47 真実をおしはかる者
店を出て、アレクと一緒に宿に戻る。
「エル、生け捕れたら、アラクネを生け捕ってくれるかい」
アレクから小瓶を受け取る。
「亜精霊を捕まえる瓶か」
魔法の玉と似たようなものだよな。
「使い方はわかるかい」
「初めて使う」
「弱らせた後に、瓶の蓋を開いて呪文を唱えるんだ。……温度を下げる神に祝福された闇の源よ。宵闇の眷属よ。我に応え、その力をここに。セレ。……ってね」
「喋ってる間に逃げられそうだな。亜精霊以外は捕まえられないのか?」
「闇の魔法が発動すれば対象を縛り、眠らせるだろうけど、亜精霊じゃなければ瓶の中に閉じ込めることは出来ないだろうね」
『あたしたちをこんな瓶で捕まえようとしても無駄よぉ』
喋ってる間に顕現を解けば良いだろうからな。精霊も生き物も捕まえられないなら、亜精霊だけだろう。
「それから、剣を交換しておこう」
「あぁ。そうだな」
剣術大会にはサーベルで出場するつもりなのに、リリーにサーベルを見せるわけにもいかない。
「剣の名前はサンゲタル。リグニスの作品だよ」
「リグニスだって?」
「簡単に折れることはないと思うけれど、エルには少し長いかもしれないから気をつけるんだよ」
折れる心配をする方がおかしいと思うけど。
「剣を交換するためにリリーを置いて来たのか?」
「エルはそう思うのかい」
「違うのか?」
「村に宿は一軒だけ。宿帳を見る限り、泊まっている冒険者は他に居ない。エイルリオンも置いて来たよ」
そういえば、持ってないな。
「もし誰かが部屋に忍び込み、暗闇で光を放つエイルリオンに触れたならば、すぐにその意味に気付くだろうと思ってね」
「剣の持ち主が誰か、その人物と一緒に居る黒髪の女性がどういう意味を持つ相手なのかって?」
「利用しやすい噂だからね」
皇太子と黒髪の女性の話題はバーでも聞いたな。
「誰もリリーに手を出してないことを祈るよ」
リリーの安全は保障されるだろうけど、村人は真っ青だろうな。
「剣術の稽古はしているかい」
「この前、ガラハドに相手してもらった」
「結果は?」
「一撃当てた」
「頑張ったね」
「血を流すところも見たよ」
「……聞いたんだね」
「なんで俺に言ったんだと思う?」
「エルに聞いて欲しかったんだよ」
「それ、質問の答えになってないけど」
「そろそろ寝よう」
「まだ話すことがたくさんある」
「今日は朝から忙しかったから眠いんだ。聞きたいことがあるのなら早めにね」
だから、早く戻ろうって言ったのに。バーに長居してしまったから。
「どうやって俺より先に移動したんだ?ロザリーと一緒にセズディセット山に移動した方法は魔法陣?」
「正解。十七日にロザリーと合流して、そのまま遺跡に飛んで東に向かって移動したんだ。十九日の昼ごろに砦に到着したら、リリーシアとシールが演習場に居るのが見えてね。二十三日にエルと合流しようって話しをしていたのだけど、エルが来てくれないから」
「予定は未定だ」
「どこで道草を食ってたのかな」
「地図に書いた通りだよ」
「ロニーと最後に会った日は?」
えっと……。
「十五日の朝。一緒に朝食を食べたのが……」
「エル。口を開けて」
ばれた。
嫌な予感しかしないんだけど。
「……甘くない?」
「今回は大目に見てあげよう」
「美味しい」
カカオの香りが高くて、ほろ苦くて。
ばればれの計画の割りには寛大な処置みたいだな。
「なんで?」
「リリーシアと遊べたからね。楽しかったよ」
アレクはリリーを気に入ってるみたいだからな。
もしかして、ロニーがシールと一緒にリリーを行かせたのって、アレクの機嫌取りが目的だったのか?
「なんで、ロニーはあんな強引な作戦を立てたんだと思う?」
「強引だと思う理由は?」
「俺を巻き込んだこと」
もう少しやりようがあったはずだ。俺を巻き込まずに済む方法だって考え着いたと思うけど。
「わかっているなら、関わるべきではなかったね」
問答無用で巻き込まれたんだけど、それは言わない方が良いだろう。
「俺はアレクの秘書官なんだし、問題ないだろ」
「ずっと秘書官で居てくれるのかな」
「もう少し休みをくれるなら考えても良いよ」
……あれ?
そんなに驚かせるようなこと、言ったつもりないけど。
「アレク?」
「意外だね」
「だめなのか」
「エルのやりたいことは、もっと他にあるんじゃないのかい」
「フラーダリーは、アレクの力になれって言ってたよ」
「姉上が?」
「俺の家族は王都に居るんだし。その代り、リュヌドミエルの休みは返してもらうからな」
「そうだね。ありがとう」
だって。今、アレクの傍に居ないと。
アレクに何が起こるかわからない。
「もう一つ食べるかい」
「要らないよ。っていうか、怒ってないのか」
「怒ってるよ。でも、ロニーが急いでいた理由もわかるからね」
「理由って?」
「秘密。ここには、ウィリデに頼んで連れて来てもらったんだよ」
「あぁ、そういうことか」
それで、こんなに早く移動できたのか。
「良く引き受けたな。ウィリデは、何しにセズディセット山に来てたんだよ」
「温泉に入りに来てたんじゃないかな」
「は?ドラゴンが浸かれる温泉なんてあるのかよ」
アレクが笑う。
「リリーシアはそうじゃないかって言っていたよ」
『リリーって本当に面白いわねぇ』
本当に。
「突然現れた敵って、古い力か?」
「そうだね。あれが予言に出てくる古い力に間違いないと思うよ」
「その力ってさ、封印の棺と関係あるんだろ?」
「無関係ではなさそうだね」
「リックが、封印の棺を砂漠で見たって言ってたんだ。炎の大精霊が入ってたのとは違うやつ。俺は、遺跡の転移の魔法陣を起動する力は、封印の棺なんじゃないかと思ってる」
「同じ力を持った封印の棺が、グラシアル、神聖王国クエスタニア、竜の山、砂漠。そしてオートクレール地方の遺跡にあると?」
「それから、エレインの故郷と、神の台座から運び出された炎の大精霊の棺」
「それは少し間違ってるね」
「え?」
「炎の大精霊の棺はレプリカ。あれは、本物ではないよ」
『エイダがちゃんと言ってたはずだけどぉ?封印の棺を作ったって』
―私たちは一緒に居たいと願い、その為に、封印の棺を作った。
確かに、言われたような気がする。
「あれは、エイダとパスカルが作った物?」
「そのようだね」
「じゃあ、もともと神の台座に封印の棺なんてなかったのか?」
「どうだろうね。二人がレプリカを作れたのは、本物の封印の棺の存在を知っていたからだろうし、レプリカの棺の中にも特別な力が封印されていたようだから」
アルファド帝国の皇帝が手に入れた神の力……。
「アレクは、リリーの力についてどう思う?」
「転移の魔法陣に関係がある。そして、人知を超えた力でもある」
「人知を超えた力?」
「レイリスが封印し直さなければならないほどね」
封印……。
「リリーの力は、女王の娘の目からは水色に見えるらしいんだ」
「氷の精霊の力?」
「あぁ。パスカルはリリーに力を渡してるんだ。その力は、転移の魔法陣を起動する力と同じ。つまり、封印の棺から引き出した力と同じ。だから、パスカルがもともとその力を持っていたってことになるんだけど……」
「パスカルは本物の封印の棺を開いて、その力を自分のものにしたということかい」
「でも、違うと思う。エレインは、転移の魔法陣は精霊の遺産だって言っていた。転移の魔法陣を使う言葉は、精霊が使う古代語ではなくメディシノ王国の言葉だ。だから、空間転移の利用は後から人間が考えたものだと思う。だとすると、あの魔法陣の本来の役割は、転移ではなく封印のはずなんだ。精霊が封印したものを、わざわざパスカルが出すなんて変じゃないか?」
「じゃあ、封印の棺を開いたのは誰なのかな。パスカルがその力を持っていた以上、誰かが本物の封印の棺を開き、パスカルはその力を自らの力で封印しなければならない状況に陥った。そして、自分が消滅する瞬間には持って行けないから、リリーシアに封印することになったようだけど」
誰が?
誰って、この場合、一人しか居ないんだけど。
「エイダだ」
「そうだね。私は、エイダはレプリカの中に、自分以外の力が封印されているとは知らなかったと思うのだけど。エルはどう思う?」
「知らなかったんじゃないか。だって、エイダはずっと、パスカルが棺を開くのを待っていたんだ」
「エイダは何も知らずに封印の棺を開いてしまった。パスカルは棺に眠っていた力を自らの力で封印しなければならなくなったが、とても手におえるものじゃない。そもそも封印の棺に封印しなければならないような代物だったのだからね。だから、レプリカを作ることにした。二人は棺によって一緒に居ることを誓い合うが、実はその中には別の力も封印されていた。これで良いかな?」
たぶん、間違ってない。
「封印の棺に眠る力、エイダと一緒にレプリカの棺で眠っていた力、パスカルの持つ力、そしてリリーシアの持っている力はすべて同じもの。同じ神の力と考えられるね」
あ。だとすると……。
「そうか。あの時、本物の封印の棺が開いたんだ。そして、二人はレプリカの棺を作って、力の一部をエイダと共に封印し、それがアルファド帝国に運ばれて皇帝のものとなった。残りの力はパスカルが保管していたけれど、一部をリリーに渡して、渡し切れなかった力は外部に出た」
「あの時?」
「千二百年前。あの力が出てくるのは、たぶん大地を覆う地震が起きるタイミングと同じなんだ」
千二百年前、本物の棺から。
八百年前、エイダの棺から。
そして去年、パスカルから。
「どうして大地を揺らす力なのか不明だけど、レイリスが封印し直さなければならないぐらい大きな力なんだろ?」
「存在自体が大きすぎるために大地を揺らす?……原因についてはこの力がなんなのか、もう少し考えなければいけないね」
「結局、何の神の力なのかは、わからないからな。でも、これでアルファド帝国が何故、神の台座からエイダの棺を運んだのかもわかった」
「砂漠に本物の封印の棺があるはずなのに、わざわざ神の台座からレプリカを運んだ理由?」
「そう。それは、不完全な封印の棺だったからだ。レプリカの棺は簡単に開くことができる。そして、一度開かれたせいで場所も知られていたんだ。本来、封印の棺は、もっと完璧に封印されてたはずだ。砂漠にある封印の棺は、たぶんアルファド帝国の皇帝に語りかけた奴には見つけられないものだった。もしくは、見つけたとしても絶対に開けないものだった。だから、そいつはわざわざ神の台座から棺を運ぶように言ったんだ」
「もしかしたら、エイダが開いた本物の棺は、炎の大精霊じゃないと開けなかったのかもしれないね」
「炎の大精霊限定?」
「まだ一つしかケースを知らないから、はっきりとは言えないけど。開くことのできる精霊は決まっているんだと思うよ」
予想が出来ることでも教える気はないのか。
「砂漠の封印の棺を調べれば何か分かりそうだよな」
「他の所にもあるみたいだから、探してみようか」
グラシアルと竜の山と……。
「いや、ちょっと待て。あれがなくなれば、転移の魔法陣が使えなくなるんじゃないのか」
「そうだね」
「エレインの里の人間にも聞いてみよう」
「納得するかな」
「とりあえず、なくなって困るのはエレインの里の人間だぞ。無暗に開いたり、移動させるのもまずいだろ。ガラハドにも聞いてみるよ」
「じゃあ、その件もエルに任せようか。でも、剣術大会が終わってからだね」
そうだな……。
「っていうか、剣術大会とか言ってる場合なのか?アンシェラートが出てくるかもしれないのに」
「それに関しては大丈夫だと言ってあるだろう」
「アレク。命を捧げるなんて俺は許さない」
「その方法がわからない内は、どうしようもないけれどね。アンシェラートが人間の魂を手に入れれば、出てくるのをやめるとでも言うのかい」
「そんなことないと思うけど」
「なら、力を止めることのできる何者かが、私の命と引き換えに止めてくれると?」
「現実味のない話しだな」
アンシェラートの力を止めることが出来るんだったら、アレクの命だって簡単に奪えるだろう。
「話しは終わり。おやすみ、エル」




