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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅱ.冒険編
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52 秋の夜の月

「メラニー。この中に人の気配は?」

『誰も居ない。精霊も外に出たようだな』

「ありがとう」

 これで全員の脱出は確認したから、準備完了だな。

 ニゲルに言いに行かなきゃいけないんだけど……。

 その前に、確認しなくちゃいけないことがある。

「リリー。さっき、魔法使ったか?」

「魔法?」

 リリーが首を傾げる。

「使ってないよ」

 やっぱり、無自覚なのか。

『あれ、本当に魔法使ってなかったの?』

「え?」

『すごい速さでエルの所に飛んで行ったよね』

「飛んで行った?」

『私たち、リリーに追いつけなかったもの』

 それって……。もしかして。

「リリー。少し試したいことがあるんだけど」

「試したいこと?」

「痛かったら言ってくれ」

「うん」

 ……たぶん、大丈夫だよな。

 リリーを抱えて、砂の魔法を使う。

「えっ?」

 リリーが俺の首に腕を回す。

「浮いてる?」

 少しだけど。

「平気か?」

「うん」

 魔法を解いて、地面に足を着ける。

 思った通り。

「あの……」

 あぁ、忘れてた。

 抱えていたリリーを降ろす。

「さっき俺を助けてくれた時、何を考えてた?」

「急いでエルを助けなくちゃって」

 急いで。

「ブルースを刺した時、考えてたことは?」

 もっと具体的に考えていたことがあるはずだ。

「手に力が入らないようになれば良いのにって」

 それだ。

 ……やっぱり、そうなのか。

「リリー。リリーの力は、かなり危険だ」

「危険?」

「ブルースの手が崩れたのを見ただろ?」

「え?……崩れたって、どういうこと?」

 気づいてない?

 そうか。リリーはブルースの後ろに居たから、見えてなかったんだ。

 失敗した。言うべきじゃなかった。

「教えて。危険って、何が危険なの?私、ブルースさんに何をしたの?」

「違う。リリーがやったわけじゃない」

「嘘。私がやったんだよね?」

 無意識で発動するなんて、魔法を使ったとは言えない。原因は、リリーが持つ力そのものだ。

「私が使ったのは、砂の魔法?」

 なんで解ったんだ。

「そうなの?レイリスの力なんだね?どうして私、砂の魔法が使えるの?」

「話せない」

 まだはっきりとしたことはわかってないし、こんな力があるのは……。

「エルの馬鹿!どうしてそう、何でも自分一人で解決しようとするの?」

「知らなくて良いことだからだよ」

 リリーを戦うことから遠ざけておけば、使うことなんて……。

「スタンピ……」

「!」

 慌ててリリーの口を手で押さえる。

「言うなって言ってるだろ」

 リリーが首を振って、手を振りほどく。

「言ったらどうなるの?」

「リリーの中に封印されてる力が外に出る」

「いけないの?」

「だめ」

 リリーが頬を膨らませる。

「どれだけ危険なのか全然わからないよ。何が危険か、もう少し教えて。じゃないと、何度でも言うよ」

 リリーがまっすぐ俺を見る。

 もう、何を言っても聞かないな。

「……あぁ、もう」

 降参。

「これは、アルファド帝国の皇帝が使っていた力と同じものなんだ」

「え?それって、王家の敵?」

「そう。アルファド帝国最後の皇帝、ベネトナアシュが持っていたのと同じ力だ」

 どこまで言えば納得するかな……。

「どうして、そんなものが私の中にあるの?パスカルが封印した力なんだよね?」

 なんで知ってるんだ。

「これ以上は言えない。危険なものだってことはわかっただろ?」

「全然わからないよ。私、アルファド帝国の皇帝なんて知らない」

 リリーに関係ないのは確かなんだけど。

「もしかして、私とアレクさんの前にベネトナアシュが現れたのは、私のせいなの?」

 リリーの力を追って現れた?

 いや……。

「それは違う。あいつは単純にアレクを狙っただけだ」

 リリーはあの力を手に入れてから、俺と一緒にあちこち旅をしてるんだ。リリーを狙うなら、いつでも機会があったはず。

 アレクが王都の外に出たからたまたま狙われただけで……。

 本当に、そうなのか?

 他に何かきっかけがある?

 あいつが現れた理由、アレクに聞いてみないとな。

「エル、私が持ってる力って、何が出来る力なの?」

 何が出来るかって聞かれれば、何でもできる力なんだろうけど。

 ……望めば、簡単に人を殺せてしまうような。

 でも、それをリリーに言っても良いのか?

「エル?」

 だめだ。言えない。

「この先、同じようなことがあっても、誰かの死を望んだりしないで」

「どうして?」

「今言えるのはそれだけ」

「じゃあ、もっと自分のことを大切にしてくれる?」

「どういう意味だ?」

「ちゃんと、自分で自分のことを守ることも考えて。私の大切なエルをちゃんと守って」

 なんか、変な言い回しだな。

「わかった?」

 リリーが頬を膨らませる。

 可愛い。

「真面目な話しをしてるんだよ?」

 だって、そんな顔するから。

「リリーの力に、一つだけ良いことがあるんだ」

「良いこと?」

「リリーは今、レイリスの力に守られてる。だから……」

 リリーを抱えて、砂の魔法で空を飛んで、さっき登った林檎の木の枝に着地する。

「一緒に飛んでも平気だ」

 砂の魔法が攻撃魔法だとしても、リリーと一緒に飛べる。

「私も空飛べるのかな」

「自分の力を使うなって言ってるだろ」

 リリーに飛ばれたら、追いかけられる自信がないんだけど。

 神の力って底なしだろ?

「空を飛ぶってすごく大変だって、レイリスもアレクさんも言ってたけど、大丈夫?」

「少しぐらいなら平気だ」

 魔力切れになったら、その時点で落ちるだろうけど。

 何もない空間で体を安定させて飛行をするのは、かなり集中力が要る。今みたいに高く飛ぶだけなら、跳躍の補助のイメージで良いんだろうけど。精霊みたいに自由に空を飛ぶとなると、そうはいかないだろう。

 さてと。

 食事は終わったかな。

―「ニゲル、調子はどうだ」

 今は何も食べてないみたいだけど。

―「十分に力は戻った」

 なら、ニゲルの準備は完了だな。

―「こっちの準備も完了した。全員避難したし、アラクネにも村人にも一通り説明は終わったよ」

―「世話になったな。王都まで運んでやろう」

―「ありがたいけど、王都にドラゴンが向かうのはまずい。ニゲルの知らない間に紫竜フォルテが王都を襲ったんだ」

―「フォルテが復活したのか」

 ニゲルも、フォルテのことは知ってるみたいだな。

―「あぁ。だから、ドラゴンが王都に近づけば攻撃される。……代わりに、竜の山まで連れて行ってくれないか?」

―「良いだろう。竜の山は私が目指す場所だ。背に乗れ。ブレスで天井に穴をあけてそのまま飛び立つ」

―「了解」

「どうして竜の山に行くの?」

「リリーと一緒に行きたいから」

 背に乗れって。ほとんど埋まってるけど。

 大地の魔法で一部を崩して、乗れそうな場所を作る。

「ちゃんと捕まってろよ」

「うん」

 リリーを抱えて、ニゲルの背に乗る。

 それから真空と風の魔法で編んだロープをニゲルの首に繋ぐ。

「これを持ってて」

「はい」

 一部をリリーに渡す。持ってなくても、リリーを落としたりしないけど。

「バニラ、顕現して援護してくれ」

 バニラが顕現する。

『降ってくる岩ぐらい、どうにかできるが……』

『エル。オイラも顕現して良いー?』

「良いけど、なんで?」

 ジオが顕現する。

『バニラは大地の精霊だから、高いところが苦手なんだよー』

「バニラも苦手なの?」

 バニラも?

「メラニーは大丈夫?」

『私は平気だ』

「なんでメラニーに聞いたんだ?」

「えっと……。アレクさんの闇の精霊が苦手って言ってたから」

『親となる大精霊が違えば性質は異なる』

 それはありそうだよな。

 水の精霊だって、海に居るか、川に居るかで全然違うはずだ。

「あ」

 突然、ニゲルが咆哮を上げ、天井に向かってブレスを吐く。

「せめて一言、言ってくれよ」

 リリーを後ろから抱きしめながらロープを掴むと、ニゲルが巨大な翼を動かす。翼に積もっていた土砂が崩れ、ニゲルが土砂崩れの中から空に向かって飛び立つ。

 そして、一気に空の高いところまで昇りきると、ようやく体を水平に戻す。


「おぉ」

「わぁ」

 西の方角で、太陽がゆっくりと沈んでいく。日暮れだ。

 こんな高い場所から世界を眺められることなんてないな。

 茜色に包まれて。太陽を近く感じる。

「大丈夫か?バニラ」

『……大丈夫』

 あまり大丈夫そうじゃないけど。

『ふふふ。大丈夫よぉ。一人じゃないものぉ』

『ジオもついているからな』

『まかせてー』

『こんなに高いところ、初めてだわ。気持ち良い』

『少し寒いかも』

『大丈夫?エルの中に入ってたら?』

『うん』

 精霊は、契約者の中に居れば安全なはずだ。

『二人とも、寒くないか?』

「リリー、大丈夫か?」

「大丈夫。マントを着てるから温かいよ」

「良かった」

 竜の山に着く頃には夜になってるな。

 確か、竜の山の中腹にドラゴンが降りられるぐらい広い場所があるはず。その近くにある山小屋に泊まろう。

「エル。囚われの林檎の作り方がわかったよ」

 そういえば、聞かれてたのに答えてなかったな。

「簡単な方法だろ?」

「うん。時間がかかるけど。……でも、エルならすぐに出来そうだね」

「魔法で起こせる奇跡なんて知れてるよ。魔法で無理やり作ったものよりも、林檎に合った土地で、時間をかけて丁寧に作られたものの方が美味いに決まってる」

 ドラゴンはそれを知ってるから、若木を食い荒らすようなことはせずに成木となるのを待っているんだろう。

 クレアドラゴンは優しくて。自然と共存する生き物だ。

「フォルテより乗りやすいな」

「当たり前だよ」

 ブラッドドラゴンの紫竜フォルテ。

 あれから一切見かけないし、目撃情報もないけど。今、どこに居るんだ?

「復活したってどういうこと?」

「あれは、神の台座に封印されてたドラゴンらしい」

「封印?」

「パスカルの力が消えて、神の台座の氷が溶けて出て来たんだと思うけど。詳しいことはわからない」

「そっか……」

 神の台座。世界の始まりの大陸と言われている氷に閉ざされた大地。

 フォルテは封印の地って言ってたな。他にも何か封印されてるのか?

 昔から知られている割に、全く謎の土地。パスカルがずっと守っていたその地に入れたのは、エイダの棺を運び出したアルファド帝国の人間ぐらいだろう。

 東の方角を見ると、月が昇って来た。

 良い景色だな。

 と。

 突然、リリーが叫び声を上げて俺に飛びつく。

「どうした?」

「くっ、蜘蛛っ、」

「蜘蛛?」

 こんなところに?

『アラクネの子供じゃない』

 ドラゴンの背の上に、アラクネの子供が二匹乗ってる。

『いつの間に、ドラゴンの背に乗っていたんだ』

「メラニーでも気づいてなかったのか?」

『亜精霊の存在は探知しにくい。他の生き物と共にいたなら尚更だ』

 仕方ないな。

 子供のアラクネ二匹を闇の魔法で眠らせて、荷物から小瓶を出す。

「温度を下げる神に祝福された闇の源よ。宵闇の眷属よ。我に応え、その力をここに。セレ!」

 アラクネが二匹、小瓶に吸いこまれる。

 良かった。小さいから二匹でも入ったな。

 そのまま蓋をして、荷物に仕舞う。

「リリー」

「もう、居ない?」

「居ないよ」

 リリーが顔を上げて周囲を見回す。

 暗くなって来たな。

「温度を上げる神に祝福された光の源よ。黎明の眷属よ。我に応え、その力をここに。クラルテ!」

 魔法を唱えると、光の玉が出来て周囲を浮遊する。

「ほら、居ないだろ?」

 リリーが頷く。落ちついたみたいだな。

「ごめんね、エル」

「なんで?」

「足手まといで」

「どこが?」

「だって……」

 俺を助けたのに、何言ってるんだ。

 リリーの頭を撫でる。

「ほら。星が出て来た」

 暗闇の中で輝く光。

「本当だ」

 リリーの輝く漆黒の瞳が、夜空を映す。

「綺麗……」

 あまりにも綺麗だから。

 いつまでも見ていたい。

 


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