開いて、寝間着に着替えたリリーが部屋に入ってくる。

「さっきと違う本?」

「あぁ」

 大して面白い内容じゃなかったから。

「聞いて欲しいことがあるの」

「何?」

「変な夢を見るんだ」

「どんな?」

「すごく怖い夢」

 怖い夢か。見たくないものでも思い出すのかな。

「エルが、死ぬ夢」

「死なないよ」

 リリーが黙る。

 怒らせたわけじゃ……、なさそうだけど。

 本を閉じて、サイドテーブルに置く。

「詳しく教えて」

「一番最初に見たのは、私がエルを殺す夢だった」

 リリーに殺されるのか。

「次はね、エルが倒れる夢。……同じだったの。ルイスの治療をしてたエルと」

 同じ?

「次は?」

「次は……」

 リリーが黙る。

 まだありそうだけど。言いたくないのかもしれない。

「その夢、いつ見たんだ」

「最初の夢は、プレザーブ城に行く直前だよ。あの夢で目が覚めて、急いでエルの所に向かったんだ。もう一つは、私がアレクさんに頼まれて皇太子の棟に侵入した日」

 どっちも、リリーがこれから起こることを予想できない時に見た夢?

 ポラリスみたいに予言の力でもあるのか?

 リリーの持ってる力に関係がある?……いや、あれはパスカルがリリーを復活させる時にリリーに渡した力。リリーが最初に見た夢はその前なんだから、関係ないはずだ。

 じゃあ、なんで?

 どちらも、夢として見たところでリリーに役立った情報とは言えないけど。

「夢は夢だよ。現実になんてならない」

「……そうだよね」

 現実に起こったことと似た光景を以前に見たと言うなら、夢というよりもデジャヴかもしれないし。

「ただの、夢だよね……」

「夢だよ」

「うん……」

 

 ごめん、リリー。

 せっかく呪いを解いたのに。

 良くないことばかりが起こる。

 リリーが余計な力を持ってしまったのは俺のせいだ。

 俺のせいでリリーが死にかけて。そして、俺の願いを叶えたパスカルがリリーを救う時に、リリーに神の力を封印した。

 相変わらず力の正体はわからないけど、これがリリーに封印されていることで何が起こるかは分かった。

 これは、転移の魔法陣の転移先となるだけじゃない。

 この力はリリーの望みを叶える。

 アルファド帝国の皇帝もそうだった。あの皇帝はその力を、領土の拡大と支配の為に使った。それは、皇帝の望みを叶えた結果だろう。

 リリーの場合、その力が封印されているため、その発動方法は封印している力に由来する。

 最初はパスカルの力で封印していたから氷の力として出た。

 それが、紫竜フォルテが現れた時に皆が見たと言う巨大な氷の盾と、堀を氷漬けにした力。

 前者は、リリーがフォルテの攻撃から皆を守りたいと思ったから氷の盾として現れ、後者は、リリーがルイスを水中から引き上げなくてはいけないと思ったから、堀を氷漬けにする力として現れたんだろう。

 リリーが自分で封印を解いた後は、目の前の敵を倒すという目的の為、リュヌリアンに宿るリンの力を封印するという形で現れた。

 ここまで都合良く状況に合わせられるのかは分からないけど、それが事実だ。

 今はレイリスの力で封印し直されているから、リリーが思ったことは砂の魔法、もしくは月の魔法として現れる。

 洞窟に入る前にリリーが使った光の魔法は、きっと月の魔法。俺も光のないところで光の玉を出せるのだから、同じことをしたんだろう。

 俺を助けた時は、急ごうと思ったから砂の魔法で加速し、ブルースの手に力が入らないようになれば良いと思ったからブルースの手が崩れた。

 ただ、リリーがその力を使おうと思っていなくても、願えば無意識でも発動するという状況は、かなりまずい。

 砂の魔法は、他の魔法に比べて危険すぎる。

 ……だけど、封印の力は、そのままリリーを守る。

 目的は封印している力に干渉させない為なんだろうけど、リリーにはレイリスの魔法が効かないらしい。これは俺にとってもメリットのあることだ。

 パスカルの力で封印されていた時は氷の魔法が効かなかったんだろう。今となっては試しようもない。

 ただ。

 わからないのは、俺の魔法を消したこと。

 あれには、どういう意味があるんだ?

 同じ属性の魔法を消すなんてできないはずだ。

 打ち消せるとしたら、自然の摂理に見合った力関係か、反対属性の力だけなんだけど……。

 そして、あの夢。

 まさかとは思うけど。それにも何か意味があるとしたら?


 怖い夢。

 嫌な、夢。

 もう見たくない光景……。


 ※


 暗い。

 真っ暗な場所で目を開く。

 もう、何度も見た夢。

 これが夢だってわかるほどに。

 でも。これが記憶に残る現実だということも知ってる。


 目の前にあるのは扉。

 この先にあるものも知ってる。

 開きたくない。

 でも、開かなければならない。

 だって、これは全部俺がやったこと。


 扉を開く。


 そこは薄暗くて。

 そこにあるはずのものは何もなくて。

 音もなくて。

 感じるものは。


 雨。


 ※


 目が覚める。

 いつの間に寝てたんだ。

 まだ、じっとりとした雨の感触が体に残ってる。

 ……あれ?

「リリー?」

 居ない。

 どこに行ったんだ?

 ……そうだ、探せるはず。

 転移の魔法陣を探した時みたいに、集中して……。

 同じ力を……。

 あった。

 近い。


 部屋を出て、廊下を左にまっすぐ歩いた先。

 確か、二階にバルコニーがあったな。

 廊下の突き当りにある扉。

 廊下を歩いて。

 その扉の取っ手に、手をかける。

 ……扉?


 辺り一面が暗闇に落とされたように、視界が真っ暗になる。

 手に触れてるのは、扉の取っ手。

 耳に入る音がすべて消えて。

 声すらも出なくなりそう。


 なんで?

 これは夢じゃないはずなのに。


 この先に、何もなかったら……?


 違う。

 大丈夫。

 リリーが居る。


 扉を、開いて。


「エル?」

 白い寝間着姿のリリーが、長い黒髪を大きくなびかせて振り返る。

 良かった。

 雨も降ってないし。

 遠くで虫の音が聞こえる。

「どうしたの?」

 リリーが首を傾げる。

 月明かりを浴びて、リリーが淡く光って見える。

 綺麗。

 透き通るような白い肌と、夜の闇に溶けてしまいそうな漆黒の髪。

 きらきらと輝く黒い瞳。

 あまりにも綺麗で。

 精霊みたいで。

 ……このまま消えてしまいそうで。

「リリー」

 その腕を引いて、強く抱きしめる。

 あぁ、良かった。

 ぬくもりを感じる。

「どこにも、行かないで」

 もう、失いたくない。

 大切なものを。

「お願い」

 どこにも行かないで。

 安全な場所に居て。

 危ないことに巻き込みたくないから。

 傷ついて欲しくないから。

 怖い想いもさせたくないから。

 王都なら、リリーを守ってくれる人がたくさん居るから。

 俺の傍に居るよりも、ずっと良いから。

 自分が、誰かの傍に居ることで、何をしてきたかわかってるから。

 今だって、俺のせいで変な力を持つことになったのに。

 俺が傍に居れば、リリーが、死に近づくんじゃないかって……。

 失うことが怖い。

 でも。

 本当は、ずっと一緒に居たい。

 もう離れたくない。

 手の届く場所に居て欲しい。

 愛しくて。

「リリー。ずっと、傍に居て。俺がリリーを愛し続けることを許して」

 リリーを失えば生きていけないのに。

 俺のせいでリリーが危険にさらされたとしても、傍に居たい。愛したい。

「だめだよ、エル」

「……だめ?」

 リリーが俺を見上げる。

 輝く黒い瞳。

「私たち、愛を誓ったんだよ。私はエルを愛してる。エルに愛されて嬉しいし、エルに愛されて幸せだよ。だから、許してなんて言わないで。思う存分、私を愛して。求めて」

 それを、望んでも良い?

「怖がらないで。心配しないで。私はエルの為に死なない。私は、ずっとエルの隣に居るよ」

「リリー」

「ね?」

 胸が、苦しい。

 リリーが。いつも揺らぎのない強い意志で、真っ直ぐに見つめてくれるから。

 俺を愛してくれるから。

 とても幸せで。

「あいしてる」

 リリー。

 どこまでも強い意志で、俺を愛して。

 リリーを愛せることが幸せだから。

 愛しい人と一緒に居ることを許される今が、とても……。

 愛してる、リリー。

 リリーの傍に居られることが、俺の幸せだから。

 


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